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大麻と幻覚剤の間には多くの類似点があります。たとえば、どちらも多様な医療効果があり、現在、疼痛や炎症の軽減から一部の精神疾患まで、治療に関するさまざまな研究が進んでいます。そうした疾患のリストには、神経変性疾患で最も多く、アメリカだけでも 620 万人もの人が苦しんでいるアルツハイマー病も含まれます(アルツハイマー病に次いで多い神経変性疾患はパーキンソン病で、患者数は 120万人です)。

幻覚剤については、昨年『Frontiers in Synaptic Neuroscience』誌に掲載されたレビュー論文 [1] が、アルツハイマー病の治療薬として LSD とシロシビンが持つ可能性を強く示唆しています。現在ジョンズ・ホプキンス大学の Center for Psychedelic and Consciousness Research(幻覚剤と意識に関する研究所)で進行中の治験や、2019 年に幻覚剤医薬品企業である Eleusis が発表した論文 [2] は、この研究分野の第一人者がアルツハイマー病の治療に多大な関心を持っていることを示しています。

大麻研究の世界では、アルツハイマー病の治療薬としての可能性は、少なくとも 2000年代初頭から研究されています。そして現在、この課題への関心はこれまでになく高まっています。『Frontiers』誌は先だって、「エンドカンナビノイドームを神経変性疾患の治療標的にする」ことに関する研究論文を求める声明を出し、これを「現在注目の研究分野」としています。(エンドカンナビノイドームというのは、基本的なエンドカンナビノイド・システムに、その他の関連受容体、酵素、分子標的を加えたより大きな概念です。)

2021年 9月だけでも3本の論文が学術誌に発表され、アルツハイマー病とエンドカンナビノイド・システムの関係についてわかっていることをまとめています。

CBDとアルツハイマー病

『Brain Sciences』誌に掲載された論文 [3] は、エンドカンナビノイド・システム(ECS)がアルツハイマー病の発症にどのように関与し、カンナビジオール(CBD)をはじめとするカンナビノイドを使って治療できる可能性があるかを検証しています。その考察は非常に専門的なものですが、過去 20年ほどの研究結果が示唆する重要な点を、著者らは次のようにまとめています。

  • 死後の解剖の結果、アルツハイマー病患者の脳では、ECS の複数の構成要素に変化が起きていることが明らかになっている。前頭葉(海馬傍皮質)において、CB1 受容体の発現は減少している一方、CB2 受容体は著しく増加しており、この変化は「おそらくは時間依存性のもの」と思われる。
  • CB2 受容体の発現の増加は、アミロイド斑(アルツハイマー病やその他の認知力低下の顕著な特徴とされる、異常なたんぱく質の凝集体)の内部および周辺で顕著であり、ECS とアミロイド斑の凝集には相関関係があることが示唆される。
  • 内因性カンナビノイドであるアナンダミドと 2-AG(2-アラキドノイルグリセロール)をそれぞれ分解する酵素、FAAH (脂肪酸アミドヒドロラーゼ)と MAGL(モノアシルグリセロールリパーゼ)は、アルツハイマー病患者の脳では増加する。また、3つめの重要な酵素であり、2-AG を生成する DAGL(ジアシルグリセロール)の発現も増加する。
  • カンナビノイドが ECS に対する調節効果を持つことを考えると、カンナビノイドはアルツハイマー病の治療薬として有望である可能性がある。すでに臨床試験の結果は、カンナビノイドがアルツハイマー病あるいは認知症患者の症状の一部を緩和させるのに役立つ可能性を示している。

THCCBD はどちらもこうした意味で有望であり、神経保護作用があることがわかっていますが、「THC の使用に伴う精神作用は問題である」と論文の著者は述べています。(THCCB2 受容体にも結合しますが、陶酔作用は CB1 受容体との結合が原因です。CBD はどちらの受容体とも親和性は高くありません。)その結果、CBD が持つ治療効果への関心が高まっています。

認知症の治療標的としての CB2 受容体

最近発表されたレビュー論文の2つめは『Journal of Neuroscience Research』誌に9月上旬に掲載されたもの [4] で、方向性が若干異なっています。植物性カンナビノイドに着目するのではなく、ECS とアルツハイマー病を関連付ける多くの要素を利用して、精神作用を引き起こさないCB2 受容体を選択的治療標的とし、アルツハイマー病や関連する疾患を治療する新薬を開発しようというのです。

「神経変性疾患の治療においては CB2 作動薬が有望な結果を見せている」と、インドの研究チームは述べています。(「作動薬」は受容体を活性化させ、神経伝達物質を放出させます。逆に「拮抗薬」は受容体の作用を阻害します。)「実験的証拠は、CB2 作動薬が、炎症、タウ過剰リン酸化、βアミロイドの凝集、酸化ストレスを軽減させ、認知機能を向上させることによって、アルツハイマー病の治療に役立つ可能性を示唆している」と論文には書かれています。

この論文には、疼痛、関節炎、炎症その他の疾患の治療薬として、グラクソ・スミスクライン社、グレンマーク製薬、コーブス製薬、イーライ・リリー社その他が開発・試験した数々の選択的 CB2 作動薬が言及されています。ただし現在のところ、CB2 作動薬に関する初期の臨床試験の成果を臨床の現場で実際に使える医薬品の製造に結びつけることはできていません。

アルツハイマー病と腸内微生物叢の関係

腸内微生物叢は近年、人間の健康と疾患に重要な役割を担うものとして注目が高まっています。腸内微生物叢が乱れると、肥満、がん、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患を含む、多種多様な有害転帰につながります。

腸内微生物叢についてあまり知られていないことの一つがエンドカンナビノイド・システムとの関係です。Project CBD の 2020年の記事で説明されている通り、ECS は、腸内に棲む細菌と脳を含む身体そのものの間にある共生的で互いに有益な関係において、相互の信号のやり取りを助ける、いわば橋渡しの役割を果たすのです。

『Life』誌に最近発表されたレビュー論文 [5] では、イタリアの研究チームが同様の比喩を用いて、ECS が、腸内菌共生バランス失調とアルツハイマー病の生理病理学のつながりを仲介する重要な要素であることを概念化しています。相互に作用し合うこの2つのシステムがアルツハイマー病における「共通点」である可能性を論文は示唆し、「エンドカンナビノイド・システムと腸内微生物叢の役割に共通点があるということは、ECS を介した微生物叢の調節といった新しいアプローチがアルツハイマー病に新しい治療の観点を提供できる可能性を示唆するものだ」と結論しています。


Nate Seltenrich は、サンフランシスコのベイエリアに住む科学ジャーナリスト。環境問題、神経科学、薬理学を含む幅広いテーマについて執筆している。


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脚注

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