この記事は、ミハイル・コーガン(Mikhail Kogan)博士とジョアン・リープマン−スミス博士の共著『Medical Marijuana: Dr. Kogan’s Evidence-Based Guide to the Health Benefits of Cannabis and CBD』(アンドリュー・ワイル博士による序文つき。Copyright ©2021, Mikhail Kogan, M.D.)の抜粋を、Avery Booksの許可を得て再掲するものです。
痛みというのは人類を悩ませる疾患の中で最も一般的なものであり、人が医療を求める主要な理由でもあります。疼痛に関連したアメリカの医療費は年間 3000億ドルを超え、これは心臓病、がん、糖尿病の治療費を足し合わせた以上の金額です。全米アカデミーズによる画期的な報告書によれば、「大麻あるいはカンナビノイドが成人の慢性痛の治療に効果的であることを示す決定的かつ豊富なエビデンスが存在」します。
大麻製剤は太古の昔から、関節痛、偏頭痛、神経痛、さらにはけいれんその他さまざまな症状の緩和のために使われてきました。そして現代科学は、私たちの祖先の知識が正しかったことを裏付けています。近年になって発見されたエンドカンナビノイド・システム(ECS)は、痛みの主要な原因である炎症や、その他の痛みの原因を制御します。ECS に含まれる特定の受容体を活性化することにより、大麻は痛みと炎症を軽減させることができるのです。
医薬品としてのカンナビノイド
FDA(食品医薬品局)は、ドロナビノール(商品名マリノール)とナビロン(商品名セサメット)という2種類の合成 THC を医薬品として認可しています。これは医師の処方によってのみ入手可能で、通常は錠剤の形をしています。どちらも、抗がん剤治療に伴う悪心の治療薬として承認されており、マリノールは HIV 患者の食欲増進剤としても認められています(がん患者の食用増進は適応とされていません)。ただ残念ながらこの2つの薬は、慢性痛の治療にはあまり効果がありませんし、患者にもあまり人気がありません。
もう一つ、大麻由来の医薬品にナビキシモル(商品名サティベックス)があります。これは天然の、大麻草由来のティンクチャーで、THC と、陶酔作用のない大麻草成分 CBD を含んでいます。イギリス、カナダその他の国では多発性硬化症に伴う痛みと痙性に対して口腔スプレーの形で使用されて効果が認められているにもかかわらず、アメリカでは未だに医薬品として承認されていません。
疼痛のための医療大麻
先ごろ行われた調査によれば、医療大麻ユーザーの 90% 以上が、痛みの軽減を目的として医療大麻を使用した経験があります。最近発表されたレビュー論文によれば、慢性疼痛に苦しむ人たちは一般に、人工の大麻成分よりも古き良き天然の大麻の花穂を好みます。そして合成カンナビノイドを使用する人は、効果がなかったり副作用があったりが原因で使用をやめる傾向にあります。
処方薬としてのカンナビノイドの錠剤よりも、吸入その他の方法で摂取する大麻の方が好ましいのは、効き目が現れるのが早く副作用が少ないからです。また上述したレビュー論文は、「科学的証拠は、吸入(気化)の方が経口摂取に比べてより予測がしやすく、効果的で容認性も高い可能性があることを示唆している」としています。とは言え、ベーピングには問題が伴う可能性があります。どんな薬でもそうですが、医療大麻の使用には注意が必要で、医師または資格のあるヘルスケア提供者の監督のもとでの使用が理想的です。
慢性疼痛の患者の多くは、その痛みの原因をきちんと突き止めた上での治療ができていません。私の場合疼痛の患者にはしばしば、医療大麻を勧める前にまず、オステオパシー、理学療法、マッサージなどを含む徒手医療の施術者を紹介します。多くの患者が、こうした施術によって痛みがなくなり、身体機能も回復します。また、マインドと肉体を融合させるテクニック、とりわけ広く研究が行われているマインドフルネスを基盤にしたストレス軽減プログラムは、慢性疼痛の軽減に非常に役立つことが証明されています。
慢性疼痛に伴うものとして私が非常によく目にする問題に、劣悪な栄養状態と炎症があります。私の推測では、慢性疼痛を抱える患者の少なくとも半数は、仮にそれが欠乏していないとしても、マグネシウムとビタミン B群を摂ることで症状が改善します。そしてこうした基本的な問題を解決してもまだ痛みがおさまらなかったときに初めて医療大麻を勧めます。ただし、使用する製品のタイプと摂取方法が非常に重要です。
CBDだけでは最大の効果は得られない
残念ながら、さまざまな種類の痛みのそれぞれに、どのカンナビノイドあるいはカンナビノイドの組み合わせが効くか、またどういう比率で組み合わせると一番効果が高いのか、といった知識は圧倒的に不足しています。その一因は、こうした臨床研究には連邦政府の補助金がまったく出ないに等しいことです。幸い、民間の医療大麻企業の中には、疼痛の治療に大麻や CBD を使用することに関する重要な研究に取り組み始めているところがあります。
CBD のみで痛みが軽減されたと断言する患者はたくさんいますが、現在のところ、これを裏付ける科学的エビデンスはありません。私自身、CBD のみを使用した後に明らかに痛みが軽くなっている患者を多数見てきてはいますが、大部分の人は少なくてもいくらかの THC を必要とします。
CBD を一般的なテルペンである β カリオフィレンと組み合わせると、CBD 単体の場合よりも痛みの軽減により効果的であるというエビデンスがあります。テルペンは大麻草に香りと味を与えるだけでなく、その医療効果を高めるのです。これがアントラージュ効果として知られる現象です。β カリオフィレンはまた、認知力を高め、消化を助け、意識を朦朧とさせることなく身体と心をリラックスさせます。β カリオフィレンは、シナモン、オレガノ、クローブ、黒胡椒などの一般的な香辛料にも含まれています。
あまり知られていない大麻成分、特にカンナビジオール酸(CBDA)とカンナビゲロール(CBG)は、慢性疼痛やその他の疾患に効果的であることが動物実験で明らかになっています。残念ながら人間を対象として行われた研究はほとんどなく、THC や CBD ほど入手しやすくもありませんが、自分の患者のある種の慢性疼痛に効いたと報告する医師は増えつつあります。
カンナビノイドを組み合わせる
私自身、CBDA は炎症性の痛みに非常に有効だと考えており、今ではリウマチ性関節炎など炎症性の疼痛がある患者の治療に標準的に使っています。これらの患者の中には CBDA だけでは痛みが完全になくならない人もいますが、一日に 100〜200 ミリグラムという高用量を摂取した場合、完全または部分的に関節炎が寛解した人もいます。また、高齢で変形性関節症のある患者には、CBDA を CBD と組み合わせて使うと特に有効です。CBD と CBDA を 1:1 の割合で、経口摂取または舌下投与によってそれぞれ 10〜15 ミリグラムを一日2回摂ることから始め、必要に応じて用量を漸増していき、50〜100 ミリグラムを一日2回摂るところまで増やすよう勧めています。
また、フルスペクトラムで CBDA を豊富に含むヘンプ由来のオイルを、舌下投与、経口摂取、または外部薬として使うのも、軽い外傷や過度な運動による筋肉痛をやわらげるのに役立ちます。最近は、CBD と CBDA を、運動後の軽い筋肉痛に使用して非常に効果を感じているアスリートが増えています。長期的に見れば CBD と CBDA はアドヴィルやタイレノールといった従来の鎮痛薬よりも安全なわけですから、これは歓迎すべき変化だと思います。
CBG を、CBD や THC といったその他のカンナビノイドに加えると、変形性関節症やニューロパチーの痛みが軽くなる患者もいます。CBG はまた、不安感の軽減にも効果的です。ただし CBG には覚醒作用があり、睡眠の邪魔になる可能性があるので夜は摂らない方がよいでしょう。日中、わずかの THC でも反応してしまう敏感な人は、朝、CBD、CBDA、それにCBG を組み合わせて摂ると、ニューロパチーや変形性関節症その他の疾患から来る炎症性疼痛など、複数の種類の疼痛に非常に有効です。CBDA に似て、CBG の用量は通常 CBD よりもずっと低く、5 ミリグラムから 10 ミリグラムくらいの量を一日に1回、朝摂るのが一般的です。
最後に言っておきますが、効果を感じる最低用量、それがあなたにとって最適な用量です。「到達したかったところに到達したらそこで止めること」。そうすればお金の節約にもなります。
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