十数年前にはほとんど知られていなかった、中毒性のない大麻化合物 カンナビジオール (CBD) は、どのようにして人々に知られるようになり、地球上で最も人気のある健康補助食品になったのでしょうか? それを実現するために、Project CBD はどのような役割を果たしたのでしょうか?

カリフォルニア州が 1996 年に医療用大麻を合法化したとき、患者の手に入るのは THC 主体の大麻だけでした。 CBD について知っている人はほとんどいませんでした。 大麻が生む多幸感に魅了された、反骨精神に満ちた優秀な育種家たちが、その「ハイ」になる効果を高めるために、CBD 含有量が豊富な品種を意図せず市場から駆逐してしまっていたのです。

それが変化し始めたきっかけは、2010年頃に、CBD を豊富に含む大麻の品種のいくつか(ハーレクイン、ジャマイカ・ライオン、サワー・ツナミ、ブルージェイ・ウェイ)が、北カリフォルニアにできたばかりの検査ラボで特定されたことでした。これらはヘンプではありません——香り高く樹脂をたっぷり含むマリファナ品種で、CBD と THC を豊富に含む、薬効のあるネバネバした物質をたっぷり含んでいました。

プロジェクト CBD は、CBD の治療可能性について医療大麻コミュニティを啓蒙・教育するために 2010年に結成され、CBD 関連の情報を共有することに特化した、最も古く、最も長く続いているこのウェブサイトを立ち上げました。 でも、CBD が実際に手に入らなければ、CBD について人々に伝えることが何の役に立つでしょう? そこで私たちは、CBD が豊富な品種の普及を始めました。 大麻栽培者と医療患者に CBD が豊富な大麻草のクローンを無料で配布し、でき始めたばかりのディスペンサリーに、THC が豊富な大麻草とともに 高 CBD の品種を提供するよう勧めたのです。

CBD革命

それはつまり、前例のない、民主主義的かつ草の根運動としての一つの実験でした。私たちは、人々が CBD が豊富な大麻を摂取したときに何が起こるかを知りたかったのです。国際カンナビノイド研究会ではすでに、カンナビジオールが抗炎症、抗酸化、抗けいれん、抗腫瘍、神経保護、鎮痛などの作用を持つとして科学者の間で話題になっていたのですが、全草 CBD には本当に、私たちがその学術大会で耳にしたような効果があるのでしょうか? 基礎研究の結果はまさに、驚嘆に値するものでした。しかし、こうした研究のほとんどは、カリフォルニアにあるような CBD を豊富に含む大麻の花穂ではなく、単一分子の CBD を使ってマウスで実験を行ったものでした。

私たちは初めから、CBDが、当時連邦政府やさまざまな州や地方自治体の当局によって攻撃されていた医療用大麻の合法化活動に革新をもたらす可能性があると感じていました。CBDは、大麻を薬物乱用という思考の枠組みから解放する鍵になるかもしれない、と私たちは考えました。麻薬取締局のお偉いさんたちといえども、人をハイにせず、副作用のない薬草である高 CBD の大麻草を禁止し続けることなどできないはずでした。

大麻草全草に含まれる CBD が再び日の目を見たのと時を同じくして、経口摂取や局所的な塗布が可能な、高濃度の大麻オイルが登場しました。それはつまり、医療効果を得るために大麻を喫煙したり、ハイになったりする必要がないことを意味したのです! ハイにならずに、あるいはハイの程度を抑えつつ大麻の健康効果を得たいと思う人は多いだろうと予想し、CBD があればそれが可能だと思いました。

転換点

決定的な転機が訪れたのは、2013年の夏、CNN がサンジェイ・グプタの医療大麻に関する特集を放送し、重度のてんかんを患うコロラド州の少女、シャーロット・フィギーの有名な事例を取り上げたときでした。彼女は週に何百回も発作を起こし、FDA(米国食品医薬品局)が承認した医薬品は効果がありませんでした。治療の選択肢が尽きたと思ったそのとき、彼女の両親は、カリフォルニア州で同じような症状の少年に高 CBD の大麻オイルが効いたという話を耳にしました。シャーロットの母親は、コロラド州のディスペンサリーで高 CBD・低 THC の製品を見つけ、それが見事に奏効し、シャーロットの発作は月に2〜3回に減ったのです。

突如として、CBD という魔人は壺から解放されました。かつて「青春の暗殺者」と揶揄された大麻が、重篤な病気の子どもたちの命を救うことができることがわかったのです。しかも、この医療用大麻を使えば、子どもも大人もハイになる必要がありません。CNN の特別番組の放送後、多幸感あるいは不快感を感じることなしに大麻の治療効果を得ることができるかもしれないという可能性が、世界中の何百万人もの人々にとって抗いがたい魅力であることが証明されたのです。

2013年はまた、メリーランド州ベセスダにある米国国立衛生研究所の科学者たちが、『Modulating the Endocannabinoid System in Health and Disease』という画期的な報告書を発表した年でもあります。Pal Pacher と George Kunos によるこの論文には、「内因性カンナビノイドの活性を調節することで、ヒトに影響を与えるほぼすべての疾患の治療に奏効する可能性がある」と書かれています。このウェブサイトでも繰り返し述べているように、CBD と THC はエンドカンナビノイド・システムを調節することで、多様な治療効果を発揮するのです。

臨界点

2013年から 2018年にかけて、CBD に対する人々の熱狂は臨界点に達することになります。これは、大麻に対するネガティブなイメージを払拭し、重要な薬用植物としての評価を回復するのに役立ちました。CBD は、米国やその他の地域で勢いを増しつつあった、大麻をより肯定的に捉えるカルチャーの変化を加速させました。医療用大麻合法化の動きが広がるにつれて、Project CBD も成長を続けました。カリフォルニア州が成人用大麻を合法化したときには、カリフォルニア州政府が提案した、大麻製品に含まれる農薬、重金属、溶剤の検査要件について詳細な批評を提供し、その提案のいくつかはその後採用されています。

私たちは非営利の教育機関として、医療関係者、ジャーナリスト、製品メーカーその他、大麻に関する科学と治療法の新しい展開について学びたい人たちに情報を共有する役割を果たしてきました。また、カリフォルニア州をはじめとする各地で CBD を使用している患者さんの身に実際に何が起きているのかに関心を持つ科学者たちとも直接情報を交換しました。当初は、大麻に含まれているのは THC だけではないということを強調していましたが、次第に、医療用大麻には CBD 以外にも多くのものがあり、大麻草全草が持つ医療効果は、単一成分のそれを上回っていることを強調することが重要だと感じるようになりました。

標準治療に代わる治療法を必死に求めている人々を金儲けに利用しようとするヘンプ由来製品のスタートアップ企業や、悪質な起業家たちによるでたらめな主張と間違った情報の嘘を暴くことが私たちの仕事のひとつでした。生まれたばかりの CBD 市場には、粗悪品やラベル表記が不正確な製品があふれており、私たちの報道活動は、一部の人々の怒りを買うこともありました。2015年には、Project CBD は、私たちがある CBD 企業を誹謗中傷したとして、1億ドルの損害賠償を求める訴訟を起こされました。費用のかかる裁判は数年間続きましたが、最終的には Project CBD が勝訴しました。

健康補助食品のスーパースター

2018年は、CBDにとっても Project CBDにとっても決定的に重要な年でした。6月、FDA はCBD アイソレート製剤(Epidiolex)を、2種類の小児てんかんに対する処方薬として承認。そして 12月には、CBD に対する消費者の大きな需要に応えて、ヘンプ(THCが 0.3% 以下の大麻)の栽培を合法化する「農業法」が議会で可決されました。北カリフォルニアの医療用大麻のコミュニティでひっそりと知られていただけだった CBD は、まもなく地球上で最もホットな健康食品になったのです。私たちのウェブサイトは、ピーク時には月間閲覧数が 100万ページビューをはるかに超えました。

ところが FDA は、CBD の肝臓への悪影響などその安全性への懸念を提起し、CBD 市場の管理責任を担うことを断固として拒否しました。Project CBD は、これらの懸念に対応する提言書を FDA に提出し、ValidCare が実施した臨床試験への参加者を募りました。この臨床試験の結果は、CBD は肝機能に問題を引き起こさないというものでした。また 2018年には、Project CBD はカンナビノイドと薬物の相互作用に関する特別報告書を発表し、CBD が、FDA に承認されたほとんどの医薬品と相互作用を持つ可能性がある、と注意を促しました。この報告書では、CBD 患者は他の薬を摂るのをやめるべきではありませんが、医師は処方薬の血中濃度の変化を監視し、必要であれば用量を調整する必要があると述べています。

その翌年、Project CBD は、誰がなぜ CBD を使用しているのかを知るために、大規模な消費者調査を実施しました。この観察研究には、58か国から 3500人以上の回答が寄せられ、疼痛、気分、睡眠、身体機能、エネルギーややる気、社交能力という6つの QOL 評価項目に対する CBD の有効性(または有効性の欠如)を評価しました。その結果、全体として CBD は、さまざまな症状を持つ人々の健康状態の改善に有効であり、副作用もほとんどないことがわかりました。

野放しの市場と混乱

コカ・コーラ社が、糖尿病を誘発する飲料のラインナップに CBD 入りのドリンクを加えるかもしれないという噂が流れたとき、私たちは勝利の雄叫びを上げていいのか悲嘆に暮れるべきかわかりませんでした。CBD は、規制のない、巨大な世界市場に変貌を遂げていたのです。しかし、CBD オイル抽出のために栽培されるヘンプの過剰生産は、CBD アイソレートの価格を暴落させ、米国の大麻農家に悲惨な状況をもたらしました。わかりにくい農業法案に隠された抜け穴は、Δ8 製品やその他の合成 THC アナログを販売する業者によって悪用されました。初めはその鎮静作用や精神作用がないことを売り文句としていた安価な CBD アイソレートは、自然界には存在しない、精神変性作用のある怪しげな化合物の原材料となって「パンドラの匣」を開き、何の規制もないまま全米で、特に大麻が違法なままである州で堂々と販売されるようになったのです。

将来に目をやると、バイオテクノロジー企業が、ヘンプのバイオマスから CBD を抽出する必要なしに酵母や他の基質から培養させた純粋な CBD アイソレートを大量に市場に放出する態勢を整えていることがわかります。現在の市場を支配しているヘンプ由来の CBD は、生合成またはラボで合成されたより安価な CBD には太刀打ちできないでしょう。でも、伝統的な産業用ヘンプ産業製品(繊維、靱皮、タンパク質など)の市場は、単一分子優勢の時代にも繁栄するはずです。

Project CBDは、合成 CBD が持つ潜在的な危険性についてはっきりと警告してきました。合成 CBD には、不自然な「キラル」形のカンナビジオールを新たに生み出す可能性があり、その作用はわかっていません。私たちは常に、規制政策が、大麻草全草を用いる医療大麻よりも単一分子のカンナビノイドを優遇すべきではないと考えてきました。人々にとって、カンナビノイドに基づく幅広い治療選択肢を持てることが最も重要なのです。医薬品としての CBD は、アメリカではもはや規制薬物ではありません。そして、大麻草に含まれる CBD も同様に扱われるべきなのです——そこには、母なる自然が与え、人の手が育んだ、様々な THC:CBD 比と絶妙なテルペンプロファイルを持つ 高 CBD の大麻草が含まれています。


Martin A. Lee は Project CBD のディレクターであり、『Smoke Signals』『Acid Dreams』『CBDエッセンシャルガイド』を含む数冊の著書がある。


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