わかりにくい法規制の現状にもかかわらず、CBDオイルが巷に溢れる昨今。でも私たちはCBDのことをどれくらい知っているでしょうか?
CBDは発見される前から法律で禁じられていた
大麻は、1937年に連邦政府がマリファナ課税法を制定したことによって事実上違法となりました。この法律には、大麻樹脂および大麻樹脂から抽出されたものは「マリファナ(悪魔の雑草の意)」である、と明言されています。カンナビジオール(CBD)を含むのは樹脂だけです。(樹脂にはこの他、いわゆるハイな状態を生むテトラヒドロカンナビノール(THC)、その他色々な、治療効果のある成分が含まれています。)つまり、陶酔効果のない大麻成分CBDは、CBDというものが存在することがわかる以前に非合法化されていたのです。
イリノイ大学の化学者、ロジャー・アダムス(Roger Adams)によって、初めてCBDが特定され、合成されたのは1940年になってからのことです。その2年後、彼はCBDを単離する彼独自の方法で特許を取っています。アダムスは、CBDに鎮痛作用があることに気づき、連邦麻薬局によって喧伝された数々のデマが嘘であることを暴いた1944年のラガーディア報告にも寄与しました。1957年の定年退職までに、彼はCBDをはじめとする植物性カンナビノイドに関する27本の論文を発表しています。後に彼は、米国化学会(American Chemical Society)に認められ、彼の功績を讃えて権威あるロジャー・アダムス賞が設立されました。イスラエルの研究者、ラファエル・ミシューラム博士がアダムスの研究の後を継ぎ、1963年にCBDの正確な分子構造を明らかにしています。彼は1964年には同じくTHCの分子構造を明らかにしました。
CBDは脳細胞をつくる
カンナビジオール(CBD)は脳細胞を保護するばかりか、ニューロン新生と呼ばれる、新しい脳細胞の誕生を活発化させます。新しいニューロンは常に、海馬の中の二つの領域、歯状回の顆粒細胞下帯と側脳室の脳室下層で作られています。この二つの領域にはカンナビノイド受容体CB1が密集しています。CB1受容体を活性化させるとニューロン新生を促進します。ブラジルの研究者らによる2019年の論文によれば、このプロセスこそが、胎児および成人におけるニューロン新生にエンドカンナビノイド・システムが中心的役割を示す理由です。
THCはCB1受容体に直接結合しますが、CBDはそれとは違う経路でCB1受容体を活性化させます。CBDとTHCはどちらも「神経を作る」物質で、ニューロン新生を促進します。「CBDの神経発生促進作用は、CBDを基盤とした化合物が持つ治療効果の理由の一部であるかもしれない」と、2010年にドイツの科学者が報告しています。またスペインの研究者らは2015年に、「慢性的なアルコールへの暴露が内因性カンナビノイドの活性を低減させ、成人におけるニューロン新生を阻害する」のと異なり、CBD、THC、その他いくつかの化合物が持つ抗うつ作用は、ニューロン新生と神経可塑性(ストレスや外傷に適応する能力)が強化されることによって起こることを発表しました。また基礎研究によれば、低用量のCBDはニューロン新生を増加させ、高用量のCBDは逆にニューロン新生を減少させる、ということは注目に値します。
CBDオイルには陶酔作用はないが、精神作用はある
今から10年前、医療大麻関係者や一般の人々に対するカンナビノイドの啓蒙活動のためにProject CBDが設立されたとき、私たちは通常、CBDには「精神作用がない」と言っており、それが新興のCBD業界での決り文句になりました。「CBDは精神作用がなく、ハイにならない」というのが、決まってCBDのセールスポイントだったのです。政治的に正しいとされる、麻薬は撲滅すべきだという定説によれば、大麻が生むハイな状態は有害な副作用でした。けれどもその後、たしかにCBDは人を酔わせはしないけれど、精神作用がないと言うのは語弊があるということがわかりました。うつ病と診断された患者、あるいはPTSDに苦しむ人が高CBDのティンクチャーを摂取し、久しぶりに気分良く一日を過ごせたとしたら、CBDに人の気分を変化させる強力な作用があることは明らかです。CBDは、THCのように人を陶酔させたり不快にしたりはしませんが、精神にポジティブな影響を与えるのです。
何よりも素晴らしいのは、THCとCBDを組み合わせると、それぞれの効果を足し合わせた以上の治療効果が発揮されるということです。したがって、高CBDの製剤と、その人が不快感を感じないぎりぎりの量のTHCを組み合わせて使うのが理に適っていると言えます。人によっては、THCはできるだけ少ない方がいいということかもしれません。大麻にとても敏感な人というのは、THCを代謝する能力を妨げる遺伝子を持っており、そのためTHCが体内で長く活性を保つのかもしれません。白色人種のおよそ20%では、THCを分解するシトクロムP450ファミリーのアイソフォームをコードする遺伝子に多型が起こっています。アフリカ系の人では10%、アジア人では5%にこの遺伝子異常があり、これらの人たちはTHCに極度に敏感に反応します。ハイになりたくない人は、陶酔作用のないCBDに、ごくごく微量のTHCを加えるというやり方があります。
CBDとTHCはそれぞれの一番良いところを引き出す
CBDオイルの業者は、CBDはTHCの精神作用を中和させることができる、とよく言います。でも、このことを強調しすぎると、CBDの一番素晴らしい贈り物の一つに人々の目が向かなくなってしまいます。つまりCBDは、マリファナが持っている少々厄介な向精神作用を、その人に特有のニーズや感受性に適した形に調節することができる、ということです。たとえばそれは、完全にハイにならないのではなく、その程度を弱めてくれるということかもしれません。その人に最適なCBDとTHCの比率を見つけるのが、医療大麻の最も難しいところです。CBDとTHCは、大麻草に含まれている最強のカップルです—この二つは一緒に使ってこそ最も効果があるのです。
数多くの臨床研究が、CBDとTHCを組み合わせて使うと、それぞれを単体で使ったときよりも神経性疼痛に効果があることを示しています。またサンフランシスコにあるカリフォルニア・パシフィック・メディカルセンターの研究者らが脳腫瘍と乳がんの細胞株を使って行った研究では、CBDとTHCを組み合わせて投与すると、どちらを単体で使った場合よりも抗腫瘍作用が強いことがわかりました。さらに、『ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー(British Journal of Pharmacology)』に2010年に発表された論文によれば、大腸炎の動物モデルにおいて、CBDはTHCの抗炎症効果を高めます。論文には「CBDとの併用によって、単独では効果が見られなかったTHCの用量で効果が見られるようになった」と書かれています。言い換えれば、陶酔感が生じない程度の低用量のTHCは、それだけでは治療効果を発揮しないかもしれませんが、CBDと組み合わせて使うと、同じ低用量によって求めている治療効果が得られるということです。ハイにならずに医療大麻の恩恵に与りたい人にとってはこれは朗報です。
CBDは「節操のない」化合物
標準的なエンドカンナビノイド・システムは、2種類のカンナビノイド受容体(CB1 および CB2)、受容体に作用する2種類の主要な内因性カンナビノイド・リガンド(アナンダミドと 2-AG)、そして、内因性カンナビノイドの生合成、輸送、代謝を制御するさまざまなタンパク質で構成されています。実は CBD は、どちらの受容体ともほとんど結合せず、代わりに非常に多くの分子経路を通じて作用します。メイヨー・クリニック(Mayo Clinic)の神経科医ユージーン・L・シャーフ(Eugene L. Scharf)の論文によれば、CBD が作用する分子標的は 65以上が特定されており、その中には、セロトニン、アデノシン、オピオイドの信号伝達を促進または阻害するさまざまなGタンパク質共役受容体が含まれます。CBD は、複数の、いわゆるオーファン受容体(GPR3、GPR6、GPR12、GPR8、GPR55その他)と結合し、また GABAa、核内受容体(PPAR)、イオンチャネル型受容体である一過性受容体電位型(TRP)チャンネル・ファミリーのうちの数種、さらに、グリシン(GlyR)、ニコチン性アセチルコリン(nACh)、ナトリウム・チャンネル(NaV)などのイオンチャネル内蔵型受容体にも作用します。
ちっぽけな化学分子のわりに随分とややこしいですね。でもこれだけではないのです。CBD は、CB1受容体のネガティブ・アロステリック・モジュレーターとして機能します。つまり CBD は、CB1受容体を部分的にブロックして、THC が CB1受容体を通して行う信号伝達を邪魔するのです。これが、CBD が THC による陶酔作用の上限を低くする理由の一つであると考えられます。さらに CBD は、受容体に依存しない経路を通じても治療効果を発揮します。ポーラ・モラレス(Paula Morales)とパトリシア・H・レッジョ(Patricia H. Reggio)は、『Medicinal Chemistry』誌に掲載された論文の中で、CBD がこうしてあちらこちらに作用するおかげで「神経疾患、がん、炎症性疾患の治療に新しい可能性を提供している」と述べています。
Martin A. Lee は Project CBD のディレクターであり、『Smoke Signals: A Social History of Marijuana – Medical, Recreational and Scientific』『Acid Dreams: The Complete Social History of LSD – the CIA, the Sixties and Beyond』を含む数冊の著書がある。
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