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Healing with Cannabis: The Evolution of the Endocannabinoid System and How Cannabinoids Help Relieve PTSD, Pain, MS, Anxiety, and More』(Cheryl Pellerin著、Skyhorse Publishing, 2020年刊)より抜粋

ドナルド・エイブラムス博士は、サンフランシスコ総合病院のがん専門医であり、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)オーシャー統合医療センターでは統合医療によるがん治療を行うほか、 UCSF では臨床医学の教鞭を執っています。また、486ページに及ぶ『The Health Effects of Cannabis and Cannabinoids: The Current State of Evidence(大麻草とカンナビノイドの健康効果:現時点でのエビデンス)』をまとめた、さまざまな分野にわたる 16名の医学者チームの一員でもありました。これは、全米アカデミーズが 2017年に出版した報告書の改訂版です。

「サンフランシスコでがん専門医をして 36年になりますが、私が診てきたがん患者のほとんどが大麻を使っています」— 2019年 5月3日のインタビューで博士はそう言っています。「食欲がなかったり、悪心、嘔吐、不眠症、疼痛、うつ、不安などに苦しむがん患者を見ない日は一日としてありません。一種類の薬で、悪心・嘔吐を軽減し、食欲を増進し、疼痛をやわらげ、睡眠と気分を改善できるとしたら、私はそれは価値ある治療介入だと思います。抗がん剤や他の薬との間で薬物相互作用を起こす医薬品を5種類も6種類も処方する代わりに、安全な植物を一つ勧めるだけでいいのです」

1970年代のサンフランシスコでエイブラムス博士が研修医だったとき、大麻を使っている人は多く、その中には若いがん患者も含まれていました。博士が UCSF でがん治療の特別研究員となった 1980年は大麻が広く使われていた時代で、効果的な制吐剤は存在しませんでした。

「プロクロルペラジン(コンパジン)とトリメトベンズアミド塩酸塩(チガン)はありましたが、あまり効きませんでした。若い人がかかるがん、たとえばホジキン病や精巣がんの患者が言うんです — 『ねえ先生、先生が処方してくれる薬より、大麻の方が吐き気を抑えるのに効果がありますよ』とね」。それがきっかけで、国立衛生研究所の国立がん研究所といくつかの製薬会社が、制吐薬の候補として合成 Δ9THC の研究を始めたのだろうと博士は考えています。

「1970年代と 1980年代にいくつもの研究が行われた結果、1985年にはドロナビノール(カプセル入りの合成 THC)とナビロン(経口摂取する THC の類似体)が、抗がん剤治療に伴う悪心と嘔吐の治療薬として承認されました。その頃私の患者にどれくらいそれを使ったかよく覚えていませんが、1992年には FDA がドロナビノールの適応症を拡大し、HIV 感染患者の、体重減少を伴う食欲不振の治療にも使えるようになりました」

エイブラムス博士は、そのとき初めて本格的にドロナビノールを使うようになったと言います。「がん専門医としての教育を受けた後、私は AIDS の治療を始めました。ドロナビノールをたくさん処方するようになったのはそれからです。ところが患者は、『それは要りません。大麻の方がいいです。ドロナビノールは効き目が現れるのに時間がかかりすぎるし、効き始めるとハイになりすぎますから』と言うんですよ」。ごま油に溶かした Δ9THC(マリノールという商品名で販売されたドロナビノールのこと)は、大麻草全草から作られた製剤とは大きく違う、とエイブラム博士は言います。「それが、私が初めての臨床試験で学んだことでした」

大麻草全草 vs THC

1990年代半ば、臨床試験で使う大麻の唯一の供給元は国立薬物乱用研究所(NIDA)でした。そして NIDA は議会によって、乱用薬物を乱用薬物として扱う研究にのみ資金提供が許され、治療薬としての研究は許されていませんでした。

「ですから、エイズで衰弱している患者の治療に大麻が役立つことを示そうとする私の臨床試験に資金を提供することは NIDA にはできませんでした。でも、プロテアーゼ阻害薬を使っている HIV 感染患者が大麻を吸っても安全か、という研究なら資金提供が可能だったんです。そうやってようやく資金提供を得ました」。博士にとってそれが、国立衛生研究所の資金提供による初めての大麻研究でした。被験者の3分の1は 2.5ミリグラムのドロナビノールを一日3回摂取し、3分の1は NIDA の提供による大麻草全草をタバコ状にしたものを喫煙し、残りの3分の1にはドロナビノールの形状をした偽薬が与えられました。

「患者は私が勤めていた総合臨床研究センターに 25日間入院し、そのうちの 21日間はドロナビノールを摂るか大麻を吸うかしました。どの患者がドロナビノールを摂っているかは明らかでした — ほとんど一日中、ぐったりしてベッドに寝ていましたからね。一方大麻を吸っていた患者はベッドから起きて、踊ったり、部屋を掃除したり、はるかに活動的でした。ですから、この2つは間違いなく別物ですよ」

がん患者の治療経験の中で、エイブラムス博士にとってとても印象的だったことがありました。「最期の時を迎えるがん患者の多くは、善意のがん専門医によって、肉体的・精神的な痛みや苦しみをやわらげるためのオピオイド鎮痛薬を処方されます。すると患者は、『この薬を摂るとハイになりすぎて家族と意思疎通ができない』と言うんです。そこでオピオイド鎮痛薬をやめて大麻だけを使うようにすると、患者はそちらの方がずっといいと言うんですよ」

カリフォルニア州では 23年前(1996年)に医療大麻が合法化され、嗜好大麻も 2年前(2018年)に合法化されています。でも、医師の推薦状が必要だった頃は、エイブラムス博士が推薦状を書き、患者は1年間、それを持ってディスペンサリーに行けば大麻を買うことができました。

「でも私は、この品種を摂りなさい、とか、これくらいの用量を一日何度摂りなさい、などと指示はしませんでした。大麻は添付文書が必要な薬ではないと思います。ほとんどの人は、自分で使い方がわかるはずです。患者は一人ひとり違いますし、大麻の品種も一つひとつ違います。一番重要な注意事項は、『少しから始めてゆっくり増やす』ということでしょう。マントラみたいですが」。そしてエイブラムス博士は、大麻を医薬品にするのは間違いだと考えています。

「大麻は、5,000年前からあるとても有益な植物療法と考えるべきです。医薬品が幅を利かせる枠組みの中でこれを薬と呼ぶのは正しくないかもしれない。ノコギリヤシやエキナセアと同じような扱いで、ただしタバコやアルコールと同じように規制し、大人が適切と思う形で責任を持って使えばいいんです」

がんの症状と抗がん剤の副作用軽減のための大麻利用

統合的オステオパシーの医師であり、医療大麻による治療のエキスパートであるダスティン・スラック(Dustin Sulak)医師は、2009年から、自身のクリニックで成人と小児の難治性疾患の治療を主に行っています。Integr8 Health の創設者であり、メーン州にオフィスを構えて、医療大麻やその他の自然療法を用いている 8,000人以上の患者の治療経過を記録しています。論文審査のある学術誌で論文を発表し、世界中の医療従事者を対象に、大麻の臨床利用についての講義を行っています。スラック氏の許可を得てここでご紹介する情報は、氏が運営する教育用ウェブサイト Healer.com の内容からの抜粋です。このウェブサイトは、医療大麻に関連する教育や、医師その他の医療従事者や消費者向けの認定プログラムなど、さまざまなプログラムを提供しています。

がん患者の治療における大麻の使い方には、はっきりと異なる二つの方法が存在します。一つは、標準治療の副作用を緩和し、薬の忍容性を高めるために使う方法。もう一つは高用量の大麻を使ってがんそのものを殺そうとするものです。スラック氏によれば、二つのアプローチの目指すところは互いに相容れないものではありませんが、用量についてはそれぞれ異なった考え方が必要です。

適切に使えば大麻は、がん患者の慢性疼痛、不眠症、抗がん剤治療に伴う悪心や嘔吐の治療に効果を発揮します。動物実験の結果は、抗がん剤治療にありがちな副作用であり、抗がん剤の用量や治療のコースを限定してしまいかねない神経因性疼痛の発症を、大麻が抑えることができるということを示しています。がんが寛解した後でも、患者の多くは日常に支障をきたすような神経因性疼痛が残り、その痛みは生涯続くこともあります。

スラック氏の教材には、「大抵の患者は、一日に 10〜60 ミリグラムほどのごく低用量のカンナビノイドを摂ることで生活の質が大幅に改善し、副作用もほとんどありません」と書かれています。「THCCBD、その他のカンナビノイドをさまざまな比率で組み合わせることで、カンナビノイド療法の効果を微調整し、副作用を最小限に抑えることができます」

医療大麻は、患者が抗がん剤治療や放射線治療などの標準治療に耐えるのに役立ち、標準治療と併用することが可能ですし、薬物間相互作用が起きる可能性も高くありません。つまり、がんの標準治療に医療大麻を組み合わせるのを避けるべき理由はめったにないのです(教材にはいくつかの例外が注記されています)。

末期がんの患者にとって、大麻は終末医療における緩和ケアの面でさまざまに役立ちます。「ホスピスにおける標準的な終末医療に加えるものとして、大麻は驚くほど有益です」

大麻を使ってがんと闘い、治療を促進する

がん患者の症状を緩和し生活の質を向上させるだけでなく、カンナビノイドには抗腫瘍作用があることが、培養細胞や動物モデルを使った多くの実験で示されています。また多数の事例証拠が、人間のがんに対してもカンナビノイドが奏効することを示唆しているとスラック氏は言います。氏の患者の中には、腫瘍の成長が遅くなった、あるいは止まった人も複数いますし、大麻の抽出成分を使って侵襲性の強いがんが寛解した例もあります。

こうした強力な抗がん作用を引き出すためには、ほとんどの場合、症状を緩和させるための用量よりも高い用量が必要です。通常一日 200〜2,000 ミリグラムのカンナビノイドを摂りますが、乾燥大麻ならこれは週に 30〜60 グラム程度にあたります。患者またはケアギバーが屋外で大麻を栽培できるならこれは経済的な方法ですが、医療大麻ディスペンサリーでこれほどの量を購入するとかなりの高額になるかもしれません。

これほどの高用量を摂取する場合には、「知識が豊富な医療従事者が治療を監督し、副作用や、標準治療の薬との薬物相互作用が起きるのを防がなければなりません。患者は、重大な副作用を起こさずに高用量が摂れるようになるまで、少量から始めて慎重に用量を増やしていかなければなりません。驚くべきことに、一日 2,000ミリグラム程度の用量では問題は起こりません」とスラック氏は言います。

また氏は、どんな治療方法にも一定のリスクはあるが、大麻は高用量であっても死に至ることはなく、抗がん剤よりもはるかに安全である、と言います。ただし、高用量の大麻をがんに使った場合の効果について、人間を対象に行われた臨床試験はありません。かなりの高用量を摂っている患者の中には、全般的な症状の改善と生活の質の向上を報告する人もいますし、あまり高用量になりすぎると、低用量では効果があった疼痛、不安、睡眠障害といった症状の緩和には役立たない人もいます。また、高用量の大麻に対する耐性がつかず、ハイになって頭が朦朧とし、不快であると言う人もいます。

誰にでも効くやり方はない

どんな人のどんながんにも効く大麻の使い方を知っていると断言する人には気をつけなければいけない、とスラック氏は言います。インターネット上には、特定の種類のがんに効くカンナビノイドの比率、用量、治療計画などの情報が溢れていますが、そうした主張の多くは、たった一人の患者の奏効例や、基礎研究(培養細胞や動物を使った実験)の文献の、都合の良い部分のみに基づいたものであったりすることが多いのです。

がんというのは非常に複雑な疾患で、「たとえ同じ種類のがんでも、2人の患者がいれば、標準治療や代替医療に対して非常に異なった反応をします」とスラック氏は書いています。「がんは異常な細胞なので、その行動も異常です — たとえばカンナビノイド受容体が過剰に発現していたり、発現していなかったりします。それぞれの患者の体内の生理環境、遺伝的特徴、食生活その他の要因によって、症例は一人ひとり違います。一つの症例、あるいは一つの実験で好結果が得られたからと言って、それがどんな場合にも当てはまるわけではなく、せいぜいガイドラインとして使えるだけです。さらにがんの治療は、患者が何を求めており、何を好むかということも考慮しなければなりません」

カンナビノイドは、がんの細胞死を促したり、がん細胞の増殖を防いだり、腫瘍に栄養を運ぶ血管の生成を阻害したり、身体の他の部位にがん細胞が転移するのを防いだり、といった、いくつかの作用機序でがんと闘います。スラック氏によれば、大麻でがんを殺すことに成功した人のほとんどは高用量を摂取しますが、中には、低用量から中等量の大麻摂取で腫瘍のサイズが大幅に減少した人も複数います。

「標準的な抗がん剤治療と違って、カンナビノイドは正常な細胞に対しては有害性を持たないことが分かっています。標準的抗がん剤治療の戦略は、健康な細胞よりもがん細胞により有害性が強い薬を使い、患者が耐えられる限界までその量を増やす、というもので、末梢性ニューロパシーや、悪心や嘔吐から来る栄養失調といった耐え難い副作用が治療の妨げになることがしばしばです」

「医療大麻の用量にも副作用による限界はありますが、それは長期的な障害につながるような毒性によるものではありません」


シェリル・ペレリン(Cheryl Pellerin)は科学ジャーナリズムに特化したライターであり、著書『Healing With Cannabis: The Evolution of the Endocannabinoid System and How Cannabinoids Help Relieve PTSD, Pain, MS, Anxiety, and More』(Skyhouse Publishing刊)には医師ジェフリー・ハーゲンラザー(Jeffrey Y. Hergenrather)氏が序文を寄せている。処女作『Trips: How Hallucinogens Work in Your Brain』はフランス語とドイツ語に翻訳されている。


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