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5年ほど前から、世界はカンナビジオール(CBD)に夢中です。おそらく最も顕著なのはイギリスとアメリカで、国民の 10% 近くが CBD オイルを試したことがあると言っています。CBD 製品を作るのに使われる大麻草やヘンプには、この魔法の成分がたっぷり含まれているものと多くの人が思っているかもしれません。でも実際にはそうではありません。

生の大麻草やヘンプに含まれているのは、カンナビジオール酸(CBDA)という CBD の前駆体です。CBD は、CBDA に熱が加えられて初めてできるのです。

ごく限られたカンナビノイド研究者を除いては、CBD と比べ、CBDA はほとんど注目されてきませんでした。実際、長年にわたって CBDA は、活性を持たない成分であると誤解されてきました。このことと、時間の経過とともに劣化してしまう CBDA の性質とが相まって、CBD の酸性の状態である CBDA についてはあまり研究されてこなかったのです。

ところが今、CBDA が再び見直されています。特許をとった CBDA “エステル” が発売され、医療大麻患者からも医師からも CBDA の医療効果に関するさまざまな報告が寄せられたことで、メディアの注目が高まっているのです。

CBDAとは何か?

CBDAは、イスラエルの科学者ラファエル・ミシューラム博士によって 1965年に最初に単離されました [1]。 CBDA に十分な熱と光を与えると、脱炭酸という化学プロセスが起こり、カルボキシル基が失われて、CBD に変化します。

CBDA は、がん、不安神経症、てんかん、治療抵抗性の悪心と嘔吐など、さまざまな疾患の治療法として重要な位置を占める可能性があります。

脱炭酸というと私たちは大麻のことを考えがちですが、これは一般的な細胞呼吸に見られる化学反応です。私たちが代謝の副産物として二酸化炭素を吐き出すのはこのためです。

私たちは、脱炭酸されたカンナビノイドこそが「活性化した」成分であり、人体内でより強力な医療効果を発揮するものと長い間考えてきました。ところが近年の研究によって、CBDA が 5-HT1A セロトニン受容体を CBD よりもはるかに強力に活性化するということがわかり、これまでの前提が完全に覆されたのです。CBDA はまた、もう一つ別の重要な受容体である GPR55 に対し、拮抗剤として CBD よりも強い結合親和性を持っていることもわかりました。

こうした発見によって、CBDA が、がん、不安神経症、てんかん、治療抵抗性の悪心と嘔吐など、さまざまな疾患の治療法として重要な位置を占める可能性が示唆されたのです。

悪心・嘔吐と CBDA

セロトニンが神経伝達物質の中でおそらく最もよく知られているのは、それが人間の気分を調節する役割を持っているからでしょう。ですが、セロトニンが生物学的に果たしている役割は、単に私たちを幸福な気分にしてくれることだけではありません。セロトニンは、悪心、嘔吐、腸の運動など、非常に多様な生理的機能に関与しているのです。

CBDA による 5-HT1A の活性化についてわかっていることの多くは、オンタリオ州にあるグエルフ大学における、神経科学者リンダ・パーカー(Linda Parker)博士が率いるエリン・ロック(Erin Rock)らの研究チームによるものです。[2] ロックは、さまざまなタイプの悪心と嘔吐に対する CBDCBDA の治療効果について調べました。その結果、CBDA は、CBD よりも強力に 5-HT1A 受容体と結合することにより、有毒物や乗り物酔いによる吐き気と嘔吐を抑えることが示されました。

吐き気を軽減するために必要な CBDA の量は、同じ効果を発揮するのに必要な CBD の量の、なんと 1000分の1でした。

最も素晴らしいのは、CBDA が予期性悪心の軽減に大きな効果があったということでしょう。予期的悪心とは、抗がん剤治療の前に、治療が始まってもいないのに患者を襲う激しい吐き気のことです。ちなみに、予期的悪心の軽減に効果のある医薬品はありません。

これとは別に、CBDA を標準治療で使われる制吐薬オンダンセトロンと組み合わせた場合の効果を調べた研究では、非常に低用量でも CBDA がオンダンセトロンの制吐効果を高めることがわかりました。[3] それどころか、ロックによれば、吐き気を軽減するために必要な CBDA の量は、同じ効果を発揮するのに必要な CBD の量の、なんと 1000分の1でした。

さらにロックらは、CBDACB1 カンナビノイド受容体に作用しないため、陶酔作用がないということを確認しました。ですから CBDA は、高 THC の大麻やドロナビノール(FDA に承認された合成 THC)による精神作用が苦手な患者にとってのより良い選択肢である可能性があります。

てんかんとCBDA

CBD が社会の主流に躍り出たのは、その素晴らしい抗けいれん作用に拠るところが大きいと思います。現在アメリカでは、唯一、精製された CBD のティンクチャーであるエピディオレクスが、3種類の難治性てんかんの治療薬として承認されています。

エピディオレックスを作った GW製薬が CBDA の治療効果に注目しているとしても驚くにはあたりません。GW製薬の研究者らが CBDACBD を比較した薬物動態研究では、CBDACBD よりもバイオアベイラビリティが高く、効果の発現時間も短いことがわかりました。これは創薬においては非常に魅力的な選択肢です。

必要な用量が少ない(したがって副作用の危険も低い)ばかりでなく、あるパラメーターにおいては、CBDA は発作の軽減により効果的でした。このデータの一部は、査読を受けた論文ではなく、GW製薬が「Use of cannabinoids in the treatment of epilepsy(てんかん治療におけるカンナビノイドの利用)」として提出した特許申請書 [4] に記載されているものですが、ロックの研究結果を裏付けるものであり、また、ボニ・ゴールドスタインやダスティン・スラックといったアメリカの医療大麻医師が挙げる、CBDA を使った治療の成功例とも一致します。

ある症例

ペルーの医師マックス・アルザモーラ(Max Alzamora)は、Society of Cannabis Clinicians による最近のウェビナーで、CBDA にまつわる感動的な症例を話してくれました。

彼の診察室にやってきた 14歳のグレンディは、自己免疫性脳炎による発作が一日に 10回ある状態でした。アルザモーラ医師の診察を受ける以前、グレンディは 45日間昏睡状態にあったことがありました。また、処方された薬による薬剤性肝炎にも罹患していました。

グレンディの両親はアメリカ製の CBD オイルを入手し、発作はいくらか減りました。でも一家には、輸入された CBD を買い続ける経済的余裕がなかったため、アルザモーラ医師は、メキシコで手に入る CBD を見つけました。ところが…..

実はこの CBD オイルは脱炭酸されておらず、グレンディは実際には CBDA を摂っていたのです。このことは後日、この製品をカリフォルニアにある検査ラボに送って確認されました。そしてグレンディの発作はさらに減少したのです。最新の情報では、16歳になったグレンディは現在、1年に 10回しか発作が起きておらず、抗てんかん薬は一切飲んでいません。薬を止めて CBDAオイルを摂るようになってから、認知発達、不安神経症、自閉症的な行動、そして生活の質全般に関して大きな改善が見られます。

「酸性カンナビノイドは、治療できる疾患の幅を大きく広げてくれると思っています」— マックス・アルザモーラ医師

アルザモーラ医師は言います。「THCCBD を含む医療大麻での治療ですでに良い結果が出ていましたが、CBDA は、てんかん、パーキンソン病、炎症性の疾患の治療に特に効果的です。酸性カンナビノイドは、治療できる疾患の幅を大きく広げてくれると思っています」

けれども、てんかんその他の疾患に対して CBDA が持っている複数の作用機序については、まだまだわからないことがたくさんあります。「私自身、もっと多くのエビデンスを集めて、患者の役に立てたいと思っています」とアルザモーラ医師は言っています。

CBDAの抗炎症作用

グレンディのてんかんは自己免疫の状態が原因ですから、CBDA が効いたのは、酸性カンナビノイドが選択的 Cox-2 阻害剤 [5] として働くことによって抗炎症作用を発揮することが一因かもしれません。

シクロオキシゲナーゼ(Cox)酵素には2種類あり、Cox-1 は胃と腸の内壁の正常な状態を維持し、Cox-2 には炎症促進作用があります。アスピリンやイブプロフェンなど、非ステロイド系の抗炎症薬は、 Cox-1 酵素と Cox-2 酵素の働きを阻害します。薬局で買えるこうした薬を長期的に使用した場合、Cox-1 を阻害することで、消化管に大きな問題が起きることがあります。

ですから、Cox-1 に影響せず選択的に Cox-2 を阻害する薬を開発すれば、危険な長期的影響なしに、炎症に起因する症状を緩和することができるのです。人を対象とした研究はまだこれからですが、Cox-2 阻害剤である CBDA には、より安全な非ステロイド系抗炎症薬になり得る可能性があります。

ある基礎実験 [6] では、CBDA が Cox-2 酵素の働きを抑制することによって、通常より Cox-2 の量が多いことが特徴の、ある種の浸潤性乳がんの転移が防げるという可能性も示されています。乳がん細胞を 48時間にわたって CBDA に暴露させたところ、Cox-2 と、乳がん細胞の急速な転移に関連するタンパク質 Id-1 をともに抑制し、一方で乳がんの転移を抑える遺伝子 Sharp-1 の発現が亢進しました。これは基礎実験のデータではありますが、ある種の乳がんにおいては、悪性腫瘍が体の他の部位に拡がるのを阻止する可能性を示唆しています。

合成 CBDA

この数か月、ミシューラム博士は、特許を取得した合成 CBDA メチルエステルを発表して再び話題の人となりました。分子構造をわずかに変化させることで CBDA よりも安定した化合物となり、ミシューラム博士が率いるチームは、不安神経症、うつ病、炎症性腸疾患、悪心と嘔吐といった疾患の治療薬として、またステロイドに代わるものとしての利用法を模索し始めています。

ある種の乳がんにおいては、CBDAは悪性腫瘍が体の他の部位に拡がるのを阻止するかもしれません。

この、安定性を高めた CBDA は、研究室内、特に創薬という場面では扱いやすいかもしれませんが、熟達した手腕で大麻草やヘンプから作られた CBDA を含む製品と比較して、治療効果という意味で大きく勝っているかどうかは定かではありません。

日の当たらない冷暗所(あるいは暑い地方では冷蔵庫)に保管し、数か月内に使い切れば、 CBDA は劣化しません。ただし、開封した CBDA 製品のボトルを直射日光の当たるところに置いて数年経てば、含まれるカンナビノイドの内容はおそらく変化してしまいますし、キャリアオイルはおそらく酸化してしまうでしょう。

CBDA を生活に採り入れる

品質管理に関する規制がほとんどされていない今日の市場で注意深く製品を選ぼうとしている消費者にとって、大麻オイルに CBDA が含まれているということは、その製品がおそらく、脱炭酸のために熱を加えることが必要なCBD アイソレートまたはディスティレートを元にして作られたのではなく、本物のフルスペクトラム製品である、という証になります。

もしも生の大麻草の葉や花穂が手に入るなら、サラダやスムージーに加えれば、酸性カンナビノイドを簡単に摂り入れることができます。あるいは、パサデナで開催された 2019年の CannMed カンファレンスでスラック博士が推奨したように、CBDA が豊富な生の花穂をお茶に浸すのもいいでしょう — その程度の熱では脱炭酸は起こりませんし、これまで無視されてきた大麻成分のベネフィットを味わうことができるでしょう。

長らく CBD の陰に隠れて目立たなかった CBDA は、有名な CBD よりも安全で、ある意味ではより強力なもう一つのカンナビノイドとしてようやく認められつつあります。すでに CBD を使っている人、あるいはこれから使おうかと考えている人は、CBDA を豊富に含む製品を低用量で使用することを検討するといいかもしれません。試した方は、どんな効果があったかを Project CBD にお知らせください。


Project CBD の寄稿者メアリー・バイルズ(Mary Biles)は、ホリスティックヘルスに造詣が深く、 TV 番組制作の経験を持つジャーナリスト、ブロガー、エデュケーター。『The CBD Book: The Essential Guide to CBD Oil』の著者であり、ポッドキャスト「Cannabis Voices」のホストでもある。ウェブサイトはこちら


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脚注

  1. R Mechoulam et al. Hashish. IV. The isolation and structure of cannabinolic cannabidiolic and cannabigerolic acids. Tetrahedron 1965 May;21(5):1223-9
  2. EM Rock et al. Cannabidiolic acid prevents vomiting in Suncus murinus and nausea-induced behaviour in rats by enhancing 5-HT1A receptor activation. Br J Pharmacol. 2013 Mar; 168(6): 1456–1470
  3. EM Rock et al. Effect of low doses of cannabidiolic acid and ondansetron on LiCl-induced conditioned gaping (a model of nausea-induced behaviour) in rats. British journal of pharmacology vol. 169,3 (2013): 685-92.
  4. Use of cannabinoids in the treatment of epilepsy. Patent application. GW Pharma
  5. S Takeda et al. Cannabidiolic Acid as a Selective Cyclooxygenase-2 Inhibitory Component in Cannabis. Drug Metabolism and Disposition September 2008, 36 (9) 1917-1921
  6. S Takeda et al. Down-regulation of cyclooxygenase-2 (COX-2) by cannabidiolic acid in human breast cancer cells. The Journal of Toxicological Sciences. Vol.39, No.5, 711-716, 2014
  7. D Hen-Shoval et al. Acute oral cannabidiolic acid methyl ester reduces depression-like behavior in two genetic animal models of depression. Behav Brain Res 2018 Oct 1;351:1-3

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