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医療従事者が、無視するか、そうでないとしてもヒソヒソ声や遠回しな言い方でしか語ってこなかった更年期障害。今、ようやく注目が集まっています。ここ数年突如として、ソーシャルメディア上の、45歳〜55歳の女性インフルエンサーたちが一斉に、エストロゲンの激減が引き起こした症状に苦しんでいることを率直に語り始めているのです。彼女たちの多くが、CBD や大麻製品は非常に辛い症状の緩和に役立ったと強調しています。こうした体験談に加えて、最近の科学的データもまた、不安感、睡眠障害、寝汗といった、更年期障害の典型的な症状と向き合うために大麻を使う女性が増えていることを示しています。

男性、あるいは 40歳以下の女性にとっては、更年期と言われてもピンとこないと思います。私が3年前に『The CBD Book』という本を書いたとき、私自身、すでにたしかに閉経周辺期であったにもかかわらず、更年期については数段落しか割かなかった、というのがその証拠です。でも、まさに更年期本番を迎えた今の私なら、この話題でまるまる一冊の本が書けます。

なぜなら、閉経周辺期の開始とエストロゲン量の激減は、まさに招かれざる客が家にやって来たようなものだからです。身体的に健康で、気分も穏やか、夜もしっかり眠れ、頭は冴えていた人が、不安でたまらなくなったり、何かに猛烈に腹が立って心ここにあらずの状態に陥ったり、深い鬱状態に落ちたり、ぐっしょり寝汗をかいて目が覚めてしまったり、頭がぼーっとしてものを考えるのが難しくなったり、ということが起きるのです。

こんなふうにさまざまな不調や異常が起きるのですから、妊娠可能な年齢から閉経に近づき、そして閉経を迎えた後の女性は、人間のホメオスタシスを維持するマスターレギュレーターであるエンドカンナビノイドシステム(ECS)もまた大きく変化している、と聞いても驚くにはあたらないでしょう。心臓の病気や骨粗しょう症、ある種のがんなど、閉経後の女性に起こりやすい健康問題に ECS がある程度関与しているのではないか、とさえ推測されています1

閉経周辺期から閉経まで

閉経は病気ではないことを忘れてはいけません。閉経は、卵巣でつくられるホルモン(主にエストロゲンとプロジェステロン)の量が減り、徐々に月経が止まる(平均年齢は 51歳)自然なプロセスです。ただし、閉経そのものより、ホルモンの量が不規則になり始める閉経周辺期のほうがつらいという女性もたくさんいます。

閉経周辺期の開始とエストロゲン量の激減は、まさに招かれざる客が家にやって来たようなものです。

「ホルモンの変化は、24時間のうちに起こることもあれば何ヶ月もかかることもあります。だからこれは本当につらい時期で、女性の自殺が一番多いのが閉経周辺期です。とても混乱しやすいのです」——産婦人科医で、フロリダにある Victory Rejuvenation Center の創業者であるジェネスター・ウィルソン-キングはそう説明します。彼女は現在、Society of Cannabis Clinicians の副会長でもあります。

ほとんどの女性は、通常の量のエストロゲンがもたらす保護作用と気分を高揚させる性質から恩恵を受けていますが、閉経周辺期になるとそれが変化します。エストロゲンが減少すると、気分が落ち込んだり不安に襲われたりしたことがそれまでなかった女性のなかにも、生まれて初めてそれを経験する人がいます。あるいは過去に精神衛生上の問題があった人は、症状が大きく悪化することもあります。

イギリスのジュリー・デュランスの場合、閉経周辺期には、すでにあった不安神経症が悪化しただけでなく、ホルモンの変化によって、体全体の健康が衰えました。「閉経したら関節の痛みと炎症がとてもひどくなって、脱臼することも多くなりました」——この時期に診断されたエーラス・ダンロス症候群のこと言っているのです。「片頭痛もひどくて、週に3〜4回はあり、かかりつけの先生には、脳卒中の危険性が高いと言われました」

また閉経周辺期には、エストロゲンの急激な減少が既存疾患を悪化させたり、線維筋痛症などそれまでなかった疾患と診断されることも珍しくありません 2

カナダ人で、女性の健康に関するライターであるコリーン・フィッシャー・タリーは 44歳ですが、月経前の2週間、寝汗、睡眠障害、片頭痛の増加に加えて、突如、慢性外陰部痛(外陰部の強烈な痛み)が起こるようになりました。

「外陰部の線維筋痛症と呼ばれることもあるの。ものすごい苦痛なのよ」とコリーンは言います。

このようにさまざまな不快な症状があるのですから、閉経周辺期および閉経期に性欲が弱まる女性が多いのも当たり前です。寝汗、睡眠障害、不安、片頭痛、動悸、そして膣乾燥などに苛まれながらでは、燃えるようなセックスの魅力も色褪せてしまうのです。

ホルモン療法

月経がないまま1年が経って完全に閉経すると、気分に関連した症状の多くはなくなりますが、なかには継続するものがある場合もあります。身体の健康を護っていたエストロゲンの量が十分でなくなった結果、閉経後の女性はまた、骨粗しょう症、認知症、心臓病などに罹る危険性も高まります 3

そこで一部の女性は、エストロゲン量が減少するこの時期に、自分の肉体とマインドのコントロールを取り戻そうと、ホルモン療法(ホルモン補充療法、HRT とも言います)を始めるのです。

身体が産生しなくなったエストロゲンとプロジェステロンを補うホルモン療法には、異論を唱える人がいないわけではありません。ある研究は、ホルモン療法が乳がんの危険性を高めるとして有名になりましたが、この研究はその後、信用性が疑問視されるようになっています 4

近年では、体内のホルモンと化学的に同一な構造のホルモンの経皮投与は安全とされ、多くの女性にとって、閉経周辺期に起きる気分のばらつきや不安感を軽減させるのに大いに役立っています。実際、この時期のうつ病の治療には抗うつ剤よりもエストロゲンの方が効果があるという研究結果もあります 5

とは言え、ホルモン療法は誰でも受けられるわけではありません。特定の疾患——たとえば未治療の高血圧症、ホルモン感受性がん、静脈血栓塞栓症などにホルモン療法は禁忌です。

また、ホルモン療法よりも、レッドクローバーのような植物性エストロゲンのサプリメントやその他の補完療法を使って、自分で症状を管理することを選ぶ女性もいます。

エストロゲンとエンドカンナビノイド・システム

ジェネスター・ウィルソン=キング医師のフロリダのクリニックでは、ホルモン療法が向かない患者や、ホルモン療法を受けても軽度の不安といった一部の症状が消えない患者には、よく大麻を勧めます。

「私は、ホルモンの変化過程のほとんどの段階にいる患者を診ており、大麻がとても有効なのを見てきています」。ウィルソン=キングは、ホルモン療法だけでも閉経周辺期および閉経期におけるホルモンバランスを整えるが、エンドカンナビノイド・システムが女性のホルモンの健全性に果たす役割を過小評価すべきではない、と指摘します。

「私は、ホルモンの変化過程のほとんどの段階にいる患者を診ており、大麻がとても有効なのを見てきています」– Dr. Genester Wilson-King

「エンドカンナビノイド・システムは女性の生殖器官でとても活発に働きます」と彼女は説明します。「人間の卵巣は、内因性カンナビノイドであるアナンダミドを産生します。健康な女性の月経周期のうち、月経から排卵までの卵胞期には血中のアナンダミド量が多く、排卵中にそれが最大になって、黄体期には少なくなるんです」

このアナンダミド量の変化と同様に、エストロゲンもまた、排卵までの期間と排卵中に最も多くなり、残りの期間は減少します。

私たちは ECS がマスターレギュレーターとして身体機能を調節していると考えることに慣れていますが、こと女性の生殖器系の関して言えば、支配権を握っているのはエストロゲンのようです 6

「エストロゲンは、アナンダミドの分解酵素、脂肪酸アミドヒドロラーゼ(FAAH)を調節します。ですから、アナンダミドの量が多い必要があるときは、エストロゲンが FAAH の量を抑え、その結果アナンダミドの量が増えるのです」

今のところ不明なのは、排卵までアナンダミドの量が多くなくてはいけない理由です。ただ、ずっと月経前症候群に悩んでいた私としては、イライラしやすい時期と、気分を良くする内因性カンナビノイド、アナンダミドが減る時期が一致しているというのは興味深い点です。

閉経後の疾患

エンドカンナビノイド・システムとその異常はまた、アナンダミドの量が減る閉経後に起こる疾患にも関与しているのではないかと考えられています 7

世界的に見ると、50歳以上の女性の 30% が、骨がもろくなる骨粗しょう症に罹っています。CB2 受容体は健康な骨の形成に一役買っており、マウスモデルでは、閉経後のエストロゲンの減少が、CB2 受容体の発現と信号伝達の減退に影響しています 8。 逆に、エストロゲンを投与すると 9、 骨細胞を分解する破骨細胞の生成を阻害します。これは CB2 受容体の活性化が司るプロセスです。

2021年に発表された論文「The Role of Endocannabinoid System in Menopause and Its Related-Diseases(閉経と閉経に関連する疾患におけるエンドカンナビノイドシステムの役割)」の中で、著者であるイタリアの研究者らは、エストロゲンの減少に伴うアナンダミド量の低下は、閉経後の女性のがんの罹患率が高まる理由を一部説明している可能性がある(アナンダミドには抗腫瘍作用があることがわかっています)と述べています 10

女性の健康を護る二つの内因性化学物質が同時に減少するというダブルパンチの強烈さは過小評価すべきではないでしょう。この時期に、エンドカンナビノイド欠乏症と関連付けられている疾患を発症する女性がいるのも偶然ではないのかもしれません 11。 私自身のことを言えば、閉経周辺期に起こって慣れてしまった痛みや不快感が、エクササイズなどによってアナンダミドが増加するのとともに、決まって楽になる理由もこれで説明できるのかもしれません 12

医師の無関心

ジュリー・デュランスもコリーン・フィッシャー・タリーも、閉経周辺期に味わった睡眠障害、不安感、片頭痛には大麻が非常に効いたと言います。コリーンの場合、特に THC を含む座薬が、毎月の慢性外陰部痛を楽にしてくれました。興味深いことにコリーンの体験は基礎研究でも裏付けられており、THC を介した肥満細胞蓄積の減少が外陰部の過敏症をやわらげた可能性が示唆されています 13

ジュリーとコリーンはそれぞれの母国で、医療大麻のクリニックを通じて、閉経とは無関係の症状に対して大麻を入手することができます。担当の医師に閉経周辺期関連の症状の話をしても、医師は、大麻を使ってそれらの症状がどのように改善したかを記録しようとはしません。

「まるで私が大麻のことなんか何も言わなかったように振る舞うのよ」とコリーンは回想します。「どうしてかしら、と思ったわ。だって、閉経期や閉経周辺期の症状を軽減するというのは医療大麻が一番得意とすることのひとつなのに。臨床的エビデンスが少ないだけで、症例としてのエビデンスは山ほどあるのよ。私、思ったわ——『私に何が効いたかを訊いて、そのデータを診療に役立てればいいのに、あなたはそのチャンスを無駄にしたのね』って」

ジェネスター・ウィルソン=キングのように、女性の健康にフォーカスを置く医師は例外的な存在です。彼女は、ホルモンのバランスを整えるさまざまなテクニックと大麻を組み合わせています。彼女にとっては、これはウィン・ウィンの状況なのです。

「私はよくこう言うの」——苦笑いをしながらウィルソン=キングは言います。「大麻を使い、ホルモンのバランスが整った女性は生まれ変われる、って」。ひょっとすると彼女は、性欲の低下や性機能障害に悩んでいる患者が普段のセルフケアに大麻を取り入れたときの良い変化のことを言っているのかもしれません。

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エビデンスはどこにある?

CBDと大麻が、不安感や睡眠障害といった閉経期の主症状の緩和に有効であることが研究で示されているにもかかわらず 14、 閉経そのものに関するデータや臨床試験はほとんどありません。

2022年 6月に発表されたある論文では、ニュージャージー州のルトガー大学の研究チームが、閉経のマウスモデルにおいて、CBD にはその健康を護る働きがあったという基礎研究の結果を報告しています 15。 CBD で包んだピーナッツバターのボールを与えられたマウスは、CBD を与えられなかったマウスと比べ、骨がより健康で、腸内細菌の種類も優れており、より多くのエネルギーを消費したのです。これが特に重要である理由は、ホルモン補充療法は 60歳以上の女性は対象ではなく、それ以外の選択肢が必要とされているからです。骨粗しょう症などの閉経後の疾患の治療に CBD が奏効する可能性があるという基礎実験段階のエビデンスが人間にも適用できるのか、さらなる研究が行われるべきです。

CBDと大麻が、不安感や睡眠障害といった閉経期の主症状の緩和に有効であることが研究で示されているにもかかわらず、閉経そのものに関するデータや臨床試験はほとんどありません。

最近行われた、258名の女性を対象とした自己申告制のアンケート調査の結果 16  は、女性が症状緩和のためにどのように大麻を使っているかを示しています。回答した女性の 67.4% が睡眠の改善のために、46.1% が不安感の軽減のために、そして 30.4% が性欲の増強のために大麻を使っていました。さらに、51% の回答者は、自分が大麻を使う目的は医療と嗜好の両方、30.8% は嗜好のみ、17.7% が医療のみであると答えました。最も一般的な摂り方は喫煙で、84.3% の人がジョイント、パイプまたはボングで大麻を喫煙しており、続いてエディブル製品を摂っている人が 78.3%、オイルをべーピングしている人が 52.6% で、このことは、嗜好目的の使用と医療目的の使用の境界線が曖昧であることを示しているのかもしれません。

ただしこの調査からは、閉経に関連した症状に対する大麻の効果や、どういう品種が使われたかはわからず、論文の著者らは、長期間にわたる観察研究と、医療大麻使用開始前のベースラインの評価を含む臨床試験が必要だと述べています。

それ以前にも、Midlife Women Veterans Health Survey というアンケート調査が、カリフォルニア州北部で、 年齢の中央値が 59.5歳である女性 232名を対象に行われています。その結果、およそ4分の1の回答者が閉経に関連した症状のために大麻を使用していました。ただしここでも、大麻がその症状をどの程度改善したかについてはデータがありません。

世間では一般に、閉経という大変な身体の変化が起きている間、女性たちは自分で何とかするしかないのと同様に、大麻や CBD を使おうと決めた女性たちもまた、女友だちや家族や仕事仲間からの口伝ての情報に頼ったり、あるいは単に試行錯誤を経て、自分に一番効く方法を探り出さなければならないようです。

せめて、閉経周辺期・閉経期の女性が大麻クリニックの診察を受けた場合は、ホルモンの状態を調べ、大麻が身体全体の健康にどのように影響し、閉経に伴う症状の緩和にどれくらい効果があるかが記録されるべきだと思います。


イギリス在住のメアリー・バイルズ(Mary Biles)は、ジャーナリストであり、エデュケーターであり、Project CBD の寄稿者で、著書に『The CBD Book』(Harper Collins, UK)がある。

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参照文献

  1. M Torella et al. The Role of Endocannabinoid System in Menopause and Its Related-Diseases. Austin J Obstet Gynecol. 2021; 8(4): 1177.
  2. Jose Luis Neyro et al. Fibromyalgia and menopause. Association or coincidence? Ginecol Obstet Mex 2011 Sep;79(9):572-8.
  3. Adamah Amouzougan et al. High prevalence of dementia in women with osteoporosis. Joint Bone Spine 2017 Oct;84(5):611-614.
  4. RD Langer. The evidence base for HRT: what can we believe? Climacteric 2017 Apr;20(2):91-96.
  5. Barbara L Parry. Optimal management of perimenopausal depression. Int J Womens Health. 2010; 2: 143–151.
  6. J Maia et al. The endocannabinoid system expression in the female reproductive tract is modulated by estrogen. J Steroid Biochem Mol Biol 2017 Nov;174:40-47.
  7. Patricia M W Lam et al. Ultra performance liquid chromatography tandem mass spectrometry method for the measurement of anandamide in human plasma. Anal Biochem 2008 Sep 15;380(2):195-201.
  8. F Rossi et al. The genetic ablation or pharmacological inhibition of TRPV1 signalling is beneficial for the restoration of quiescent osteoclast activity in ovariectomized mice. Br J Pharmacol 2014 May;171(10):2621-30.
  9. F Rossi et al. The 17-β-oestradiol inhibits osteoclast activity by increasing the cannabinoid CB2 receptor expression. Pharmacol Res 2013 Feb;68(1):7-15.
  10. Seok-Woo Park et al. Anticancer effects of anandamide on head and neck squamous cell carcinoma cells via the production of receptor-independent reactive oxygen species. Head Neck 2015 Aug;37(8):1187-92.
  11. Ethan B Russo. Clinical Endocannabinoid Deficiency Reconsidered: Current Research Supports the Theory in Migraine, Fibromyalgia, Irritable Bowel, and Other Treatment-Resistant Syndromes. Cannabis Cannabinoid Res. 2016; 1(1): 154–165.
  12. Arão Belitardo Oliveira et al. Anandamide Is Related to Clinical and Cardiorespiratory Benefits of Aerobic Exercise Training in Migraine Patients: A Randomized Controlled Clinical Trial. Cannabis Cannabinoid Res. 2019; 4(4): 275–284.
  13. Beebie Boo et al. Tetrahydrocannabinol Reduces Hapten-Driven Mast Cell Accumulation and Persistent Tactile Sensitivity in Mouse Model of Allergen-Provoked Localized Vulvodynia. Int J Mol Sci. 2019 May; 20(9): 2163.
  14. Scott Shannon et al. Cannabidiol in Anxiety and Sleep: A Large Case Series.Perm J. 2019; 23: 18-041.
  15. Ke Sui et al. Cannabidiol-Treated Ovariectomized Mice Show Improved Glucose, Energy, and Bone Metabolism With a Bloom in Lactobacillus. Front. Pharmacol., 21 June 2022 Sec. Integrative and Regenerative Pharmacology.
  16. Dahlgren, M. Kathryn PhD et al. A survey of medical cannabis use during perimenopause and postmenopause. Menopause: September 2022 – Volume 29 – Issue 9 – p 1028-1036.

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