裏口から入る方法が再び注目されています—と言っても医療の話です。
大麻の座薬は近年人気上昇中ですが、それが実際にどうやって、どの程度効果を発揮するかはよくわかっていません。直腸に THC を投与する場合のバイオアベイラビリティ、陶酔感の程度(あるいはその欠如)、そしてそれが難治性の疾患の症状を緩和させるかどうかについては、座薬推奨派と懐疑派によってそれぞれ相矛盾する主張が繰り広げられています。そこで、そろそろこの摂取方法について、本当にわかっていることを整理しましょう。
大麻の座薬を用いた臨床試験は未だにほとんどありません。存在するデータの多くは動物実験によるもので、実際に座薬を使っている人を対象としたものではありません。ただし、臨床試験は明らかに不足してはいますが、患者から寄せられる体験談は往々にして非常にポジティブなものです。そうした患者からの報告の大多数に共通している点が一つあります — 高 THC の大麻を喫煙したり経口摂取したりした場合に起こりがちな陶酔感がない、ということです。
「頭がフラフラする感じ」がない、というのは、座薬を使うと大麻の成分が全身に分布しない、ということを意味しているように思われます。これは、バイオアベイラビリティの低さを示した初期の研究結果とも一致しています。つまり座薬は、経皮パッチのように薬効成分を血液を通して全身に広めるのではなく、使用した部分のみに効く局所薬のように働く、ということを示唆しているのです。
なぜ座薬を使うのか?
肛門座薬も膣座薬も、随分以前から薬の投与に利用されています。骨盤部には、脚に、また脊椎につながる多くの神経があり、直腸には、THC の作用の多くを仲介するカンナビノイド受容体(CB1 と CB2)があります。
大麻の座薬は通常、大麻を滲出させたオイルを、低温度で固体化するキャリアオイルに混ぜて作られます。直腸に大麻オイルを投与すると、そこにあるカンナビノイド受容体を活性化させ、痔や急性炎症といった局所的な疾患の治療に役立つ可能性があります [6]。直腸にはまた、全身に血液を送る鍵静脈が多数ありますが、座薬がカンナビノイドの血中への吸収を促すことはないようです。
仮にそれが全身にではなく局所的にのみ有効であるとしても、座薬は、薬を経口摂取することができない状態にいる患者にとっては有効な代替摂取方法となり得る可能性があります [1]。味覚に問題があったり、激しい吐き気や嘔吐、食道や消化器官の問題、その他さまざまな症状があって経口摂取ができない患者は多いのです。
臨床試験
直腸における THC のバイオアベイラビリティについて調べた研究は色々あります。たとえば 1985年に行われた研究では、THC を直腸投与した後、血漿中には Δ9–THC は認められませんでした。ミシシッピ大学で薬理学を研究するマムード・エルソーリー(Mahmoud ElSohly)博士によれば、これは、市販されている THC 製品は直腸から血中に一切吸収されないということを意味します。
エルソーリー博士は、大麻の座薬を使ったらハイになった、というのは、THC が脳内の CB1 受容体を活性化させた結果ではなく、単なるプラセボ効果であると主張します。
興味深いことに、その後の研究で、THC が化学的に変化した “THC-ヘミスクシナート”(略して THC–HS)と呼ばれるものは直腸から吸収されるということがわかっています。(スクシナートというのは糖が分解される際にできる中間化合物で、わずかに水溶性があり、そのため直腸粘膜から吸収されるのです。)この物質を最初に合成したのはエルソーリー・ラボラトリーズ社でした。通常の THC と違い、ヘミスクシナート・エステルの THC は、直腸粘膜に楽々と浸透し、吸収され [7]、Δ9–THC として血中を循環することがわかりました。その結果、THC のほとんどは、肝臓で初回通過代謝されてより精神作用の強い代謝産物である 11-hydroxy-THC に変換されることがないのです [5]。
これを受けて 1996年に行われたパイロット試験では、直腸投与された THC–HS が、痙縮、筋硬直、疼痛などの症状を緩和させることが裏付けられました。被験者の心臓血管機能、集中力、気分には変化がなく、つまり測定可能なほどの陶酔作用は認められませんでした。
最も最近では 2018年に、エルソーリー博士の研究チームが、THC–HS を直腸投与した場合の血漿中の Δ9–THC はバイオアベイラビリティが 70〜80% で、THC を経口摂取した場合の 2.5 倍近いということを発見しています。陶酔感を報告した被験者はおらず、論文には、初回通過代謝は完全になくなりはしなかったけれども「大幅に減少した」と書かれています。つまり、THC–HS を投与しても 11-hydroxy-THC の作用がわずかに起こることはあり得るということですが、これを確証するためにはさらなる研究が必要です。
エルソーリー博士の研究結果は、非常に高用量のカンナビノイドの摂取を必要とするけれども喫煙や経口摂取ができない、がんその他の疾患の患者にとって重要です。ただし、THC–HS は特許によって保護された分子で、ミシシッピ大学からライセンスを受けなければ製造できません。
疼痛緩和と快感
がんの患者や上部消化管の疾患を持つ人たちが THC–HS の製剤を購入できるようになるのはまだしばらく先のことでしょう。一方、THC と 高 CBD の座薬はすでに、医療大麻合法州で州に認可されたディスペンサリーでは販売されています。
カリフォルニア州とコロラド州で大麻製品を製造する Foria Wellness の商品管理ディレクター、ベン・オデルは、座薬の効果をイメージするには非常に強力な外部薬だと思えばよいと言います — ただし、座薬は身体の内側から塗布するわけです。身体の外側から塗布する外用薬が皮膚にあるカンナビノイド受容体に作用するのと同じように、肛門座薬は結腸組織の神経終末とカンナビノイド受容体に作用します。
「みんな、THC が直腸で吸収されるかどうか、大麻オイルや他の製品が血液の中に吸収されるかどうかをさかんに議論しています。でも僕たちはユーザーをハイにしたいわけではないんです」とオデルは言います。むしろ彼らは、下半身の痛みや不快な症状を改善させる製品、また性交の悦びを高める製品に重点を置いているのです。
Foria は初め、さまざまな割合で THC と CBD を含む座薬をセックスの補助剤として発売しました。「同性愛者の間では、セックスの前に肛門括約筋を緩めるために低品質な化学薬品を使う人が多い、と聞いていたんです — “ポッパー” とかね」とオデル。新製品開発のアイデアは、THC と CBD が、局所的な炎症の痛みをやわらげ、たとえば内肛門括約筋の不随意筋のような、平滑筋組織を弛緩させるのに役立つかもしれない、というものでした [9]。Foria の顧客とスタッフはまた、筋けいれん、炎症、骨盤の不快感といった下半身の症状を緩和させるための大麻の座薬を色々試し、良い結果を得ていたとオデルは言います。
Foria は、膣に挿入する高 CBD と高 THC の座薬も製造しています。オデルによれば、痛みの緩和という意味では、高 THC の製品の方が高 CBD の製品よりもユーザーからの反応がはるかに良いそうです。この夏 Foria は、ハーバード大学の神経科学者ステイシー・グルーバー(Staci Gruber)博士と共同で、CBD の座薬に対する女性の反応を追跡する調査を行う予定です。
誰の役に立つのか?
カンナビノイドが直腸から血中に吸収されるか否かにかかわらず、座薬ファンの多くは、座薬には、腹部から下半身のさまざまな症状に対する、強力だけれども局所的で精神変容を伴わない効果があると言います。
肛門座薬
男女ともに、ユーザーは、裂肛、痔による炎症、消化管の疾患、クローン病と炎症性腸症候群、坐骨神経痛、レストレスレッグス症候群、腰痛、前立腺障害、そして術後の疼痛などの緩和に座薬を使っていると報告しています。肛門座薬はまた、アナルセックスの際の痛みをやわらげる潤滑剤としても使われています。
膣座薬
膣座薬は、生理痛、腹痛、子宮内膜炎、骨盤部の不快感、性交後の痛みや炎症、膣の乾燥と性交時の痛みなどをやわらげたり、リラックスし、性交の快感を高めるために使われています。
もちろん、膣や肛門からの投与は、乾燥大麻を吸ったり錠剤を飲み込んだりするのと違って簡単ではありません。カンナビノイドというのは厄介な分子で、座薬も含むさまざまな投与手段の効果については、科学的にも実際の使い方についてもまだまだわからないことがたくさんあります。
今のところ、臨床試験の結果は、純粋な THC は直腸から吸収されないことを示しています [2, 7]。また、カンナビノイドが腸やその他の局所的な経路を介して働く可能性は考えられますが、そうした作用経路の研究はまだ行われていません。効果があったとする事例報告はたくさんありますが、その有効性には大きなばらつきがあります [9]。座薬にどのような効果があるのか(あるいはないのか)を正確に理解するためには、まだまだ多くの研究が必要です。
けれども患者は、すべての研究結果が明らかになるまで待つ必要はありません。興味があれば試して見る価値はあります。医師の監督のもとで大麻の座薬を使っている、有名なトミー・チョン(Tommy Chong)によれば、座薬で頭がハイになることはありません。お尻がちょっとハイになるかもしれないけどね、とニッコリしながらチョンは言いますが、それは特に悪いことではないでしょう。
自分で座薬を作るには
自宅で座薬を試してみたい場合、やり方はいくつかあります。近くのディスペンサリーで売っているかもしれませんし、オンラインでの購入もできますが、いくつかの材料を使って自分で作ることもできます。
必要なもの
- フルスペクトラムの大麻オイル(お好みのもの)
- 基剤(オーガニック・カカオバターまたはココナッツオイル推奨)
- 座薬型(金属製、シリコン製、プラスチック製)
作り方
- 基剤を鍋で温める
- 大麻オイルを加え、よく混ぜる
- 混ぜた液体を座薬型に流し込み、冷凍庫に入れる
使い方のコツ
- 効果が現れるまでの時間には人によって大きなばらつきがありますが、膣座薬は投与後 30〜60分、肛門座薬の場合は 15〜30分のことが多いようです。
- 温かい皮膚に触れると基剤はすぐに溶けますので、使用直前まで冷凍庫に保管しておきましょう。
- 液が漏れるのを防ぐには、横たわった姿勢で挿入し、少なくとも 15〜30分は横たわったままでいましょう。
- 最初の数回は夜使ってみましょう。日中に使う前に、どんな作用が起きるかを知っておくことが大切です。
- 自分にとっての作用のパターンと最善の使い方を知るため、使った感想を記録しましょう。
(作り方提供: Paula-Noel Macfie)
* 抗がん剤治療を受けているがん患者には座薬の使用はお勧めできません。ボニ・ゴールドスタイン(Bonni Goldstein)博士によると、「抗がん剤は、粘膜の表面細胞が薄くなったり剥がれたりしますし、炎症と闘う免疫機能が低下したり」し、座薬の挿入によって炎症の原因となる細菌が侵入しかねないからです。
ヘレナ・グローブ(Jelena Grove)は、オレゴン州ポートランド在住の大麻関連ライター兼バッドテンダー。これは Project CBD への初めての寄稿。
当サイトの著作権は Project CBD にあります。許可なく転載を禁じます。
参照文献
- Allen, Lloyd, “Suppositories as drug delivery systems.” Journal of Pharmaceutical Care in Pain & Symptom Control, vol. 5, 1997, https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1300/J088v05n02_03
- Elsohly, Mahmoud A., et al. “Rectal Bioavailability of Delta-9-Tetrahydrocannabinol from Various Esters.” Pharmacology Biochemistry and Behavior, vol. 40, no. 3, 1991, pp. 497–502., doi:10.1016/0091-3057(91)90353-4.
- ElSohly, Mahmoud, et al. “Pharmacokinetics and Tolerability of Δ9 THC Hemisuccinate in a suppository formulation as an alternative to capsules for the systemic delivery of Δ9 THC.” Medical Cannabis and Cannabinoids, April. 2018, https://www.karger.com/Article/Pdf/489037.
- ElSohly, Mahmoud ,et al, “The effect of orally and rectally administered delta 9-tetrahydrocannabinol on spasticity: a pilot study with 2 patients.” Int. Journal of Clinical Pharmacology and Therapeutics 1996 Oct;34(10):446-52., https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8897084
- Gonçalves, Joana, et al. “Cannabis and Its Secondary Metabolites: Their Use as Therapeutic Drugs, Toxicological Aspects, and Analytical Determination.” Medicines (Basel, Switzerland), MDPI, 23 Feb. 2019, www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6473697/.
- Maida, Vincent, and Jason Corban. “Topical Medical Cannabis: A New Treatment for Wound Pain—Three Cases of Pyoderma Gangrenosum.” Journal of Pain and Symptom Management, vol. 54, no. 5, 2017, pp. 732–736., doi:10.1016/j.jpainsymman.2017.06.005.
- Perlin, Elliott, et al. “Disposition and Bioavailability of Various Formulations of Tetrahydrocannabinol in the Rhesus Monkey.” Journal of Pharmaceutical Sciences, vol. 74, no. 2, 1985, pp. 171–174., doi:10.1002/jps.2600740213.
- Purohit, Trusha, et al. “Advances in rectal drug delivery systems.” Pharmaceutical Development and Technology, 24 Jul 2018, https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/10837450.2018.1484766?journalCode=iphd20
- Touitou, Elka, and Brian W Barry. “Anatomy and Physiology of the Rectum and Its Role in Drug Absorption.”
- Walker, Larry A., et al. “Δ9–THC Hemisuccinate in Suppository Form as an Alternative to Oral and Smoked THC.” Marihuana and Medicine, 1999, pp. 123–135., doi:10.1007/978-1-59259-710-9_13.
- Wright, Karen, et al. “Differential Expression of Cannabinoid Receptors in the Human Colon: Cannabinoids Promote Epithelial Wound Healing.” Gastroenterology, vol. 129, no. 2, 2005, pp. 437–453., doi:10.1053/j.gastro.2005.05.026.