片頭痛は、世界でも最も患者の数が多い病気の一つです。アメリカだけでも 3,900万人、世界では 10億人の人々が片頭痛に苦しんでいます。これは、大人から子どもまで、今この地球上に生きているすべての人の8人に1人にあたります。女性ではほぼ半数の人が生涯に一度は片頭痛を経験しますが、発症が最も多いのは 35〜45歳です。
治療法は、一連の予防薬や鎮痛薬を含めさまざまです。中には幻覚剤を試す人もいますが、これは、LSD が当初、片頭痛の治療に使われる血管収縮薬として開発されたことを考えれば驚くにはあたりません。
大麻もまた、片頭痛その他の頭痛にうってつけの、効果的な治療法として有望視されています。フロリダ州の研究チームが 2021年 8月に発表したレビュー論文によれば、現時点で存在するエビデンスは、大麻の使用が、グルタミン、炎症、オピエイト、セロトニン経路を通じて「片頭痛の継続時間を短縮し頻度を低下させる」ことを示しています 1。このレビュー論文に含まれた 34本の論文のうちの2本について詳しくご説明します。
さらに、最近発表された2本の論文が、大麻草の香りの源であるテルペンという化合物がこの医療効果に関係していることを示しています。
高THCの大麻草が持つ片頭痛に対する鎮痛効果
『Journal of Integrative Medicine』2020年 9月号に掲載された論文 2 は、大麻の喫煙が頭痛を抑えるのに非常に効果的であるとしています。ニューメキシコ大学の研究チームは、Releaf というアプリの 2年半分のデータを用いて、大麻摂取と頭痛・片頭痛の症状の関係をリアルタイムで結ぶ分析を行いました。患者はこのアプリを使って、大麻を摂取する直前と直後での痛みの程度を 0 から 10 の数値で記録しました。
回答したユーザーの 94% は、大麻を摂取してから2時間以内に症状が軽減し、痛みの程度は平均して 3.3 ポイント低下しました。男性は女性よりも痛みの軽減度が大きく、35歳以下の人の方が、それ以上の人と比べて症状が大きく改善されました。この調査の結果によれば、THC が 10% 以上含まれている(アプリを使ったユーザーが製品のラベル表記に従ってインプット)ものに最も効果がありました。
乾燥大麻を吸うよりコンセントレートの方が効果的
ワシントン州立大学(WSU)の研究チームは、Strainprint という別のアプリを使って、吸入した大麻が頭痛・片頭痛に与える作用を検証しました。同時に、性別、使用した大麻製品の種類(乾燥大麻かコンセントレートか)、用量、THC と CBD の濃度がどのように影響するかについても調べました。
数百人のアプリユーザーによる数千のセッションのデータを集めた WSU の研究チームは、大麻を吸入することで、報告された頭痛・片頭痛の痛みの程度がほぼ半減したと結論しました。この結果は『The Journal of Pain』の 2021年 5月号に掲載 3 され、乾燥大麻よりもコンセントレート製品の方が痛みが大きく軽減したことを示していました。また、女性よりも男性の方がその効果が高いこともわかりました。
ただし、継続的に使用した場合には耐性がつくということもわかりました。「大麻の効果は時間の経過とともに低下し、患者は時とともにより高用量を摂取するようである」と論文には書かれています。
脳の健康のためのテルペン
ではいったい大麻の何が頭痛・片頭痛の症状に効くのでしょうか? 最初の研究が示唆したように、それは主に THC による効果なのでしょうか? それとも、急性の疼痛の緩和には THC と CBD の組み合わせが最も効果的である、という他のエビデンスが示しているように、やはりこの組み合わせが効くのでしょうか?
もう一つの重要な要素は、大麻草をはじめとするさまざまな植物を保護し、味と香りを与える化合物、テルペンかもしれません。現在、テルペンが人間に対してどのような医療効果を発揮するかについての研究が盛んになっています。
『Frontiers in Psychiatry』2021年 8月号に掲載された論文 4 では、オーストラリアの研究チームが、大麻草に含まれる2つの主要なテルペンであるピネンとリナロールが、神経障害および精神障害の治療に効果を発揮するというエビデンスを検証しました。この二つの化合物は、複数の神経伝達物質、炎症シグナルおよび神経栄養因子に影響する、と著者らは述べています。また既存のデータ(主に基礎研究のもので人体で確認されたものではありません)は、片頭痛が、脳卒中、虚血、その他の炎症性・神経性疼痛とともに、これらのテルペンによって軽減される可能性のある疾患であることを示唆しています。
テルペンが神経炎症を抑制する
『Frontiers in Pharmacology』2021年 8月号に掲載されたメキシコの研究チームによる論文 5 は、テルペンは抗炎症剤であるとし、脳および皮膚の炎症に対する代替治療薬となる可能性を評価しています。前者に関して、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患の典型的な特徴が炎症であると著者らは述べています。また、最近イランで行われた 6、マウスを使った研究では、多くの大麻草品種に含まれるテルペンの一種リモネンに、抗うつ薬に似た効果があり、それが神経炎症の抑制を介して起こるらしいことにも言及しています。
その他に、神経炎症が原因となる疾患と言えば片頭痛があります。この論文では、テルペンと神経炎症の関係に関する考察の中で頭痛や片頭痛については具体的に触れていませんが、これについてはさらなる研究が行われて然るべきです。これらの研究結果を総合して考えると、アントラージュ効果を示す例としておそらくこれ以上はないと思われるものの実態が見えてきます — THC、CBD、そして少なくとも大麻草に含まれる数種類のテルペンが、すべて片頭痛の治療に役立つのです。
Nate Seltenrich は、サンフランシスコのベイエリアに住む科学ジャーナリスト。環境問題、神経科学、薬理学を含む幅広いテーマについて執筆している。
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脚注
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34589318/
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32758396/
- https://www.jpain.org/article/S1526-5900(19)30848-X/fulltext#articleInformation
- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8426550/
- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8414653/
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33564342/