あなたがこれを読んでいるこの瞬間も、世界中を見知らぬ敵の群れが襲い、最新の医薬品による防護をものともせずに大暴れして、むごたらしい被害をもたらしています。世界保健機関(WHO)の最近の報告によれば、凶暴な細菌、寄生虫、ウイルス、真菌などが現在猛威を奮っており、その中には、いわゆる「最後の砦」である抗生物質が効かないものがあるのです。
WHO は、21世紀に私たちを待ち構える大きな健康問題の一つとして、抗生物質が効かない「スーパー耐性菌」の増加を挙げています。ずる賢くて捉えどころのない、その姿を変え続ける菌たちは、さまざまな抗生物質による攻撃にもめげず、突然変異や遺伝子の水平移動、自然淘汰を通じて常に自らを刷新し、最強の薬にも負けない戦術を開発しては、手に負えないほどの生命力を持つ極めて有害な子孫をばら撒きます。自分以外の悪性の菌と遺伝物質を共有することさえあります。
この危険な闘いにおいては、スーパー耐性菌そのものだけではなく、抗生物質の使いすぎもまた重大な敵と言えます。推定によれば、現在処方されている抗生物質のうちの 30% は不必要であり、このことは、健康の問題を手っ取り早く解決したがる私たちのカルチャーを見事に映し出しています。(アメリカで使用されているすべての抗生物質の大半は家畜に与えられており、それはそれでまた別の複雑な問題です。)ちょっと鼻風邪を引いただけで処方箋を書くという習慣が、免疫機能を低下させ、腸内微生物叢を破壊し、その結果、人間、動物、農作物を通じて危険な疾病がますます蔓延するのです。
アメリカ疾病管理予防センター(CDC)が「悪夢」とか「警鐘を鳴らす」といった言葉を使うようになったら要注意です。CDC は、「迅速な手立てを取らなければ、現代医療の医薬品の多くが役に立たなくなり、ごく普通の感染症さえ死の危険を伴うものになるだろう」と警告しています。抗生物質に対する耐性の発達を監視しようという CDC の新しい取り組みには、不適切な抗生物質の処方を、開業医で 50%、病院で 20% 削減するという重要な目標があります。このプロトコルは、感染性の細菌の一部を抑えるのには役立ちましたが、中には恐ろしいほどの増加を見せている疾患もあります。
メシチリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の殺傷力
跋扈する有害な細菌の中でも最も危険なものの一つが、メシチリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)です。この、非常に感染力の強い細菌に感染しやすいのは、入院中の患者や高齢者など、免疫機能が低下している人であるとされています。ところがこの 10年ほどの間に、さらに有害性の強い市中感染型の MRSA(CA–MRSA)が健康な人々の間にも拡がっており、多くの人が緊密に集まる状況(コンタクトスポーツのチーム内、ジムやロッカールーム、学校、デイケア施設、刑務所、ホームレスのシェルター、軍隊の兵舎など)で、びっくり箱から飛び出す邪悪な人形のように突如として姿を現しています。CA–MRSA は、スパ、リゾート施設、クルーザー、ネイルサロンのような場所でさえ発見されています。
アメリカでは、入院する患者 100人中1人が MRSA 感染によるものであり、そのうちの約4分の1が重症化して、毎年2万人が亡くなります。CDC による最近の報告によれば、病院内における MRSA 感染数の減少には進展が見られますが、CA–MRSA の罹患率は低下しておらず、今ではすべての MRSA 感染症例のうちの 80% が市中感染によるものです。MRSA 感染症は非常に蔓延しており、情けなくも10月 2日が「世界 MRSA デー」と名付けられたほどです。
研究によれば CA–MRSA は非常に狡猾な細菌で、いくつもの生物学的特徴が対応を難しくしています。たとえば CA–MRSA には、好中球から姿を隠す独特の能力があります。好中球は一般的に白血球と呼ばれるものの一種で、特にこうした策略に長けた悪党をやっつけるのが仕事です。さらにひどいのは、CA–MRSA が分泌する厄介なペプチドが、2つの理由で有害であることです。一つはそれがバイオフィルム(細菌が宿主に付着し、急速に拡散しやすくする、ネバネバした生物膜)を形成することですが、さらに気味が悪いのは、好中球に侵入して爆発させ、人体の免疫系による保護機能を破壊させる、「溶解」と呼ばれる凶悪な生物学的犯罪を犯すということです。
放っておけば CA–MRSA は、敗血症、心内膜炎、肺炎、壊疽性筋膜炎を引き起こす可能性があります。これらはすべて致死性があり、黄色ブドウ球菌に対して一般的に処方される βラクタム系抗生物質(ペニシリン、セファロスポリン、モノバクタム、カルバペネムなどの単一分子製剤)はもはや効果がないことがわかっています。「構成物質の最後の砦」と言われるバンコマイシンでさえ、CA–MRSA との闘いには勝てません。さらに複雑なことに、抗生物質の使用とそのことによる健全な腸内微生物叢の破壊が、将来的な健康問題の原因となっていることが明らかになりつつあります。
真っ赤でヒリヒリする吹き出物
私が初めて MRSA という言葉を聞いたのは 1990年代後半のことです。子ども時代の親友が MRSA に感染し、全身に拡がって危険な状態に陥ったのです。医師は可能な限りの手を尽くして治療にあたりましたが、強力な抗生物質の静脈注射で友人の身体はビーツのように真っ赤になり、吹き出物に覆われ、腎臓がやられ、意識は朦朧として、ひどい吐き気で食べたものはみな吐いてしまいました。友人は合併症で亡くなりました。
MRSA をはじめとするスーパー耐性菌がうようよしているこの世界で我が身を護るにはどうしたらよいのでしょうか? 手を洗う、といった当然のこと以外に、私たちには、単に抗生物質のみに頼るのではない、感染と闘うのに効果的なオプションが必要です。科学者たちは、有害な細菌を標的とする新しい治療方法を研究していますが、それは骨の折れる、そして時間のかかる作業です。と同時に私たちには、こうした狡猾な細菌の侵入から自分を護るために使える武器が他にもあるのです。私はこのことを、数年前、私自身が MRSA に感染するという苦しい体験によって学びました。
私は自宅からほど近いリゾートタウン、カリストガで、ミネラルが豊富で健康的な水質の温泉に浸かり、カリフォルニアらしい、気持ちの良い週末を過ごしたところでした。私はすっかりリフレッシュし、ストレスを解消して帰宅しました — 少なくともそう思ったのです。ところが2日後、私の身体中に腫れ物ができ、頭が変になりそうでした。背中には真っ赤な吹き出物が列になってできていました。肌のトラブルについては、軽症ならば私は通常、植物由来の薬を使うようにしていますが、このときの細菌性の症状はあまりにも突然かつ重症で、また非常に不快だったので、のんびりしているわけにはいきませんでした。
私はすぐにかかりつけの医師の診察を受け、黄色ブドウ球菌による感染という診断で、抗生物質入りの皮膚清拭剤と塗り薬を処方されました。私は初め、この治療法が、人間の味方である腸内微生物叢をじゅうたん爆撃するものではないことに安堵しました。健全な微生物叢の存在は、私たちの健康の多くの面にとって非常に重要だからです。ところが、それから1週間、細菌に感染した部分を指示されたとおりに清拭し、もらった塗り薬を一日2回塗っても、吹き出物は一向に良くなる気配を見せませんでした。細菌は、ナポレオン軍のように次々と新しい領地を占領し、症状はますますひどくなっていったのです。
私はまるで放射能に汚染されたように感じました。人と会うのを避け、まるでノートルダムのせむし男のように、目立たないようコソコソと行動しました。そして心配でたまりませんでした。硬いカサブタに覆われて、私はまるで、ロシアの民話に出てくる、深い森の中で2本の鶏の脚の上に建つ小屋に住む、できものに覆われた魔女、バーバ・ヤーガの現代版みたいになりつつありました。ただし、私にはバーバ・ヤーガと同じ膿だらけのできものがあるのに、彼女が持っている魔法の力はないのでした。
大麻と抗生物質耐性
症状が改善しないことに驚いた私の主治医は、経口の抗生物質を処方してくれました。私は微生物叢と精神衛生には関係があることを知っていたので、腸内の細菌が全部死滅した結果、思考力を失って精神科病院で朽ち果てる自分の姿を想像しました。他にもっと良い方法があるはずでした。絶望感に襲われた私は、抗生物質耐性の細菌と大麻の関係について行われた研究を片っ端から読み始めました。
残念ながら、大麻が非合法であるため、このテーマに関する研究はこれまであまり行われていません。(これも連邦政府のせいです。)いくつか見つかった、査読を経て出版された論文では、大麻草と免疫機能の間にある複雑で微妙な関係が強調されていました。『NeuroImmunoModulation』に最近掲載されたレビュー論文では、メキシコの研究チームが、一部の感染性疾患についてはカンナビノイドは統計的に有意な抗菌作用を示したが、他の感染性疾患については逆に免疫システムを弱めたと報告していました。
嬉しいことに、植物性カンナビノイドの中には、まさに私が治療していた細菌、黄色ブドウ球菌をやっつけるものがいくつかあることがわかっていました。アメリカ化学会(American Chemical Society)が『Journal of Natural Products』誌に発表した 2008年の論文によれば、ともに陶酔作用のないカンナビジオール(CBD)とカンナビゲロール(CBG)は、「さまざまな種類の MRSA 株に対して強力な効果を』示してみせました。その他、テトラヒドロカンナビノール(THC)、カンナビノール(CBN)、カンナビクロメン(CBC)という3種類の植物性カンナビノイドもまた、基礎研究では有望な結果を見せています。カンナビノイドの作用機序は完全にはわかっていませんが、どうやらこれはもともと大麻に抗菌作用が備わっているからのようです。
論文は、「精神作用のないカンナビノイドを豊富に産生する品種があることを考えると、大麻草は、MRSA を始めとする病原菌が持つ多剤耐性に対処する抗菌剤としての興味深い可能性を示していると言える。MRSA が世界に拡がりつつあり、アメリカでは年間死亡者数がエイズによる死亡者数より多い現在、このことは医学にとって大きな意味を持っている。カンナビノイドを抗生物質として全身に使うためには厳格な臨床試験が必要であるが、MRSA が皮膚に増殖するのを抑えるために局所的に塗布する場合、効果が期待できる」と結論しています。
頼みの綱は CBD とマヌカハニー
私はまた、マヌカハニーに強力な抗菌作用があることも耳にしていたので、マヌカハニーと高 CBD の大麻抽出物を組み合わせてみようと考えました。古代から、ハチミツには抗菌作用と傷を治す作用があることが知られていますが、マヌカハニーは特別です。学名 Leptospermum scoparium(一般名はティーツリーといって、ニュージーランドとオーストラリアに自生する)の花の蜜からミツバチが作るマヌカハニーには、独特の抗菌作用があり、最近やっと研究が始まったばかりです。
『Frontiers in Microbiology』誌に2016年に掲載された論文は、いかにしてマヌカハニーが、侵入してくる細菌の、バイオフィルムを形成する能力を阻害するかについて論じています。これとは別の研究では、マヌカハニーは細菌の分裂による増殖を阻止し、細菌に抗生物質に対する耐性がつくのを妨ぐことが示されています。またマヌカハニーは、それ単体でも効果がありますが、他の抗生物質と相乗的に働いて効果が増強されます。
そこで私は、細菌を殺すお手製の薬を作ることにしました。ラボの検査によると CBD : THC の比が 2 : 1(CBD 14% : THC 7%)の、Blue Jay Way という高 CBD の大麻草品種の乾燥させた花穂を脱炭酸し、昔ながらのヒッピー方式で、クロックポットを使ってオリーブオイルに成分を浸出させます。オイルを濾して原料を取り除いた後、粘度を高めるために蜜蝋を加え、だいたい冷めたところで、ニュージーランド産、UMF 20+ のマヌカハニーをたっぷり混ぜ込みました。
私はこの軟膏を、感染した肌に、一日2回塗りました。ちょっとベタベタしましたが、困ったことと言えばそれだけでした。24時間経たないうちに効果が現れ始めました。『オズの魔法使い』で悪い西の魔女が水をかけられたときのように、病斑が小さくなり、乾燥し始めたのです。その後の数日間、私は、背中の皮膚の上が戦場となり、白血球を破壊する小さな黄色ブドウ球菌が葬り去られていくのを嬉々として眺めました。1週間後、感染は完全に消え、私の腸には健全なフローラが残りました。
抗生物質の薬を使ったときとは違って、高 CBD の大麻草全草とマヌカハニーの組み合わせには副作用が全くありませんでした。西洋医学の根幹を揺るがしかねない、抗菌耐性を生じさせるきっかけにもなりませんでした。私たちは以前と比べ、医療の手軽さ、手っ取り早い治療法や特効薬に慣れてしまって、その一方では、それらがもたらすより大きな影響については往々にして無視しがちです。私たちは、毎日の忙しさにかまけてなかなか耳を貸そうとしませんが、身体の中では昼も夜も、微生物叢やその外側で、繊細な会話が繰り広げられているのです。そろそろ耳を傾けてもいい頃かもしれません。
Project CBD の寄稿者メリンダ・ミスラカ(Melinda Misuraca)は、以前は昔ながらの方法で、高CBDの大麻を栽培していた。High Times、Alternet、その他さまざまな媒体に寄稿している。
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