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2002年に『Biomedicine and Pharmacotherapy』誌に掲載された記事 [1] は、ここ 20年ほどの間に突如として目立ち始めた健康問題を最初に指摘したものの一つであり、この問題への関心の高さは、この論文が現在までに 3,900回以上引用されていることからもわかります。その問題とはつまり、欧米型の食生活における、必須脂肪酸オメガ3とオメガ6のバランスの悪さです。

論文の著者である、ワシントンDCにある Center for Genetics, Nutrition, and Health のアルテミス・シモポロス(Artemis Simopoulos)博士は、人間はオメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸をほぼ同量摂るように進化してきたと言います。ところが典型的な西欧型の食生活では、その比率が 15:1 なのです。現代人は以前と比べて、オメガ3の主要な供給源である魚、木の実、ベリー類、葉物野菜の摂取量が少なく、オメガ6の含有量が高い穀物類をはるかに多く食べています。

私たちの食生活において大豆とトウモロコシが木の実やベリー類に取って代わったように、オメガ6は事実上、私たちの身体からオメガ3を追い出してしまいました。これは、深刻な健康被害を伴うゼロサムゲームです。人類の遺伝子が適応してきた食生活からの大幅な逸脱 — シモポロス博士によれば、それはつまりオメガ脂肪酸の摂取の仕方が突如として大きく変化したことが特徴なのですが — が、アメリカをはじめとする西欧諸国で、高血圧、肥満、糖尿病、さまざまながんなどの慢性病が増加している一因なのです。

博士の論旨と、将来を暗示するかのような「オメガ3脂肪酸の治療用量」という概念は、世界的なオメガ3サプリメント市場の登場を予言していたかのようです。2019年、その市場規模は 51億 8,000万ドル(約 5,600億円)に上り、年々増大しています。[2]

内因性カンナビノイドとの関係

この論文の発表当時、シモポロス博士にも、他の誰にもわかっていなかったのは、こうした現象にエンドカンナビノイド・システム(ECS)が果たしている役割でした。ECS という名称が科学文献に初めて登場したのは、そのわずか数年前の 1996年 [3] のことであり、シモポロス博士の論文には ECS は一切言及されていません。

その後の研究で、オメガ「必須」脂肪酸が健康に与える影響に ECS がどのように関係しているかについて、多くのことがわかりました。「必須」脂肪酸と呼ばれるのは、人間の身体はそれを十分に産生することができず、体外から摂取しなければならないからです。こうした研究の進展により、今度は特に ECS に焦点を当てた、慢性疾患の新たな治療法開発の可能性が生まれました。

これは非常に複雑な過程で、知れば知るほど複雑さも増すのですが、オメガ脂肪酸と ECS の相互作用には、2つの重要な機序があります。一つは内因性カンナビノイドです。内因性カンナビノイドは、実はオメガ脂肪酸から生成されるのです。内因性カンナビノイドとは、人体内の、CB1 および CB2 受容体その他の受容体や標的に結合する化合物です。

二つ目の作用は特に、脳と神経系に集中し炎症にも関係している CB1 受容体との間で起こります。炎症が多くの慢性疾患に大きく関係していることが現在ではわかっています。

アラキドン酸とシナプタミド

内因性カンナビノイドの中で最も研究が進んでいるのは、一般にアナンダミドと 2-AG と呼ばれている2つですが、これらはオメガ6系脂肪酸の中でも4つの主要なタイプのうちの一つであるアラキドン酸(AA)から化学的に誘導されるものです。ECS が人体の健康とホメオスタシスの維持に果たす役割について少しでも知っている人には、アナンダミドと 2-AG の成分として重要である、という事実だけ見ても、肉、牛乳、卵などの食べ物にも含まれるこのアラキドン酸そのものには有害性はないということがわかるはずです。

実は重要なのはバランスなのです。そこでオメガ3脂肪酸についてもう一度考えてみましょう。人間の生理に関与する主要なオメガ3脂肪酸3種類のうちの2種類、エイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)もまた、CB1 受容体と CB2 受容体に結合する誘導体を生成します。カンナビノイド受容体に結合するため、オメガ3脂肪酸からできるこの誘導体もまた、内因性カンナビノイドです。

最近になって発見されたこれらの内因性カンナビノイド [4] — EPG, EPEA, DPG, DHEA — は、大麻や栄養学の研究者の間ではまだあまり知られていませんが、いずれよく知られるようになる日が来るかもしれません。DHEA はまた「シナプタミド(synaptamide)」とも呼ばれます。ニューロン新生、ニューロンの発達、シナプス形成を促すことが示されているからです [5]。でも、こうしたオメガ3脂肪酸の誘導体が人体内でどのように機能するのかはまだまだわからないことがたくさんあります。

イリノイ大学の教授、アディチ・ダス(Aditi Das)博士によれば、オメガ3脂肪酸に由来する内因性カンナビノイドには高い関心が集まっています。ダス博士は、これらの興味深い化合物を特定しその特性を明らかにする努力において世界を牽引しています。「オメガ3脂肪酸由来の内因性カンナビノイドは、今はまだ謎に満ちていますが、シナプタミドだけは例外で、たくさんの研究が行われています」

ゼロサムゲーム

少なくとも、オメガ6アラキドン酸から生成されるアナンダミドと 2-AG という2つの有名な内因性カンナビノイドと、近年特定された、オメガ3系 DHAEHPA から生成される4つの内因性カンナビノイドには、異なった生理学的特性があり、したがって人体に及ぼす影響も異なることだけは明らかになっています。慢性疾患との関係で言うと、一つ大きく違うのは、オメガ3脂肪酸由来の内因性カンナビノイドには炎症を抑える作用があるように見える [6] のに対し、オメガ6脂肪酸由来の内因性カンナビノイドは炎症を助長する、という点です。(炎症が必ずしも悪いことではないという点には留意すべきです。炎症には損傷や感染と闘う役割があるからです。)

CB1 および CB2 受容体に直接結合するだけでなく、2つのグループの内因性カンナビノイドは、そもそもこれらが前駆体である脂肪酸から生成されるために必要な生合成酵素を奪い合います。つまり、食生活におけるオメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸のバランスはゼロサムゲームと言えます — 片方が増えれば、もう片方は減るのです。

これは単なる仮説ではありません。研究者らはそれを実際に目にしています。オランダの研究者らが 2019年に発表した、オメガ3脂肪酸由来の内因性カンナビノイドが持つ抗炎症作用に関する論文は、「インビトロ、動物実験、ヒトを対象にしたデータからなる多数のエビデンスが、体内のオメガ3脂肪酸が増えるとアナンダミドと 2-AG の血中濃度が下がり、DHEAEPEA が増えると血中濃度が上がることを明確に示している」と述べています [7]。

こうした関係を見ると、食事に含まれるオメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸の比率が、炎症に対してのみならず、エンドカンナビノイド・システム全体のバランスやトーンに影響を及ぼす理由がわかります。ECS は人間の身体全体のホメオスタシス(バランスのこと)を保つ役割があるわけですから、この関係性は、2002年にシモポロス博士が気づいたこと — 人間が進化とともに維持してきたこの2種類の脂肪酸の摂取比率が大きく崩れると、脳から腸までバランスが崩れる、ということ — を理解するのに大いに役立つのです。

オメガ3脂肪酸欠乏症

オメガ脂肪酸と ECS の間にある関係はそれだけではありません。前述したように、二つ目の相互作用は CB1 受容体に直接関わっています。CB1 受容体は、脳、中枢神経系、そしてそれ以外にも、心臓、肝臓、眼、皮膚などの臓器や組織にも存在していますから、健康への影響もさまざまです。

この 10年ほどの間に、食べ物から摂るオメガ3脂肪酸が CB1 受容体の機能に良い影響を与えることが明らかになっています [8]。より端的に言えば、オメガ3脂肪酸が少ないと、エンドカンナビノイド・システムの機能に重大な障害が起こるかもしれないのです。

「食事から摂るオメガ3脂肪酸が不足していると、CB1 受容体の適切な機能を阻害し、オメガ3脂肪酸が豊富な食事は CB1 受容体の感受性を高める。これらの研究結果は、エンドカンナビノイド・システムが持つ調節機能にはオメガ3脂肪酸が欠かせない、という考え方を裏付けている」と、2020年に『European Journal of Neuroscience』誌に掲載されたレビュー論文 [9] は述べています。

「栄養学とはバランスについて学ぶこと」

最後にもう一度だけ、2002年のシモポロス博士の論文に戻りましょう。博士は、人類全体が健康のために、オメガ6とオメガ3を 1:1 のバランスで摂らなければいけないとは言っていません。そうではなく、この2つのバランスが 2:1 から 3:1 程度であれば、人体に有害な炎症や、がんを含めさまざまな慢性疾患を防げるようだと言っています。その比率は均等に近ければ近いほどよい、というのが博士の結論です。

今では栄養学者たちも同意見のようで、食事に含まれるオメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸の比率を 1:1 から 4:1 までにするよう推奨しています。(興味深いことに、ヘンプの種子はこの比率がおよそ 3:1 です。)栄養学と薬理学の交わるところを研究しているオランダのヴァーヘニンゲン大学のレンガー・ヴィトカンプ(Renger Witkamp)博士は、比率の正確な数値にかかわらず、オメガ脂肪酸、ECS、さらにはさまざまな作用機序を通して身体に作用する植物性カンナビノイド CBD そのものが、健康に関する重要なことを私たちに教えてくれると言います。そしてそれらは、慢性疾患の治療薬開発のために貴重な学びを与えてくれるのです。

ヴィトカンプ博士はこう締めくくります。「栄養学とはバランスについて学ぶことです。人間の身体はバランスによって機能しているのです。現代病である慢性疾患について考えてごらんなさい。ライフスタイルが関係している疾患です。慢性疾患は、分子間のバランスに起因するものであって、何か一つの分子が原因ではないのです。ですから、特定の標的をある一つの化学分子で治療しようとするのは間違っていると私は思います。そしてエンドカンナビノイド・システムは、それとは違うやり方にとても適しているんですよ」


Nate Seltenrich は、サンフランシスコのベイエリアに住む科学ジャーナリスト。環境問題、神経科学、薬理学を含む幅広いテーマについて執筆している。


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参照文献

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