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人間の体内には、何百種類もの細菌からなる腸内微生物叢があり、免疫、代謝、神経機能を含むさまざまな生理的過程に影響を与え、私たちの健康に大きく関与しています。医学的な研究は、腸内菌共生バランス失調と呼ばれる腸内微生物叢の不均衡が、うつ病をはじめとする疾患につながる可能性があるということを示しています。けれども、腸内菌共生バランス失調が気分障害を引き起こす具体的な分子経路は今のところ解明されていません。

先ごろ『Nature Communication』(Chevalier, 2020)にフランスの研究者らが発表した論文は、エンドカンナビノイド・システムがどのようにして腸内微生物叢による気分や脳機能への影響を媒介するかについての研究における新境地を切り開いたものです。この論文は、脳で CB1 受容体が集中している海馬における変化に集中してうつ病の病態生理学を解明しようとした過去の研究を踏まえたものです。

CB1 受容体は海馬において、ニューロン新生(新しい脳細胞の生成)を司ります。そして、成人の脳の海馬におけるニューロン新生が減少することが、臨床的うつ病の最大の特徴であるとされます。

いくつかの研究が、CB1 受容体による信号伝達を活性化すると海馬におけるニューロン新生を刺激し、抗うつ効果を生むということを示しています。テトラヒドロカンナノビール(THCとカンナビジオール(CBD)はともに、成人の脳におけるニューロンの生成を促進させる神経増殖誘導化合物です。運動をすることもまた、エンドカンナビノイド・システムの状態を整えることでニューロン新生を増加させます。一方、慢性的なストレスにはこれと逆の作用があります。

多くの疾患の危険因子である慢性的なストレスは、脳内のカンナビノイドによる信号伝達とニューロン新生を減少させることがわかっています。また、慢性的なストレスが腸内微生物叢の構成を変化させるということを示す論文も多数あります。

ネズミの糞

慢性ストレスが腸内菌共生バランス失調を引き起こす機序を解明しようと、パリのパスツール研究所の研究者らは、ストレスが溜まって抑うつ状態にあるマウスの腸内微生物叢を、健康でストレスのないマウスに移植しました。すると、移植を受けたマウスは不安症状をきたし、移植元のマウスと同様の抑うつ行動を示すようになりました。

さらに、慢性ストレスのあるマウスから腸内菌の共生バランスが崩れた状態の糞便微生物叢を移植されたマウスでは、海馬におけるニューロン新生が減少しました。そして、成体の海馬におけるニューロン新生の減少と、移植を受けたマウスの脳内のエンドカンナビノイド・システムの失調には関係がありました。こうした変化は、ストレスのない健常なマウスから「対照微生物叢」を移植されたマウスでは見られませんでした。

さらに進めてこの論文の著者らは、腸内菌の共生バランスが崩れた糞便微生物叢の移植が、移植されたマウスの脂質代謝をも変化させ、「全身の内因性カンナビノイド前駆体が減少する」ことを発見しました。

具体的には、脳と体で最も広く分布する内因性カンナビノイド 2-AG(2-アラキドノイグリセロール)の構成成分として欠かせない、ジアシルグリセロール(DAG)が欠乏していました。

論文は、「海馬において、(腸内菌の共生バランスが崩れた状態の微生物叢を移植されたマウスでは)2-AG の減少が見られたが、対照微生物叢を移植されたマウスではそれが認められなかった」とし、「DAG の血中濃度は抑うつ様行動の重症度と半比例関係にあった」と述べています。DAG が減少すれば、2-AG の減少、カンナビノイド受容体の活性の低下、そしてさらに重篤な気分障害につながります。

この実験は、「腸内微生物叢だけで、抑うつ症状の発生に大きく寄与する脳の部位、海馬内のエンドカンナビノイド・システムの状態を損ない、抑うつ障害につながるフィードフォワード・ループを発生させるに十分である」ことを証明したのです。

乳酸菌と内因性カンナビノイド前駆体

研究者らは、腸内菌の共生バランスを崩す最大の原因となる変化を特定しています。マウスへの糞便移植から得られるデータからは、ストレスによる「腸内微生物叢のバランスの失調は乳酸菌の欠乏が特徴であり、この変化は健常なマウスに微生物叢を移植した後に観察された」ことがわかります。動物モデルのみならず、乳酸菌の数が少ないことが特徴の腸内菌共生バランス失調は、うつ病の人間でもしばしば認められる現象です。

次に取るべきステップは明らかでした — 腸内菌の共生バランスが崩れた状態の糞便微生物叢を移植されたマウスの抑うつ様行動が、乳酸菌を投与することによって改善されるかどうかを確認することです。まさにその通りになりました。乳酸菌株は、微生物叢によって引き起こされた不安症状と抑うつ症状を軽減させ、同時に脳内の内因性カンナビノイド量と海馬におけるニューロン新生を増加させたのです。「乳酸菌がこうした効果を促進させる機序の一つは、内因性カンナビノイド前駆体のバイオアベイラビリティを調節することであることがわかった」と論文は述べています。

この発見は、「乳酸菌、ならびにその他のプロバイオティクスの投与が、患者の抑うつ症状および不安症状を大幅に軽減するのに役立つ」ことを示す、すでに多数存在する科学文献に新たな一面をもたらすものです。

プロバイオティクスの投与のほか、たとえばアラキドン酸のような内因性カンナビノイド前駆体を豊富に含む食事が脳内の 2-AG 量を高めると仮定するのは理に適ったことです。牛乳や肉は、DAG と組み合わさって 2-AG を産生するアラキドン酸を豊富に含んでいます。(ヴィーガンの方には申し訳ないですが、科学はそう言っているのです。)2-AG は脳内の CB1 受容体を活性化させ、実験動物だけでなく人間においても、それが抗不安・抗うつ効果を生みます。

最も重要な作用機序

もちろん、カンナビノイド・トーンを強化する方法は他にもあります。高樹脂の大麻を摂取するのは、昔から伝わる、人気のある選択肢です。ただし、腸内菌共生バランス失調と気分障害を結ぶ作用機序を明らかにするために行われたフランスの研究のフォーカスはそこではありません。

論文はこう結論づけています。「要するに我々のデータは、慢性ストレスに起因する腸内菌共生バランス失調は脂質代謝と内因性カンナビノイドの生成に影響し、エンドカンナビノイド・システムにおける信号伝達と、成人の海馬におけるニューロン新生を減少させることを示している。アラキドン酸あるいは乳酸菌株の投与によってこの病理学的フィードフォワード・ループを遮断することができたことから、本研究の結果は、食事あるいはプロバイオティクスによる治療介入は、ストレスに伴ううつ病症候群の治療において有効な手段であるという考え方を裏付けるものである」。


Martin A. Lee は Project CBD のディレクターであり、『Smoke Signals: A Social History of Marijuana – Medical, Recreational and Scientific』の著者。


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