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エンドカンナビノイド・システムの関与が研究されている疾患、症状、精神状態の数は増え続けています。依存症、アルツハイマー病、自閉症、内分泌撹乱、腸内微生物叢の乱れ、頭痛、炎症.… これらはほんの一部です。以下にご紹介する新しい2つの論文は、近頃特に話題になることが多い精神状態であるうつ、孤独感、悲嘆もまたこのリストに加えられるべきであることを示しています。

カンナビノイド受容体 CB1 および CB2 の体内分布やその機能、アナンダミドと 2-AG(内因性カンナビノイド)やその他さまざまな受容体、信号分子、作用し合う系についてすでに明らかになっていることを考えれば、エンドカンナビノイド・システム(ECS)が人間の健康に非常な広範囲にわたって関係しているというのは、一見して驚くに足らないことに思えます。

ただし、そうした作用を科学的に裏付けるエビデンスを作るとなると話は別です。さらに、得られたデータを実用的な、もしかしたら治療介入に使える情報に翻訳する必要もあります。科学的学術誌に連日のように発表される現代カンナビノイド研究のほとんどは、最終的にはそこを目指しているわけですが、大麻の臨床試験が行われ、その効果が証明され、大部分の適応症が承認されるまでにはまだまだ長い道のりがあります。

ここでご紹介する2つの論文がこの状況をよく表しています。これらは、大麻を使った精神疾患の治療の前進を示す——少なくともその考え方を支持する——ものではありますが、臨床現場で正式に使われるようになるにはまだ遠い段階です。

うつ病

うつ病は複雑かつ多様な疾病で、考えられる原因もさまざまですが、「遺伝的なもの、神経内分泌系の問題、免疫学的あるいは細胞遺伝学的なものを含め、大うつ病性障害の病因に関して現在存在する仮説はすべて、内因性カンナビノイドによる信号伝達が正しく機能していることに依存しているように見える」と、『Frontiers in Pharmacology』誌 2021年 12月号に掲載された論文で、スペインの研究チームは述べています1

それだけでも、うつ病とエンドカンナビノイド・システムとの関係は包括的にレビューするに値すると思われますが、彼らの論文の緒論にはもう一つのニュース性が盛り込まれています——COVID-19 です。先日 Project CBD が伝えたとおり、COVID-19 の蔓延が始まった最初の数か月、大麻の消費量が増えた主な原因がうつ病と不安神経症でした。

ただしこの論文は、2000年代の初頭から研究者らがすでに、大うつ病性障害にエンドカンナビノイド・システムが関与している可能性を指摘していることも明らかにしています2,3

ECS が正しい均衡を保っていることは「さまざまな生理・認知・行動・情動過程における恒常性の維持に不可欠」であり、「ECS が失調すれば認知障害が起こる可能性がある」ということ以外にも、この論文では、実際にその関係に関与している分子レベルのメカニズムについて具体的な知見が示されています。特に次のような点です。

  • 脳と副腎(腎臓のすぐ上にある)をつないでストレス反応を仲介する、視床下部-下垂体-副腎系軸(HPA)の制御に重要な役割を果たすと考えられている CB1 受容体の役割
  • CB1 および CB2 受容体が、うつ病の一因と考えられている神経炎症の調節に果たす役割
  • カンナビノイドとニューロン新生の関係

最後に論文は、研究されるべきその他の可能性を特定し、この先どのような方向性で研究が行われる必要があるかを明らかにしています。COVID との関係で言えば、それには、大麻の使用が実際にうつ病の治療に役立つかどうかについての確固としたエビデンスを構築することが含まれます。

孤独感と悲嘆

ウィスコンシン医科大学とピッツバーグ大学医学部の研究チームは、近親者を失って孤独感と悲嘆を味わっている高齢者の血中の内因性カンナビノイド量を計測し、ECS とうつ病の関係についての研究を一歩前進させました。

『Frontiers in Psychiatry』誌 2021年 12月号に掲載された論文4 が述べているように、この研究の対象者は、最近愛する人を亡くした経験を持つ 44名と、そうした経験のない、年齢の近い対照群 20名でした。すべての被験者はまず、孤独感についての基礎評価を行いました。

近親者を亡くした 44名については、血液検査から2か月後、4か月後、6か月後に、不安感、うつ、認知障害、悲嘆、自殺念慮の強さに関する追跡調査を行いました。

この純粋な観察研究(何の治療的介入も行わない研究)のデータを分析した研究者らは、孤独感・悲嘆と内因性カンナビノイドが持つ2つの重要な関係を明らかにしました。1つは、すべての被験者の基礎データを比較した断面分析によれば、より強い孤独感と悲嘆を味わっている高齢者の方が、対照群の高齢者よりも血中のアナンダミド濃度が高いという点でした。

もうひとつは、孤独と悲嘆を味わっている被験者をその後6か月間にわたって追跡したところ、基礎評価において血中 2-AG 濃度が高かった人の方が、調査期間である6か月間における悲嘆症状の解消が早かったという点でした。

「効率的に機能するエンドカンナビノイド・システムはストレス応答性であり、それによって身体的・感情的な苦痛がやわらぐ。(中略)我々が行った横断調査の結果から、孤独感と悲嘆を感じている人の血中内因性カンナビノイド濃度が高いのは、『ストレス応答性』の ECS が効率的かつ正常に機能していることを表しているという仮説が成立する」と論文は述べています。

さらに論文は、「この長期的研究の結果は、近親者が亡くなったことに反応して ECS の活性が高まることが、愛着を持った相手を亡くしたことにより良く適応し、強い孤独感を感じている高齢者がより『統合的な悲嘆』に移行しやすくなるためには欠かせない、という可能性を示唆している」と続けます。

近親者を亡くして孤独を感じている高齢者においては、ECS がきちんと機能していることを示す血中内因性カンナビノイド量が増加することと、悲嘆に対してより上手く向き合えることが関連している、と論文は結論しています。ただし、うつ病に関する論文とも共通していることですが、著者らは、大麻草そのものの使用を含め、ECS を整えるセラピーや治療を推奨まではしていません。そればかりか、高齢者は医療目的で大麻を使うことへの抵抗感が弱まりつつありますが、この論文には大麻という言葉は一度も登場していません。


Nate Seltenrich は、サンフランシスコのベイエリアに住む科学ジャーナリスト。環境問題、神経科学、薬理学を含む幅広いテーマについて執筆している。


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参照文献

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