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2000年代初頭、人体内を循環する内因性カンナビノイドの量が運動中に増加するということに研究者たちが気づくと、「ランナーズ・ハイ」という言葉はそれまでなかった意味を持つようになりました。2004年に『ランナーズ・ワールド』誌に掲載された先見的な記事によれば、この頃までには専門家はすでに、かつてのエンドルフィン・モデルに疑問を抱き、代わりに内因性カンナビノイドに注目し始めていました。中でも、THC と同様に CB1 受容体と結合し、やはり THC と同様に鎮痛作用と陶酔作用を発揮するアナンダミドです。

でもそれで疑問が解けたわけではありませんでした。ランナーズ・ハイがどこから来るのか、そしてエンドカンナビノイド・システム(ECS)は正確にはどのような役割を果たしているのかについての研究は、2010年代を通して続きました。現在では、運動中に内因性カンナビノイドが産生される基本的な仕組みとその作用は広く受け入れられていますが、この二つの間にある関係をもっと深く理解しようとする努力は続いています。そこには、大麻の使用と運動パフォーマンスの関係THC の摂取と運動に対するモチベーション、その他の ECS の機能などが含まれます。なにしろ運動は、心拍数や呼吸数、代謝、認知力など、全身に影響するわけですから、そこに「マスター・レギュレーター」である ECS が関与していないはずがないのです。

ランナーズ・ハイ再考察

ほんの数か月前のことですが、ヘルスケアのプロに向けた『The Neuroscientist(神経科学者)』という学術誌に、『内因性カンナビノイドがランナーズ・ハイを起こすのか? エビデンスと疑問点』という懐疑的なタイトルのレビュー論文が掲載されました1。ネタバレになりますが、その答えはイエスです。「運動によって引き起こされる内因性カンナビノイドの増加は、ランナーズ・ハイの特徴、すなわち不安感の低減と陶酔感の増強、そして運動後に疼痛知覚が弱まることと関係があるように見える」と、ドイツを拠点とするこの論文の著者は述べています。

論文の最後には、興味深い「実験室の環境で内因性カンナビノイドを放出させるこつ」が載っています。そしてそこには、「血中の内因性カンナビノイド量を最も増加させるのはランニング、続いてサイクリング」であり、「抗不安作用と鎮痛作用、気分にポジティブな影響を与えるためには、少なくとも 20分間は継続すべきである」と書かれています。また、気分に最もポジティブな変化が現れることが期待されるのは 30分から 35分間の運動後であると述べています。

運動とECS

2021年 12月に『Cannabis and Cannabinoid Research』誌に掲載された論文2 は、過去の研究の結果をこの分野で初めてメタ分析し、運動が体内の内因性カンナビノイドの量に与える影響に関する数十年分のエビデンスを整理するのに役立ちます。

ミシガン州のウェイン州立大学、ワシントン州立大学、テキサス大学オースティン校、そしてカルガリー大学の研究者たちはまず、全部で 262本の論文の中から系統的レビューの対象となる基準を満たす 33本を選別しました。メタ分析を行うのに十分なデータが含まれていたのはそのうち 10本でした。その結果、「アナンダミドと 2-AG(もう一つの主要な内因性カンナビノイド)は、急性運動後、運動の種類(ランニング、サイクリング、etc.)、生物種(人間、マウス)、持病の有無(PTSD、うつ病、etc.)にかかわらず一貫して増加することが確認されました。

急性運動後に内因性カンナビノイドが増加することがわかりました。

こうした一般的な傾向が確認された一方、メタ分析の結果には辻褄の合わない部分もありました。「効果の大きさについては論文間に相当のばらつきが見られた。これは運動の激しさ、被験者の体力、測定のタイミング、絶食状態などが関係しているのかもしれない」と著者らは述べています。長期的な運動が体内の内因性カンナビノイド量に与える影響もばらつきがあり、運動中に一時的に増加した内因性カンナビノイドが、つかの間の、ときに夢のような「ランナーズ・ハイ」に関与しているという考え方を裏付けています。

CBDと運動生理学と生体エネルギー療法

THC およびアナンダミドと違い、CBDCB1 受容体と結合しません。ですから、CBD がランナーズ・ハイに影響する可能性はありません。ただし、CBDCB1 および CB2 受容体のどちらにも間接的に作用し、それ以外のさまざまな受容体にも作用するほか、鎮痛、抗炎症、ストレス緩和を含む幅広い生理作用があることがわかっていることを考えると、運動中に CBD が何らかの形で体に影響を与えていると推測できるのではないでしょうか。そして 2022年 3月に『Sports Medicine』誌に掲載された論文3によれば、実際にそうなのです——ただし正確な作用機序はまだわかっていませんが。高い持久力を持つ男性アスリートわずか 9名という母集団における効果量が小さいために、明確な結論は導き出されませんでした。

CBD はどうやら、運動パフォーマンスを低下させることなく「有酸素運動に対する重要な生理的および心理的反応を変化させるように見える」と論文は述べています。その中には、運動中の楽しさ、運動による炎症、VO2(酸素摂取量)と VO2max(最大酸素摂取量)、運動中に身体が利用できる酸素の量などが含まれます。「今回の予備調査の結果を確認し、よりよく理解するために、より規模の大きい研究が必要である」と論文は結んでいます。

身体的活動とECSと健全な代謝

ランナーズ・ハイだけではありません。最近発表された3つめのレビュー論文は、運動から得られる健全な代謝機能はエンドカンナビノイド・システムの仲介によるものであることに焦点を当てています。別の見方をすれば、ポーランドの研究者らによって『International Journal of Molecular Sciences』誌の 2022年 3月号に発表されたこの論文4は、まず、インスリン抵抗性、2型糖尿病、非アルコール性脂肪性肝疾患その他、代謝不均等の兆候を、エンドカンナビノイド・システムの不調に起因するとし、運動によってそれを是正することができるとしています。

こうした関係の個々のものについてはそれを裏付ける科学的エビデンスが存在しますが、「健全な代謝という身体活動の側面と ECS との間に直接的な相関関係があることを示すデータはほとんど存在しない」と論文は述べています。この論文は、ECS を標的とした運動によって代謝障害を治療・予防できるという考え方を裏付ける、現時点での知識を集約しようとするものです。これは学術的に面白い試みで、もしかしたら将来、増加を続けるこれらの有害な疾患の治療に役立つ、カスタマイズされた運動レジメンの開発に結びつく可能性があるのかもしれません。


Nate Seltenrich は、サンフランシスコのベイエリアに住む科学ジャーナリスト。環境問題、神経科学、薬理学を含む幅広いテーマについて執筆している。

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脚注

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