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近年、シロシビンと MDMA による心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療の可能性に関する研究が注目されています。それほどは目立ちませんが、実は大麻についてもその可能性が研究されています。実際、PubMed を検索すると、科学論文で言えば、どんな幻覚剤よりも大麻の方が PTSD との関係は古くて強いものであることがわかります。ただしそれは、タイトルを読んだだけではわかりません。

幻覚剤が PTSD の画期的な治療法となるか否かはさて置き、今はまだ大麻の方が、ほとんどの患者にとってはるかに入手しやすいものであることは疑いようがありません。

3つの異なる国から報告された3つの新しい論文を含め、最近の研究は、PTSD の患者で大麻を使い、その効果を本当に感じている人の数が増えていることを示しています。

うつ病と大麻

まず、『BMC Psychiatry』に掲載された、カナダ、オンタリオ州の研究チームによる論文  1 は、コロナウイルスの流行の第1波の期間中に PTSD の患者が大麻をどのように使用していたかについてのものです。2020年4月3日から6月24日までの間に、自分が PTSD であると自己申告した患者 462名に対するオンラインでのアンケート調査で、メンタルヘルスに関連した症状と大麻の摂取について、コロナの流行前と、アンケートに回答する直前の7日間について答えたものです。

コロナの流行中にうつが悪化したことで、大麻の使用量が増えました。

回答者全員が、ストレス、不安感、うつが悪化したと答えましたが、回答者を大麻の使用パターン——不使用の人、使用量が減った人、変わらなかった人、増えた人——によって分類したところ、興味深いことがわかりました。コロナの流行が始まってから大麻の使用量を増やした人は、同時に「うつ症状が有意に悪化したことを認識」した割合が高かった、と著者らは述べています。

これは、大麻がうつを悪化させたということなのでしょうか? この論文は因果関係については何も言っていないので、理論的にはその可能性もあり得ます。ただし、大麻とうつ病の関係についてこれまで行われてきた研究の結果 2 に基づけば、その逆、つまり、うつが悪化したことで大麻の使用量が増えた可能性の方がはるかに高いと思われます。言い換えれば、これらの患者はコロナの流行中にうつがひどくなり、気分を良くするために大麻を使ったのです。

この論文からは、大麻が実際に彼らの役に立ったのか、役に立ったとしたらどの程度なのかはわかりません。でも、これとは別の、少々やり方の違う研究が、その問いにより直接的に取り組んでいます。

大麻がPTSD患者の生活の質を高める可能性

イギリスでは、PTSDと診断された人には医療大麻を処方することができます。ところが、臨床的証拠が少ないために実際にはあまり使われていない、と、『Expert Review of Neurotherapeutics』誌に 2022年 12月に掲載された論文 3 の、ロンドン在住の著者らは述べています。そこで彼らは、検証済みアンケートへの回答を使って、睡眠の質、不安感、PTSD に特有の症状(侵入記憶、回避、過覚醒)の変化を経時的に追うという調査をデザインしました。

144名の PTSD 患者のスコアを、ベースラインと、医療大麻の使用開始から1か月、3か月、6か月後で比較したところ、どの回答時においても、3つのカテゴリーすべてで大幅な改善が見られました。大麻使用に伴う有害事象は主に軽微または中程度で、最も多かったのは不眠と疲労感であり、それぞれ 20例ずつでした。

この研究もまた、さまざまな限界があります。観察研究であるため多くの変数が制御されておらず、服用量や頻度も患者の報告が頼りです。さらに、すべての結果判定は主観的なものです。

「それでもこの研究は、今後、これらの有望な効果を確認することを目的とした無作為化プラセボ対照試験を行う際の参考になり、同時に現在の臨床診療に役立てることができる。今後の研究にあたっては、客観的判定基準を含めること、最適な用量の究明、さらに、補完療法としてあるいは医療大麻単独での処方を行う参考とするために、既存の治療法との比較を行うことなどに注力すべきである」と著者らは述べています。

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大麻による睡眠の質の改善

『Journal of Anxiety Disorders』誌 2022年 12月号に掲載されたイスラエルの研究者らによる論文は、大麻が昼夜問わず PTSD の症状を緩和させる重要な仕組みの一つに、睡眠の質の向上があるのではないかと仮定しています。そこで、大麻の使用が睡眠にどのように影響するかをよりよく知るために、著者らは、医療大麻患者として認可を受けている 77名の PTSD 患者に、毎朝、前夜何時に大麻を摂り、夜間にどの程度睡眠障害があったかを報告するよう依頼しました。

大麻の使用が就寝時間に近ければ近いほど、悪夢を見ることが少なくなりました。

興味深いことに、大麻の使用が就寝時間に近ければ近いほど、悪夢を見ることが少なくなりました。そしてそれによって今度は日中のストレスも軽減される可能性があります。

また、著者らの分析によって、CBD の含有量が高い(主に乾燥花穂の喫煙だがそれに限らない)製品を使用した人は早朝に目が覚めてしまうことが少なく、睡眠時間が長くなったと報告していることがわかりました。3つめの結果変数である「夜間に目が覚める回数」は大麻の使用とは何ら関係がありませんでしたが、就寝時間が遅い人の方が回数が少ないことがわかりました。

これは小規模な調査であり、やはり制御されていない変数が多く、患者の自己報告に頼るものではありますが、大麻が PTSD の治療に有益な作用を示すことを示唆する臨床および前臨床研究は増え続けており、この研究もその一つです。この場合その作用は、睡眠の質の改善を通じて発揮されるのです。著者らが結論で述べているように、「PTSD の症状と睡眠障害が高い割合で併存すること、医療大麻はそのいずれにも作用する可能性があることを考えると、PTSD の症状全般および睡眠障害に対する医療大麻の効果を患者がどう感じているかがより良く理解されて然るべき」です。


Nate Seltenrich は、サンフランシスコのベイエリアに住む科学ジャーナリスト。環境問題、神経科学、薬理学を含む幅広いテーマについて執筆している。

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参照文献

  1. Sznitman, Sharon R et al. “Posttraumatic stress disorder, sleep and medical cannabis treatment: A daily diary study.” Journal of anxiety disorders vol. 92 (2022): 102632. doi:10.1016/j.janxdis.2022.102632
  2. Pillai, Manaswini et al. “Assessment of clinical outcomes in patients with post-traumatic stress disorder: analysis from the UK Medical Cannabis Registry.” Expert review of neurotherapeutics, 1-10. 12 Dec. 2022, doi:10.1080/14737175.2022.2155139
  3. Feingold, Daniel, and Aviv Weinstein. “Cannabis and Depression.” Advances in experimental medicine and biology vol. 1264 (2021): 67-80. doi:10.1007/978-3-030-57369-0_5
  4. Murkar, A et al. “Increased cannabis intake during the COVID-19 pandemic is associated with worsening of depression symptoms in people with PTSD.” BMC psychiatry vol. 22,1 554. 17 Aug. 2022, doi:10.1186/s12888-022-04185-7

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