リンダ・A・パーカー、エリン・M・ロック、そしてラファエル・ミシューラム博士による共著『CBD: What Does the Science Say?』(MIT Press刊, 2022年)からの抜粋です。
医療大麻患者は、高い割合で、疼痛症候群、中でも慢性疼痛の軽減のために大麻を使っている。薬で抑制できない疼痛に対して大麻を使うと、痛みを抑えるために必要なオピオイド鎮痛薬の用量が減少するということも示されている。これをオピオイド節約効果と言う。論文化されている臨床試験の中には、CBD 単体でのオピオイド節約効果を明らかに示したものはないが、www.clinicaltrials.gov を見ると、CBD とモルヒネの相互作用が、痛覚感受性と乱用性にどのように影響するかについて調査する臨床試験(NCT04030442 と NCT03679949)が登録されている。
動物モデルでは、一般的に言って、CBD を全身投与した場合には急性疼痛の緩和には効果がないことが示されているが、これは、鎮痛作用を生むのに十分な量の CBD が脳に届いていないためである可能性がある。CBD を、THC またはモルヒネと併用すると、その鎮痛作用が高まり、急性疼痛を緩和する可能性がある。CBD の類似体(アナログ)もまた、疼痛の動物モデルにおいては、急性疼痛に効果があるように見える。
神経因性疼痛の動物モデルにおいては、CBD は、化学療法誘発性および糖尿病誘発性の疼痛の予防、並びに、すでに発症した、化学療法誘発性、脊髄損傷誘発性、術後性の疼痛の治療に効果がある。実際に臨床研究においても、CBD の外用薬は、神経因性疼痛患者による痛みの評価を改善させている。ナビキシモル(スプレー1回分に 2.7 mg の THC と 2.5 mg の CBD を含む口腔粘膜ティンクチャー)もまた、神経因性疼痛患者における疼痛とアロディニアを軽減させ、その効果は1年持続した。
動物モデルにおいては、炎症または関節炎を発症させる前、あるいは発症後に CBD を投与すると、神経性疼痛症状を完全に消滅させ、炎症に伴う腫れを軽減させた。ナビキシモル(商標サティベックス)も同様に、標準治療が奏効しなかったリウマチ性関節炎患者の痛みを軽減させることが示されている。これらの結果は、関節炎のような炎症性疼痛疾患の補助療法として CBD を研究すべきであることを示唆している。
CBD の抗炎症作用はまた、脳への血流が遮断されることによって起きる脳損傷の動物モデルにおいても示されている。脳損傷後 18時間以内に CBD を投与すると、脳細胞の損傷と炎症を軽減させ、脳の活動を回復させる。消化管の炎症の動物モデルおよび細胞モデルでは、CBD は抗炎症作用を示し、腸粘膜の状態を回復させた。ヒトを対象としたいくつかの研究においても、CBD が炎症性腸疾患を改善させ、腸内の状態を回復させる可能性が示唆されているが、さらなる研究が必要である。
CBD のみを舌下にスプレーした場合も、(ナビキシモルと並んで)多発性硬化症患者の疼痛および痙縮の程度が軽減されたほか、CBD を外用薬として使用したところ、筋筋膜性疼痛および神経因性疼痛が軽減された。現在、www.clinicaltrial.gov には、CBD が、単独または THC と併用することによって、抜歯後の痛み、慢性の腰痛、術後痛、糖尿病性神経障害、そしてがん性疼痛などの疼痛症状を軽減させることができるかどうかを検証する臨床試験が、50件近く登録されている。こうした、適切にコントロールされた無作為化臨床試験の結果は重要であり、CBD の潜在的な鎮痛作用についてより良く理解する助けになることだろう。
『CBD: What Does the Science Say?』(MIT Press刊, 2022年)の著者について:リンダ・パーカーは、オンタリオ州にあるゲルフ大学の「Psychology and Collaborative Neuroscience Program」の名誉教授であり、『Cannabinoids and the Brain』(MIT Press 刊)の著者。エリン・M・ロックは同じくゲルフ大学「Psychology and Collaborative Neuroscience Program」の博士研究員であり、非常勤講師。しばしば「大麻研究の父」と呼ばれるラファエル・ミシューラムは、エルサレムのヘブライ大学医薬品化学部の教授であり、2019年には、科学技術に対する卓越した貢献によってハーヴェイ賞を受賞している。
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