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”薄い氷の上をスケートで安全に滑るにはスピードが重要だ” — ラルフ・ウォルドー・エマーソン

残念なことに——と言うより、あまりにいい加減だと思うのですが、どういうわけかドーパミンは必ず、「依存と刺激」というラベルが貼ってある神経伝達物質の箱にふるい分けられてしまうのですが、この小さなアミンは、本当はもっともっと色々な仕事をこなします。

子猫は、自分を舐めてきれいにする、という先天的傾向を持って生まれてきます。でもあまり上手にはできなくて、前足を舌でちょろっと舐めるだけです。本能は持っているのですが、周囲の励ましが必要なのです。もしも母猫から引き離されると、子猫は自分をきちんときれいにできるようには決してなりません——やみくもに自分を舐めるだけで、いつまでたっても汚らしくだらしないままなのです。でも、母猫が子猫を励まし、清潔を保つための正しい舐め方のテクニックを見せてやれば、ドーパミンの力で子猫はそれを身に付けます。

ドーパミンは学習の、そして学習がもたらすワクワク感の源です。クラゲ、ヒドラ、サンゴといった古い生物にも見られるドーパミンは、おそらく最初に神経系が発生した五億年前から存在していました。今日までに研究されたすべての生き物において、ドーパミンは運動行動と報酬学習を推進します。回虫に迷路を走破させたければ、うまくいったときのご褒美にドーパミンをあげましょう。

意欲と運動制御には欠かせないドーパミンはまた、私たちの実行機能を助け、乳の分泌と性の快感を可能にします。ドーパミンの産生がうまくいかないと、恐ろしい病気を引き起こします。特に、パーキンソン病です。

ドーパミンはまるで脳の中にいるサメのように、脳を破壊する冷酷な捕食者の汚名を着せられていますが、実際には、人間の神経という大海における最も重要な調節器なのです。

脳内のドーパミン

ドーパミンが持つさまざまな神経作用を考えると、それほどたくさんのことを非常に小さいエリアからの司令でやってのけるというのは特筆すべきことです。人間の脳には 800億を超えるニューロンがありますが、そのうちドーパミンを産生するのは約 40万個にすぎません。これらは主に、中脳から前脳にまたがる 11 の細胞群に存在しています。これらの細胞群から、ドーパミン神経細胞の軸索が脳全体に伸びて、幅広い作用を引き起こすのです。

ドーパミンは学習の、そして学習がもたらすワクワク感の源です。

ドーパミンが作られるところとして脳で最も重要なのは、運動系とアクション選択(複数ある選択肢の中から適切な運動を選択すること)の両方を司る大脳基底核です。大脳基底核は中脳の中にあり、それぞれ異なった種類の行動を制御する複数の領域に分かれます。そのうちの一部は、前頭前皮質のように最も高等な脳の部分に伸びて行動の選択を助け、別の領域は特定の筋肉を使ってそうした行動を実行します。大脳基底核は基本的に、意思決定し、それを行動として実行するシステムです。

ある行動の引き金を引くのに必要なシグナル伝達量のしきい値はドーパミンで決まります。したがって、ドーパミンの量が多ければ衝動的な行動や自発運動量の増加につながりますし、逆にドーパミンの量が少ないと反応が遅くなり不活発になります。ドーパミンの量が少なくなるのが特徴のパーキンソン病の場合、身体が脳の命令に抵抗し、患者は行動を開始するのが困難になります。

ドーパミン量を増やす薬を使ってパーキンソン病患者の治療を始めると、身体を動かすのは楽になりますが、同時に、不自然な動きをすごい勢いでするようになったり、新たな依存症を発症したりすることがあります。ドーパミンの作用とその機序は複雑で、そこに介入すれば数々の副作用を伴うのです。

ドーパミン経路

人間の脳には、4種類の主要なドーパミン経路があります。

中脳辺縁系:報酬経路

  • 何かを好きになったり欲しがったりする(”インセンティブ・サリアンス”)、嫌なものを避ける(”忌避学習”)、うまくできたことに対する正の強化と報酬刺激(”報酬学習”)
  • 正および負のフィードバック・ループ。ADHD、依存症、統合失調症患者ではこれが機能しない人が多い
  • 脳のこの部分に損傷のあるマウスは、ニコチンが出てくるレバーを押す回数が減り、食べ物を探す時間も短くなる

中脳皮質:実行機能

  • 脳の VTA(ドーパミン放出神経細胞の中心的存在である腹側被蓋領域)から前頭前皮質(最も高度に進化した領域)につながっている
  • 認知制御、意欲、情動反応に関与
  • ADHD、依存症、統合失調症の患者では機能していないことが多い(特に、失語、表情の乏しさ、自発的な活動を始めたり継続したりする能力の欠如など、統合失調症の陰性症状の原因)

黒質線条体:運動の生成

  • 大脳基底核の主導により随意運動を制御する
  • 報酬、認知、嗜癖行動に影響を与える
  • 脳のこの部分の変性がパーキンソン病の主な特徴の一つである。この部分のドーパミン作動性ニューロンの不足はパーキンソン病を引き起こすが、逆にトゥレット症候群はこの経路の過剰な励起が原因であるとする説がある。

隆起漏斗:ホルモン分泌

  • 特に下垂体からのプロラクチン(黄体刺激ホルモン)の分泌

これは脳内の経路だけです(しかも、これらより目立たない経路2つは省略しています)。ドーパミンは血中を常時循環し、全身のあらゆる臓器においてメッセンジャーとして機能します——たとえば血管を拡張させたり、腎臓に働いて排尿量を増やしたり、膵臓でインスリン分泌を減少させたり、消化管運動を遅くしたり、免疫細胞の活性を弱めたりするのです。

ドーパミンはまた、さまざまな植物においても化学伝達物質として機能します。含有量が最も多いのはバナナです。ただし、バナナその他のドーパミン含有量が多い食べ物を食べても、脳に働くドーパミンの量が増えるわけではありません——ドーパミンは血液脳関門を通過できないからです。体内には血液脳関門の両側に別々にドーパミンが存在し、体内のドーパミンの大半は消化器官で産生されます。

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ドーパミン受容体

ドーパミンについては、知っておくべきことがあと3つあります。

まず、ドーパミンは2種類のニューロン発射を起こします。安定した頻度で起きる「持続性モード」と、通常は何らかの目的に向けて爆発的な連続発射が起きる「一過性モード」 です。

次に、ドーパミン受容体(D)にはわかっているものが5つあり、2つのカテゴリーに分かれています。”D1様受容体”(D1 と D5)は興奮性を、”D2様受容体”(D2、D3、D4)は抑制性を担っています。見事な道具立てです。

最後に、そしてようやく私たちが大好きなカンナビノイドがここで登場するわけですが、ドーパミン受容体はカンナビノイド受容体 CB1 とチームを組んで、異種複合体と呼ばれるものをつくります。異種複合体とは、2つ以上の種類の異なる膜受容体が結びついて受容体複合体を形成し、結合前の受容体単独の場合とは異なる機能を発揮するものです。

D2 受容体は、それ単体でドーパミンの放出を阻害しますが、CB1 受容体と結合してその複合体が活性化すると、ドーパミンの放出を減らす力はずっと強くなります。このことと、依存症治療におけるカンナビノイドの有用性がどのように関係しているかは容易に想像がつきます。実際に統合失調症のマウスモデルでは、カンナビノイドと抗精神病薬を使って治療すると CB1 受容体と D2 受容体の複合体に変化が見られます

エンドカンナビノイド・システム(ECS)はドーパミン受容体シグナリングを調節しますが、この複雑なシステムはその調節の仕組みも複雑です。

ドーパミンと ECS

エンドカンナビノイド・システムについて簡単に復習しましょう。カンナビノイド受容体には2種類あります。CB1 受容体は、Gタンパク質共役型受容体の中で人間の脳における発現量が最も多い受容体であり、最も高次の機能を司る脳の部位のすべてに発現しています(ただし、呼吸のような基本的な機能を司る部位にはなく、それが大麻の過剰摂取で死亡することがあり得ない理由です)。CB2 受容体はすべての臓器に存在し、免疫系と密接に関連しています。脳にもあり、通常その数は多くありませんが、何らかの問題が起きるとその数は急増し、神経保護作用と癒やしの効果を発揮します。

エンドカンナビノイド・システムは、ドーパミンを含む神経伝達物質の増減を調節します。

カンナビノイド受容体に結合する内因性カンナビノイドで最も有名なのはアナンダミド(至福をもたらす神経伝達物質)と 2-AG です。その他、体内の内因性カンナビノイド量を調節する酵素(FAAH と MAGL)、それらの移動を助ける輸送体分子があります。

他のほとんどの神経伝達物質と異なり、内因性カンナビノイドは脂質です。ですから、その量のほんのわずかな変化も細胞が察知し、繊細な制御機構として使われます。ECS を一番わかりやすく言うと、あなたの体内にあって、ホメオスタシス(バランス)を維持するための系ということになります。ECS は、ドーパミンをはじめとする、内因性カンナビノイド以外の神経伝達物質の増減を調節します。内因性カンナビノイドとドーパミンは、セックス、やる気、依存症を含む、いくつかの重要な領域では一緒になって働きます。

セックス

アナンダミドまたは 2-AG をラットに与えると、ラットの交尾の回数が増えます。ラットは性欲が十分に満たされると、それ以上の交尾が抑制される状態が最長丸一日続きますが、性欲に関与する脳の部位(VTA)にアナンダミドを注入すると、D2 様受容体を介して性欲の抑制が緩和されるのです。同じ部位に 2-AG を注入すると同じ効果がありますが、こちらは D1 様受容体が媒介します。つまり、内因性カンナビノイドの一つ(2-AG)は抑制性受容体を活性化し、もう一つ(アナンダミド)は興奮性受容体を阻害することで同じ目的——性的動機づけの強化——を達成するのです

もちろん、ECS にはよくあることですが、性別による違いもあります。セントルイス大学医学部の研究者らが 2020年に発表したレビュー論文によれば、CB1 受容体の活性化は男性の勃起を阻害する一方、大麻の使用は女性の性欲を高める傾向があります。THC が雌のラットの性行動を活発化させるためには、ラットがプロジェステロンとドーパミンの両方の受容体を持っている必要があります。

やる気

マズローによれば、人間には社会的欲求があり、自己実現欲求があります。人は食べ物を食べたり友だちを助けたりすると、その報酬としてドーパミンを受け取ります——いわばちょっとした神経化学物質をご褒美として受け取るわけで、それが同じことを繰り返す気にさせるのです。

エンドカンナビノイド・システムは、ドーパミンが引き起こす正の強化を調整します。たとえば CB1 受容体を阻害すると、報酬を求めようとする行動とともに体内のドーパミン量が減少します。その逆——負の刺激——についても、同じく動機づけによる学習が必要です。マウスが檻の中の特定の箇所で脚に電気ショックを受けると、中脳辺縁系の報酬経路からドーパミンが放出され、電気ショックの引き金となる行動を避けるようマウスに教えます。マウスは恐怖記憶を学習するのです。

CB1 受容体を活性化すると、マウスが恐怖記憶を忘れるのを助け、ベースラインに戻るのを早めます。PTSD 患者に大麻を使う人が多い理由の手掛かりがここにあります。アナンダミドは、恐怖を司る脳の部位、扁桃体を介して、また 2-AG は中脳辺縁系の報酬経路からより多くのドーパミンを放出させることで、同様に恐怖記憶を忘れるのを助けます。エンドカンナビノイド・システムが持つ包括的な役割の一つが「忘れる」ということなのです。大麻でハイになった状態で観た映画は細かいところを覚えていないかもしれませんが、同時に、大麻を使うと過去のトラウマを忘れる、あるいはそれに対して反応せずにいることも容易になるのです。

ただし、大麻のように様々な成分を含有する植物の作用は単純ではありません。ある臨床試験では、難しい課題をこなせばより多くの報酬が与えられるという選択肢が与えられている場合、先に THC を摂取した参加者は難しい課題を選ぶ率が低くなりました。ところが、同時に CBD を摂取すると、THC による「一時的な無気力さ」は起きませんでした。マウスでも同じ結果でした——体内の内因性カンナビノイド量が増えると、彼らの目標探索行動が増したのです。覚えておきましょう——CBD を摂ると、高 THC の大麻が持っているちょっとネガティブな副作用を防ぐことができます。

依存症

依存症というのは、やる気を司るシステムが乗っ取られた状態と考えることができます。ただし、自分を護るための行動と、やりすぎて自分の生命を危険に晒す行動の境界線は曖昧です。ハームリダクション推奨派であるリサ・ラヴィルが言う通り、たとえば、眠ると凍え死んでしまうような状況で一晩中起きているためにメタンフェタミンを吸入するというのは賢明な行為ですが、メタンフェタミンを使うのをやめられず、何日も眠らないでいれば健康に害があります。どちらの行動パターンも、目標指向行動経路を介して起こります。

買い物、セックス、過食、ソーシャルメディア、賭け事はいずれも、ドーパミン放出を引き起こします。

興奮誘発剤に分類されるドラッグはドーパミンと深い関連があります。たとえばコカインはドーパミンの再取り込みと分解を阻害し、脳内の信号伝達が起きるニューロン間のシナプス間隙にあるドーパミンの量を増やしますし、アンフェタミンはドーパミンが運ばれる先をシナプス間隙に変更します。その他のドラッグ(オピオイド、ニコチン、酒を含む)も、ドーパミン神経細胞の発火やバースト発火率を高めます。

そしておそらく最も重要なのは、私たちの行動嗜癖にもまたドーパミンが介在しているということです。買い物、セックス、過食、ソーシャルメディア、賭け事はいずれも、ドーパミン放出を引き起こします。大麻もまた、身体的な依存性は強くありませんが、どんな行動もそうであるように、強い精神的依存を引き起こす可能性があります。でも、長時間働いたり一日子どもに振り回されたりした後に大麻を一服するのはとても心を落ち着かせてくれるのではないでしょうか? では、どこまでが健康的でどこからが有害か、その境目はどこにあるのでしょうか?

内因性カンナビノイドと植物性カンナビノイドが依存症に与える効果は複雑です。コカインに依存しているラットでは、CB1 受容体が衝動性とドーパミン活性の変化を引き起こします。CB1 受容体をブロックするとこうした変化も阻害されます。コカインによるやる気の増強は、CB1 受容体と内因性カンナビノイド 2-AG が存在しなければ起こりません。

興奮誘発剤依存症のラットモデルでは、CBD の投与によって、リラプス率が低くなり、不安レベルが低減し、脳内の内因性カンナビノイドとドーパミンの機能が高まりました。メタンフェタミンを与えると、CBD はドーパミンの放出を阻害し、報酬効果を減少させました。

依存性のある物質のほとんどは、使用を中止すると、ドーパミンの放出が減少する傾向にあります。2-AG のような内因性カンナビノイドの、ドーパミン放出量を増加させる働きは、大麻が薬物からの離脱症状を緩和させる理由の一つかもしれません。特にオピオイドの場合、人間のエンドルフィン系とエンドカンナビノイド・システムの間に密接なつながりがあることで、CBD のようなカンナビノイドによってアナンダミドの体内量が増加し、離脱症状を緩和させることが可能になるのです。

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その他の系と疾患

カンナビノイドが、ドーパミン経路を介してどのように脳と身体全体に作用するか、さらに詳しく見ていきましょう。

目:

消化器官:

  • ラットでは、ECS とドーパミン系はともに、肥満に関連した消化器官の変化に関係している
  • ラットでは、合成カンナビノイドを投与することで、エンドカンナビノイド・システムがドーパミン、GABA、グレリン(摂食に関係する重要なホルモン)とどのような相互作用を持っているかについての洞察が得られる

脳:

神経変性疾患:

精神疾患:

統合失調症と精神障害:

  • CBD は、THC が引き起こす情動不安と精神障害を防ぐことが示唆されており、中脳辺縁系の報酬経路に作用することから、CBD が統合失調症の治療に役立つ可能性が考えられる
  • 高用量の CBD はD2 受容体と結合できることが、CBD が抗精神病作用を発揮する理由である可能性がある
  • 統合失調症の傾向があるマウスにおいて、初期に CBD を投与すると、ドーパミン遺伝子の転写に変化が起きることから、CBD による統合失調症の治療の可能性が示唆される

以上を総合すると、カンナビノイドを使ってドーパミン系を調節することによる治療の可能性は非常に大きいことがわかります。この可能性をどうすれば人間の治療に最も生かせるのかは、今後の臨床研究を待たなければなりません。ドーパミンが、単に依存症と刺激を引き起こす分子であるだけではなく、もっとはるかに重要なものであることは明らかです。


Lex Pelger は、向精神物質に関する記事やエンドカンナビノイド・システムに関するコミックの著者。カンナビノイドの科学に関する週刊ニュースレター Cannabinoids & the People を発行する他、重篤な疾患に対して CBD、PEA、THC、CBDA を使う方法をマンツーマンで指導している。

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