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THC の主要な作用標的である CB1 カンナビノイド受容体は大麻がもたらすハイを媒介し、主に全身の免疫細胞に発現するもう一つのカンナビノイド受容体 CB2 は炎症反応に重要な役割を果たす——こういう要約の仕方は決して間違ってはいませんが、エンドカンナビノイド・システムに関することは何でもそうであるように、本当のところはもっとずっと複雑です。

ラファエル・ミシューラム博士の逝去を伝えた Project CBD の最近の記事の中で、博士が、これからのカンナビノイド研究は CB2 受容体にフォーカスすべきとお考えだったことをお伝えしました。CB2 受容体は、THC、CBD、内因性カンナビノイドその他の化合物と、皮膚と骨を含むさまざまな臓器で結合します。

80代も半ばになったミシューラム博士が共著者である論文も含め、近年の研究の成果は、さまざまな自己免疫疾患、神経変性疾患、代謝性疾患、そして精神疾患に、CB2 受容体の異常が関連していることを裏付けています。そしてまた CB2 受容体は、がん研究においても注目が高まりつつあります。

この記事の Part 1 と Part 2 では、CB2 という、全身に存在しながらも謎の多い細胞受容体についての最新の研究と、これまでにわかっていること、まだわかっていないことについてお伝えします。

Part 1 ではがんについて。Part 2 では、92歳で亡くなったミシューラム博士の最後の研究を含め、認識・気分障害との関係について探ります。

前立腺がんとCB2受容体の新たなリガンド

2023年に入って数か月の間に発表された3本の論文が、3つの異なったがんモデルにおける CB2 受容体の役割について論じています。研究の結果は複雑で必ずしも決定的なものとは言えませんが、カンナビノイドががんの治療に奏効する可能性について、増え続ける研究の成果がまた一つ増えました。

2月に『International Journal of Molecular Sciences』に掲載された論文1 は、1本で2つの新たな発見を報告しています。1つめは、CB2 受容体ががんの細胞モデルにおいてどのように機能するか。2つめは、カリフラワー、キャベツ、ブロッコリー、芽キャベツといったアブラナ科の野菜をはじめ、さまざまな葉物野菜に含まれる 3-3’-Diindolylmethane(DIM)と呼ばれる化合物が、CB2 受容体を介して抗がん作用を発揮することを示す新たなエビデンスです。

イタリアとイギリスの研究チームが2種類のヒト前立腺がん細胞株に DIM を投与したところ、いずれの細胞株においても、自然に発現した CB2 受容体を活性化させました。2種類の細胞株の一つで、PC3 と呼ばれるものにおいては、CB2 受容体の活性化が細胞死を導き、この作用は CB2 受容体を拮抗薬で阻害すると逆転しました。

DIM に抗がん作用があることは、すでに漠然とはわかっていましたが、今回の実験で初めて観察されたのは、ヒトがん細胞株においてこの作用を CB2 受容体が媒介しているということでした。「DIM は CB2 受容体のリガンドであり、前立腺がんを殺す可能性があると結論できる」と論文の著者らは述べています。

これが本当ならば、サフラン、黒胡椒、クローブ、オレガノその他のスパイスに続き、CB2 受容体に作用して良い効果をもたらす食べ物に、アブラナ科の野菜が仲間入りすることになります。

でも、スーパーマーケットに行ってカリフラワーやキャベツを買い込むのはちょっと待ってください。この実験に使われた DIM の濃度は非常に高く、食餌からだけで摂るのは無理で、サプリメントの摂取が必要だろうと著者らは述べています。

大腸がん:決定打?

同じく 2023年 2月に『International Journal of Molecular Sciences』誌に掲載された論文2 もまた、大腸がんに対する CB2 受容体の役割についてこれと似た結論に達しています。これはイスラエルの研究チームによるもので、大腸がんのマウスモデルにおいて CB2 受容体がどのように機能したかを(受容体が存在しない「ノックアウト」マウスを使って)調べ、また多数のヒトの遺伝子データを分析して CB2 の変異形と大腸がんの発生率の関係を明らかにしました。

いずれの結果も、「体内の CB2 受容体を活性化することで免疫反応を調節し、それによって腫瘍の形成を減少させることができ」「CB2 受容体は大腸がんの成長を防ぐ」ことを示唆している、と著者らは述べています。

研究の結果は一見明らかに見えますが、著者らはまた、がん治療における CB2 受容体の役割については、以前行われた研究では今回とは非常に異なる結果が出ているということも認めています。

「CB2 は、複数の種類のがんや炎症モデルにおいて研究が行われており、腫瘍の成長に対する影響については結果が分かれている」と著者らは述べています。たとえば過去の研究では、「CB2 の発現は予後が良くない患者で多い」「CB2 拮抗薬または遮断薬が腫瘍の成長を抑制する」「CB2 の活性化は大腸がんモデルの腫瘍成長を促進する」「CB2 作動薬が腫瘍の成長を抑制する」といった結果が出ているのです。著者らは、こうした研究結果の曖昧さはがんの動物モデルや細胞株の種類がばらばらであることが原因だとしています。

肺がん:別の答え

たしかに、その1か月前に『Frontiers in Immunology』誌に掲載された論文3 は、非小細胞肺がんのマウスモデルを使ったもので、まったく異なる結果が出ています。

このオーストリアの研究チームは、「腫瘍微小環境」(腫瘍細胞を取り囲む正常な細胞、分子、血管のこと。CB2 発現数の多い免疫細胞も含まれる)に CB2 受容体を持たないノックアウトマウスでは、野生型マウスと比べて全身腫瘍組織量が少なかったと述べています。また、CB2 受容体を持たないマウスの方が、抗PD-1 抗体と呼ばれる免疫療法が有意に優れた効果を示しました。

これらの結果を総合すると、非小細胞肺がんの腫瘍微小環境の CB2 受容体が「免疫抑制薬として働き、それによって腫瘍の成長を助ける」ことが示唆されます。

読み間違いではありません ——前述した2つの論文とは反対の結果です。いずれにしろ、CB2 受容体が、がんの進行に直接影響する形で細胞の免疫反応を調節すること、そしてこの関係性が臨床の現場で何を意味するかの解明が必要であることは明らかです。

この記事の Part 2:心の健康とCB2受容体 を読む


Project CBD の寄稿者 Nate Seltenrich は、Bridging the Gap というコラムの筆者であり、サンフランシスコのベイエリアに住むフリーランスの科学ジャーナリスト。環境問題、神経科学、薬理学を含む幅広いテーマについて執筆している。


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参照文献

  1. Tucci, Paolo et al. “The Plant Derived 3-3′-Diindolylmethane (DIM) Behaves as CB2 Receptor Agonist in Prostate Cancer Cellular Models.” International journal of molecular sciences vol. 24,4 3620. 11 Feb. 2023, doi:10.3390/ijms24043620
  2. Iden, Jennifer Ana et al. “The Anti-Tumorigenic Role of Cannabinoid Receptor 2 in Colon Cancer: A Study in Mice and Humans.” International journal of molecular sciences vol. 24,4 4060. 17 Feb. 2023, doi:10.3390/ijms24044060
  3. Sarsembayeva, Arailym et al. “Cannabinoid receptor 2 plays a pro-tumorigenic role in non-small cell lung cancer by limiting anti-tumor activity of CD8+ T and NK cells.” Frontiers in immunology vol. 13 997115. 9 Jan. 2023, doi:10.3389/fimmu.2022.997115


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