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2013年のこと、千葉大学の研究者、新庄記子が、イタリアの科学者ヴィンセンツォ・ディ・マルツォ(Vincenzo Di Marzo)博士との共著で、カンナビクロメン(CBC)に関する論文を発表しました。CBC は、神経系に重要な作用をもたらす植物性カンナビノイドです 1

『Neurochemistry International』誌に掲載されたこの論文は、成人において、「健康な状態、また病変状態における脳の機能にとって非常に重要な要素」とされる神経幹細胞/前駆細胞に、CBC がどのような影響を与えるかについて調べたものでした。幹細胞は、成熟するにつれて、新しいニューロンやその他の細胞に分化します。インビトロ研究によれば CBC は、その成熟期間中、神経幹細胞/前駆細胞に良い影響を与えることがわかりました。

最近になって、10年前のこの発見の追跡研究が行われ、CBC が神経系を保護・再生する7つの機序が明らかにされました。この結果はスイスの学術誌『Life』で発表され、「ニューロン新生を促進させる」CBC は、幹細胞の「生存能力の維持と分化」を可能にする、と述べています。

神経幹細胞とは何か?

科学者たちは、神経幹細胞が作られる脳の部位が海馬と側脳室であることを突き止めています。神経幹細胞は、分化と呼ばれる成熟の過程を経て発達します。これは、脊髄、脳幹、筋肉制御を司る脳の部位にある若い細胞にとって重要な段階です。若い幹細胞は発達して新しいニューロンになりますが、神経を包んで保護する鞘を形作る細胞になる場合もあります。

神経幹細胞の中には、分化して星状膠細胞になるものもあります。星の形をしたこの細胞は、脳の灰白質と白質に豊富に存在しており、脳血流と電気信号の伝達を調節します。また、血液脳関門の維持や、感染または外傷が起きた後の脳と脊髄の修復にも欠かせない役割を果たします。

「ニューロン新生を促進させる」CBC は、幹細胞の「生存能力の維持と分化」を可能にします。

ただし、これらの成熟した細胞の一部は眠ったままです。アクティブな星状膠細胞は損傷を受けた後に脳が自然に再生しようとする力を阻害する場合があるので、これは幸運なことと言えます——つまり、脳と脊髄にある神経幹細胞の成熟が調整されることで、神経系の保護と再生に役立つのです。そしてこのプロセスを増補するのが大麻成分 CBC であり、CBC は、ニューロンの新生を調節すると同時に、脳損傷後の脳の再生を阻害する可能性のあるアクティブな星状膠細胞の形成を減少させます。

CBCは胚細胞を再生させられるか?

2023年、6人の科学者からなるイタリアの研究チームが、損傷を受けたニューロンや神経系の構成要素を CBC がどのようにして保護し再生させるのかについて、詳細な説明を発表しました。彼らの発見には、マウスの胎児から採った特殊な脊髄細胞が神経芽腫細胞と組み合わせて使われ、研究チームは、それらの細胞をCBC と対照媒体に暴露させた後に遺伝子的特徴に現れた変化を計測しました。

研究チームは、分析をさらに精緻化することで、カンナビクロメンの背後にある新たな作用機序を明らかにしました。CBC は、ドーパミン神経細胞とグルタミン酸受容体の適切な成熟を促すのです。そして、神経の保護鞘の形成を調節するカンナビノイドは色々ありますが、神経細胞の再生は CBD の他の作用に依存しています。

コリンとの微妙なバランス

新たに発見されたCBCの作用機序の一つは、テトラヒドロカンナビノール(THC)と相乗的に働き、同時に、さまざまな大麻品種やその他の植物に含まれるテルペン、α-ピネンの作用を打ち消すように見えます3

α-ピネンは、筋肉からニューロンへ信号を送る特定の神経伝達物質に関して、CBCとは真逆に作用するようです。その伝達物質とはコリンの一種で、ピネンによって保護されますが、CBCにさらされるとより急速に分解されます。コリンは、認知、脳の発達、神経幹細胞の成熟、筋肉の動き、その他の基本的な機能にとって重要です。

THC は伝達物質コリンの産生を下方制御し、CBCは、コリンを破壊する特別な酵素をコーディングする遺伝子の発現を高めるので、CBCとTHCはともにコリンの減少に関与することになり、それによって神経系の保護やニューロンの再生が可能です。一方 α-ピネンは、コリンを保護することで認知力の精彩を保ちます。このバランスが大事なのです。CBCの使用は、「神経系の再生に関する重要な新発見である可能性があるが、どうすればこの目的のためにCBCを効果的に使用できるかを明らかにし、最大限に利用するためには、さらなる実験が必要である」と著者らは結論付けています。


Travis Cesarone はフリーランス・ライターであり、主に医療大麻の科学について発信している。


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参照文献

  1. Shinjyo, N., & Di Marzo, V. (2013). The effect of cannabichromene on adult neural stem/progenitor cells. Neurochemistry international63(5), 432–437. https://doi.org/10.1016/j.neuint.2013.08.002
  2. Valeri A, Chiricosta L, D’Angiolini S, Pollastro F, Salamone S, Mazzon E. Cannabichromene Induces Neuronal Differentiation in NSC-34 Cells: Insights from Transcriptomic Analysis. Life (Basel). 2023 Mar 9;13(3):742. doi: 10.3390/life13030742. PMID: 36983897; PMCID: PMC10051538.
  3. Russo, E. B., & Marcu, J. (2017). Cannabis Pharmacology: The Usual Suspects and a Few Promising Leads. Advances in pharmacology (San Diego, Calif.)80, 67–134. https://doi.org/10.1016/bs.apha.2017.03.004


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