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先日、サイケデリックスに関する研究に多少関心がある友人と雑談していると、その友人に、最近は一般誌や主要媒体でサイケデリックスの記事をあまり見ないけど、研究が滞っているのか、と訊かれました。そんなことはまったくない、と私は答えました。

国立医学図書館の所蔵文献をオンラインで閲覧できる Pubmed には、2022年、かつてなかったほど多数のサイケデリックス関連の論文が掲載されました。2020年の数字から 19% 増えた 2021年の論文数を、さらに 33% 上回っています。

私の受信トレイには毎日、最新の論文についての eメールが届きます。その多くは、うつ病、依存症、PTSDその他の精神疾患の治療にサイケデリックスが有効である可能性についてのものです。

けれども、科学文献を深掘りすると、いわゆる精神疾患のセラピーとは関係のないちょっと変わった研究も色々あって、たとえば頭痛、色盲、ある「存在」との遭遇とサイケデリックスの関係、さらには、これらの化合物は脳にどのように作用するのかという未だ解明されない謎など、非常に興味深い問題が網羅されています。

気分を高めるマイクロドージング

サイケデリックスのマイクロドージングが、プラセボ効果ではなく本当に人々の役に立つかどうかは、今も議論の的です。2023年 3月に『Biological Psychiatry』誌に掲載された研究 1 は、40人の健康な男性ボランティアを対象にしたプラセボ対照試験で LSD のマイクロドージングを行なったところ、創造性、他者とのつながり、活力、幸福感、イライラ感、ウェルネスに関する被験者の自己申告スコアが、LSD を摂った日のほうが摂らなかった日と比べて高かったとしてこの議論に一石を投じました。ただし、マイクロドージングは全般的な気分や認知力の永続的な改善には不十分だっただけでなく、まったく無害というわけでもありませんでした。40人の被験者のうち 7人が LSD の投与に伴う不安感を報告し、それによって 4人が試験を中止しています。

植物状態の患者に対するサイケデリックスの投与

幻覚作用の強弱の尺度で言うとマイクロドージングの対極にあるのが、自我や現実の認識の仕方を完全に変えてしまう高用量の摂取です。仮に、Robin Carhart-Harris や David Nutt らが 2014年に発表した重要な論文2 で初めて提唱した「エントロピック・ブレイン仮説」が示唆するように、幻覚剤の影響下にある意識状態が、普段とは本当に異なる、「より高次の」意識レベルを表しているとしたら——幻覚剤は意識の障害の治療に使えるのでしょうか? より具体的に言えば、ほとんど意識のない、あるいは植物状態の患者に幻覚剤を薬として投与することが可能なのでしょうか? 可能だとしたら、そのような治療にはどんな倫理的課題が伴うでしょうか? 2023年 4月に『Neuroscience of Consciousness』誌に掲載された論文は、これらを含むいくつかの興味深い問いを提起しています。

作用機序

また、最近発表された2つの論文では、さまざまな幻覚剤の神経生物学的特徴(神経系が行動を媒介する生物学的メカニズム)および薬物動態学(体内での薬物の動き)がより詳細に研究されています。

前者については、『NeuroImage』誌に掲載された論文 4 が、幻覚あるいは幻覚に似た作用をもたらす、全く異なる3つの化合物——亜酸化窒素、ケタミン、LSD——が、どのようにして共通する脳内ネットワークの変化を引き起こすのかを探求しています。この3種類の化合物はそれぞれ異なる受容体に作用します(亜酸化窒素とケタミンは NMDA グルタミン酸受容体、LSD は 5-HT2A セロトニン受容体)が、いずれも、感覚統合や意識に関わる特定の脳領域に一貫した変化を引き起こすのです。また、3つの化合物はいずれも同様に脳内のネットワーク内結合を減少させ、ネットワーク間結合を増加させる、と著者らは述べています。

DMT ユーザーのアンケート調査結果:「深淵かつ非常に強烈な経験が起きた」

『European Journal of Drug Metabolism and Pharmacokinetics』誌に発表された別の新しい論文 5 は、うつ病の治療薬として研究が行われている強力な幻覚剤、N,N-ジメチルトリプタミン(DMT)の体内代謝に関する理解を深めるものです。DMT を単独で摂取すると、その作用は極めて短時間しか続かず、通常は約 15分以上は持続しません。しかし、DMT の分解を阻害する化合物を含む飲み物「アヤワスカ」の一部として摂取すると、その効果は数時間持続します。

最新の研究は、健康な成人に DMT を点滴投与した一連の実験に基づいています。著者らによればこれは、DMT を人体にゆっくりと点滴投与した場合の完全な薬物動態プロファイルを詳細に解明するものです。「これらの結果は、大うつ病性障害の新しい治療法としての DMT 点滴レジメン開発の妥当性を裏付ける」と論文は結論しています。

実際にトリップした人は…

さらに、2023年 3月に発表された2本の論文は、サイケデリックスを使っている人たちを対象に、DMT、LSD、シロシビンを使った体験についてのアンケート調査を行なっています。

『Frontiers in Psychology』誌掲載の論文 6 では、適性をもとに選ばれた 36人の「健康で経験豊富な」DMT ユーザーに対し、その使用体験について、使用直後に掘り下げた半構造化面接を行なっています。DMT が「自己の身体・感覚・心理・感情に関する個人的かつ自己言及的な経験をいかに変容させるか」についての著者らの知見は、ここで要約するにはあまりにも複雑すぎますが、「必ず、深淵かつ非常に強烈な経験が起きた」と言うことができます。論文はまた、それらの体験に、異星人による拉致、魔術的あるいは臨死的な体験との共通点があることも述べています。

最後に、『Journal of Psychopharmacology』に掲載された論文 7 は、英国を拠点とする Global Drug Survey が2019年 11月から 2020年 2月の間に集めた、数千人のサイケデリックス使用者(LSD 1,996人とシロシビン・マッシュルーム 1,368人)へのアンケートの結果を報告し、評価された転帰の 17項目すべて(中でも洞察力と気分)においてポジティブな変化が報告されたと述べています。ポジティブな転帰と最も関連性の強かった変数には、(LSD ではなく)シロシビンを使ったこと、使用の前にアドバイスを求めたこと、PTSD の治療が目的であることなどが含まれていました。

ネガティブな作用も、回答者の約 4分の 1で認められました。最も関連の強い要素としては、(シロシビンではなく)LSD を使ったことと年齢の低さがありました。一方、非常に強烈な意識変容体験は、ポジティブな転帰とネガティブな転帰の両方を引き起こし、高用量の幻覚剤の使用は、見返りも大きいと同時により高いリスクを伴うということを示唆しています。


Project CBD の寄稿者 Nate Seltenrich は、Bridging the Gap というコラムの筆者であり、サンフランシスコのベイエリアに住むフリーランスの科学ジャーナリスト。環境問題、神経科学、薬理学を含む幅広いテーマについて執筆している。


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参照文献

  1. Murphy, Robin J et al. “Acute mood-elevating properties of microdosed LSD in healthy volunteers: a home-administered randomised controlled trial.” Biological psychiatry, S0006-3223(23)01164-2. 28 Mar. 2023, doi:10.1016/j.biopsych.2023.03.013
  2. Carhart-Harris, Robin L et al. “The entropic brain: a theory of conscious states informed by neuroimaging research with psychedelic drugs.” Frontiers in human neuroscience vol. 8 20. 3 Feb. 2014, doi:10.3389/fnhum.2014.00020
  3. Rankaduwa, Sidath, and Adrian M Owen. “Psychedelics, entropic brain theory, and the taxonomy of conscious states: a summary of debates and perspectives.” Neuroscience of consciousness vol. 2023,1 niad001. 4 Apr. 2023, doi:10.1093/nc/niad001
  4. Dai, Rui et al. “Classical and non-classical psychedelic drugs induce common network changes in human cortex.” NeuroImage vol. 273 (2023): 120097. doi:10.1016/j.neuroimage.2023.120097
  5. Good, Meghan et al. “Pharmacokinetics of N,N-dimethyltryptamine in Humans.” European journal of drug metabolism and pharmacokinetics, 1–17. 22 Apr. 2023, doi:10.1007/s13318-023-00822-y
  6. Michael, Pascal et al. “An encounter with the self: A thematic and content analysis of the DMT experience from a naturalistic field study.” Frontiers in psychology vol. 14 1083356. 27 Mar. 2023, doi:10.3389/fpsyg.2023.1083356
  7. Kopra, Emma I et al. “Investigation of self-treatment with lysergic acid diethylamide and psilocybin mushrooms: Findings from the Global Drug Survey 2020.” Journal of psychopharmacology (Oxford, England), 2698811231158245. 6 Mar. 2023, doi:10.1177/02698811231158245

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