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興味深い質問があります。人間をはじめとする哺乳類の身体はなぜ、強力な幻覚剤であり、多くの植物内にも見られる N,N-Dimethyltryptamine (DMT) を産生するのでしょうか? がっかりするかもしれませんが、その答えは「まだわからない」です。『Journal of Psychopharmacology』誌に掲載された新しいレビュー論文 1の著者によれば、DMT の存在理由——それどころか、それが哺乳類にとって何らかの生理的意味があるのかどうかさえ、60年間の議論を経てもまだその答えはわからないままなのです。

このレビュー論文は、DMT 研究が始まったのは 1961年のことで、『Science』誌に、精神疾患の根底に DMT がある可能性があると主張する論文 2 が掲載されたことがその始まりであるとしていますが、ここではその歴史全体をおさらいするのではなく、2001年から始めたいと思います。リック・ストラスマンの画期的な著書『DMT: The Spirit Molecule』が出版されたその年、DMT はまだ、ニッチな分野のニッチな研究対象でした。2001年の時点では、査読を経たあらゆる分野の科学論文の中で、DMT に一言でも言及しているものはわずか 6本にすぎませんでした。そのうち、ストラスマンが共著者の一人である 1本 3 を含めた 5本は、研究の手法と DMT の薬理学に関するものでした。(残る 1本は、DMT が含まれる幻覚剤アヤワスカを煮たものが人間の意識に与える影響についてヨーロッパから報告されたもの 4 で、この先駆的な論文は現在、広く引用されています。)

ストラスマンは、松果体で産生された DMT は、臨死体験をはじめとする神秘的な体験に重要な役割を果たす、という仮説を立てました。

アメリカではストラスマンが 1990年代にニューメキシコ大学で、健常なボランティアに純粋な DMT を静脈投与することで得られる独特で強力な効果に関する研究を行いましたが、これは20年以上ぶりに初めて政府が許可した幻覚剤研究でした。それだけでなく、その画期的な実験に基づいた彼の著作は、「第3の眼」とか、魂の在り処であると考える人もいる松果体にまつわる、かなり挑発的な仮説を提案し、人体における内因性 DMT の役割に関する議論を再燃させました。

具体的に言うと、ストラスマンの仮説は、松果体(脳の奥深いところにある米粒ほどの大きさの腺で、DMT の類似体であるメラトニンを分泌)で産生された DMT は、臨死体験をはじめとする神秘的な体験に重要な役割を果たす、というものでした。ストラスマンの研究によって記録された数十におよぶ DMT 体験事例の多くは、それまでに報告された臨死体験に共通して見られる特徴を含んでいました。

再考・第3の眼

『DMT: The Spirit Molecule』が出版(および、その後、ストラスマンが共同制作に加わりジョー・ローガン [訳注:アメリカのコメディアン、総合格闘技のコメンテーター、ポッドキャストの司会者] が出演したドキュメンタリーがリリース)されると、こうした考え方は、「カウンターカルチャーにおける疑似科学」における注目の的になった、と、レビュー論文の二人の著者(いずれもスペインにある ICEERS [International Center for Ethnobotanial Education, Research and Services] 所属)は述べています。ところがそれからレビュー論文は、サイケデリックス研究のもう一人の大御所、デヴィッド・ニコルズによる論文を引用して、ストラスマンの仮説に水を差します。ニコルズは 2018年に、「松果体が、人が死ぬ前の数秒間、あるいは数分間のうちに、完全な幻覚作用を発揮するに足る量の DMT を産生するために乗り越えなければならない数々の問題」を明らかにする論文を発表しています。

問題をいっそう複雑にしているのは、このレビュー論文がまた、2019年に『Nature』誌に掲載されたある論文に言及しているからです。これは、ラット——松果体があるものとないもの——に人工的に心不全を起こさせると、その視覚野において、細胞外の DMT 量が倍増することを述べたもので、ストレスの強い状況と内因性 DMT には関係があるが、DMT と松果体には関係がないということを示唆しています。

この神秘的な分子が哺乳類の体内で少量産生されるのには、他にどんな理由があるのでしょうか? レビュー論文には、「DMT は神経伝達物質であり、神経修飾物質であり、神経ホルモンであって、末梢組織を保護する役割を果たすのではないかという仮説がある」と書かれ、それぞれの役割に関するエビデンスが、古くは 1970年代、新しいところでは 2010年代の研究から引用されています。ただし論文は再びニコルズに言及し、「検知された程度の量では、DMT が何ら自然な役割を果たすとは考えにくいとする論文もある」と述べています。

最終的には、このレビュー論文の著者の結論は、ニコルズよりも若干ストラスマン寄りのところに落ち着くようです。内因性 DMT が、哺乳類の生理に何らかの——おそらくは、意識あるいは夢見に関連しているというのが彼らの推測ですが——役割を果たしている可能性は「非常に高い」と論文は結論しています。

現在進行中の DMT 研究

内因性 DMT の機能については長らく議論が続いており、人々の関心が高いにもかかわらず、現在 DMT 研究がフォーカスしているのは、通常は喫煙あるいはべーピングという形で、アヤワスカに含まれる成分あるいは DMT 単独を幻覚剤として使用する場合についてです。でも、内因性 DMT の役割を明らかにすることと DMT の幻覚剤としての作用を明らかにするという二つの研究目的を分け隔てする必要はないのです。なんとなれば、内因性カンナビノイドとエンドカンナビノイド・システムの発見は大麻草の研究から導き出されたものであり、それを研究することが今度は大麻やカンナビノイドの医療利用に役立っているのですから。

レビュー論文の著者が挙げている別の例では、アヘン剤のおかげで私たちは疼痛をよりよく理解し、それによって私たちはよりよいアヘン剤の使い方ができるのです。それと同様に、「幻覚剤が本来どのように身体に作用するのかを理解すれば、幻覚剤についての知識は大幅に向上するだろう」と論文は述べています。

さらに言えば、スケジュール I に指定された薬物である大麻草と DMT のそれぞれに対応する内因性カンナビノイドと内因性 DMT が、もしも「人間が人間であるために重要なことの核心にある」ならば、それだけで、現在私たちがこれらの薬物に対して持っている法的・政治的・哲学的見方を検討し直すには十分である、と論文は述べています。


Nate Seltenrich は、サンフランシスコのベイエリアに住む科学ジャーナリスト。環境問題、神経科学、薬理学を含む幅広いテーマについて執筆している。


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参照文献

  1. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35695604/
  2. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/13685339/
  3. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11295326/
  4. https://link.springer.com/article/10.1007/s002130000606
  5. https://pn.bmj.com/content/22/2/168
  6. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29095071/
  7. https://www.nature.com/articles/s41598-019-45812-w

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