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THC の精神作用が主に CB1 カンナビノイド受容体を介して起こるのと同じように、「古典的な」サイケデリックス——LSD、シロシビン、メスカリン、ジメチルトリプタミン(DMT)など——の作用はセロトニン 5-HT2A 受容体の活性化によって起こるのが特徴です。

中枢神経系に広く発現している 5-HT2A 受容体は、学習と記憶、知覚、炎症、ホルモン調節、それにもちろん幻覚を含む、数々の重要な生理過程に関与しています。

こうした機能の多くをエンドカンナビノイド・システム(ECS)が「マスター・レギュレーター」として調節していることを考えれば、5-HT2A の下流効果の一部はおそらく、内因性カンナビノイドの放出とシグナリングを変化させることで起こるのだと考えても不思議はありません。

セロトニンとECSのクロストーク*

権威あるサイケデリックス研究者デヴィッド・ニコラスらによる 2006年の論文1は、ラットの脳細胞の 5-HT2A 受容体をセロトニンで活性化させたところ、内因性カンナビノイド 2-AG が増加した一方、もう一つの主要な内因性カンナビノイドであるアナンダミドは増加しなかったと述べ、「セロトニンなどの神経伝達物質はエンドカンナビノイド・トーンを調節する役割を果たしているのかもしれない」と結論しています。

その2年後に発表された別の論文2は研究をさらに一歩進めて、ラットのニューロンの 5-HT2A 受容体をセロトニンで活性化すると、内因性カンナビノイドばかりでなく CB1 受容体の発現に影響を与えることを示しました。2-AG、アナンダミド、そして THC がいずれも作用標的とする CB1 カンナビノイド受容体は、大麻が持つ向精神作用にとっての要であり、さまざまな認知・生理過程で重要な役割を果たしています。「この結果によって、セロトニンのシグナリングと内因性カンナビノイドのシグナリングの間には相互関係があることがわかった。脳全体における 5-HT2 受容体ファミリーの働きの多くは、この関係が媒介しているようである」と論文は述べています。

それから 15年ほど経った今、2つの研究チームが、この関係について、高用量のアヤワスカを摂取した後の人間を対象にした研究結果を発表しています。摂取したのは、5-HT2A 作動薬であり強力な幻覚作用を持つ DMT と、より間接的な形でエンドカンナビノイド・システムに作用する可能性がある植物性化合物を含む複雑な混合物です。

ここから明確な結論が導き出せるかどうかはまだわかりませんが、この研究は、二つの重要な神経伝達物質系の間のクロストークと幻覚体験を引き起こす一連の生理過程についての研究を前進させるものとして注目に値します。

[*] クロストークとは、信号伝達物質中の成分が生体中の条件により、異なる伝送経路と応答に分配する現象のこと]

アヤワスカと内因性カンナビノイドと社会不安障害

強力な幻覚作用を持つ植物、アヤワスカから作られた調合物が昔からシャーマンによって使われてきた歴史のあるブラジルでは、ある研究チームが、上述の二つの予備研究に触発され、現代的かつ科学的な疑問を解こうとしました。つまり、健常人および不安神経症と診断された人の体内の内因性カンナビノイドの量は、アヤワスカの投与によってどのような影響を受けるのか、ということです。

研究チームは、二つの小規模な無作為化対照試験を概念実証のために行っています。一つ目の試験では、20人の健常な被験者が一回分のアヤワスカまたは偽薬を摂取、二つ目の試験では、17人の不安神経症患者が偽薬または一回分のアヤワスカ(ただし効力は約2分の1)を摂取しました。その後、摂取前、接種後 90分および 240分経過した時点での血液を採取してアナンダミドと 2-AG の血中濃度が分析されました。

2022年 2月に『Human Psychopharmacology』誌に掲載された論文3によると、いずれの試験でも、計測された数値には大きなばらつきがあり、二相効果が認められる場合(通常はまず濃度が高まり続いて低下しましたが、その逆の場合もありました)もありましたし、一貫して濃度が上昇あるいは低下し続けた人もいました。統計的に有意な結果はなく、結論は導き出されませんでした。

論文の要約には、「二つの試験の結果を総合すると、不安神経症患者では、アヤワスカ摂取後 90分までは摂取前よりもアナンダミドの血中濃度が高まり、240分後には摂取前よりも低くなった」とあり、「この試験は母集団が小さいためにうまくいかなかった可能性があり、母集団がもっと大きければ統計的に有意な差が見られた可能性がある」と付け加えています。

興味深いのは、結果がばらばらで基礎実験の結果とも一致していなかっただけでなく、同じ研究チームが以前行った試験の結果にも矛盾していたということです。『Journal of Clinical Psychopharmacology』誌に 2018年に投書という形で掲載された短い症例報告4は、34歳の健康な男性一名にアヤワスカを摂取させ、摂取前、摂取後 90分と 240分での血中内因性カンナビノイド濃度を比較しました。その結果、アナンダミドは一貫して減少した一方、2-AG はわずかに減少した後急速に増加したのです。

アヤワスカの分子経路

この記事を読みながら数えていた方にはおわかりの通り、4つの試験で4つの結論が出ているわけです。さらに5つ目をご紹介しましょう。『Biomedicine and Pharmacotherapy』誌に 2022年 5月に論文として掲載された研究5では、オランダでアヤワスカを常用している 23人の健康な被験者の、アヤワスカ使用前と使用後の血漿試料を採取しました。

スペインで行われたこの研究の目的は上述した4つの研究よりもはるかに広範なもので、アミノ酸、ホルモン、神経伝達物質、アナンダミドと 2-AGを含む十数種の内因性カンナビノイド、さらに、DHEA, OEA, 2-OG, LEA, DEAといったあまり知られていな化合物など、多数の物質が計測されました。でもアナンダミドと 2-AG に限って言えば、アヤワスカの摂取によってアナンダミドは増加し、2-AG は減少しました。

これは 2018年のブラジルの事例とは真逆の結果ですが、研究デザインの違いを考慮するとこの2つの結果を比較することに意味はありません。同じく、人体研究の結果を、初期に行われた基礎実験の結果と比較しようとするのも意味がありません。植物から作った複雑な混合物を人体に投与するのは、培養皿の中でセロトニンのみをラットの脳細胞に投与するのとは比較にならないほど複雑な作業だからです。

ここまでのところ、矛盾し合うさまざまなデータから言えることは、エンドカンナビノイド・システムはいわゆる幻覚剤が作用標的とするのと同じ細胞受容体の活性化によって変化すること、また ECS は何らかの形で幻覚剤の生理作用を媒介している、ということです。このことは、さらなる研究が行われる価値のあることのように思えます。


Nate Seltenrich は、サンフランシスコのベイエリアに住む科学ジャーナリスト。環境問題、神経科学、薬理学を含む幅広いテーマについて執筆している。


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脚注

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