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私たちの体は、ホメオスタシス(恒常性)の維持という目的だけのために存在するさまざまな生理機能で成り立っています。たとえば膵臓は血液と細胞の血糖値のバランスを保つためにインスリンを分泌しますし、甲状腺は甲状腺ホルモンを分泌して、代謝、体温 、その他さまざまなことに関連し、生命に関わる身体機能を調節しています。簡単に言えば、私たちの体は常に、外界の環境に対応してバランスを保つために働いているのです。

THCが陶酔作用を引き起こすことはよく知られていますが、それがどのような仕組みで起きるのかを理解しようとする過程の中で、科学者たちは、私たちの体の中に、生理機能を調節するシステムがもう一つあることを発見しました。それが、細胞間の信号伝達の恒常性を保つ役割を持つエンドカンナビノイド・システム(ECSです。さらなる研究の結果、病気、炎症、外傷が ECS を活性化し、体内環境の恒常性を取り戻す働きが起こることがわかりました。エンドカンナビノイド・システムは、生命の保護と維持に欠かせないものとされています。では、エンドカンナビノイド・システムに働きかけることによって、病気を予防し、健康を維持することができるとしたらどうでしょうか?

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体内に最も広く分布している受容体システムである ECS は、カンナビノイド受容体、内因性カンナビノイドと呼ばれる化合物、そして内因性カンナビノイドを生成したり分解したりする酵素、という3つの主要な要素で成り立っています。

内因性カンナビノイドは、必要なときに、食物脂肪を原料として合成されます。カンナビノイド受容体は脳や体の特定の部分の細胞膜に存在しています。具体的には、脳内の、痛みの感覚・記憶・感情・運動制御・吐き気・食欲を司る部分、また腸、免疫系、末梢神経などです。怪我や病気など、体内のバランスが崩れる原因があると、内因性カンナビノイドが分泌され、細胞の上で「錠」のように機能する受容体に対する「鍵」として作用します。受容体が活性化すると細胞内で化学反応が起き、細胞が発する信号を変化させます。

ECS の機能は、遺伝、年齢、ストレスのレベル、食生活、総合的な健康度など、さまざまな要因の影響を受けます。たとえば、ECS をコードする遺伝子に変異型があると ADHDPTSD などに罹患しやすくなったりしますし、さらに、慢性疾患や慢性ストレス、慢性的な睡眠不足などによって内因性カンナビノイドが枯渇することもあります。ECS の正常な働きがこのように損なわれると、細胞のバランスの乱れを調整して恒常性を保つ機能が阻害されます。

2004年、神経科医であり研究者であるイーサン・ルッソ(Ethan Russo)博士が、『Neuroendocrinology Letters』という医学誌に、「エンドカンナビノイド欠乏症(CECD)という概念は、偏頭痛、線維筋痛症、過敏性腸症候群その他の治療抵抗性疾患にカンナビスが奏功することの説明となり得るか?」と題された論文を発表しました。ルッソ博士は、上記のような疾患の患者の中に医療大麻による治療が奏功する人がいるのは、そもそも彼らは内因性カンナビノイドが欠乏していることが原因でそうした症状を発症したからである、という仮説を立てたのです。

その後の研究で、内因性カンナビノイドの欠乏が、自己免疫疾患、てんかん、複合性局所疼痛症候群、心臓血管疾患、うつ病、不安神経症、統合失調症、多発性硬化症、悪心、ハンチントン病、パーキンソン病、月経症状、新生児の発育障害その他、治療が困難な疾患の一因であることが示されました。

大麻草は、テトラヒドロカンナビノール(THC)とカンナビジオール(CBD)を含む、100種類以上の植物性カンナビノイドを産生します。これらの化合物は、ECS に作用し体内の恒常性を回復させるという意味で内因性カンナビノイドに似ています。病気になってからではなく、普段から ECS をいたわる方法はたくさんあります。それによって、ECS はきちんと機能し、エンドカンナビノイド欠乏症を防ぎ、恒常性を保持することができるのです。

精神と肉体が健康であるためには、健康的でバランスの取れた食事を摂る必要があるというのは誰でも知っています。私たちの体が適切な量の内因性カンナビノイドを産生できるかどうかは食べるものにかかっています。カンナビノイドは食事に含まれる脂肪酸から合成され、適切な量が産生されるためには、特定の割合のオメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸を必要とします。

生体利用効率(バイオアベイラビリティ)を最大にするには、食事から取るオメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸の理想的な比率は 5:1 から 1:1 の間で、慢性疾患がある人の場合はオメガ6の比率が低いほど良いのです。欧米の食事は通常その比が 20:1 となっており、それは多くの加工食品に使われている植物油によってオメガ6脂肪酸を摂りすぎているためです。オメガ6脂肪酸がオメガ3脂肪酸に比べてはるかに多い欧米型の食事は、内因性カンナビノイドの減少につながり、恒常性を保つことができなくなります。

ECS を健康に保つもう一つの要素は有酸素運動です。動物実験では、自発的車輪走行によって脳内のカンナビノイド受容体が増加し、内因性カンナビノイドに対する受容体の感受性が高まりました。人を対象とした研究でも、ランニング、自転車走行、ハイキングなどの運動が内因性カンナビノイドの血中濃度を高めるという結果でした。実は、「ランナーズ・ハイ」と呼ばれる現象は、内因性カンナビノイドが引き起こすものである可能性が高いのです。

プロバイオティクスもまた、ECS を強化する可能性があります。ヨーグルトやサワークラウトといった発酵食品に含まれるプロバイオティクス、アシドフィルス菌は、腸内のカンナビノイド受容体の発現を誘導し、恒常性を高めます。

鍼やオステオパシーもまた ECS を強化しますし、ヨガや瞑想は弛緩反応を引き起こします—精神的・肉体的な健康を促進する行動を意識的に行うということです。今のところ臨床試験は行われていませんが、多くの専門家が、こうしたストレスマネージメントの手法は ECS を強化して恒常性を高めるのではないかと考えています。

最後に、医療大麻が病気の予防に役立つかどうかを考えてみましょう。植物性カンナビノイドは非常に安全で、抗炎症作用、抗酸化作用、そして神経保護作用があることが知られています。エンドカンナビノイド欠乏症の人にとっては、大麻を使うことが治療になり、症状が消える可能性があります。大麻を常用することで、自己免疫疾患や神経変性疾患を含むさまざまな疾患の根本原因とされる、慢性の炎症やフリーラジカルの蓄積が軽減できるのです。

大麻は空腹時インスリン値とインスリン抵抗性を低下させ、糖尿病の発症を防ぎます。2018年の初めにドイツの研究者らが行った研究では、年をとったマウスに低用量の THC を継続的に投与すると、加齢に伴う認知力の低下が反転することがわかりました。

さらに、医療大麻が合法である州では処方薬の使用量が大幅に減少し、オピオイド系鎮痛薬の過剰摂取による死亡例が約25%減少したことが調査で明らかになりました。

医療大麻を使用すると、睡眠の質が向上し、不安感うつが軽くなり、疼痛炎症が軽減されて、全般的な健康度が高まり、積極的な生活を送れる、と多くの患者が言っています。どんな病気の予防のためにはどういったカンナビノイドの組み合わせをどれくらいの用量摂れば良いのか、正確なことはまだこれからの研究課題ですが、おそらく、THCCBD の両方を含む低用量を断続的に摂取することでエンドカンナビノイド・システムが補強され、副作用もないのではないかと思われます。そして、正しいバランスの脂肪酸を含む健康的な食事と有酸素運動、そしてストレスマネージメントを取り入れることで、あなたのエンドカンナビノイド・システムが恒常性を維持するのを助けることができるのです。

あなたがしっかりとエンドカンナビノイド・システムをいたわることで、あなたのエンドカンナビノイド・システムはあなたを護ってくれることでしょう。


ボニ・ゴールドスタイン博士はロサンゼルスに拠点を置く医師であり、医療大麻に関する教育・セミナーなどを行う Canna-Centers のメディカル・ディレクター。著書に『Cannabis Revealed』がある。


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