アメリカの西から東まで、医療大麻に関する各州の法規制には不明瞭な点が多々ありますが、その一つが、大麻と大麻由来製品の動物用医薬品としての立ち位置です。このたび、この問題ついての法的な基準を明確にすることを求める非営利団体が立ち上がりました。
Veterinary Cannabis Society(獣医大麻協会、VCS)はその使命を、「教育、啓蒙、製品規格化の推進を通じて、ペットが安全に大麻を使えるよう恒久的な問題の解決策を作ること」としています。
カリフォルニア州オークランドにある Holistic Veterinary Care の獣医ゲリー・リヒターは、この団体の共同創設者であり、副代表です。リヒター氏は、1998年に開業した自分の病院を、標準的な西欧式の獣医学と同時に、鍼治療、カイロプラクティック、薬草などの「代替治療」も取り入れた「統合医療」であると表現します。
そしてこの「代替治療」には大麻も含まれます。「ずっと以前から、医療大麻が動物の役に立つのを見てきています」とリヒター氏は言います。以前から氏は、大麻を治療に使うことをペットの飼い主と話し合ってきました。現在、カリフォルニア州の州法ではこれが許されています。
2017年に Project CBD がリヒター氏にインタビューした際には、大麻が動物に奏効する疾患の例として、消化器障害、疼痛、炎症を挙げています。
教育と啓蒙
リヒター氏によればこの新しい団体は「ペットの飼い主と獣医がともに啓蒙活動に参加し、各州単位で問題を解決するためのフォーラム」です。「認証制度を作り、製品が適正に製造されるようにしたいんです」
間もなく各製造会社は「基準を満たした工場で製造され、きちんと検査され、中身を正しく表記したラベルの付いた製品であることを保証する、VCS 認定マークを製品につけられるようになる」とリヒター氏は予測しています。「製造会社がラベル表記や広告宣伝を正しく行い、製品について不適切な謳い文句を使ったり、約束できないことを約束したりしないようにしたいんです」
リヒター氏は、「教育、啓蒙、業界との協力」という3本柱を通じて、アメリカ全国で統一基準が適用されるようになることを願っています。
VCSは、設立の時点で複数の州に会員がいますが、今年 10月にネバダ州リノで開かれる American Holistic Veterinary Medical Association(全米ホリスティック獣医学協会、AHVMA)の年次学術会議でのパネルディスカッションを通して、さらに多くの人々を会員に迎える予定です。
カリフォルニア州下院法案2215
大麻や(少なくとも)大麻からの抽出物は、ほぼすべての州で医療用途の利用が認められていますが、大麻とカンナビノイドを獣医が使用することに関する法的な立場を明らかにしようと最初の一歩を踏み出した州は少なく、カリフォルニアはその一つです。
そのきっかけになったのは、2017年2月、州の政府機関である Veterinary Medical Board(獣医学委員会)が、州内のすべての獣医に宛てて「Current Laws and Policies Regarding Marijuana, Hemp, and Animals(大麻、ヘンプと動物に関する現行法と政策)」と題した書面を送ったことでした。そこには、「カリフォルニア州法には、獣医が動物の治療のために大麻を処方・推薦・承認することを許可するものは一つもない。獣医が診療に大麻を用いた場合はカリフォルニア州法に違反する」と書かれていたのです。
委員会からの書面はこんな言葉で締めくくられていました —「実際の対応という意味では、仮に獣医学委員会に、委員会認定医が大麻またはヘンプ由来の製品を治療に使用しているという苦情が寄せられた場合、委員会には、調査を実施し、その結果必要ならば適切な懲戒処分を行う義務がある」
これによって、同年、サンノゼ市選出のアッシュ・カルラ議員が起草した下院法案 2215 が可決されました。この法案では、獣医が、実際に大麻の「使用を推薦」することはできませんが、懲戒処分や訴追を恐れることなくクライアントと大麻について話すことは許されています。最終的には獣医学委員会もこの法案の可決を支持しましたが、「大麻に関する研究の必要性を懸念する」という但し書き付きでした。
実はリヒター氏は、これとは別の、セントラル・ヴァレー市選出のキャスリーン・ガルジアーニ議員が起草した上院法案 627 を熱心に支持していました。これが可決されれば、カリフォルニア州の衛生安全法規が改定され、獣医は堂々と大麻の使用を推薦できたのです(ただしペットのみ、家畜は含まず)。でもこの法案は、1年に及ぶ立法過程の紆余曲折の末、結局可決されませんでした。「これが成立すれば問題は全部解決できたのに」とリヒター氏は嘆きます。
脆弱な法的救済策
上院法案 627 が可決されなかった原因はどこにあるのでしょうか? この法案は、2019年 5月、カリフォルニア州議会上院を全会一致で通過しています。ところが下院に審議が移ると、商業・職業委員会によって、動物用の大麻製品は、正式な医師の推薦なしに、医療大麻ディスペンサリーおよび嗜好大麻ショップのどちらでも自由に販売できる、という条項を加えました。これは歳出委員会には受け入れ難い条項であり、その結果、法案は 2020年に否決されたのです。
今年になって再びアッシュ・カルラ議員によって提出された下院法案 384 は、法的救済策としては上院法案 627 よりも脆弱なものです — 獣医が大麻の使用を推薦しても獣医学委員会による懲戒処分を受けることはありませんが、上院法案 627 のように、動物用の大麻製品を薬とは定義していません。
獣医学委員会を管轄するカリフォルニア州消費者問題局の広報官、ミシェル・M・ケイブは、「獣医学委員会は下院法案 384 に対する公式見解を持っておらず、今後、状況をつぶさに観察しながら検討を重ねる」と Project CBD に語っています。
カリフォルニア州の獣医業界を代弁するカリフォルニア獣医師会(CVMA)は、医療大麻に関する獣医のための継続教育について定めた条項が不十分であるとして、下院法案 627 には反対の立場でした。CVMA は現在下院法案 384 を支持しており、「CVMAは、カルラ議員のオフィスと緊密に連携しながら、この問題についての獣医の声を届ける」という声明を発表しています。
NORMLのカリフォルニア支部も下院法案 384 を支持しています。
ペットの安全を守るために
リヒター氏にとって、下院法案 384 が正式に大麻を薬と認めていないのは重大な欠陥です。なぜなら、大麻製品の品質基準と監督制度の必要性は、2018年からカリフォルニア州で嗜好大麻が合法化されて大麻の規制が緩んだことで一層強まった、と考えるからです。
「嗜好大麻が合法化されたので、みな近道をして薬を手に入れるようになりました。その結果、ペットには適切な投薬がされなかったり、大麻以外のもののほうが適切なのに大麻を与えたりということが起きます。私たちは、医療大麻ディスペンサリーが動物用の大麻製品を販売できるようにしたいんです。それは可能だと思っています。世論と獣医からのより大きな支持があれば、ペットの安全を守るために議員を動かすことができると思います」
カリフォルニアでは、CBD製品は堂々とペット用として販売され、VetCBD がこの分野のリーダー的存在ですが、リヒター氏は、急いで規制する必要があるのは精神作用のある製品であると考えています。
「CBDには規制はそれほど必要ではありません。カリフォルニアの法案が問題にしているのは THC です。高 THC の製品は、中毒や過剰摂取事故を防ぐために、医師からの推薦がなければ買えないようにすべきだと思います」とリヒター氏は語ります。
すでにリヒター氏は、大麻を過剰摂取したペットを診たことがあります。「大麻による中毒症の大部分は偶発的なものです。たとえば、犬が人間用の製品を食べてしまったとか。大抵はそのままでも大丈夫なのですが、医療介入が必要なこともときどきあります — 点滴をして排泄を急がせ、体内から大麻を排出させるとか。稀ですが、死んでしまうこともあります」
これは、今年3月にドイツの医学雑誌『Animals』で発表され、アメリカの国立衛生研究所のウェブサイトにも掲載された論文とも一致しています。この論文の抄訳には、「大麻由来製品の普及とともに、中毒症で獣医の診察にかかる症例が増えている。加えて、自分のペットにそうした製品を使うことに関心を持つ飼い主も増えている」と書かれています。
救急外来の増加
メンドシーノ郡のレイトンビルにある Lovingly & Legally は、「社会的目的会社」として登記され、下院法案 627 を正式に支持しました。共同ディレクターであるポール・ハンズベリーとスーザン・ティボンは、長年地元の大麻業界で働いた経験があり、現在は「人間と動物の健康と福祉にとって最高の仕事」をしている、と語ります。
「フェースブック先生やグーグル先生の言うこと、あるいはバッドテンダーの意見に基づいて動物を治療すべきではありません」とハンズベリー。カリフォルニア州で 21歳以上の成人による嗜好大麻の使用が合法化されて以来、大麻による中毒症で動物病院の救急室に運び込まれるペットの数が大幅に増えたと言います。
「大抵は、ペットがエディブル製品を食べてしまうんです」とティボンが付け加えます。「でも、製品の説明が不足だったり説明が間違っていたりする場合も一部あります。押しの強い宣伝は多くて、最新のペット用製品にみんなが夢中になるのです」
「これは危険な状況です。たとえば、甲状腺機能亢進症の猫だったら、医師による診断を受けなければ臓器不全を起こしかねません。人間と動物は違います。薬にはすべて、『子どもや動物に与えないでください』と書いてありますよね。それには理由があるんです」
「下院法案 2215 は単に、獣医の基本的人権を再確認したにすぎません」とハンズベリーは言います。一方、下院法案 384 では、Veterinary Medical Practice Act(獣医法)が改定され、獣医が大麻の使用を推薦できるようになります — ただし、2016年にカリフォルニア州で成人の大麻使用を合法化したイニシアティブの授権法規である 「医療用および成人用大麻規制と安全法(MAUCRSA)」 による規制の枠組みには明確には組み込まれません。
つまり、仮に下院法案 384 が成立したとしても、「ガードレールも安全対策も存在しない」のだとハンズベリー。「獣医はペットのオーナーに医療大麻を推薦したいんですよ」— この法案の欠点を彼はまた一つ指摘します。「でも、ナパ郡のように嗜好用大麻のディスペンサリーを認可しないところではそれをしても意味がありません。医師の定義に獣医が、患者の定義に動物が含まれるように MAUCRSA を改定しない限り、こういう郡では何一つ変わりません」
業界による悪影響?
ハンズベリーとティボンは、動物用の医療大麻製品を州の監督の下に置く法案(上院法案 627)の可決に失敗した理由として、VetCBD というカリフォルニアのブランドが行っているロビー活動を挙げます。VetCBD の製品はカリフォルニア州法では(「ヘンプ」ではなく)「大麻」に分類される原料から作られているため、そうした法律ができれば彼らの製品も州の管理下に置かれる、ということに注目すべきです。
この件についてコメントを求めたところ、VetCBD の創業者で CEO であるティム・シュー氏は、VetCBDは「獣医がクライアントと大麻について話し合うことは許可するが使用を推薦することは認めない下院法案 2215 の可決は支持しましたが、『話し合い』と『推薦』の境界がどこにあるのかがわからない獣医が多いため、未だに大麻について話し合うことをまったくしようとしない獣医が多く、そのため VetCBD は下院法案 384 を支持しています。下院法案 384 が可決されれば、獣医は医療大麻の使用を推薦しても懲戒処分を受ける恐れはありません。また、カリフォルニア州の大麻規制の枠組みである MAUCRSA の定める基準に従ってきちんと検査され監督されたペット用大麻製品という製品カテゴリーが生まれます」と答えました。
VetCBD とロビー活動の関係について尋ねると、シュー氏は「VetCBD は、下院法案 384 を広く認知させることに尽力しており、カリフォルニア州議会に手紙を書いてこの法案への支持を表明するよう人々に要請しています」とだけ答え、そのために作られた PetCannabis.org というウェブサイトを示しました。
獣医学とニューヨークの大麻合法化
この問題の解決に取り組み始めているのはカリフォルニア州だけではありません。ニューヨーク州ロチェスターのアンディ・フレミングは、獣医大麻協会(VCS)の創立メンバーの一人であり、ニューヨーク州獣医協会の元会長です。彼は、ニューヨーク州で制定されたばかりの合法大麻関連の法規が、少なくとも暗に獣医による大麻の使用を認めていることを嬉しく思っています。
これまでのニューヨーク州の医療大麻制度を拡大したマリファナ管理・課税法(MRTA)では、獣医は、「定義」という項目の中で、ヘルスケアの「プロバイダー」に含まれています — ただし、これ以外に獣医が言及されている箇所はありません。「我々獣医は、治療に大麻を使ってはいけないとは書いてありませんが、使っていいとも書いてありません」とフレミングは言います。「実際の法令がどうなるか。獣医の大麻利用についてしっかりした施策案ができるといいんですが。我々の意見を届けるチャンスはあるかもしれません。使い得るすべてのカンナビノイドが使えるようにしたいんです。ニューヨーク州が先導してくれることを願っています」
フレミングは以前、ロチェスターで Cats Exclusively という病院を経営しており、現在も、犬や猫の不全まひの治療に中国の漢方薬や鍼を使うなど、さまざまな療法を取り入れた診療を行っています。彼はフロリダ州レディックにある Chi University で中国医療を学びました。Chi University は、獣医学の分野で薬草学の教育と実践が広く行われている中国で教育を受けた Husing Xie 氏が創設した獣医科大学です。フレミングの履修科目で大麻が言及されることはありませんでしたが、CBD が普及し始めると、フレミングは独学で大麻について学び始め、続いて人に対する医療大麻の利用について教えるコロラド大学のオンラインコースを履修しました。
フレミングは、たとえば HempRX といった動物用の CBD 製品は、犬の変形性関節症などの治療に奏効する可能性があると感じていますが、動物に対して THC を使うには、まだまだ研究が不足だと思っています。「THC は、動物の治療でオピオイド鎮痛薬の使用を徐々に減らしていく鍵になるかもしれません」
その他の州
フレミングにとって転機となったのは、メーン州ポートランドで 2019年 9月に開かれたアメリカ獣医師会(AVMA)東北地区の会議で、『エンドカンナビノイド・システムとその臨床応用』と題された講演を聞いたときでした。講演をしたのは、コロラド州デンバー郊外のホイート・リッジという町にある Colorado School of Animal Massage の獣医、カサラ・アンドレでした。「マサチューセッツ州では大麻が合法化されたばかりで、みんな関心が高く、熱心でした」とアンドレは回想します。
フレミング同様 VCS の創設メンバーであるアンドレは自分を「統合ホリスティック医」と呼びますが、獣医としてのキャリアの始まりは、ノースカロライナ州の軍事施設フォートブラッグその他、軍隊で犬の世話をしたことでした。国からの給付金でバージニア工科大学獣医学部で学び、代わりに 10年間、将校として従軍したのです。そして 2016年に退役しました。
2016年、コロラド州獣医協会(CVMA)は、「コンパニオンアニマルに対する大麻および大麻由来製品の使用に関する CVMA の見解」という文書を発行し、そこには「獣医は、コンパニオンアニマルのオーナーに対し、動物に大麻製品を用いる際のリスクとベネフィットについて、徹底した情報提供を行う義務がある」と書かれていた、とアンドレ。また 2021年 1月にはミシガン州で、獣医がペットの飼い主(最近は “ペットの両親” という言い方を好む獣医が増えています)と大麻製品について話し合うことを許可する法律が制定されました。
ただし、法律にはまだ根本的に欠けているものがあります。「大麻草は、マリファナとしてはスケジュール1の規制物質ですし、ヘンプは規制物質ではありません。どちらにしても、処方が出来ないのです。そして現在、獣医が大麻の使用を推薦することを許す法律もありません — つまり、実際にペットに医療大麻患者カードを発行し、具体的にそのペットに合った製品をディスペンサリーで買えるようには出来ないんです。ペットの両親は自分用として製品を買い、『この製品を私の犬にも使いたい』と自分で決めなければなりません。正確な専門用語もないので、みんなとても混乱しています」
法律が明確になるまでは、VCS と責任感のある獣医が大麻使用の手引きを提供し、ペットの両親が確実に大麻製品の分析証明書を見て理解できるようにしてほしい、とアンドレは言います。分析証明書とは、その製品が、認定された検査所の検査に合格し、定められた品質基準を満たしていることを保証するもので、カリフォルニア州でも他の州でも義務付けられています。
「製品が動物にとって危険でないことを確認する必要があります」とアンドレは強調します。「エディブル製品の中にはチョコレートを使ったものがありますが、チョコレートは動物、特に犬には良くないんです。甘味料としてキシリトールが使われているものもありますが、キシリトールはごく少量で犬の腎不全を引き起こします。カンナビノイドとテルペンそのものはとても安全ですが、人間用に加工されたものは動物には問題となることがあるんです」
有望な研究結果
VCS のもう一人の創設メンバーで、カリフォルニア州ロングビーチに住む獣医トリナ・ハザーは、現在 VCS の会長を務めています。彼女も Chi Institute の認定を持っており、勤めていた動物腫瘍専門の病院を最近辞めて、Green Nile という名前の医療大麻コンサルティング・サービスを始めました。
大麻製品が持っている抗炎症作用、鎮痛作用、抗けいれん作用は注目されるべきだとは思っていますが、「知識不足と、獣医委員会から処罰されるのではないかという恐れが、私たちを尻込みさせています。獣医が安心して大麻のことを話し合える場が必要なんです — 批判されることなく情報を交換できる場がね。それに、動物向けの医療大麻をもっときちんと管理し、品質基準を設けることも必要です」
ハザーは、色々なことが科学的に解明されつつあると考えています。「ペットの両親に特定のニーズがあるとすると、どのカンナビノイドが最も効果的なのかがわかるようになってきています。たとえば CBDA は COX-2 を阻害します。COX-2 は炎症に関与する酵素なので、炎症の治療に使うカンナビノイドには CBDA を含めるとよいかもしれない、というようなことがね」
犬の関節炎の治療に CBD を使う実験も、コーネル大学とコロラド州立大学で最近行われ、有望な結果が出ています。「この研究からは、CBD が犬にも猫にも非常に安全であることがわかります」とゲリー・リヒターは言います。「でも、獣医学においては、動物に対する THC 使用の研究はほとんど行われていないのです」
ビル・ワインバーグ(Bill Weinberg)は、人権問題、環境、薬物政策の分野で30年の実績と受賞歴を持つジャーナリスト。High Times 誌のニュースエディターを務めたこともあり、現在は CounterVortex.org と Global Ganja Report というウェブサイトを運営している。
トップ画像提供:Emily Mueller
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