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メキシコの最高裁判所が連邦議会に大麻を合法化するよう命じてから2年余り。一向に進まない立法についにしびれを切らした最高裁判事らが新しい裁定を下しました。これにより今後は、司法令により、大麻の個人使用が刑罰の対象でなくなります。

ところが、商業的な製品製造に関する規定は存在せず、最高裁の決定は、個人による所有と栽培に関しても連邦政府による厳しい規制を求めています。また、この司法決定が、メキシコにおける長年の、血みどろの麻薬抗争の悪夢を終わらせるという難題に対してどこまで実質的な効果を発揮できるかも定かではありません。

麻痺状態の立法府

メキシコの国家最高司法裁判所(SCJN)は、2021年6月28日、嗜好大麻を「完全に禁じる」一般衛生法の規定を無効とする決定を発表しました。

2009年にメキシコで可決された限定的な大麻の非合法化は、「個人使用」とみなされる量 — その量がどれくらいであるかは判事の裁量に委ねられていましたが、実際には5グラムとされていました — については刑罰の対象としないというものでしたが、8 対 3 の投票で決まった今回の裁定は、それをさらに押し進めたものです。

ただしこの裁定は、真の意味での合法化と考えるものには及ばない、と考える人もいます。なぜならそこには商業市場への言及が一切ないからです。とは言え、この決定では、個人使用のための「植え付け、栽培、収穫、調合、所持、輸送」は明白に許可されています。

最高裁がこのような裁定を下したのは、この問題に関してメキシコ連邦議会が機能麻痺に陥っているためです。メキシコ最高裁は 2018年 10月に、大麻を禁じるのは違憲であり、「人格を自由に発達させる」という人間の根本的な権利を侵害しているという裁定を下しています。この裁定は、議会が 90日以内に法律を改正することを命じました。ところが改正の内容に関する合意を形成することができないメキシコ議会は、数度にわたって最高裁に改正期限の延長を求めてきました。その最後の延長期限であった 4月 30日も、衛生法には何の改正も行われないまま過ぎていきました。

「歴史的な日」

この新たな裁定について、アルトゥーロ・サルディバル最高裁判事は「これは自由にとって歴史的な日である」と述べています。

でも、この裁定に定められた内容は窮屈なものです。合法的に大麻を栽培するためには、市民は連邦衛生リスク対策委員会(COFEPRIS)に許可を申請しなければなりません。この制度が具体的にどのように運営されるかの詳細 — そこにはおそらく個人使用とされる量の定義も含まれるものと思われますが—は、6月28日の裁定から 60日以内に最高裁によって発行される、engrose と呼ばれる文書にまとめられることになっています。

この数年、メキシコでの大麻合法化を求める政府への呼びかけを強めてきた活動家たちは、この裁定を歓迎してはいるものの、まだ不十分であると主張します。活動団体 Regulación por la Pazプレスリリースの中で、「最高裁の裁定は、この件における立法府の責任をより強めるもの」であり、「市民の権利が保証されるために必要な法改正内容に、これまで注ぎ込まれてきた努力が盛り込まれるよう、立法の作業を継続していくことが必要である」と述べています。

この新しい裁定の中で最高裁は再び、議会が「個人使用」の権利を認める法律を制定するよう「強く勧告」しています。けれども完全な合法化については、商業栽培、流通、販売に関して元老院と代議院が可決したさまざまな法令の泥沼にはまったままです。最後に改正法案が代議院から元老院に送られたのは3月のことですが、法案は元老院で棚上げになったままで、その一因には対立する保守派勢力があります。

「流行りの政策だというだけですよ」。野党右派である国民行動党の元老院議員ダミアン・セペダ・ヴィダレスは、そう言って合法化そのものを否定します。

これにがっかりしたのは活動家だけではなく、メキシコの「グリーンラッシュ」を期待していた海外の投資家たちも同様です。メキシコの合法市場への進出を狙っている大麻企業の中には、たとえばカナダの Canopy Growth 社やカリフォルニア州の Medical Marijuana Inc. などがありますが、今のところは彼らも、待つ以外には何もできません。

住民投票の可能性

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President Andrés Manuel López Obrador

メキシコ大統領である、通称 AMLO ことアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール氏は左派ポピュリストで、2018年、メキシコで繰り広げられる血みどろで終わりの見えない麻薬抗争の緩和を公約に掲げて当選しました。ところが、最高裁の裁定に対する彼の反応はあやふやで、裁定に従うとは言ったものの、同時にこの決定を国民投票にかける可能性をほのめかしたのです。

「もちろん、裁判所の決めたことは尊重しますし、検討します。それがどんな効果をもたらすかをね」。最高裁の裁定後、オブラドール大統領は記者会見でそう述べ、さらに、この問題については、彼自身の内閣を含め「意見が2つに割れている」と付け加えました。

「もしもこれが、深刻な薬物依存問題への対応の役に立たず、暴力を止めることができないということが分かれば、我々は行動に出ます」と大統領は述べています。つまり、さらに新しい、より厳しい制約を定めた法案を議会に提出する、あるいは国民投票にかけることも可能であると示唆しているのです。

今年前半、オブラドール大統領は、医療大麻制度を大きく拡大させる法律を制定し、メキシコ国内での大麻栽培と研究を認めました。この新しい規制では、監督の権限は COFEPRIS に与えられ、COFEPRIS はもう一つの政府機関、メキシコ食品衛生安全品質管理局(SENASICA)と共同で、許可証の発行や品質基準の開発を行います。

けれどもこの法律は主に製薬会社に関するもので、個人の自家栽培に関する条項はありません。このことは、投資を考えている企業には熱狂的に歓迎されましたが、メキシコの合法化活動家たちには圧倒的に不評です。

合法化活動の高まり

裁判所によって命じられた法改正の義務を議会がなかなか果たさなかったのは、大麻の医療利用の場合も同様です。2015年 8月、モンテレイに住む 8歳の少女グラシエラ・エリザルデの両親が、娘のてんかん治療のために CBD オイルの入手許可を求めたのに対して政府が下した拒否の決定を裁判所が覆し、グラシエラはメキシコで初めての合法的な医療大麻患者となりました。けれどもメキシコ議会が CBD のみの使用を許可する限定的な医療大麻法を制定したのは 2017年 6月になってのことでした。

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Mexico City, May 8, 2021: Activists march to legalize marijuana

それ以来メキシコの患者は、アメリカから輸入された CBD 製品しか使うことができません — 違法である大麻がメキシコからアメリカへに渡っていた長い歴史を考えると、これはまさに歴史の皮肉です。

一方で活動家たちは、かつてなかったほどにその声を強めています。今年 4月 20日 — 国際的に “420” として知られている大麻のお祭りの日 — には、メキシコシティの元老院の建物の外で 1,000人がデモ行進を行い、議会に行動を要求しました。

当時議会にかけられていた合法化法案は、所持が許されるのは 28グラムまでで 200グラム以上の所持には懲役刑が科されるなど制限的なもので、多くの活動家が不満を表明していました。最大6株までの自家栽培にはライセンスが必要で、それを超えて栽培すれば最長 10年という刑期が科せられることになっていました。

「議会が提案している法案は、最高裁が命令したものとは違います。最高裁は、我々は自由であると宣言しました — 大麻を吸ったり所持してももう犯罪ではない、とね」。活動団体 Asamblea Cannabica のパブロ・アルファは、4月 20日の抗議行動にいた『Texas Standard』紙の記者にそう語っています。

元老院の建物は、実は Plantón 420 と呼ばれる恒久的な抗議行動の拠点になっています。2020年 2月に Plantón 420 が初めて設置されると、活動家たちは、テントで寝泊まりしている元老院の外の公園に何百本という大麻を植えました。以来ここは、メキシコの連邦政府の権力機構のど真ん中で、事実上の大麻のジャングルとなり、驚いたことに警察もそれを許容しているのです。

6月の最高裁の裁定の後、個人使用に関する最終的な規制を定める engrose の発行を待つ活動家たちは、裁判所の外にも同様に大麻草を植えています。

麻薬抗争は沈静化するのか?

大麻合法化を推進する動きの背後には、悪夢の如きメキシコの麻薬抗争の沈静化という絶対的な命題があります。ただしこれについては、あまり期待しすぎてはいけない理由があります。

メキシコ議会の法案がまだ保留中だった3月、ニューヨーク・タイムズ紙は、「安全対策の専門家たちは、この法案が暴力行為に与える実際の影響はごく僅かであるという意見で一致している。アメリカの 15州で大麻が合法化されている現在、大麻はメキシコの麻薬密売ビジネスにおいてはあまり重要ではなくなっており、麻薬カルテルは、フェンタニルやメタンフェタミンなど、より利潤の大きい薬物にフォーカスするようになっている」と書いています。

International Crisis Group でメキシコを担当するシニア・アナリスト、ファルコ・アーンストはニューヨーク・タイムズ紙に、「この法案の力を過大評価するべきではない」と語り、この法案が「メキシコで多くの死者を出している抗争の力関係や争いの主要人物を大きく変えることはないだろう」と述べています。

法案が限定的なものである(最高裁の裁定はさらに制限が厳しいものです)ことを考えると、Council on Foreign Relations の推定によれば 15万人の命を奪った麻薬抗争には大した影響を与えないのではないかという懐疑論があるのも当然です。

2006年、任期満了の近いフィリペ・カルデロン大統領がカルテルとの闘いのために軍隊を配備して以来のゾッとするような死者の数は、実は 15万人という見積もりでは低すぎるかもしれません。

“破綻国家”

今年 1月 6日、メキシコ政府は、激しい麻薬抗争の間に推定 6万 1,637人が「失踪」したと発表しました。分析されたデータは古くは 1960年代まで遡りますが(当時は南部山間部で初期のゲリラ活動が始まっていました)、データの 97% 以上が 2006年以降の事件です。メキシコのナショナル・サーチ・コミッション(Comisión Nacional de Búsqueda de Personas Desaparecidas)のカーラ・キンターナは、昨年だけで 5,000人以上が失踪したと語ります。

米議会調査局(U.S. Congressional Research Service)は 2020年 10月の報告書の中でさらに悲惨な評価をしており、2006年以降メキシコでは 27万 5,000人が殺され、その他に 71,678人が「失踪」したと推定しています。

これによってメキシコは、過去 15年間にわたり、1976年から 1983年にかけての「汚い戦争」中に 3万人が失踪したアルゼンチンや、36年間に及ぶ内乱で 4万人が失踪したグアテマラと肩を並べることとなったのです。

古くは 2009年、メキシコが究極の麻薬国家へと転落しつつあった頃、米国防総省は報告書の中で、メキシコは近い将来「破綻国家」となる可能性があるとしています。カルテル(最も悪評高いのは Los Zetas)とつながった多数の民兵が、民兵同士、また政府の治安部隊と争いを繰り広げ、軍事力を行使できるのは政府だけではないことがますます明らかになりました。

こうした状況は改善の兆しを見せず、麻薬カルテルに殺された人々の「共同墓地(スペイン語で narco-fosa)」が次々と、驚くほどの頻度で見つかっています。2021年 3月にはグアナファト州セラヤで 22人の遺体が発見されました。その直前にはメヒコ州の自治体コアテペックハリナスの首都のすぐ南西で警備にあたっていた警官隊が襲われ、州警察の警察官と検事、合計 13人が殺されたばかりでした。犯人は全員逃走しています。

移民虐殺

この暴力の連鎖には、治安部隊もまたどっぷりと関与しています。実は、治安部隊とカルテルの両方に所属する人たちがいるのです。カルテルは今や、大麻、コカイン、ヘロイン、メタンフェタミンの密輸のみならず、不法採掘された原油鉱物の売買、そして身代金目当ての誘拐にも産業規模で手を染めています。

メキシコ当局は 2月 3日、海軍兵 30人を、2014年にアメリカとの国境沿いで人々を強制的に失踪させた疑いで逮捕しました。このとき失踪した人の正確な数は不明ですが、タマウリパス州北東部にある町ヌエボ・ラレドではメキシコで最多の行方不明者がおり、2006年から 2020年 12月までの間に 8万 517人が失踪したと推定されています。

タマウリパス州の国境沿いでは近年、季節労働者の集団拉致虐殺が続いています。2021年 1月 19日にはタマウリパス州の警察当局が、銃で撃たれ燃やされた 19人の遺体を、テキサス州からリオグランデ川を挟んですぐのところにある町カマルゴの近郊で発見したと発表しました。犠牲者は、アメリカに越境しようとする中央アメリカからの移民でした。どうやら彼らは、この地方で抗争を繰り広げる麻薬カルテルの傭兵によって行く手を阻まれ、殺害されたようです。タマウリパス州検察庁の発表によれば、州警察の特殊部隊(GOPES)のメンバー 12人がカマルゴの虐殺に関与したとして逮捕されています。

フェミサイドに対する反乱

人権擁護活動家は、麻薬をめぐる抗争に付随して絶え間なく起こっているフェミサイド(女性殺害)に人々の関心を向けようとしています。こうした殺人は驚くべき勢いで増加しており、女性だというだけで年間に何百人もの女性が殺されています。

昨年の国際女性デーの後、メキシコ全土で数万人の女性たちが、この「女性殺し」に手をこまねく政府への抗議行動として、職場を離脱するという行動に出ました。

今年は 3月 8日の国際女性デーに先がけて、メキシコシティの警察当局が、国立宮殿(訳注:メキシコ連邦行政機関の建物)を護るフェンスを設置しました。これが、女性の権利を求めてメキシコシティで行われる抗議活動がここのところより過激になりつつあるのを意識してのことであるのは間違いありません。ところが活動家たちは高さ3メートルのこの壁を、女性殺しの犠牲者のための記念碑にしてしまいました — メキシコ全土で殺された何百人もの犠牲者の名前を書き込んだのです。

この壁は、国際女性デー当日、メキシコ大統領への怒りを表明するために首都に集結した数百名の活動家たちによって破壊されました。当時大統領が、複数の女性からレイプや性的暴力を受けたと訴えられていた、長年の盟友である大物政治家を支持していたためです。この政治家フェリックス・サルガド・マチェドニオは、大統領の所属するポピュリスト政党  MORENA の党員で、ゲレロ州の州知事を目指す選挙戦はこの女性たちからの申し立てによって頓挫していました。それよりずっと以前、マチェドニオがアカプルコ市長であったときには、連邦政府の検事総長によって、麻薬カルテルとの関係について取り調べを受けたこともあります。

麻薬カルテルの首は斬れるか?

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El Chapo, kingpin of Sinaloa Cartel

2019年 2月にニューヨーク市の米国連邦裁判所で、悪名高きシナロア・カルテルの中心人物、“エル・チャポ” ことホアキン・グスマンが有罪判決を受けたことが転換点となり、メキシコ最強のカルテルが(少なくとも)弱体化するのではないか、と期待した人もいました。ところが逆にこのことは、カルテルの首を斬っても無駄であるということを思い知らされる教訓となりました。

エル・チャポの有罪判決の2年後、チャポの妻であるエマ・コロネル・アイスプロが、ワシントンDC郊外にあるダレス国際空港に到着したところを逮捕され、コカイン、メタンフェタミン、ヘロイン、それに大麻のアメリカへの輸入・販売を企てた廉で起訴されました。どうやら、投獄された夫の事業の多くを受け継いでいたようです。

また、メキシコ国内の報道によれば、”ロス・チャピトス” と呼ばれるエル・チャポの息子たちも、シナロア・カルテルの覇権をめぐり、いわゆる「保守派」メンバーの最後の生き残りで “エル・マヨ” のあだ名があり、チャポの後継者として確実視されていたイスマエル・サンバダ・ガルシアと争っているようです。

カルテルの首を斬ってもその勢力が衰えることはなく、むしろ組織の分断と派閥争いにつながり、暴力がエスカレートするだけであることが多いのです。

このことは、2020年 10月、元メキシコ国防大臣サルバドル・シエンフエゴス・セペダ将軍がロサンゼルス空港で逮捕され、米国当局によって麻薬絡みの汚職で起訴されたというニュースをきちんと理解すれば明らかです。よくあることですが、その数年前には、アメリカの官僚たちはシエンフエゴスのことを、麻薬撲滅戦争における防波堤の役割を果たすとして称賛していたのです。2018年には、「西半球防衛」に果たした貢献に対し、米国防省のナショナル・ディフェンス大学から表彰されています。

シエンフエゴスをめぐるスキャンダル

検察官らによれば、シエンフエゴスは「極めて暴力的」な麻薬カルテル H-2 の「ゴッドファーザー」でした。H-2 はベルトラン・レイバ・カルテルから分かれた派閥で、それ自体が元々はシナロア・カルテルから分かれています。そしてそうやって組織が分かれるたびに多くの流血事件が起こりました。

けれどもシエンフエゴスに対する裁判は開かれませんでした。2020年 11月、ニューヨークの連邦判事が、シエンフエゴスに対する起訴を取り下げるという米国政府の要望を許可したのです。司法省は、メキシコ政府からの強い要請に応じて、シエンフエゴスは母国メキシコで捜査されるべきであるとの見解を示しました。そして 2021年 1月、シエンフエゴスがメキシコに帰国した後、メキシコ政府は、シエンフエゴスはいかなる罪でも起訴されない、と発表しました。

オブラドール大統領はその後、シエンフエゴスの逮捕劇は政治的な理由によるものであり、彼に対する告訴の内容は「捏造されたもの」である、と強く主張しました。このスキャンダルが起きたときアメリカとメキシコは、オブラドール大統領がメキシコにいる DEA(米麻薬取締局)の職員の国家主権免責を剥奪し、彼らの活動に対するメキシコ政府の監督権限を強めたことをめぐる論争の真っ最中でした。こうした動きは、メキシコ議会が昨年可決した新しい国家保安法で定められた条項です。そこには単に「他国政府の職員」とだけ書かれていましたが、それがメキシコ国内で大規模な活動を展開しているアメリカの麻薬取締局を指していることは明らかでした。この条項は、今年1月に交付された実施規定の中では緩和され、二国間の外交的な亀裂は修復されました。

その一方で、2019年 12月にダラスでアメリカ当局によって逮捕されたメキシコの元公安大臣ジェナロ・ガルシア・ルナは、シナロア・カルテルを幇助した罪で依然として告訴されています。かつて彼の右腕だった元連邦警察長官ルイス・カルデナス・パロミノは、拷問を行った容疑で、今年 7月 1日にメキシコシティで逮捕されました。パロミノは数々の人権侵害事件(ジャーナリストに対する恐喝も含まれます)に関与していますが、最終的に彼が起訴された事件は、2012年の、誘拐事件の容疑者に対する虐待でした。

オブラドール大統領の段階的緩和計画

オブラドール大統領は 2018年、絶え間なく続く麻薬をめぐる抗争に終止符を打つことを約束し、「Abrazos, no balazos(銃撃戦より抱擁を)」をスローガンに掲げて大統領選に出馬しました。そして2018年末に大統領に就任すると、「麻薬抗争は終わった」と宣言したのです。

2019年 3月にナショナル・サーチ・コミッションに向けて行った演説の中で彼は、メキシコでは「これまで人権を最も侵害してきたのは国家だった」と認め、それを変えてみせる、と約束しています。

ところが5月になってオブラドール大統領は、アメリカ主導の「メリダ・イニシアティブ」と呼ばれる麻薬取締条約から脱退し、このプログラムを通じて提供された包括的援助計画を辞退する、と発表しました。「この制度はこれまで機能してこなかった」と彼は述べています。「武力行使への協力は要らない。我々が欲しいのは発展のための協力だ」

この制度に代えて彼がアメリカ政府に提案したのは、麻薬の「二国共同非犯罪化」についての対話を始めることでした。取締を基本にしたモデルからの方向転換のために連携しようというものです。

2008年以来、アメリカはメキシコの治安部隊に対し、中央アメリカの国々も含むメリダ・イニシアティブの 14億ドルの予算の中から訓練と機材の提供を行ってきました。軍装備品の大規模な譲渡はこのプログラムの初期に行われており、近年はむしろ、悪名高いメキシコの腐敗した司法制度を改善する努力の一環として、より多くの予算が警察と検察の教育に割かれています。けれども少なくともオブラドール大統領の発表には、強い象徴的意味が込められていました。

オブラドール大統領はまた、麻薬抗争に立ち向かうための新しい国家治安部隊を編成しました。これは、彼が前任者から引き継いだ連邦警察の信用を失墜させた汚職に手を染めていない組織ということになっています。けれどもこの国家治安部隊は、グアテマラとの国境に多くの隊員を派遣し、トランプの反移民政策の代理部隊になってしまっているとの批判を受けています。そしてバイデン政権と新たに交わした、移民取締に関する協力協定では、少なくとも1万人の隊員をメキシコ南部の国境に維持することに同意しています。

オブラドール大統領の6年間の任期は現在半分が過ぎたところで、メキシコの憲法では再選が禁じられています。彼が所属する左派ポピュリスト連立政権が 2024年に政権を維持できてもできなくても、そしてメキシコ連邦議会がついに大麻を合法化してもしなくても、麻薬抗争のジレンマは止むことはありません。1970年代にマリファナの密売組織としてカルテルが初めて登場してから、メキシコでは膨大な量の血が流されてきました。1980年代のコカイン・ブーム、そしてこの身の毛もよだつような 15年間に犯罪組織が増加し多様化した結果、現在では状況は以前よりもはるかに複雑です。

大麻合法化はいわゆる特効薬ではありません。でも、段階的緩和に向けた道のりにとっては、欠かすことのできない最初の一歩なのかもしれません。そして、今年6月にメキシコ最高裁が行った裁定は、運が良ければ、その最初の一歩に向けた大切な足掛かりになるかもしれません。


ビル・ワインバーグ(Bill Weinberg)は、人権問題、環境、薬物政策の分野で30年の実績と受賞歴を持つジャーナリスト。High Times 誌のニュースエディターを務めたこともあり、現在は CounterVortex.org Global Ganja Report というウェブサイトを運営している。


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