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長年の合法化運動の末に、ニューヨーク州でとうとう Marijuana Regulation & Taxation Act(MRTA、マリファナ管理・課税法)が議会を通過し、政治的に厳しい立場に置かれているアンドリュー・クオモ知事の署名によって正式に制定されました。大麻を禁じる体制のもとで長い間続いてきた人種差別と抑圧の歴史を払拭する、新しい合法化モデルを作ろうと闘ってきた活動家たちはこれを、運動の勝利と称えています。

ただし、最終的に成立した MRTA は妥協案で、クオモ知事が提案し、活動家には法案が「ぶち壊し」だと非難轟々の  Cannabis Regulation & Taxation Act(CRTA、カンナビス管理・課税法)の一部が採り入れられています — たとえば、THC の含有量に従って課税する、という条項です。

合法化をめぐる長い膠着状態がついに破れたのは、3月30日でした。ニューヨーク州議会上院が 43 対 20 で MRTA を通過させ、続いて下院で 100 対 49 で承認。翌日クオモ知事が法案に署名し、MRTA は法律として制定されました。

「ニューヨークにとって歴史的な日です — これは、過酷な懲役刑に終止符を打って過去の過ちを正し、ニューヨーク州の経済を発展させる産業を迎え入れ、これまで最も苦しんできた人々が最初にその恩恵にあずかれるよう、マイノリティ集団を優先する法律です」とクオモ知事は述べています

苦闘の末の勝利

長い道のりでした。MRTA は、2013年以降、ニューヨーク州議会に毎年提出され、その度に夢破れてきたのです。ターニング・ポイントが訪れたのは 2018年、長らく共和党が優勢だった上院で民主党が過半数を勝ち取ったときのことです。2014年に、非常に厳しく規制された医療大麻合法化案を制定したクオモ知事は、政治が進歩主義に傾いたことを察知し、初めはためらいがちにではありましたが、ついに大麻の合法化を受け入れたのです。

ところが 2019年、クオモ知事が CRTA を提出し(わかっていたことではありますが、MRTA よりも制約の厳しい合法化案です)、合法化に向けた取り組みに分断が生じました。その結果、どちらの法案も可決されないまま議会の会期は終了し、MRTA の可決に向けて全州で運動を展開してきた活動家たちにとっては手痛い敗北となりました。翌年1月、クオモ知事は、2020年中に大麻を合法化すると宣言しましたが、COVID-19 の流行がこれを阻みました。

クオモ知事が、(自身が提出したより制約の厳しい法案へのいくつかの譲歩点はあったものの)MRTA の制定に同意した理由は、現在彼が、次々と発覚するセクハラ疑惑と、州立の高齢者介護施設での COVID-19 による死者数を隠蔽したという非難の砲撃に晒されているためであることはほぼ間違いないでしょう。追い詰められたクオモ知事は、政治的にプラスになる材料が喉から手が出るほど欲しかったのです。

3月30日の朝、MRTA を起草した、マンハッタン地区選出のリズ・クルーガー(Liz Krueger)上院議員は、上院、下院、クオモ知事の三者が「人種間の平等を前面に打ち出し、同時に安全性と経済の発展を両立させ、新規のスモールビジネスを促進し、非合法市場を大幅に減少させる形で嗜好大麻を合法化する」ことに同意した、と発表しました。

下院でこの法案を提出した、バッファロー市選出で院内総務を務めるクリスタル・ピープルズ-ストークス(Crystal Peoples-Stokes)議員は、「我々は 90年に及ぶ大麻禁止政策を覆そうとしています」と誇らしげに宣言しました。

妥協による法律

ニューヨーク市の刑事弁護士デヴィッド・ホランド(David Holland)は、ニューヨーク市大麻産業協会NYC Cannabis Industry Association)の会長であり、また NORML ニューヨーク支部の支部長でもあります。ホランドによれば、クオモ知事が署名した法案は、知事自身が提出した法案よりも、活動家たちが長年成立を目指してきた「MRTA にはるかに近い」内容です。「MRTA の良いところのすべてに、クオモが完全に同意したと言っていいでしょう」

この法律では、嗜好大麻、医療大麻、ヘンプがすべて、新しく設置される Office of Cannabis Management(OCM、大麻管理事務所)に管轄されます。大麻管理事務所は、正式には State Liquor Authority(ニューヨーク州酒類管理局)の下にある組織ですが、直接的には5名のメンバーからなる Cannabis Control Board(大麻管理局)の監督のもとに置かれます。このうち3名は州知事が任命し、残る2名は上院と下院が1名ずつ任命します。大麻管理事務所の所長を任命するのも州知事ですが、上院の承認が必要です。

結局のところクオモ知事は、当初自分が提案した法案(CRTA)の中で手にしようと試みた、大麻管理事務所に対するコントロールをある程度諦めたと言えます。「完璧ではありませんが、期待以上だと思います」とホランドは言います。「州議会が大麻管理局の構成員のうち2名を指名できるわけですし、大麻管理事務所の所長も上院が選べるんですからね」

「税収の使い途もより明確になりました」とホランドは指摘しています。制度の運用が始まれば、嗜好大麻市場から上がる税収は年間 3億 5,000万ドル(約 387億円)を超えると予想されています。この新法では、そのうちの 40% が新たに設置される「社会的公正」資金に、40% が学校制度に、そして 20% が薬物依存の治療と教育に使われることになっています。

自家栽培の許可と非犯罪化の拡大

MRTA では、ニューヨーク州の住民には、自宅以外の場所で乾燥大麻3オンス(約 85グラム)とコンセントレート製品 24 グラムの所持が許されます。自宅では、それが鍵のかかる場所である限り、5ポンド(約 2.3 キロ)もの乾燥大麻の所持が可能です。

自宅で5ポンドの所持が許される、というのは、自家栽培が許されているからです。一人6株(開花期3株、未成熟期3株)、あるいは一世帯につき 12株までの栽培が、医療大麻制度に登録している人は6か月後から、「嗜好目的」で栽培する人は1年半後から合法化されます(これは運営規約を流布するのに必要な期間です)。

重要な点は、CRTA では合法範囲を超える量の大麻所持に対する量刑をより厳しくしようとしていたのに対し、可決された MRTA では量刑が軽くなっているという点です。これは、2019年 6月に州議会を通過しクオモ知事が署名した非犯罪化拡大法をさらに拡大したもので、MRTA が手つかずで可決されずがっかりしている活動家たちを慰めるために与えられた、いわば「残念賞」と言えるでしょう。

1977年に可決されたニューヨーク州の非犯罪化法では、乾燥大麻の所持は、1オンス(約 28 グラム)までは 200 ドルの罰金で済みました。2019年にこの法律が改正されると、1オンス以下の所持に対する罰金は 50 ドルに下がり、1オンスから2オンスまでの所持が 200 ドルの罰金の対象になりました。2オンス以上の所持は軽犯罪扱いとなり、懲役刑が科されることもありました。今回成立した MRTA では、自宅以外の場所で 3オンス以上 16オンス以下の大麻を所持していた場合、125 ドルの罰金を大麻管理事務所に支払うことになります。軽犯罪になるのは 16オンス以上です。重罪になるのは非合法的に5ポンド以上の大麻を所持していた場合です。

THCへの課税

MRTA には、ホランドが「2021年の CRTA 法案から持ってきたクオモの考案事項」と呼ぶ、馬鹿げた項目が一つあります — 一定の消費税に加えて、THC の濃度に従って課税しようというのです。この「THC税」あるいは「効力税」は、乾燥大麻に含まれる THC1ミリグラムにつき 0.5 セント($0.005)、コンセントレートに含まれる THC 1ミリグラムにつき 0.8 セント($0.008)、エディブル製品なら1ミリグラムにつき3セント($0.03)の税金が課されます。

その他に 13% の消費税がかかり、そのうちの 9% はニューヨーク州の、4% が各郡の税収になります。郡の税収の 75% は各地方自治体のものです。

たとえば 1,000 ミリグラムの THC を含むキャンディがあれば、30 ドルもの THC税が課されることになる、とホランドは指摘します — しかもそれは、製品の価格と消費税の上に加えられる税金です。

これには理屈があります。非常に強力なエディブル製品を食べ過ぎるのが危険であることはよく知られており、大麻の初心者には特にそうです。「この条項は、コンセントレート製品やエディブル製品の販売を抑止し、一度にこうした製品を大量に購入するのを防ぐことを目的としています」とホランドは認めます。「それは理解できますが、ただこれがベストなやり方かどうかはわかりませんね」

「アルコールの度数で税率が違うという例はありませんからね。たとえばワインとリキュールを比べて、リキュールに悪行税が課されるということはない。アルコール度数に従って税金を払っているわけではないでしょう」

真のスケジュール見直し

MRTA の文面には、「マリファナ(marihuana)を規制物質から除外する」と書かれています。marihuana という綴りは、大麻を規制物質に指定している公衆衛生条例にそう書かれているからです。公衆衛生条例の第 33 条は、1970年に連邦政府が制定した規制物質法、また 1961年の単一麻薬条約でも規定されている、薬物の「スケジュール」分類に従って改訂されています。ご存知の通り、大麻はヘロインや LSD とともに、医療用途のない危険薬物とされる、最も規制の厳しいスケジュール I に分類されています。

この分類が不合理なものであることは、今ではもちろん明々白々です。近年、連邦議会でも、大麻の分類を変更する、あるいは規制物質から除外するという法案がいくつも提出され、それを求める訴訟も起きています。また国連でも、単一麻薬条約上の大麻の分類を変更しようという取り組みがなされています。

にもかかわらず、州法のほとんどは — 大麻を全面解禁した州でさえ — 今だに規制物質法のスケジュール分類に従っているのです。実を言えば、合法州で変わったのは、法の施行の仕方にすぎません。

今回ニューヨーク州は、これを変えようとしているのです。たしかに MRTA でも、合法化された量を超えれば刑事罰が科されるのは事実です。また、たとえば最近制定されたニュージャージー州の合法化法案をよく読むと、この点が非常に巧みに書かれていて、大麻も THC も、この法律が認める量と製品のみが規制物質から外されています。そこでこれを「偽りの分類変更」であると非難する人もいます。

ニューヨーク州の MRTA では、大麻と THC が完全に規制物質から除外されます。ニューヨーク州とニュージャージー州の法律を比較して、クルーガー上院議員のスポークスパーソンはこう言っています —「基本的に、同じ結果を出すために違うやり方をしたのです。大麻を規制物質から外しはしましたが、合法市場以外では所持・製造・販売には引き続き制約を設けます。これは現在ニューヨーク州でアルコールやタバコを取り締まっている法律に類似しています。どちらも規制薬物ではありませんが、だからと言って州が制限を加えることができないわけではありません」

地方自治体によるコントロールと「古参」業者

MRTA の制定によりニューヨーク州は、全国にいくつかある、民営の施設での「ソーシャルな大麻使用」が可能な州や区域の仲間入りをしました。また MRTA は、大麻製品の宅配の許可をはっきりと明文化しています。大麻管理事務所は、栽培、加工、流通、小売店舗のライセンスの発行の他、人前で大麻が使用できる施設や宅配サービスのライセンスも発行します。

ただしこれらの活動はすべて、地方自治体の許可と監督が必要です。そして地方自治体には、この法制度を施行しない権利が与えられています。これはクオモ知事が提案した CRTA から採り入れられた条項で、明らかに、保守派を満足させるために作られたものです。これによって、ニューヨーク州の中でも保守的な地域では「大麻砂漠」が生まれる可能性があり、そういう所では消費者も製造者も闇市場の利用を余儀なくされるでしょう。

またこれによって、MRTA が謳う社会的公正さが本当に実現できるのか — つまり、大麻の非合法市場での栽培あるいは販売に長い経験を持つ人たちが合法市場に参加できるのか、という微妙な問題が浮かび上がります。

政府は、大麻の取り締まりと薬物撲滅戦争で最も大きな影響を受けたニューヨーク州内のコミュニティ — つまり圧倒的に有色人種 — に対し、社会的公正を約束しています。「ニューヨーク州で私たちが要求して勝ち取ったこの法律は、この国を牽引する大麻合法化の手本となるでしょう」— クルーガー議員は投票にあたってそう言いました。「ニューヨークの大麻運用制度は、人種間の平等を、口先だけでなく、実行に移すものです」

MRTA の制定のために闘った草の根活動家たちも同様の意見を述べています。「今日、下院と上院は、正義を目指す進歩的なムーブメントを議会が認めることで実現する民主主義の姿を示して見せた」— 活動家グループ VOCALNY のジャワンザ・ジェームズ・ウィリアムス(Jawanza James Wlliams)はそう言いました。「僕たちは、単に大麻を合法化するために闘ったんじゃない。人種的・経済的な平等に根ざした法律を制定し、与えられた被害を修復し、また反差別主義的で階級問題を認識し、かつジェンダー・エクスパンシブな政策制定の新たな基準を作るために何年間も努力してきたんだ」

人種間の平等

生活に困窮する被告の弁護を引き受ける Legal Aid Society は、「何十年間にもわたり、ニューヨーク州が行ってきた人種差別的な大麻取締りは、ほとんどが黒人とラテンアメリカ系コミュニティ出身である当社の依頼人を何千人も罠に陥れ、不必要な投獄と、刑事法制度との接触が否応なく引き起こす悲惨な結果をもたらしてきた。この歴史的な法の制定は、そうした不当な状況の多くを正すことだろう。この勝利を勝ち取るために尽力してくださった、州議会の進歩的なリーダーたちに拍手を送りたい」と声明を発表しています。

Legal Aid Society が最近発表したデータによれば、2020年にニューヨーク市で大麻関連犯罪によって逮捕された者の 93% 以上が黒人とラテンアメリカ系の住民です。ビル・デブラシオ市長が大麻取締りに重点を置かない方針を採って以降、大麻関連逮捕の総数は大幅に減少したものの、この方針から漏れて引き続き行われた逮捕 — たとえば公共の迷惑になるような大麻の喫煙(迷惑かどうかを決めるのはもちろん警官です)— には、依然として人種間格差が存在しています。

MRTA は、発行される大麻ビジネスのライセンスの 50%を、大麻の取締りによって大きな被害を受けたコミュニティからの、「社会的公正申請枠」への許可申請者に与えることを目標にしています。また、女性・マイノリティが所有する企業、困窮した農家、従軍で障害を負った退役軍人にも優先的にライセンスが与えられます。

ただしホランドは、「これまで非合法市場でビジネスを行ってきた者が合法市場に参入するための明らかな道筋は見えない」と言います。「だから、合法化すれば闇市場はなくなる、というふうにサッと切り替わりはしないだろうと思います」

また MRTA には、所持が許されることになる量以内の大麻所持による有罪判決であれば過去の犯罪記録を抹消できるという条項がありますが、だからと言って今後は逮捕が起きないということではありません。ライセンスのない者が不法に大麻や THC 含有製品を販売すれば処罰されます。

素晴らしいことに、公共の場での大麻利用も合法化されました — タバコの喫煙が許されているところならどこでも、大麻の喫煙も可能です。ただし市町村は独自の制限を設けることができます(たとえばニューヨーク市では、公園や学校の近くでは喫煙はできません)が、罰則は25ドルの罰金または20時間の社会奉仕活動に限られます。大麻を使用しての運転は、酒酔い運転と同様に扱われます。ニューヨーク市警察は、車やバイクの運転者が大麻の影響下にあるかどうかの判断(酒酔い運転よりも難しい)ができる、「薬物判別専門家」の雇用を増やす予定です。そして、21歳未満の者の大麻所持には 50 ドルの罰金が科されます。

スティグマの払拭を目指して

長期的に見れば、MRTA の最も大きな功績は、それが象徴する文化的な変化でしょう。ニューヨーク州政府内の新世代の政治家たちの声明を見れば、古い偏見がどんどん崩れていることがわかります。

マスコミは、大麻を合法化すれば犯罪が増え、若者が喫煙に走り、ハイな状態での運転につながる、という文化的保守派の懸念の声をさかんに取り上げています。でもこれに対しては、ブロンクス選出の下院議員ビクター・ピカルド(Victor Pichard)が、MRTA の議員投票に先立つ討論中に述べた言葉がずばりと答えています —「そもそも、この国で大麻を非合法化したという罪深い事実は、生活の質とも、子どもたちへの影響とも、公共の安全ともまったく関係がありませんでした。それはただただ、人種差別にすぎなかったのです」

クイーンズ区選出の下院議員(でありヒップホップ・アーティストでもある)ゾラン・マムダニ(Zohran Mamdani)は、(少なくとも)一度は大麻を使ったことがあることを告白してこう述べました。「私は今日ここにこうして、嗜好大麻合法化の議論に参加することを誇りに思います。議論中、両党の議員の多くが、大麻を吸ったり経口摂取したりすることを、法の欠如だ、生活の質の低下だ、大麻の使用者は怠け者で社会のお荷物だ、大麻はゲートウェイドラッグだ、と発言するのを聞いてきました。こうしたでっち上げの、はっきり言って内輪でしか通じない発言に対し、私は一つの事実を述べさせていただきます。つまり、大麻を吸ったり経口摂取したりすると、議員に選出されることもある、ということを」


ビル・ワインバーグ(Bill Weinberg)は、人権問題、環境、薬物政策の分野で30年の実績と受賞歴を持つジャーナリスト。High Times 誌のニュースエディターを務めたこともあり、現在は CounterVortex.org と Global Ganja Report というウェブサイトを運営している。


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