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Smoke Signals: A Social History of Marijuana – Medical, Recreational and Scientific』(マーティン・リー著)からの抜粋です。

レバノン東部の肥沃なベッカ渓谷にあるローマ神殿の遺跡から出土した浅浮き彫りの彫刻には、ブドウの蔓と大麻草が並んで描かれている。世界で最も大麻草栽培に適した土地の一つであるこの地方はまた、ワインが美味しいことでも有名だ。ここではワインとハシシが、地理的にも文化的にも混在しているのである。

イスラム世界の詩人や哲人たちは昔から、アルコールと大麻の功罪について論じてきた。16世紀、バグダッド出身のトルコ人詩人 Muhammad Ebn Soleiman Foruli は、叙事詩の中で、ワインとハシシの闘いを弁証法的に描いている。いずれも人を酔わせるワインとハシシは寓話としての決闘を繰り広げ、Foruli は両者が持つ陶酔作用とそれがもたらす結果を描写する。イスラム教圏の学者たちが大いに議論を繰り広げてきた主題である。Foruli はワインを金持ちの飲むものと考え、一方でハシシは「貧乏人、修道僧、知識人の友」であると言っている。

ハシシの特筆すべき特徴の一つがその価格の安さで、そのためハシシがもたらす歓びと安らぎを体験したいと望む者ならほとんど誰もがそれを手にすることができる。イスラム教徒には大麻を使う者が多かった——なぜなら、アルコールと違い、大麻はコーランに定められた戒律の中で明確に禁じられていないからだ。イスラム教は酒を飲むことを禁じた唯一の宗教であるが、イスラムの知識人たちの間では、大麻は神学的議論の的であり続けた。

不死の薬

イスラム教圏の拡大とともに、大麻は広く中近東で使用されるようになった。イスラム教が与えた広範な影響の一つとして、ハシシにはアラビア語のさまざまな呼称が生まれた——「思考を目覚めさせるもの」「理解の茂み」「至福の枝」「感情の群落」「不死の薬」等々。

13世紀になる頃には、ペルシャやアラブの国々では大麻を嗜むのは普通のことになっており、数々の華やかな伝説が生まれた。『千一夜物語』では何人もの登場人物がハシシを吸い、より良い生活を夢見ている。たとえば一人の落ちぶれた男はハシシを口にし、「大いなる王が自分の髪を洗っている」ところを想像した。男が二人、ハシシを食べて、道で踊りながら出会ったサルタンをからかったという物語もある。

イスラム教における異端派であり、精神を高揚させる手段として大麻を受け入れたスーフィズムは、反権威主義的な性格がその特徴だった。神秘主義的なスーフィズムの信奉者にとって、ハシシを食べることは「神を賛美する行為」だった。スーフィズムは常に反体制的な香りがした——なぜなら彼らが主張する神という存在の直接的な体験は、イスラム教の宗教的支配者層の特権を脅かすものだったからである。残忍なオスマン帝国の首長 Soudoun Scheikhouni は、社会的・宗教的な服従を強制し、1378年、ハシシ使用を禁じるイスラム世界で最初の政令を発令した。その後も同様の政令がいくつか発令され、それと同時に、ハシシは、不道徳な行為、怠惰、貧困、精神障害、真の信仰に対する不敬な態度を引き起こすものであると主張した。

大麻をその酩酊作用を目的に栽培することは禁じられていたが、中近東とアフリカ北部には大麻による医療の長い伝統があったため、医療目的での栽培は許されていた。イスラム教の指導者たちは、ハシシに、ワインにはない重要な医療効果があることを知っていたのである。1

大量の飲酒は脳を縮小させる

少量のワインは、(ブドウの皮に含まれるフラボノイドであるレスベラトロルが手伝って)たとえば心臓病といった一部の疾患の予防に役立つが、アルコールの過剰な摂取は深刻な健康問題につながるリスクがある。大量の飲酒は、脳を縮小させ、痛みを伴うニューロパチーや肝硬変を引き起こし、腎臓を傷め、乳がん、大腸がん、胃潰瘍発症の危険性を高める。

アメリカの家庭内暴力事件の約3分の2は、アルコールが極めて重要な要因である。酒が関与している婦女暴行事件は毎年 10万件を超え、飲酒運転と酒に関連した暴力事件によってアメリカだけで毎年 10万人が命を落とす。世界的に見れば、毎年 250万人が酒に殺されている。薬物を、それが与える危害に基づいて比較するならば、アルコールはヘロインやクラック・コカインと一緒に上位に並ぶだろう。いや、アルコールの方が上かもしれない。

それなのに酒はこの国では合法であるばかりでなく、あらゆるところに蔓延し、受け入れられており、多くの人はアルコールを薬物と認識すらしていない。「私の現役時代は誰もが煙草を吸い、酒を飲み、麻薬を使う人はいなかった」。1998年、当時の麻薬取締局長だったトーマス・コンスタンティンはそう呑気に断言した。その年に世界保健機関が発表した報告書では当初、大麻はアルコールおよび煙草よりも安全なものとされていたが、アメリカ当局からの圧力でその結論は削除された。

アメリカでは、成人の 60% が日常的に酒を飲むと推定されている。成人人口の 10% にあたる 1500万人は、アルコール依存症か、酒による深刻な被害を被っている。アメリカで消費される酒の 10〜20% は未成年の飲酒によるものだ。アメリカでは若年層の飲酒は大麻使用を大きく上回っている。これはイギリスも同様で、10歳から 15歳の若者の5分の1が、日常的に酒に酔うと認めている。

アルコールとエンドカンナビノイド欠乏症

アルコール依存症の弊害はよく知られているが、アルコール依存症やそれに関連する気分障害とエンドカンナビノイド・システムの重要な関わりが研究され、理解されるようになったのは最近のことだ。いくつかの論文が、エタノールへの暴露によって、哺乳類の脳のさまざまな部位で内因性カンナビノイドの量に変化が起こることを示している。脳で最も多い内因性カンナビノイドである 2-AG の量は、エタノールの摂取量に正比例して増加する。酒を飲んでほろ酔い加減になる程度なら 2-AG の増加はわずかだが、酩酊すると大量の 2-AG が脳内を駆け巡る。そして酔いが覚めるとともに、2-AG の量は元のベースラインに戻る。

人が酒を飲むとエンドカンナビノイド・システムがフル回転を始めるのはなぜなのか? エタノールは体内で、発がん物質であり、重要臓器にさまざまな悪影響を与える突然変異原であるアセトアルデヒドに分解されるというのは周知の事実である。端的に言えば、アルコールは原形質毒なのであり、一方、エンドカンナビノイド・システムはその基本的な機能に神経保護作用があることが科学的に明らかになっている。脳がエタノールに暴露しているときに、さまざまな脳の部位で 2-AG の量が増加するのはこれが理由である。

人間の脳は繊細な臓器で、厚い頭蓋骨と、不必要な異物が入り込むのを防ぐ血液脳関門によってしっかりと護られている。エンドカンナビノイド・システムは、脳を保護する仕組みの一部としてなくてはならないものだ。2009年、科学誌『Neurotoxicology and Teratology』は、大麻に含まれる化合物が「アルコールによる損傷から人間の脳を保護する」ことを示唆する臨床データを掲載した。カリフォルニア州立大学サンディエゴ校で行われたこの研究では、大麻を吸う若者は、大量飲酒による脳の損傷を受けにくい可能性があることが示されたのである。また米国国立精神保健研究所の研究は、CBD が、記憶や空間学習に重要な役割を果たす海馬において、アルコール性の細胞死を減少させることを示している。

急性のアルコール暴露は一時的に脳内の内因性カンナビノイド量を増加させるが、慢性的なアルコールの使用は内因性カンナビノイドの信号伝達を全体的に低減させ、ベースライン値を低下させる。2 長期的なアルコールの乱用は内因性カンナビノイド欠乏症を引き起こし、そのことが、エンドカンナビノイド・システムが調節している多数の生理過程に悪影響を与える。アルコール依存症が内因性カンナビノイド欠乏症の一つであるとしたら、大麻を吸うことによってカンナビノイド受容体の信号伝達が強化され、その結果酒を断てる人がいるのは至極当然のことと言えるだろう。


この記事は、Project CBD のディレクター Martin Lee の著作『Smoke Signals: A Social History of Marijuana – Medical, Recreational and Scientific 』からの転載です。


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脚注

  1. ムーア人による征服の時代、スペインと南ヨーロッパの一部を含んでいたオスマン帝国では、ハシシは麻酔薬として、消化促進剤として、またてんかん、片頭痛、梅毒、腹部膨満、不安感をはじめとする様々な疾患の治療に使われていた。
  2. スクリプス研究所のラリー・パーソンズの研究チームは、長期的なエタノールへの暴露は「偏桃体における細胞外の 2-AG 量のベースラインを低下」させ、CB1受容体への結合効率を低下させ、「CB1受容体の発現を減少させる」と報告している。慢性的な飲酒はまた、腹側線条体と呼ばれる脳の部位において CB1受容体の機能を鈍らせ減退させる。腹側線条体における CB1受容体の信号伝達機能が働かないと、アルコール依存症に罹りやすくなり、自殺傾向が高まる。2009年、『Journal of Psychiatric Research』誌に掲載された論文で、ヤラグドリ・ヴィノードのチームは、「エンドカンナビノイド・トーンや CB1 受容体の機能を調節する薬物は、アルコール依存症の治療および自殺の予防に役立つ可能性がある」と提唱している。(K. Yaragudri Vinod et al., “Selective Alterations of the CB1 Receptors and the Fatty Acid Hydrolase in the Ventral Striatum of Alcoholics and Suicides,” Journal of Psychiatric Research 44[9][2010]: 59–97)

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