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私たちが生きる今という時代、真実はさまざまな陰謀論に覆い隠されています。人々の先入観を利用した魅力的なメッセージは、ときには露骨な、ときにはわかりにくい狡猾な嘘であったりもします。私はこの記事を 2020年の大統領選挙の直後に書いているわけですが、政治家候補も政党も、誤った情報を信じるのは危ないとさかんに指摘しています。けれども意外かつ嬉しいことに、決定的な各州の投票結果が次々と、かつてどんな大統領候補や政党よりも多くの陰謀論に耐えてきた一人の勝者を明らかにしています。

まごうことなき勝者、それは大麻です。そして大麻に対する 頑なな偽の情報キャンペーンとはまさに、『リーファー・マッドネス』に染み込んだ虚偽の主張そのもの — つまり、大麻を使用すると統合失調症やそれに類する精神疾患につながる、というものです。

アメリカが大統領選にまつわる不安に苛まれている今、嬉しいことに、大麻と統合失調症の関係についての新たな、非常に興味深い分析が、権威ある学術誌『JAMA Psychiatry』に掲載されました。私が 20年以上研究してきたこのテーマについての科学的文献に、”正気” という歓迎すべき薬が注射されたのです。

染み付いた偏見

弱まりつつあるとは言え、大麻は精神疾患につながる危険性のあるもの、という烙印を押されてきた大麻に対する偏見は未だ根強いものがあります。重要なのは、そうした背景を冷静に見ることです。陰謀論として人気が出るものはどれもおそらくそうなのですが、「大麻が狂気を引き起こす」という恣意的な主張が人々に受け入れらたのは、そこに一片の信憑性があるからなのです。

大麻は強力な精神作用のある物質で、高用量で摂取すれば幻覚作用があるとさえ言われています。大麻は昔から医療用に使われて奏効していますが、その強烈な効果に対する警戒の声がないわけではありません。また論争の核心には、若者の多くが、20代半ばから後半に発症することが多い病気である統合失調症と診断される前に、大麻を使用しているという事実もあります(もちろん、煙草についても同じことが言えます)。

科学の研究においてはこれまで、大麻の使用と統合失調症の発生率の高さとが繰り返し関係づけられてきたので、この主張は私たちにはおなじみです。そしてこれは事実であり、重要なことです。もしかしたら、関係性があること自体、製品に警告ラベルを付けたり年齢制限を設けたりすることを正当化するほど憂慮すべき問題なのかもしれません。それとも、そこには関係性以上のものがあるのでしょうか? いったいそれは、20世紀の反マリファナキャンペーンの基盤となった、リーファー・マッドネス的なメッセージを正当化する、「因果関係」だと言えるのでしょうか? 相関関係と因果関係は違う、というこの根本的な問題は、今も大麻は怖ろしいものと言い続ける人たちの言葉の衝撃をやわらげようと、多くの人たちが指摘してきたことです。

あるいはこの関係の原因は、潜在的な遺伝的危険因子があるといった限定的な状況があったり、大麻を使うのと同時に、精神疾患発症の危険を増大させる環境的なストレス要因があったりするのかもしれません。そうした場合、大麻の使用それ自体が原因ではなく、潜在的に統合失調症を発症しやすい傾向が、大麻を使用することで加速するのかもしれません。そうだとしたら大麻は、実際よりも危険で、健康な若者の精神を害するものであるかのように見えることでしょう。

“脳を乗っ取る”

何十年も前から一般的に使われてきた論法には、大麻使用と精神疾患に直接的な因果関係があるというバイアスがあり、国立衛生研究所の出資による研究も同様のことが言えます。大麻は「脳を乗っ取る」ものと考えられており、これはすべての嗜好用薬物の話をするときに使われてきた言い方ですが、こと大麻に関しては、脳を狂気に突き落とす性質があるとされてきました。

統合失調症の患者の多くが、実際に自己治療の目的で、主にネガティブな症状を抑えるために大麻を使っています。

けれども本来の科学とは、科学そのものに蔓延する偏見にさえ疑問を投げかけるものです。客観的な研究は、実際の世界はもっと複雑であるという事実に偏見なしに向き合うことが求められます。ここ数十年、強力な大麻を使うことは以前よりも一般的になっており、そのことは往々にして公衆衛生に悪影響を及ぼす危険性を伴うというふうに言われていますが、それが統合失調症の増加を意味するとしたら、これまでのところその事実は観察されていません。

この仮説を検証することは可能です。私がこれまでいくつかの講演の中でお話ししたように、遺伝子や脳を画像化する技術は向上しており、大麻が脳の健康を損なう危険性の研究に広く使われています。この2つの因果関係について調べた研究は複数ありますし、遺伝的要素が大麻による精神疾患発症に与える影響については系統的レビューも行われています(van der Steur, 2020)。

重要なのは、少なくとも2つの優れた研究が Gage(2017年)と Passman(2018年)によって行われており、いずれも、そこには逆の因果関係があると結論していることです。つまり人間は、統合失調症になりやすいという遺伝的/精神病理学的傾向がある場合に大麻を使用しやすくなり、それによって統計的関連性が生まれるのではないかと示唆しているのです。

その理由は色々あるでしょうが、可能性として高いのは、統合失調症発症前の境界状態にある人は大麻を使用すると治療効果が感じられるのではないかということです。統合失調症は往々にして、情動が鈍くなる、無気力、無快感症といったいわゆる「ネガティブな症状」が現れる「前兆期」が、初回精神病エピソードが起きる前に数年間続きます(Messias et al, 2007)。その後の研究でも、統合失調症の患者の多くが、実際に自己治療の目的で、主にネガティブな症状を抑えるために大麻を使っていることが確認されています(Schofield et al, 2006)。

まだ統合失調症と診断されてはおらず、その前兆期にいる人が、同様に大麻に魅力を感じるのは納得できることです。皮肉なことですが、彼らが感じる「生活の質」を改善するための大麻使用が、むしろ統合失調症の発症を早めるのかもしれず、これは研究・理解すべき重要な点であると言えます。

逆の因果関係

これは、大麻の使用そのものが精神疾患を引き起こす時限爆弾であるかのように言う理論とはまったく違う考え方です。重要なことなのではっきりと言っておきますが、この、逆の因果関係仮説 — つまり、精神疾患を発症するリスクが大麻の使用を促進するのであってその逆ではない、という考え方は、科学的にしっかりした根拠があり、この分野の論文はすて、このことを前提として解釈されるべきです。そうすることで、これまでずっと幅を利かせてきた、そして今でもさかんに流布される反大麻のプロパガンダが利用してきた恐怖感が軽減されるはずです。

大麻を吸うと頭がおかしくなる、という社会的な刷り込みは、主に、ハリー・アンスリンガー、リチャード・ニクソン、ロナルド・レーガンら、歴史的に大きな影響力のあった、科学者でも何でもない権力者によって流布され、大麻に対する文化の語り口の中に浸透してきました。彼らの誰一人として、21世紀になって登場した、大麻の使用に関する科学的見解を想像することはなかったはずです。つまり、大麻を使うのは、人体のエンドカンナビノイド・システムが持つ薬理学的調節作用に基づいた自然な行為であり、(必ずとは限らないものの)本質的に医療効果がある、という考え方です(Aggarwal, 2013 を参照のこと)。

複数の州での住民投票の結果は、党派に関係なく、世論がいかに大麻の合法化賛成に強く傾いているかを示しています。医療大麻制度は多数の自治体においてしっかりと確立され、成功を収めています。それなのに、すでに合法化されている州の一部では最近、THC を 10% 以上含有する大麻の使用を禁じようと試みた議員がいます。そうしなければ統合失調症の発生率が急増することが科学的に証明されたと言うのです!

こうした行動の根底にある恐れは、強力な大麻草の使用と、精神疾患の単一・初回エピソードを結びつけた 2019年の論文が煽ったものです(Di Forti et al, 2019)。この論文は、THC 10% 以上という恣意的な閾値を「強力」な大麻草 [*] の定義としていますが、これは著者ら自身を含めて極めて政治利用の目的の強いものでした。他の多数の論文もそうですが、実はこの研究の結果は他の交絡因子による相関関係、もしかしたら遺伝的リスクと大麻使用の逆の相関関係さえ示している可能性があるのです。

このエビデンスを理解できないままに引用することは、すでに偽りであることが明らかにされた有害な陰謀論を流布するに等しいと私は思います。

危険因子

さてここで、タイミング良く、興味深い論文(Gillespie & Kendler, 2020)が『JAMA Psychiatry』誌に掲載されました。著者らは、大麻と統合失調症の関係に加えて遺伝的要因との関係を検討した現存の論文のすべてを慎重かつ的確に分析しています。そして、遺伝的要因をはじめとするリスク要因が存在し、問題を混乱させ、2つの関係を強調していることを示すエビデンスが十分に存在することは明らかであると結論しているのです。著者らは、「仮説1」と呼ぶ、他のリスク要因がない人に大麻が統合失調症を引き起こすという純粋な因果関係を真っ向から否定しています。

ここ数十年、強力な大麻を使うことは以前よりも一般的になっていますが、それが統合失調症の増加を意味するとしたら、これまでのところその事実は観察されていません。

これまで述べてきた理由から、多くの人にとってこれは驚くに当たらないことだとは思いますが、このことは強調しておかなければなりません。徹底的な査読を受けた科学的分析に基づいた理性的なモデルを支持し、短絡的あるいは偏見的なモデルを否定するのは、大麻政策の改正がとどまるところを知らずに進む現在、重要なことなのです。

Gillespie と Kendler は、「[大麻と統合失調症の間にある]関係のかなりの割合は因果関係ではない」こと、そして「さまざまな量の大麻の使用に伴って統合失調症発症のリスクが変化するという主張はおそらく誇張されており、誇張がかなりの程度である可能性もある」ことを、「慎重に」示唆しています。因果関係が全く存在しないとは言っていませんが、むしろそれは逆方向の因果関係である可能性を示唆するエビデンスをきちんと指摘し、明快で的確な統計データでその見解を裏付けているのです。

リーファー・マッドネスに代表されるネガティブキャンペーンが最初にアメリカの連邦法に影響を与え、大麻の禁止という暗い時代が始まってから、何十年も経ちました。けれども生体医科学は依然として、その主張の証拠を明らかにしていません。統合失調症の危険因子は複雑で、あいにく大麻草とそれら危険因子には相互作用がありますが、その詳細はまだよくわかっていないのです。願わくば今後の研究によって、統合失調症発症がよりよく予測可能になり、科学的知見に基づいた教育と予防ができるようになればと思います。その中には、大麻業界自らの支援による医薬品安全性情報管理の研究も含まれるべきです。

今のところはとりあえず、統合失調症の家族歴がある人は、高 THC の大麻の使用は細心の注意を払って行うか、あるいは完全に避けるべきでしょう。該当する人には、実際に高 THC の大麻が精神疾患の発症を促進するかもしれないからです。ただし、生体医科学が裏付ける因果関係はおそらくそこまでですから、それをそのまま一般の公衆衛生政策に当てはめるのは留保して然るべきです。


Gregory L. Gerdeman 博士は、エンドカンナビノイド・システムおよび人間と大麻の生物学的関係について研究している神経科学者・教授。プロフェッショナルな科学者として、またコンサルタントとして、合法医療大麻およびヘンプ業界に金銭的利害関係があることを開示している。


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 脚注

* このコメントにはより詳細な注が必要です。なぜなら、『Lancet』誌に掲載された Di Forti らの論文(2019年)は、大麻が精神障害を引き起こす最大の要因であるという大胆な主張を展開しているからです。この論文は、マルチサイト臨床試験に関するものであるという性質上、著者として医師や学者らの名前がずらりと並び、その中には製薬会社からアドバイザーとして報酬を受け取っている人もいます。また複数の国に治験サイトが存在するため、出資機関としてさまざまな国営の研究機関が名を連ねています。その結果、この論文は非常に権威あるもののように見え、複雑で詳細な研究内容そのものよりもむしろそのことが政治的な影響力を発揮しているかもしれません。この論文の場合、著者らは複雑な統計データを表す多数の表を用いて行き過ぎた主張を展開しています。根本的に疑問のある分析手法の一部については、論文に添付されたネット上の補足資料やその中に記された参考文献などを精査しない限り明らかにはなりません。大きな懸念の一つは、治験に参加した精神病エピソードのある患者が過去に使用した大麻製品の強度(ポテンシー)を著者らが推定した方法です。著者らはまず、どんな製品を使用したかについては、患者自身の口頭での説明 — たとえばハッシュ、「スカンク」「自家栽培」など(言語によって呼び方は異なります)— に頼っています。次にそれらの名称を各国の警察のデータと照会し、それらの製品がその国で一般的にどれほどの THC を含有しているかを調べています。たとえば、ブラジルのハシシはポテンシーが低く(<10%)、スペインではポテンシーが高い(>10%)とされています。ある患者がロンドンで「スカンク」あるいは「自家栽培した大麻」を喫煙するのが好きだと言えばその患者は高 THC ユーザーに数えられますが、別のイギリス人がハシシや輸入大麻を吸ったと言えばその人は低 THC ユーザーなのです(コロラド州からの輸入はどうなのでしょう?)! これらはすべて、各国政府が、その国で押収されたそれぞれの名称に該当する大麻製品に典型的であるとする数字に基づいています。注意すべきは — 参照文献内の情報源を詳しく精査しない限りわからないのですが — これらの数字の中には、15年以上前のものがあるということです(たとえばブラジルのハシシの THC 含有量は、2004年に押収されたものの数字です)! 高 THC と低 THC を分ける 10% という基準は完全に恣意的なものですが、政治家はあたかもそれが科学的な根拠のあるものであるかのように扱っています。大麻の分析テストにまつわる課題を理解する人なら誰でも、正確な結果を出すためには慎重かつバリデーション済みのプロトコルに従うことが必要であることを知っています。同一の大麻草の検体を複数の検査ラボに送れば、分析結果の THC 含有%が大幅に異なっているというのはよくあることなのです。『Lancet』誌のエディターは明らかにこの点を理解していません。Di Forti らは、自分たちの調査手法は単なる患者による自己申告よりも信頼性が高いと主張しますが、私はおそらくその逆であると考えます。2020年現在、アメリカの検査ラボが、カンナビノイド検査に特化しているにもかかわらずその精度に問題があるとしたら、精査すべきバリデーションされた検査手法が存在しない他国で、警察に押収された大麻草を政府の検査機関が分析した、すっかり古くなった情報など私は一切信用しません。最終的にこの論文は、大麻のヘビーユーズを統合失調症に結びつける論文の一つにすぎませんが、この場合は統合失調症どころか、たった一度の初回精神病エピソードに関連付けています。因果関係の有無については一切証明されていないにもかかわらず、論文の著者らは勝手に、因果関係があるという前提に基づき、権威ある医学誌の誌上を借りて、THC を 10% 含む大麻が世界中の精神疾患にどれほど影響しているかを推察しているのです。この論文によってたちまち、新たに一連の大麻規制論が沸き起こっています。

参照文献

  1. Di Forti, M et al. The contribution of cannabis use to variation in the incidence of psychotic disorder across Europe (EUGEI): a multicentre case-control study. The Lancet Psychiatry. 2019; 6(5): 427 – 436. https://doi.org/10.1016/S2215-0366(19)30048-3
  2. Gage SH, Jones HJ, Burgess S, et al. Assessing causality in associations between cannabis use and schizophrenia risk. Psychol Med. 2017;47(5):971-980. doi:10.1017/S0033291716003172
  3. Gillespie NA, Kendler KS. Use of Genetically Informed Methods to Clarify the Nature of the Association Between Cannabis Use and Risk for Schizophrenia. JAMA Psychiatry. Published online November 04, 2020. doi:10.1001/jamapsychiatry.2020.3564
  4. Messias EL, Chen CY, Eaton WW. Epidemiology of schizophrenia: review of findings and myths. Psychiatr Clin North Am. 2007;30(3):323-338. doi:10.1016/j.psc.2007.04.007
  5. Pasman JA, Verweij KJH, Gerring Z, et al; 23andMe Research Team; Substance Use Disorders Working Group of the Psychiatric Genomics Consortium; International Cannabis Consortium. GWAS of lifetime cannabis use reveals new risk loci, genetic overlap with psychiatric traits, and a causal influence of schizophrenia. Nat Neurosci. 2018;21(9):1161-1170. doi:10.1038/s41593-018-0206-1
  6. Schofield D, Tennant C, Nash L, Degenhardt L, Cornish A, Hobbs C, Brennan G. Reasons for cannabis use in psychosis. Aust N Z J Psychiatry. 2006 Jun-Jul;40(6-7):570-4. doi: 10.1080/j.1440-1614.2006.01840.x. PMID: 16756582.
  7. van der Steur, Sanne J et al. “Factors Moderating the Association Between Cannabis Use and Psychosis Risk: A Systematic Review.” Brain sciences vol. 10,2 97. 12 Feb. 2020, doi:10.3390/brainsci10020097

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