Project CBD is made possible by the support of our partners.

2016年、新しく創刊された医学ジャーナル『Cannabis and Cannabinoid Research』が、陶酔作用のないカンナビジオール(CBD)が胃の中で陶酔作用のあるテトラヒドロカンナビノール(THC)に変化するということを示唆する論文を掲載しました。物議を醸したこの論文は、ペンシルバニア州デヴォンにある Zynerba Pharmaceuticals という会社に雇われた数人の科学者が書いたものです。このテーマについて書かれた論文はこれが初めてではありません。

CBD が胃の中で THC に変換されるかどうかを明らかにするために研究者が検討するデータには、大きく分けて3種類のものがあります:

  • 1つ目は、CBD を経口摂取した人の血液検査と生理学的検査です。これを見れば、その人が実際に THC に暴露し、CBD を摂取したあとで THC のような作用が起きているかどうかがわかります。
  • 2つ目のデータは、CBD 摂取後に排出された代謝産物を調べるものです。これを調べても特定の代謝産物が生理的に影響を与えているかどうかはわかりませんが、その代謝物が生成されたかどうかの証明にはなります。
  • 3つ目の、重要度としては一番低いデータは、実験用の臓器モデルから得られるもの—たとえば人工胃液であるとか、抽出された肝ミクロソームなど—です。これによって、CBD から THC への変換の可能性は示されるかもしれませんが、必ずしもそれが人間の体内で起きているということにはなりません。

2016年にジョン・メリック(John Merrick)らが発表し、CBD が THC に変換される可能性について新たな関心を呼び起こした論文は、この3つ目のカテゴリーにあたります。この論文は、医療大麻患者、医師、政策立案者などの間に、CBD の利用には有害な副作用があり、それさえなければ言うことなしの CBD の治療効果と市場の成長に悪影響を与えるのではないかという懸念を引き起こしました。医療大麻に対する理解が医療従事者や一般の人々の間で高まりつつあるときに、CBD の経口摂取に関する誤った情報が流れば、政策や規制に関する決断にも影響します。

相反する研究結果

経口摂取した CBD には、たとえ用量が 600ミリグラムを超えても THC のような作用はないということを示す臨床試験はたくさんあります。[1] メリックの論文に呼応する形で、Grotenhermen らの2017年の論文では、THC のような作用の不在が詳細に論じられています。このことは、CBD は脳で CB1受容体に重大な受容体活性を引き起こさず、結果として THC のような「ハイ」な状態を生まないということをはっきりと示しています。ある臨床試験では、16人の男性が 600ミリグラムの CBD を経口摂取した後で、THC と THC の代謝産物の血中濃度を調べましたが、その濃度の変化は統計的に有意ではありませんでした。経口摂取した CBD から生成される THC の量は、生理学的に意味を持たないのです。

CBD を経口摂取した後でごく微量の THC が尿として排出されることを示す、人間を対象とした研究はいくつかあります。Δ9THC として排出されるのは摂取された CBD の1%未満で、1〜2% は Δ8THC として排出されます。これらの結果は、経口摂取された CBD のうちの少量は異性化して THC になることを示していますが、そのこと自体には実際的な意味はありません。このデータからいかなる生理作用を想像しようとも、CBD が THC のような精神作用を起こさないことを示す臨床証拠の方が確実なのです。

人工胃液で CBD から THC への変換について調べた研究は2例あります。一つはワタナベらによる 2007年のもの、もう一つがメリックらのものです。メリックはワタナベの論文を引用して CBD が THC に変化するという理論を構成しようとしていますが、メリックの実験結果はワタナベのデータとは驚くほど違います。胃液をシミュレーションしたワタナベの実験では、CBD の15.4%が、Δ9THCCBN、8-OH-iso-HHC、9a-OHHHC という4つの化合物に変換されました。(このうち最も多かった 8-OH-iso-HHC の精神作用は、THC のおよそ 15分の1です。)経口摂取した CBD が胃中にとどまる時間よりもはるかに長い、20時間に及ぶこの実験で、実際に THC に変換された CBD は3%未満でした。ところがメリックの論文では、たった1時間で CBD の 85%が分解されたとされているのです。言い換えれば、メリックの研究では、ワタナベの研究の 200 倍の速さで反応が起こったことになります。[2] この違いは、胃液モデルが異なっていたためかもしれず、どちらのモデルについてもその信憑性が疑われます。さらに、ワタナベの論文には「生体系において、CBD が Δ9THC そのものに変化したという報告は存在しない」と明確に述べられていることにも留意するべきです。

メリックらの論文で、テスト結果の提示に続く考察は、彼らの実験の些細な結果をはるかにしのぐものです。彼らは CBD を経口摂取した後の「THC 暴露量」を推定する方程式を提案しています。この方程式はいったい、読者のために何をしてくれるのでしょうか? せいぜいが憶測、悪くすれば完全に誤った情報を提供するだけです。では論文の著者らにとってこれは何を意味するでしょうか? 彼らが胃液をシミュレートした実験が示した取るに足らない結果を誇張し、カンナビノイド製剤の経口摂取に関して何か非常に重要なことを発見したかのような、誤った印象を植え付けるのです。

事態の悪化

メリックの研究の最大の欠点は、彼らの研究手法と結論に対する的を得た批判に対して彼らがとった反応(Bonn-Miller et. al. 2017)です。元の論文と同じジャーナルに掲載された Bonn-Miller の返答には、巧妙な事実の歪曲と明らかな嘘が満載で、元の論文を支持するために引用した過去の研究の解釈も正しくありません。

中でも甚だしい例として、著者らは Consroe の論文(1979)について、「論文には、CBDの経口摂取後に運動機能と認知機能が低下したと書かれている」と言っています。実際の Consroe の論文には、「アルコール、およびアルコールと CBD を摂取した場合、運動・認知機能の低下が見られたが、CBD のみを摂取した場合にはそれは見られなかった」と書いてあるのです(強調は Project CBD によるもの)。

経口摂取した CBD は体内で THC に変化しないことを示した、人間を対象とした2つの研究のうちの1つの信用を貶めようとして、メリックらは、Martín-Santos らの論文 (2012) に含まれている図が、CBD の投与後に THC 代謝産物が増加したことを示していると主張しています。しかし、この図に示された傾向は統計的に有意でないばかりか、その数値は極めて小さく、臨床的に何の意味も持たないのです。

医療大麻に対する理解が医療従事者や一般の人々の間で高まりつつあるときに、CBDの経口摂取に関する誤った情報が流れば、政策や規制に関する決断にも影響します。

完全な嘘とは言えませんが、この他にも、他の研究者の論文を歪曲して伝えているところがあります。1968年にガオニ(Gaoni)とミシューラム(Mechoulam)が発表した CBD から THC への変換は、胃の内部をシミュレートした環境ではなく、CBD を硫酸とメチルアルコールに溶解させるという非常に不自然な状況で起きたことです。化学合成の世界ではもちろんこれは意味のある反応ですが、実際に人間に起きることとはほとんど関係がありません。

メリックらはまた、 István Ujváry と Lumir Hanuš による2016年のレビュー論文が「CBD が THC に変換するという一貫した結果」を「強調」している、と言っていますが、このレビューで CBD から THC への変換について言及しているのは一文のみであり、しかも Δ9THC は「微量(<1%)な尿代謝産物」であったという注釈付きです。 Ujváry と Hanuš はまた、∆9-THC よりも精神作用の少ない ∆8-THC が微量に存在したことにも言及しています。

『Cannabis and Cannabinoid Research』というジャーナルが、メリックの論文に対する批判への返答に査読を加えたかどうかは疑問です。なぜならこの返答は、科学的な報道が満たすべき基準を満たしていないように見えるからです。査読とは、他の科学者が、論文が発表される前にその正当性を確かめ、読者が内容の正確さに疑問を持つことなくその論文を読めるようにすることが目的です。Bonn-Miller らによるこの返答を掲載した『Cannabis and Cannabinoid Research』は、その目的を達していなと言えるでしょう。[3]

しかしメリックらは、この研究に資金を供出した Zynerba Pharmaceuticals の目論見は立派に果たしたようです。Zynerba はプレスリリース(2016年4月12日付)の中で、「消化管を通らず、胃酸による CBD から 精神作用のある THC  への変換の可能性を避けることができる」経皮吸収型の製品を開発中であると発表しています。つまり Zynerba には、臨床試験で忍容性が確認されている CBD の経口摂取が有害である可能性があると主張することで得られる金銭的な恩恵があるのです。

そもそも存在しない問題を解決したと主張しても科学的には意味がありませんが、CBD が胃の中で THC に変換するという誤った主張を述べている企業は Zynerba だけではありません。たとえばデラウェア州の Ananda Scientific という会社は、競合他社を出し抜こうと、「他社のヘンプ由来 CBD 製品は、摂取後に THC に変化する危険がありますが、当社の CBD 製品はそれが起きません」と主張しています。


当サイトの著作権は Project CBD にあります。許可なく転載を禁じます。


脚注

  1. もちろん、THC と CBD の両方が持つ作用はたくさんあります。CB1受容体の活性を測定する「4点試験法(Tetrad test)」は、カタレプシー、低体温、胃腸の運動低下、鎮痛作用を測定するものです。経口摂取された CBD は一貫して鎮痛作用を発揮しますが、それ以外の項目については活性がありません。
  2. メリックの論文の速度定数は毎分 -3.1 * 10^-2 であるのに対し、ワタナベの論文では毎分 -1.4 * 10^-4 でした。ワタナベの速度定数は以下によって算出できます。仮に一次速度則が当てはまるとすると(分子の分解ですから妥当と思われます)、[CBD] / [initial CBD] = exp(-k * t) となります。(k は速度定数、[…] は濃度を考慮していることを示します。)20時間(1200分)で15.4% の CBD が分解されたということは、方程式の左側は 1-0.154 = 0.846、右側の t は 1200 です。k を解くと、k = -ln(0.846)/1200 min ≈ -1.4 * 10^-4/min となります。次にこれらの速度定数を比較すると、k_Merrick/k_Watanabe = 222 となり、つまりメリックの実験ではワタナベの実験の 222倍の速度で分解が起きたことになります。
  3. Grotenhermen 論文の共著者の一人が Project CBD に語ったところによれば、彼らのメリック批判は出版前に査読を受けています。一方、Bonn-Miller(2017)が査読されたかどうかを Project CBD が『Cannabis and Cannabinoid Research』に問い合わせたところ、回答はありませんでした。批判に対する返答の主著者ではありますが元のメリック論文の著者には挙がっていない Bonn-Miller 博士は、『Cannabis and Cannabinoid Research』の編集スタッフの一人です。

参考文献

  • Bergamaschi MM, Queiroz RHC, Zuardi AW, Crippa JAS. Safety and Side Effects of Cannabidiol, a Cannabis sativa Constituent. Current Drug Safety. 2011, 6:237-249.
  • Bonn-Miller M, Banks SL, Sebree T. Conversion of Cannabidiol Following Oral Administration: Authors’ Response to Grotenhermen et al. Cannabis and Cannabinoid Research. January 2017, 2(1): 5-7.
  • Consroe P, Carlini EA, Zwicker AP, Lacerda LA. Interaction of Cannabidiol and Alcohol in Humans. Psychopharmacology. 1979, 66:45-50.
  • Gaoni Y and Mechoulam R. The iso-tetrahydrocannabinols. Israeli Journal of Chemistry. 1968, 6:679-690.
  • Grotenhermen F, Russo E, Zuardi AW. Even High Doses of Oral Cannabidiol do not Cause THC-like Effects in Humans: Comment on Merrick et al. Cannabis and Cannabinoid Research. January 2017, 2(1): 1-4.
  • Martín-Santos R, Crippa JA, Batalla A, Bhattacharyya S, Atakan Z, Borgwardt S, Allen P, Seal M, Langohr K, Farré M, Zuardi AW, McGuire PK. Acute Effects of a Single, Oral Dose of d9-tetrahydrocannabinol (THC) and Cannabidiol (CBD) Administration in Healthy Volunteers. Current Pharmaceutical Design. 2012, 18:4966-4979.
  • Merrick J, Lane B, Sebree T, Yaksh T, O’Neill C, and Banks SL. Identification of Psychoactive Degradants of Cannabidiol in Simulated Gastric and Physiological Fluid. Cannabis and Cannabinoid Research. April 2016, 1(1): 102-112.
  • Ujváry I and Hanuš L. Human Metabolites of Cannabidiol: A Review on Their Formation, Biological Activity, and Relevance in Therapy. Cannabis and Cannabinoid Research. March 2016, 1(1): 90-101.
  • Watanabe K, Itokawa Y, Yamaori S, Funahashi T, Kimura T, Kaji T, Usami N, Yamamoto I. Conversion of cannabidiol to ∆9-tetrahydrocannabinol and related cannabinoids in artificial gastric juice, and their pharmacological effects in mice. Forensic Toxicology. 2007 25:16-21.

関連情報:

  • Solomon, Shoshanna, “Israeli cannabis-based nanotech droplets start US sales,” The Times of Israel, Dec. 5, 2016.
  • Zynerba Pharmaceuticals, Inc., “Cannabis and Cannabinoid Research Publishes Data Demonstrating the Degradation of Cannabidiol to Psychoactive Cannabinoids when Exposed to Simulated Gastric Fluid,” press release, April 12, 2016.

More from this category