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陶酔作用を持たない大麻成分カンナビジオール(CBD)の大人気に助けられて、大麻草のネガティブなイメージは弱まり、大切な薬草としての評価を取り戻しつつあります。ところが、エセ科学と誤った報道が今でも、CBD や医療大麻の持つベネフィットとリスクについての私たちの理解を歪めています。

Forbes オンラインに掲載されたマイク・アダムスの記事は、CBD は「アルコールその他の薬物と同様に私たちの肝臓に損傷を与える可能性がある」という主張で人々を警戒させています。この扇情的な主張は、アーカンソー大学リトルロック校の研究者ら(Ewing et al)が行った、正当性の疑わしい研究の結果をその根拠としています — ただし、この論文が述べる損傷とはアルコールの毒性とは無関係ですし、「私たちの肝臓」と言っているのは実際にはマウスの肝臓のことです。

この論文は人間については触れていません。これは非常に重要な点です。しかも、現実社会において人々は、Ewing らが実験で使用した最大用量である、自分の体重の 0.25% に相当する量の CBD を摂取したりはしません [1]。

ところが Forbes の記事には、「CBD のユーザーは肝毒性が発現するリスクが高まる」とされ、さらに CBD には実際に「アセトアミノフェンのような従来の鎮痛薬」と「同程度の肝臓に対する有害性」があると書かれています。この記述を裏付ける科学的文献はありません。

マウスへの CBD 大量投与

Forbes に掲載されたこの戦慄的な記事は、重大な不備のあるただ一つの基礎実験に焦点を当て、ほとんど読者を欺いていると言ってもいいほどにその結果を誇張しています。ただし、この記事に取り柄があるとしたらそれは、この研究そのものよりも間違いがまだはるかに少ないという点でしょう。この論文は、Multidisciplinary Digital Publishing Institute(MDPI)が発行するジャーナル『Molecules』で無料で読むことができます。

この論文を詳しく読むと、奇妙な記述、出版にまつわる問題、理に適わない実験デザインなどが詰まったパンドラの匣を開けることになります。論文はまず1ページめの抄訳で、根本的にあり得ない主張を述べていますCBD を長期投与した場合、「体重1キロあたり 615 mg の CBD をチューブによって投与されたマウスの 75% が瀕死の状態に陥った」というものです。ところが、この用量を投与されたマウスは6匹しかいないのです! 科学や数学の学位を持っていなくても、何かがおかしいことはすぐにわかります。6匹のマウスの 75% とは 4.5 匹なのです。

論文の著者らによれば、CBD という危険な薬物の摂取によって 4.5 匹のマウスが死に、残りの 1.5 匹は生き残ったというわけです。

読み進めるともっとひどいことがわかります。

実験の内容は簡明です。研究者は、「低用量」とされる 246 mg/kg から最大 2460 mg/kg までの幅のある用量を強制的にマウスに投与しました。つまり、体重1キロに対して、国立薬物乱用研究所(NIDA)から提供された大麻草からヘキサンを溶媒として抽出 [2] された 2.5 グラムの CBD を投与したということです。ちなみに、ヘキサンは神経毒です。

“アーカンソー大学リトルロック校の研究者らによれば、CBD という危険な薬物の摂取によって 4.5 匹のマウスが死にました。”

CBD アイソレートであるエピディオレックス(Epidiolex)で人間に対して推奨される用量の最大値は 20 mg/kg であり、これは論文の著者らが強制的にマウスに投与した量の 1/100 以下です。また研究では、これよりも低用量(61.5〜615 mg/kg)の CBD を 10日間連続投与しています。

このとんでもない高用量にもかかわらず、著者であるエウィング(Ewing)らは、この実験結果は CBD が人間に与える作用を正確に示していると主張しています。人間の用量に換算した場合、相対成長率(これについては後ほど詳しく説明します)があるために、用量は 12.3 倍低くなると言うのです。これは、良く言っても実証されていない仮説にすぎませんし、むしろ単なる誤りである可能性が高いでしょう。

めちゃくちゃな引用

『Molecules』誌に掲載された実験の結果を見る前に、まずイントロダクションがすでに著者らの手の内を明かしています — この論文は CBD を否定するのが目的であって、真正の科学的研究ではないのです。

引用されたエビデンスに関して言えば、そこには明らかな二重基準が見られます。CBD の医療効果(抗炎症作用や抗酸化作用)に関してはインビトロ実験 [4, 5] のみを引用して肯定的な研究結果の重要性を過小評価しておきながら、その次の文章では、CBD の有害性の高さを示すために、インビトロ実験と動物実験を引用しているのです。そしてそこから導き出される主張もまた、解釈が誤っているためにめちゃくちゃです。

この論文には、「多数の研究が、CBD の使用が神経毒性、心血管系毒性、生殖毒性を引き起こすということを示している」と書かれています。ところが、この主張の根拠として引用されている9つの論文のうち8つは人間が対象ではありません。人間を対象とした研究は1つしかなく、しかもそれは CBD の有害性を示したものではありません。ノッティンガム大学のシアーシャ・オサリバン(Saoirse O’Sullivan)博士率いるチームによるこの臨床研究では実は、CBD を摂取(600 mg、つまり 10 mg/kg)した後では血圧が下がることが示されてるのです。オサリバン博士らの論文は、「CBD は心血管疾患の治療に役立つ可能性がある」と結論しています。それなのに、アーカンソー大学の研究チームはオサリバン博士らの論文を、CBD が心臓毒性を持っている証拠である、と誤って解釈しているのです。

Project CBD の問い合わせに対してオサリバン博士からは、「CBD が安静時およびストレス下での血圧をわずかに低下させることを示した私たちの研究結果は、この記事の、CBD が心血管系に有害であるという主張を裏付けません。むしろ私たちの研究のほとんどは、CBD が心血管系を保護する可能性についてのものです」という答えが返ってきました。

アーカンソー大学の研究チームが言っていることとは反対に、オサリバン博士らによる研究の結果は、CBD には心血管系を護る働きがあることを示唆しています。

その後もめちゃくちゃな引用は続き、エピディオレックス(FDA が承認した、大麻草から抽出された CBD アイソレートの医薬品)に関するある臨床試験では、CBD ユーザーの 93% に有害事象(いわゆる副作用)があったとしています。なんと! CBD はほとんどすべての人に問題を引き起こすというのです! ところが元の論文を読むと、「CBD を摂取したグループの 93%、偽薬を摂取したグループの 75%」に有害事象が発生したと書かれています(強調は筆者によるもの)。被験者は、CBD の他にさまざまな抗けいれん薬を使用しています。ここで意味のある数字は CBD が原因と特定できるものだけであって、すべての医薬品による有害事象の合計ではありません。ところがエウィングらは、CBD の有害性を大きく見せるためにその違いを些細なこととして無視しています。その結果、実際に CBD が引き起こす可能性のある問題を検証する機会が見落とされているのです。

『Molecules』誌に掲載されたの 17ページにわたる論文をさらに読み進めると、2ページめの中ほどにさらに問題が見つかります。ある実験室の分析によると、「市販されている製品の用量は、少ないもので 2.2 mg、多いものでは 22.3 mg であり、毒性がある可能性に対する懸念を大きくしている」と言うのです。まず、実験室の報告にある最低用量は 1.3 mg であり、2.2 mg ではありません [6]。また、22.3 mg というのは少しも高用量ではありません。人間は、2000 mg の CBD を摂っても有害な作用は起きないことが報告されています。

『Molecules』誌の論文が実験の結果についてのセクションに差し掛かるまでに、この論文の信憑性は上記の問題のおかげですっかり失われてしまいます。では実験の結果はどうだったでしょう。このセクションには、非常な高用量(738〜2460 mg/kg)の CBD を摂取すると、肝酵素の量や代謝に関係する遺伝子の発現の変化を含む、CBD が原因の問題が発生すると書かれています。CBD が長期投与されたグループでも、1番めと2番めに多い用量で類似した問題が発生しました。ただしこのような高用量の投与は、臨床研究では聞いたことがありません。長期投与グループのマウスの一部は CBD の投与が原因で死んでいますが、それが何匹であったかは書かれていません。唯一挙がっている数字は、抄訳にある「4匹半」なのです。

データは違えど言うことは同じ

「あなたがこの研究についてどう感じるかは別として、マウスが死んだということは否定しようがない」と Forbes の記事は言います。馬鹿げています。マウス、という言葉にもっと注意を払うべきなのです。疑うのをちょっとの間やめて、ここまでに説明した問題点をすべて見逃すことにしたとしても、死んだマウス(またはマウス半匹)は、人間にも同じことが起きるという証拠にはなりません。

カンナビノイドの致死用量の研究は今に始まったことではありません。大量の THC を投与して実験動物を死に至らしめるという試みの最も初期のものは、マサチューセッツ州ウースターにある Mason Research Institute の科学者らによる 1972年の論文に記録されています。THC の危険性を証明するために研究者らは、400匹近いラット、二十数匹のビーグル犬、数頭のアカゲザルを殺そうと試みたのです。ラットが死ぬために必要な経口摂取による THC の用量は 225〜3600 mg/kg で、アーカンソー大学の研究で使われた CBD の用量よりもさらに高いものでした。

初期の実験では、体重の1%近い THC を与えてもサルを死に至らしめることはできませんでした。

THC でラットを殺すことは可能でしたが、それにはおよそ 1000 mg/kg の THC が必要でした。これに相対成長率を当てはめて解釈すると、サルの場合 500 mg/kg の THC で死ぬことになります(倍率については下の表を参照のこと)。人間ならば純粋な THC 10 mg/kg です。でもこれは間違っています。実験では、サルが THC の過剰摂取で死ぬことはありませんでした [7]。相対成長率を当てはめても、それよりはるかに高用量で、サルの体重の1%に近い 9000 mg/kg という量を投与してもサルは死ななかったのです。

標準的な、体重 65キロの人間の場合、体重の1%というのは THC 585 グラムに相当します。それほどの量でも死には至らなかったのです [8]。人間の場合の数字に最も換算しやすいのはサルに投与された量ですが、この結果からわかることがあるとしたら、ある動物の致死量を他の動物の致死量から推定してはいけないということです。

相対成長率

たとえばマウスやハチドリのような小さな生き物は、ワタリガラスや人間といった大きな動物よりも活動的です。それは身体の動きだけではなく、代謝のスピードも小さな動物ほど速いのです。ですからマウスは、人間よりも素早く薬物を体内から排出します。これが、実験動物と人間の患者で薬物の用量が異なる大きな理由の一つです。

相対成長率は、この問題を解決するのに役立つ目安です。これは、薬物の用量は体重と体格指数(BMI)に基づいて、ある動物から別の動物に換算が可能であると想定するものです。

  動物の場合の用量(mg/kg)を人間の場合の用量に換算するには:
動物 標準体重(kg) 実際の体重の範囲(kg) 動物の用量 ÷  動物の用量 x
人間 60
マウス 0.02 0.011-0.0034 12.3 0.081
ハムスター 0.08 0.047-0.157 7.4 0.135
ラット 0.015 0.08-0.027 6.2 0.162
フェレット 0.3 0.16-0.54 5.3 0.189
モルモット 0.4 0.208-0.700 4.6 0.216
ウサギ 1.8 0.90-3.0 3.1 0.324
10 5-17 1.8 0.541
アカゲザル 3 1.4-4.9 3.1 0.324
マーモセット 0.35 0.14-0.72 6.2 0.162
リスザル 0.6 0.29-0.97 5.3 0.189
ヒヒ 12 7-23 1.8 0.541
マイクロブタ 20 10-33 1.4 0.73
ミニブタ 40 25-64 1.1 0.946

ヒト等価用量の計算は体表面積に基づいて計算。 Nair, A & Jacob S, 2016. doi: 10.4103/0976-0105.177703 より。

この倍率は、人間で試験されたことのない薬物の投薬量を割り出すためによく使われます。CBD はこれには当てはまらず、人間が使用しても安全であることが実証されていますが、アーカンソー大学の科学者も Forbes の記事もこのことにはわざと言及していません。

相対成長率を使っての基礎実験の再解釈は、その正当性を証明しなければなりません。実のところ、毒性に関する相対成長率はカンナビノイドにはそぐわないかもしれないのです [9]。直線的な倍率は、カンナビノイドという油性化合物が持ち合わせない特徴を前提としているからです。たとえば相対成長率は血中を自由に流れる薬物の場合に最もよく当てはまるのですが、CBD(と THC)は 99% 以上がタンパク質に結合し、血中を流れません。さらに、この研究で使われたとんでもない高用量の CBD は、身体の代謝機構を飽和させ、妥当な用量推定ができなくなります。

マウスを使った実験で使用された用量がそのまま人間に当てはまらないことは疑いようがありません。ところが、間違った倍率が選択されているために、この論文の「ヒト等価用量」は無意味になっています。THC を使った研究では、ラットに与えた用量の 10倍の用量をサルに与えても毒性はない、という、相対成長率が示唆するところとは逆の結果であったことを思い出してください。

これらはすべて、結論を、はっきりと立証できる事実のみに限ることの重要さを明らかにしています。アーカンソー大学の論文は、体重の約 0.25% という高用量の CBD の投与がマウスにとって有害であることを示していますが、人間の場合の現実的な用量については何もわからないのです。論文が述べていることは、著者らの偏見を映し出しているに過ぎません。

査読という政治

この問題の論文は、いったいどうやって『Molecules』誌に掲載されるに至ったのでしょうか? 科学的に問題があれば、査読の過程でそれが正されるはずではないのでしょうか?

理想的には、査読というのは厳しくかつ建設的で、研究の改善を余儀なくさせるものです。ところが残念ながら、すべての査読が同じ目的のために行われるわけではありません [10]。査読はまた、学閥的なつながりを強め、匿名性に隠れて政治権力の奪い合いに加担する手段ともなり得ます。中には、著者が高額な「論文掲載料」を支払い、査読は単なる受領スタンプにすぎない場合もあります。

査読者からのインプットの質にばらつきがあるのと同様に、科学誌の質もさまざまです。『Molecules』誌を発行している MDPI は過去に、捕食出版社と呼ばれています [11]。信用のおけない論文を掲載するとして批判されているのです。(これはあまりにも重大な問題 [12] なのでここでは取り上げません。)もちろん、仮にそれが本当だとしても、MDPI が発行する 213誌のいずれかに優れた論文が掲載される可能性がないわけではありません。でも、このことは、科学論文について、その主張をそのまま真面目に取って繰り返したり拡散したりするのではなく、その内容を確かめることの重要性を明らかにしています。

もう一つ問題があります。CBD が肝臓に有害であると主張するこの論文が『Molecules』誌に提出されてから掲載されるまでにかかった日数は 18日で、これは不可能ではないにしろ、非常に短い期間です [13]。他の科学誌と違い、『Molecules』誌は、査読者が論文に修正を求めてもそれを公表しません。でもこの論文の場合、修正が必要であったことは明らかです — なぜなら、参照文献リストを見ると、その一部は論文の提出後にアクセスされているからです(論文の参照文献 25〜27を見てください)。この3つの引用は、論文が『Molecules』誌に承認されたのと同じ日に参照されています。これは、修正された原稿が提出と同日に承認されたということを意味し、適切な査読が行われたと考えるのは困難です。この問題についてコメントを求めましたが、アーカンソー大学の著者らからはすぐには返答がありませんでした。

CBDとアセトアミノフェン

この論文には不備な点があった、で片付けてしまっていいものでしょうか? そういうわけにはいきません。なぜなら『Molecules』誌はすでに、別の同じような論文を掲載しているからです。同じ科学誌が、同じように無意味な論文を掲載しているのです。この論文では新たに数名の著者が加わり、信じられないような主張を展開しています。

肝毒性に関する最初の論文が掲載された1か月後に『Molecules』誌に掲載された この最新の研究にも、あまり進歩は見られません。この論文では、CBD とアセトアミノフェン(商品名タイレノール。パラセタモールとも呼ばれる)の間に起こり得る薬物相互作用について述べています。

最初の論文と同様に、この実験でも神経毒であるヘキサンを使って、NIDA が提供した大麻草からカンナビノイドを抽出しています。残留溶剤の量は < 0.5%(5000 μg/g)です。これはカリフォルニア州の大麻に関する規制 — 残留溶剤の上限は 290 μg/g と定められています — のもとでは合法的に販売することができません。ヘキサンの残留量についての説明を求めましたが、著者らからは回答がありませんでした [14]。

アーカンソー大学による2つめの実験で用いられた用量は、最初の実験よりもかなり低くなっています。アセトアミノフェンそのものが肝臓にかなりの負担を与えるからです。おかしいのは選ばれた投与方法です。高用量の CBD は栄養チューブを使って投与されたにもかかわらず、400 mg/kg のアセトアミノフェンはマウスに注射されたのです。著者らは、この用量に相対成長率を適用した場合、人間がどれほどのタイレノールを摂ることになるかは述べていません。

アセトアミノフェンと、低用量とされる CBD(116 mg/kg)を投与された8匹のマウスのうちの3匹が数時間後に死にました。不思議なことに、より高用量の CBD を投与されたマウスは一匹も死にませんでした。アーカンソー大学の研究者らはこの奇妙な結果を、最適な効果を発揮するスイートスポットの存在を意味する、二相効果(ホルメシスまたは釣り鐘型の用量反応曲線とも言います)を使って説明しようとしました。カンナビノイドは、特定の用量の範囲以外、つまり用量が高すぎても低すぎても効果が失われるどころか、期待されるのとは逆の作用を持つことさえあるのです。

カンナビノイドの多くは二相効果を持ちますが、より詳細な説明なしに、それがCBD が持つとされる毒性の理由であると主張するのは理に適いません。それではまるで、毒を飲んだ人に、その対処法として同じ毒をもっとたくさん飲めと言うようなものです。論文の著者らはそうやって実験結果を正当化しようとしているのです。

再び一つ一つ問題点を検証してもいいのですが、この論文が著者らの偏見に基づいたものであることは、二兎を追うかのような考察を読めば明らかです。彼らの2つの実験の結果が(引用文献の選択とともに)一貫しているということは、モデルの正確さを示しています。ただし、それ以外の研究との矛盾は、CBD の安全性を主張する他の研究を反証することにはなりません。

『Molecules』誌に掲載された最初の論文の考察もまた、同じバイアスを示しています。基礎実験で医療効果を示唆するポジティブな結果が出ても大した意味がないと言いながら、基礎実験でとんでもない有害性が示されると、CBD は「肝臓損傷の危険がある」と言うのです。エウィングらの研究はときとして他の論文の論点と一致するので正当である、としながら、実験結果が他の研究と矛盾すると、CBD「が持つとされる抗酸化作用」その他の医療効果に疑問を投げかけるのです。

でたらめな主張

CBD の有害性を主張する、こうしたこじつけの論文の問題の一つは、それが CBD の本当の危険性に関する真面目な研究の信憑性を貶めることです [15]。高用量の CBD(通常 20〜50 mg/kg)が肝臓に害を与える可能性はありますが、それには重要な補足説明が必要です。エピディオレックスの製造会社が発表した数々の論文が、CBD の潜在的な危険性を明らかにしています。Project CBD はこうした危険性を数年前から報告してきました。

問題の一つは、CBD薬物代謝酵素を阻害する作用があることです。これは通常、一日に何百ミリグラム、あるいは何千ミリグラムもの CBD を摂取した場合に起こります。

CBD と他の薬物の相互作用が肝臓にストレスをかけることはあり得ますが、一時的で可逆性のストレスがあったからといって CBD が肝臓に有害であると主張するのは不合理です。

もっと大きい問題は、ALTAST と呼ばれる肝酵素が増加したという報告です。これは、エピディオレックスの治験を受けた子どもの 5〜15% で見られ、そうしたケースのほとんどは、バルプロエートを併用しています。バルプロエートは、それ自体が問題を引き起こすことがある強力な抗けいれん薬です [17]。これを深刻な薬物間相互作用と見ることもできますが、神経学者の多くは、CBD とバルプロエートの組み合わせはてんかんの治療に効果的であると言います。そこで医師は、患者の肝機能をモニターする必要があることを理解した上で、バルプロエートを含む治療薬に CBD を加える価値があると考えています。同じく薬物相互作用が引き起こされる可能性が高い CBD とクロバザムの併用も、少なくとも体験談のレベルでは、小児神経科医が有用と考える組み合わせです。

人々は CBD を他の薬と併用しますが、肝臓に問題が起きれば(モニタリングは患者本人ではなく医師が行います)容量を減らしたり摂取をやめたりします。数々の報告によれば、肝臓の問題は、CBD を摂るのをやめたり用量を減らしたりすれば解決します。リスクがあるということを認識していれば、医師がそれを管理するのは簡単です。

こうした問題を「損傷」と呼ぶのは言いすぎです — 肝酵素の増加は、何もせずに放っておけば肝臓がダメージを受ける可能性があるストレスの存在を示しているだけなのです。CBD の投与をやめた後まで残る、永続的な損傷の報告例は今のところありません。

CBD を他の医薬品と併用したときに一時的で可逆性のストレスがあったからといって、CBD が肝臓に有害であると主張するのは不合理です。

さらなる研究の必要性

3つの記事 — Forbes の記事と、Ewing らによる2つの論文 — はどれも、「もっと研究が必要である」という決り文句で終わっています。(最近マイク・アダムスが書いたフォローアップ記事もまた、肝臓への有害性に関する歪んだ主張を繰り返しつつ、「もっと研究」するよう提唱しています。)「もっと研究すべき」というのは便利な言葉です — なぜなら、薬についての知識が少ない方がいいと言う人はいないからです。ただし、「もっと」というのは適切な言葉ではありません。必要なのは、「より良い」研究です。また、科学者の主張を盲目的に拡散するのではなくその内容を確認する、より良い報道が必要ですし、CBD の摂取が人間に与える影響を正しく評価する、より良い実験が必要です。また、人間を対象とした研究と人間以外の動物を対象とした研究の関係を正しく解釈するより良い考察が必要なのです。

基礎研究は、じれったいと同時にまたワクワクするものでもあります。さまざまな仮説を、正確にコントロールできる環境の中で試験できる、いわば科学者が自由に遊べる場なのです。ただし、そこから得られる結果は常に間接的なものです — ペットのネズミの病気を治そうとしているのならば別ですが、人間の疾患の動物モデルを使った実験から得られる結果は、人間を対象としたフォローアップ研究のためのアイデアやアドバイスをくれるにすぎず、決定的な結論が出るわけではありません。

問題は、ある一つの科学誌に掲載された論文の一つが不備であった、ということではありません。問題なのは、科学者にかかったバイアスが悪質な形で表れることです。エウィングらは、CBD に関するあらゆる記事について、その最悪の面にばかり着目します。CBD が血圧を下げると聞けば彼らは、それは心臓血管系に有害であると言います。CBD がマウスの体重をわずかに減少させたと聞けば、CBD は人を痩せ衰えさせると言って脅かします。誰かが敢えて、CBD を摂ると入眠しやすくなるとか関節炎の痛みが軽くなるとかオピオイド薬への渇望が軽減されるとか言えば、そんなものは体験談にすぎない、基礎研究だ、単にバラバラに存在する症例報告だ、と言うのです。

彼らがこれほど熱心に信頼する基礎研究の対象を、CBD に関するもっとずっと豊富な医学的研究のすべてに拡大したらどうなるでしょう? マウスを使ったカンナビノイド研究のすべてがそのまま人間にあてはまるとしたら、何百という論文が、THCCBD には、腫瘍を殺したり免疫系の過剰反応を鎮めたりアルツハイマー病を治したり外傷性脳損傷を癒したり、その他さまざまな効果があることを示しています。実は、かなりの数の動物実験の結果が、たとえば飲酒による脂肪症アルコールとは関係のない脂肪肝疾患といった、ある種の肝臓疾患を防ぐことを示しているのです。

CBD は肝臓に損傷を与える、という主張に関する最も重要な問いに、Forbes の記者は答えていません。

結局のところ、基礎研究の結果のほとんどは人間には当てはまりませんが、中には当てはまるものもあるでしょう。めちゃくちゃな薬物政策が人種や社会に与える悪影響に抵抗し、同時に現在治療法の乏しい疾患の治療に役立つかもしれない医療大麻の促進に務める活動家は、だからこそ大きな期待を抱いているのです。たとえばてんかんはその良い例です。多発性硬化症もそうです。神経性疼痛とオピオイド薬への渇望の軽減は、豊富なエビデンスのある3つめの分野です。自己免疫性疾患やその他の炎症性疾患への効果についても、確実ではありませんが有望です。そして、そこにはもちろんリスクもあります — すべての人に医療大麻が有効なわけではありませんし、何らかの害が生じるのは避けようがありません。

一部のジャーナリストは、科学者の説明責任を追求しようとはせず、科学者の主張を精査することなしに単に繰り返し、拡散します。正確な報道をしたいという願望よりも、物議を醸し、人々を巻き込みやすい記事への必要性の方が大きいことが多いのです。CBD は肝臓に損傷を与える、という主張に関する最も重要な問いに、Forbes の記者は答えていません。この研究の手法は正当なものでしょうか? エビデンスの評価に一貫した基準を設けているでしょうか? 結論は、実験結果の解釈として妥当でしょうか? そして、大量の CBD を投与されても死ななかった1匹半のマウスはその後、どうなったのでしょうか?

CBD と薬物の相互作用についてはこちらもご覧ください:

論文抄訳:


Project CBD のチーフ・サイエンス・ライターであるエイドリアン・デヴィット・リー( Adrian Devitt-Lee)は、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの化学研究員。  


当サイトの著作権は Project CBD にあります。許可なく転載を禁じます。


脚注:

  1. 体重 65キロの人の場合の用量はほぼ 160 グラムになる。
  2. なぜエタノール、ブタン、あるいは二酸化炭素を使って抽出しないのかは皆目理解できない。大麻業界ではそれが主流である。
  3. 生物医科学においては、筆頭著者は通常その論文を主に書いた人であり、最後に表記されているのが研究室の責任者であるが、Author Contributions のセクションを見ると、筆頭著者である Laura Ewing は最初の原稿の執筆に関わっていない。
  4. 具体的には、「ただしこうした効果の大部分は、インビトロあるいは治験において、曖昧な結果が記録されている [4, 5]」と書かれている。大麻草がスケジュール1の薬物に分類され、その結果、植物性カンナビノイドが人間に与える医療効果について試験することが不可能に近いことが、基礎研究の率が高い理由である。
  5. この論文で引用された2つの研究の1つは 1998年に発表されたもので、米政府はこれをもとに、カンナビノイドの神経保護作用と抗酸化作用に関する特許を取得している。この論文の著者3名は、Aidan Hampson、ノーベル賞受賞者 Julius Axelrod、そして Maurizio Grimaldi である。
  6. 筆者は初め、ConsumerLab のレポートが、論文著者がアクセスしたときから筆者が数字を確認しようとしたときの間に変更されたのかと思ったが、論文の参照文献を見ると、著者らはこのレポートに 2019年4月29日にアクセスしたとある。アーカイブにある4月20日付けのレポートを見ると、数字は変わっていない。
  7. 実験では犬が2匹死んでいる。投与の方法に問題があったためのようである。
  8. 死には至らなかったかもしれないが、無害であったわけではない。少しの間狂乱状態になった後、「サルは座った姿勢をとり、多くは檻の後方に顔を向けて、手、または膝の間に顔をうずめていた」。サルは最長で丸2日間この姿勢を取り続けた。
  9. カンナビノイドは色々な意味で通常の薬とは違っている。これは主に、カンナビノイドが油性であるために生体膜に取り込まれず、その表面に留まることができるからである。半減期が長く、分布容積が大きい。また消化管からの吸収率が悪い。
  10. 査読はすべての過ちを修正できる魔法の杖ではない。これは善意にもとづく作業なのである。査読者がデータの一貫性をチェックすることはあまりないし、参照文献はまずチェックしない。参照文献の 13 と 27 の参照内容が(恣意的なものかどうかは別として)間違っているのはこのためである。この過ちについては、本文と脚注 6 で説明した。
  11. 「捕食出版社」というのは、残念ながら科学誌の多様な行動を網羅しない、包括的にすぎる呼び方である。一番の問題は、このような科学誌は、高額な掲載料を支払いさえすれば、どんな論文でも査読なしに掲載するということである。(『Molecules』誌に論文を掲載するには 1800 スイスフランかかる。)MDPI捕食出版社のリストに載っていたことがあるが、その後 2015年に申し立てによってリストからの除外に成功している。
  12. MDPIエディターが、質の悪い論文の掲載を承認するよう圧力をかけられたことを不服として辞職したことがある。MDPI の歴史と MDPI をめぐる論争の経緯は、ここここここここで読める。一番の問題は、論文の内容が間違っていることではない — そのこと自体は、最も権威ある科学誌でも起こることはある。だが、完全に間違っている論文の撤回を拒むのは、この出版社にとって、正確な情報の普及は重要ではないということを仄めかしている。MDPI は、物議を醸す記事の掲載について自己弁護しているが、MDPI が悪質な記事を排除しないのは、もっとまっとうな他の出版社が掲載する批判記事に引用させるためであると主張する者もいる。
  13. 査読には1年以上かかることもある。
  14. 最初の論文の実験手法には問題がある。著者らは「最終的な抽出物は、ガスクロマトグラフィー質量分析計を用いて、カンナビノイド含有量、残留溶剤、重金属、細菌、カビ、アフラトキシンを分析している」と述べているが、重金属や細菌数など、その多くはガスクロマトグラフィー質量分析計では計測できない。
  15. 有害性を誇張することによる悪影響がある。ある主張が誇張されたものであることを知った人は、本当の警告を信じなくなってしまうのだ。Drug Abuse Resistance Education (D.A.R.E.) プログラムの失敗の原因がまさにこれである。
  16. Alexandra Geffrey、Elizabeth Thiele をはじめとするマサチューセッツ総合病院の医師らは、2015年 6月に、CBD の薬物相互作用に関する大規模な研究を発表している。これは、CBD と抗てんかん薬との間に薬物相互作用がある可能性を指摘した最初の臨床報告のようである。Project CBD はこの後間もなくして記事をまとめている。以来、CBD と医薬品の間に相互作用が起きる可能性に関する科学論文は多数発表されており、Project CBD は安全性の確保のために一貫してこのことを強調している(参照文献を参照のこと)。
  17. バルプロエートは穏やかな薬ではない。基礎研究では、自閉症の動物モデルを作成するために使用される。

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