CBDに関する動物実験のほとんどは、研究を目的に、生物化学の研究所で合成された単一分子の CBD を使用します。それとは逆に、大麻草全草からの抽出物には通常、CBD、THC、その他400種類以上の微量な化合物が含まれています。これらの化合物の多くは相乗的に働いて、科学者が「アントラージュ効果」と呼ぶものが生まれます。アントラージュ効果は、大麻草に含まれる個々の化合物の治療効果を高めます—つまり、大麻草が全体として持っている治療効果は、一つひとつの成分の働きを足し合わせたよりも大きいのです。
動物実験に基づいてデータを推測する際には、アントラージュ効果の有無を考慮することが重要です。たとえば、合成された単一分子の CBD を100ミリグラム投与するのと、CBD を豊富に含む全草からの抽出物を100ミリグラム投与するのは同じことではありません。
ジョン・マクパートランド(John McPartland)博士によれば、「大麻草はもともと、多数の薬が集まっているようなものであり、さまざまな成分が相互に作用し合うことによって相乗効果が生まれる」と言っています。
テルペン
たとえば、テルペンの役割について考えてみましょう。テルペンとは揮発性の高い芳香成分のことで、非常に蒸発しやすく、良い香りがします。多くの研究者が、テルペン(テルペノイドとも言います)の薬理学的な重要性を強調しています。人気のホリスティックヒーリングの一つであるアロマセラピーは、これをベースにしたものです。大麻独特の香りと、ある品種がどんなふうに精神に影響を与えるかは、どんなテルペンが多く含まれているかによって決まります。
大麻草に含まれるテルペンは200種類以上あることがわかっていますが、これら芳香性の油性物質のうち、注目に値するほどの量が含まれているものはごく一部です。それらは、すべてのテルペノイドの構造的特徴である、炭素数が5のイソプレンと呼ばれる単位がいくつ繰り返されているかによって、モノテルペン、ジテルペン、セスキテルペンに分かれます。大麻草に含まれるテルペンは昔から、大麻草の進化に役立ってきました。この香りの強いテルペノイドが、昆虫や草食動物から、あるいは菌類から大麻草を護ってきたのです。
実はテルペンは、植物にとっても人間にとっても健康に良いものであることがわかっています。2011年9月にイーサン・ルッソ(Ethan Russo)博士が『British Journal of Pharmacology』誌に発表した研究論文は、テルペノイドが持っている多様な治療効果について論じています。これは通常、「CBDのみ」の製品には欠けているものです。
たとえば、β-カリオフィレン というテルペンは、ブラックペッパー、オレガノをはじめとするハーブ、さまざまな大麻の品種、そして多くの葉物野菜に含まれています。胃腸を護る働きがあり、ある種の潰瘍の治療に役立つほか、CB2と呼ばれる抹消カンナビノイド受容体と直接結合するので、炎症性疾患や自己免疫疾患の治療に有望です。
2008年にはスイスの科学者 Jürg Gertsch が、β-カリオフィレンとCB2受容体の親和性を実証し、「食べるカンナビノイド」と呼びました。β-カリオフィレンは、カンナビノイド受容体に直接結合する唯一のテルペンです。これが、葉物野菜が健康に良い理由の一つです。
テルペノイドとカンナビノイドはともに血流を増やし、皮質活動を促進し、近年何万人ものアメリカ人の命を奪った MRSA(メシチリン耐性黄色ブドウ球菌)を含む呼吸器病原体を殺します。ルッソ博士の記事には、カンナビノイドとテルペンには「疼痛、炎症、うつ病、不安神経症、依存症、てんかん、がん、真菌および細菌による感染症の治療において相乗効果を発揮する可能性がある」と書かれています。
詩人(であり、ハシシの使用者でもあった)アルチュール・ランボーが「香気の散乱」と呼んだ、大麻草に含まれるさまざまなテルペンにはまた、もう一つ別の大切な役割があります。テルペンとCBDは、THCが持つ厄介な精神活性作用を弱めるのです。カンナビノイドとテルペンの相互作用は、大麻草の有益な効果を強めながら、同時にTHCが引き起こす不安感をやわらげてくれます。
どんなテルペンがどれくらい含まれているかは、品種によって大きく違います。自分に適している品種を使うのをやめて、THCやCBDの含有量がより多い品種に替えても、含まれているテルペンの種類や量が大きく異なれば、同じ治療効果が得られるとは限りません。
Martin A. Lee は Project CBD のディレクターであり、『Smoke Signals』『Acid Dreams』『CBDエッセンシャルガイド』を含む数冊の著書がある。
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