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現代医療にはさまざまなことが可能ですが、それでも解けない謎はたくさん残っています。ロング COVID とは何か? がんを「完治」させることは可能か? そして、患者を消耗させ、一生付き合わなければならない、原因もわかっていない中枢神経系の障害である線維筋痛症という病気に、世界中で 2〜4% という驚くほどたくさんの人が罹患しているのはいったいなぜなのか?

問題は、その答えが分からず、治療法もないなか、線維筋痛症にどう対処していくかです。広い範囲に起きる疼痛、睡眠障害、疲労感、不安、うつその他、線維筋痛症が身体に及ぼす影響のすべてに対処できる薬はありません。患者は、症状別にさまざまな薬・セラピー・ライフスタイルの変化(特に運動)を組み合わせることで、各症状を緩和させ、生活の質を高めようとしています。

処方される薬には、抗うつ薬、鎮痛薬、筋肉弛緩剤などがあります。でも、気分や疼痛その他さまざまな症状を一度に軽減できる別の選択肢があるのです——それが大麻です。

これは特に目新しいことではありません。大麻を使った線維筋痛症の治療については何十年も前から研究が行われ、初期の臨床試験は 2000年代に行われて1-4、純粋な THC と乾燥大麻のいずれもが有効であることが示されています。それに、ホメオスタシスを維持するために身体中に偏在するエンドカンナビノイド・システムの働きを考えれば、これは必ずしも驚くにあたりません。

近年発表された論文(一連のレビュー論文、2件の臨床試験、1件の動物実験)は、大麻が線維筋痛症に有効であるという事実をさらに裏付けており、これからそうしたエビデンスはもっと増えるかもしれません。その一つが、最近新たに計画が発表された、オランダでの無作為化対照試験です。これは、大麻、オキシコドン、そしてその二つの組み合わせによる鎮痛効果を、60人の線維筋痛症患者で比較しようというものです5

しっかりした科学的根拠

ここ数か月、さまざまなレビュー論文が発表されて、大麻とエンドカンナビノイド・システムと線維筋痛症の症状の間にある関係についての私たちの理解を深めてくれています。たとえば 2022年 11月には、『Pain Reports』誌に掲載された論文6が、線維筋痛症および広範にわたる疼痛に苦しむ患者の血中を循環する内因性カンナビノイドやその他の脂肪酸誘導体の量を計測した過去の研究について、初めての系統的レビューとメタ分析を行いました。

オーストラリアを拠点とするこの論文の著者らが分析した8本の論文はいずれも、患者の血中には、対照群と比べてより高い濃度のオレオイルエタノールアミドとステアロイルエタノールアミド(N-アシルエタノールアミンと呼ばれる内因性カンナビノイド様の分子)が存在していることを特定しました。内因性カンナビノイド、アナンダミドと 2-AG の濃度には差はありませんでした。

現存するデータに見られる「圧倒的に優れた治療成績」は、「線維筋痛症の治療にカンナビノイドが有効であることを強く裏付けている」

ただし論文の著者らは、「これらの研究のほとんどが、大麻使用の有無、併用している医薬品、併存疾患、身体活動、ストレスレベル、概日リズム、睡眠の質、食生活その他、ECS の機能に影響を与える可能性のある変数を考慮していない」点に注意するよう述べています。そして、この分野のさらなる研究を呼びかけ、より広く「広範囲に及ぶ慢性疼痛と線維筋痛症に対する内因性カンナビノイドの作用を研究することの重要性を強調」しています。なぜならそれが、「この分野での将来的なトランスレーショナル・リサーチ [訳注:基礎研究から応用分野におよぶ研究] の根拠となる」からです。

この他の論文は、現在までの研究成果を次のようにまとめています。

  • 2022年 12月に『Pharmacology & Therapeutics』誌に掲載された、カンナビノイド、ECS、線維筋痛症に関する臨床および前臨床試験のレビュー論文7 は、「線維筋痛症患者ではエンドカンナビノイド・システムに変化が起きている」としている
  • 2022年 12月に『Pain and Therapy』誌に掲載された、慢性疼痛に対するカンナビノイドの有効性について調べて8本の論文を体系的にレビューし、メタ分析を行なった論文8 は、「カンナビノイドは線維筋痛症患者の疼痛を緩和し生活の質を高める可能性がある」としている
  • 同じく『Pain and Therapy』誌に 2023年 1月に掲載された、さまざまな種類の疼痛に対するカンナビノイドの治療効果、治療に伴うリスクと恩恵に関する総説9 は、現存するデータに見られる「圧倒的に優れた治療成績」は、「線維筋痛症の治療にカンナビノイドが有効であることを強く裏付けている」と結論している

ネズミにみられる大麻オイルの効果

カンナビノイド研究におけるこれ以外の分野では、研究室で行われる前臨床研究が圧倒的に多いのですが、線維筋痛症の研究についてはそうではありません。ただし、2022年 10月に『Biomedicine and Pharmacotherapy』誌に掲載された論文10 は、レセルピン(中枢神経系に作用する薬品で、人間の高血圧の治療に使われることもある)を使って線維筋痛症を発症させる確立されたマウスモデルを使ったもので、以前人間を対象に行われた研究との興味深い共通点を示しています。

この論文を書いたイタリアとブラジルの研究チームが、CBD:THC の比が 11:1 の「ブロードスペクトラム」オイルが、レセルピン誘発性の線維筋痛症マウスに与える効果を評価したところ、この大麻オイルを単回経口投与しただけで、マウスにみられる線維筋痛症に特徴的な症状の一部を軽減させるのに十分でした。さらに、2週間にわたって継続的に大麻オイルを投与したところ、レセルピン誘発性の、機械的刺激および温熱性刺激に対する痛覚過敏が改善され、またうつ病様の行動も減少しました。

この結果が人間の生理および疾患において何を意味するかは、線維筋痛症の原因がまだ完全にわかっていない以上、明らかではないかもしれませんが、少なくとも、大麻の信頼性を増す結果であるように思えます。

大麻は「治療抵抗性」の患者に有効

この研究に基づき、実環境データを用いて新たに行われた2つの前向きコホート研究は、将来的にレビュー論文の対象となる可能性が高いものです。このうち 2022年 11月に『Pain Practice』誌で発表された研究11は、線維筋痛症の症状があり、従来の投薬治療が奏効しない 30人の女性患者に大麻を投与しました。効果は絶大でした。WHO による生活の質アンケート調査のスコアを大麻使用の1か月前と1か月後で比較すると、「全般的な生活の質、全般的な健康度、身体的および心理的健康度に顕著な改善がみられた」のです。

以前カナダの研究者らが行なった、これと似た研究は、323人の線維筋痛症患者を 12か月間にわたって追跡するものでしたが、3か月ごとに行われた医師の診察によって、大麻使用の開始と同時にさまざまな面で症状が改善されたことがわかりました。『Arthritis Care & Research』誌に掲載された論文12 の中で著者らは、痛みの強度が軽減されたのは、睡眠と気分に良い影響があったことも一因であるように見えると述べています。

「既存の医薬品の効果が最適とは言えないなか、線維筋痛症患者の多くが大麻を求めている」と著者らは述べ、「痛み、気分に対するネガティブな影響、睡眠障害という3つの主症状に奏効することを考えると、医療大麻は線維筋痛症に対する有効な治療戦略を提供できる可能性がある」と結論しています。


Project CBD の寄稿者 Nate Seltenrich は、Bridging the Gap というコラムの筆者であり、サンフランシスコのベイエリアに住むフリーランスの科学ジャーナリスト。環境問題、神経科学、薬理学を含む幅広いテーマについて執筆している。


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参照文献

  1. Schley, Marcus et al. “Delta-9-THC based monotherapy in fibromyalgia patients on experimentally induced pain, axon reflex flare, and pain relief.” Current medical research and opinion vol. 22,7 (2006): 1269-76. doi:10.1185/030079906×112651
  2. Skrabek, Ryan Quinlan et al. “Nabilone for the treatment of pain in fibromyalgia.” The journal of pain vol. 9,2 (2008): 164-73. doi:10.1016/j.jpain.2007.09.002
  3. Ware, Mark A et al. “The effects of nabilone on sleep in fibromyalgia: results of a randomized controlled trial.” Anesthesia and analgesia vol. 110,2 (2010): 604-10. doi:10.1213/ANE.0b013e3181c76f70
  4. Fiz, Jimena et al. “Cannabis use in patients with fibromyalgia: effect on symptoms relief and health-related quality of life.” PloS one vol. 6,4 e18440. 21 Apr. 2011, doi:10.1371/journal.pone.0018440
  5. van Dam, Cornelis Jan et al. “Cannabis-opioid interaction in the treatment of fibromyalgia pain: an open-label, proof of concept study with randomization between treatment groups: cannabis, oxycodone or cannabis/oxycodone combination-the SPIRAL study.” Trials vol. 24,1 64. 27 Jan. 2023, doi:10.1186/s13063-023-07078-6
  6. Kurlyandchik, Inna et al. “Plasma and interstitial levels of endocannabinoids and N-acylethanolamines in patients with chronic widespread pain and fibromyalgia: a systematic review and meta-analysis.” Pain reports vol. 7,6 e1045. 7 Nov. 2022, doi:10.1097/PR9.0000000000001045
  7. Bourke, Stephanie L et al. “Cannabinoids and the endocannabinoid system in fibromyalgia: A review of preclinical and clinical research.” Pharmacology & therapeutics vol. 240 (2022): 108216. doi:10.1016/j.pharmthera.2022.108216
  8. Giossi, Riccardo et al. “Systematic Review and Meta-analysis Seem to Indicate that Cannabinoids for Chronic Primary Pain Treatment Have Limited Benefit.” Pain and therapy vol. 11,4 (2022): 1341-1358. doi:10.1007/s40122-022-00434-5
  9. Ang, Samuel P et al. “Cannabinoids as a Potential Alternative to Opioids in the Management of Various Pain Subtypes: Benefits, Limitations, and Risks.” Pain and therapy, 10.1007/s40122-022-00465-y. 13 Jan. 2023, doi:10.1007/s40122-022-00465-y
  10. Ferrarini, Eduarda Gomes et al. “Broad-spectrum cannabis oil ameliorates reserpine-induced fibromyalgia model in mice.” Biomedicine & pharmacotherapy = Biomedecine & pharmacotherapie vol. 154 (2022): 113552. doi:10.1016/j.biopha.2022.113552
  11. Hershkovich, Oded et al. “The role of cannabis in treatment-resistant fibromyalgia women.” Pain practice : the official journal of World Institute of Pain vol. 23,2 (2023): 180-184. doi:10.1111/papr.13179
  12. Sotoodeh, Romina et al. “Predictors of Pain Reduction Among Fibromyalgia Patients Using Medical Cannabis: A Long-Term Prospective Cohort Study.” Arthritis care & research, 10.1002/acr.24985. 25 Jul. 2022, doi:10.1002/acr.24985

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