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あなたの脳は海のようなものだと考えてください——神経伝達物質やその受容体など、さまざまな種類の、魚のような生き物が棲んでいる生態系です。電気という潮の流れが、さまざまな要素をつなぎ、微妙にそのバランスを保っています。炎症は紅藻類の繁殖のようなもので、その周りにあるすべてに害を与え、周囲の環境のホメオスタシスを乱します。

そこに私たちのヒーロー、パルミトイルエタノールアミド(PEA)——の登場です。PEA はエンドカンナビノイド・システムと縁が深い脂質性メッセンジャーであり、おなじみの内因性カンナビノイド、アナンダミド(AEA)とは従兄弟のような関係にあります。「内因性の CBD」と呼ばれることもある PEA には、強力な抗炎症作用と鎮痛作用があります。CBD と同様に、PEA もまた、体内の内因性カンナビノイドの量を増やし、エンドカンナビノイド・システムを強化します。また、やはり CBD と同じく、科学文献においては、PEA は安全性が非常に高いことが常に指摘されています。

海の喩えで言えば PEA は、いわばニンマリ笑ったセミクジラのような「最も畏敬すべき海獣」であり、私たちが常々悩まされている炎症と疼痛との闘いにおける屈強なファイターです。

PEAの謎

PEA の物語は謎に始まり、謎が謎を呼んで、やがてカンナビノイド革命の次なる大きな波につながります。

第2次世界大戦中に始まったこの物語には、政治が重要な役割を果たしています。戦争中は、「公衆衛生」と呼ばれる比較的新しい分野が盛んになりました——軍需物資の生産を支えるために、健康な労働者がいることが必要不可欠だったからです。ニューヨークでは、Coburn と Moore という名の2人の医師が、低所得者層の居住区の子どもたちに乾燥卵を食べさせると、リウマチ熱その他、栄養不足に関連する病気の予防に役立つということを発見しました。同時に、卵黄には抗炎症作用があることもわかりました。

普通、ある植物や食べ物が独特の健康効果を持っていることがわかると、科学者は、その効果をもたらしている分子を特定しようとします。そしてそれは多くの場合タンパク質です。なぜなら、細胞内部での主要な働き手がタンパク質だからです。ところがこの場合、研究者がさまざまな種類の分子を分離していったところ、健康効果をもたらしているのは脂質であることがわかったのです。

タンパク質はたしかに働き者ですが、どちらかと言うと二値性、つまり、タンパク質の働きはオンかオフであることが多いのに対し、脂質はもっとアナログな形で作用を発揮します。人間の細胞は、ほんのわずかな脂質量の変化を感知するのが得意で、その変化に従って反応します。以前は、脂質は単なる細胞の栄養源と考えられていましたが、現在は、身体のホメオスタシス(恒常性)を維持するために繊細に調節された細胞システムであることがわかっています。でも、卵の脂質はいったいどうやってホメオスタシスを維持するのでしょうか?

脂質が作用する仕組み

PEA の研究における最初の大きなブレイクスルーは 1950年代、F. A. Kuehl 博士の研究チームが、卵黄に含まれている抗炎症作用のある成分をパルミトイルエタノールアミドと同定したことでした。やはり抗炎症作用を持つ2つの食品、大豆とピーナッツにもこの分子が含まれていることもわかりました。

ただ、この興味深い脂質が炎症に作用する機序はなかなかわかりませんでした。1960年代になり、アニマルモデルを使った研究論文がいくつか発表され、PEA の抗炎症作用が確認されます。そして重要な展開があったのは、S. Udenfriend 博士の研究チームが、哺乳動物のさまざまな臓器内に PEA がそもそも含まれていること、それもかなり多量であることを発見したことです。そこから、PEA は炎症を鎮めるだけでなく、私たち自身の身体や脳もまた、体内の炎症制御機能として PEA を産生することがわかったのです。

でも、最初の本格的な臨床試験が行われたのは 1970年代になってからで、今では存在しない国、チェコスロバキアでのことでした。SPOFA(United Pharmaceutical Works)というチェコの製薬会社が、Impulsin という PEA製剤を開発し、その臨床試験を行ったのです。SPOFAは、自動車、戦車、産業機器などを製造し、膨大な数の社員を抱える企業 Skoda の協力を得て、工場の従業員を対象とした臨床試験を複数行うと同時に、軍の関係者や一般市民を対象とした試験も行いました。これらの臨床試験には、合計すると 2,000人の成人と 400人の子どもが参加しました。

これらは二重盲検(現代の医学臨床試験で最も信頼性の高い方法)で行われ、そのすべての結果が同じ方向を示していました——つまり、PEA は安全で、気管支の感染の治療に明らかに効果があり、発熱、頭痛、喉の痛みの発生率を低下させたのです。さらにチェコの研究者は、「軍隊と一般市民を対象に数年間にわたって行われた Impulsin の臨床試験では、副作用は認められなかった」と述べています。

こうして、PEA に医療効果があることが大規模試験で証明されました。ところがこの後、内因性カンナビノイド研究者の間で「沈黙のギャップ」と呼ばれる時代が続きます。

SPOFA による研究は、1980年代前半、いわゆる鉄のカーテンの後ろで姿を消していきました。PEA に対する関心が弱まったのは、科学者が PEA の作用の仕組みを説明できなかったためでもありました。誰もその実際の作用機序を解明することができなかったのです。結局 PEA には、「不特定免疫強化剤」というレッテルが貼られ、科学界は関心を失ったように見えました。

蘇るPEAへの関心

この状況を変えたのは、1993年、この記事のヒロインと言える Rita Levi-Montalcini 博士の登場でした。

このあたりから、政治の影響が色濃くなっていきます。Levi-Montalcini 博士は若い頃、ムッソリーニ政権下で、ユダヤ人であったために研究室を失いました。やむなくフィレンツェに避難した博士はそこで、一軒の家の地下に作業場をつくり、あらゆる科学分野の中でも最も難しい分野の一つである、生物の初期開発段階に関する研究を続けました。その地下室で行われた研究によって博士は神経成長因子(NGF)を発見します。これは、神経化学における今世紀最大の発見の一つであり、これによって博士は 1986年にノーベル賞を受賞しています。

7年後、ローマの Institute of Neurobiology と提携していた Levi-Montalcini 博士の研究チームが名高い論文を発表し、その中で、PEA はマスト(肥満)細胞——ヒスタミンを放出する重要な白血球——を制御することによって作用するという仮説を打ち出しました。アレルギーと結びつけて考えられることが最も多いヒスタミンは、実はホルモンでもあり、また炎症反応に関与する神経伝達物質でもあります。マスト細胞は、傷を治癒したり、血管を新生したり、病原菌から身体を保護したり、免疫反応をまとめたりといった役割があります。

彼らは、PEA とマスト細胞の関係を「ALIA 仮説」と名付けました。

『Journal of Pain and Relief』に掲載された、Levi-Montalcini 博士らの研究に対するレビュー論文は、「オータコイド(局所ホルモン)は、局所的に産生され、局所的にその作用を発揮する調節分子の古風な呼び方である。PEA は、炎症または神経原性疼痛が起きた場合に局所的に生成され、PEA の濃度の上昇は、疼痛や炎症に対処する身体の仕組みに基づいている。これは『オンデマンド合成』と呼ばれる」と要約しています。

ALIAmide(Autacoid Local Injury Antagonism の略)とは、損傷や炎症に反応して合成されるオータコイドであり、局所的に作用する。したがって、PEA は典型的な ALIAmide の一例である。マスト細胞は、Levi-Montalcini 博士による画期的な論文が発表されて間もなく、実際に PEA の抗炎症作用の重要な作用標的であることが示されており、1993年から 2013年の間に、PEA がマスト細胞に与える影響に関する 30本以上の論文が発表されている」

重要な論文が発表されると往々にして起きることですが、PEA の作用機序という謎が一部解決されたことで、そうしたヒントを引き継いで PEA がマスト細胞を調節する正確な機序を解明しようとする多くの科学者が現れました。

PEAと疼痛

PEA の理解に重要な進展が見られたのは、たまたま 1998年に、ナポリの研究チームがアナンダミドを研究していたときのことでした。神経伝達物質である内因性カンナビノイド、アナンダミドは、その構造が PEA に似ています。(どちらの脂質化合物も「N-アシルエタノールアミン」。)具体的にこのチームが研究していたのは、アナンダミドが持つ「脊髄を介した痛みの伝達を阻害することによって痛みが脳に到達する以前に鎮痛効果を発揮する力」についてでした。

この研究チームは、実験におけるプラセボの役割を果たす対照物質が必要だと考えました。Daniele Piomelli 博士によれば、アナンダミドと同じ作用は持たない、別の内因性カンナビノイド様分子を探しており、PEA を選んだのです。その主な理由は、鎮痛作用を引き起こしていると考えられていた CB1 および CB2 受容体に、PEA が結合しないということがわかっていたからでした。ところが、『Nature』誌に掲載された論文にあるように、PEA にも強力な鎮痛作用があることがわかり、彼らは大変驚きました。

そして彼らはこの結果に興味を持ちました。PEA は CB1 と CB2 受容体に結合しないのに、なぜ鎮痛作用を発揮するのでしょうか?

研究チームは、オレイン酸アミド(OEA)と呼ばれる、PEA に似た脂質化合物が、PPARα 受容体を介して働くのではないかと考えました。PPARα が特別なのは、それが核内受容体であるという点です。細胞の表面ではなく、細胞核(DNA を含む、細胞の司令塔)の表面にあるのです。(喩えて言えば、細胞核は市役所、PPARα 受容体は命令を送る役人です。)PPARα 受容体が活性化すると、遺伝子転写に変化を起こし、その結果産生される新しいタンパク質も変化します。新しいタンパク質にはそれぞれ異なった下流効果があります。細胞が都市だとしたら、遺伝子転写を変化させるというのは、問題を解決するために、それぞれに異なったスキルを持つたくさんの専門家を雇うようなものです。

Piomelli博士は、Jesse LoVerme という学生に、PEA の作用機序を研究するという課題を与えました。その結果、2005年には PPARα 受容体が PEA の抗炎症作用を媒介していること、2007年には、PEA の鎮痛作用もまた同じ機序で起きていることがわかりました。これは非常に重大なブレイクスルーでした。

PEAとアントラージュ効果

作用機序の解明とポジティブな臨床効果を受けて、PEA 研究は一気に前進しました。2008年にはイギリスの研究チームが、動脈を弛緩させるアナンダミドの働きは PEA が存在すると強くなると報告しました——これは「アントラージュ効果」と呼ばれる現象です。『British Journal of Pharmacology』に掲載された論文には、この現象は、中核体温、炎症性疼痛、たとえばカプサイシンなど辛い食べ物を食べたときの焼けるような感覚といった基本的な内臓感覚などを司る、TRP チャネルという大きなイオンチャネルファミリーの一部であるバニロイド受容体の働きを介して起こると書かれています。

アナンダミドも CBD も、TRPV1 バニロイド受容体に結合します。エンドカンナビノイド・システム(内因性カンナビノイド系)と内因性バニロイド系は非常に密接に絡まり合っているので、アナンダミドがバニロイド化合物の一つと説明されることも多々あります。

2008年に発表された PEA と神経性疼痛に関する論文には、TRPV1 だけでなく、CB1 受容体と、別の核内受容体 PPARγ も関与していると書かれています。それに続く神経性疼痛の研究では、PEA の作用は、アミノ酸の放出を増やし、また脳の主要な興奮性伝達物質であるグルタミン酸の働きを回復させることによるものであることがわかりました。(グルタミン酸については以前 Project CBD の記事で取り上げています。)

さまざまな疾患のマウスモデルを使った実験では、PEA は炎症を軽減させ、細胞死を減少させ、組織障害を防ぐことがわかりました。それには往々にして、複数の生化学的経路が関わっていました。また PEA は、怪我をしてどんな治療も奏効しなかった四頭の馬が障害馬術競技に復帰するのを助けました。

今では科学者たちは、PEA は、微量である場合もあるものの、あらゆる哺乳動物の細胞に存在すると考えています。

臨床研究

人を対象とした実験でもめざましい結果が出ています。片頭痛下背部痛口腔灼熱症候群脊髄損傷帯状疱疹による神経性疼痛の患者に PEA を投与すると、疼痛が軽減され、標準治療の補完療法として有効でした。PEA はまた、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群過敏性大腸炎緑内障膝の変形性関節症の患者や、運動後の疲労回復にも効果がありました。(PEA が奏効した疾患のより包括的なリストは、この記事の末尾にある「PEA と疾患」を参照のこと。)

抗がん剤治療を受けている 20人が PEA を使ったところ、痛みが軽減し、「神経機能が大幅に回復」しました。ALS の患者では、PEA が、おそらくはマスト細胞とミクログリア(脳を護る免疫細胞)を介して臨床像を改善させました。多発性硬化症の場合は、PEA と標準治療の組み合わせが疼痛を改善し、炎症を軽減させ、生活の質を向上させました。治療抵抗性の慢性疼痛患者 600人を対象とした観察研究では、PEA が効果的かつ安全であるという結果でした。また7人の慢性特発性軸索性多発ニューロパチー(原因不明の強い神経性疼痛)患者では、PEA が副作用なしに大幅に痛みを軽減させた他、片頭痛のある子ども 70人にも効果を発揮しました。

子宮内膜症と慢性骨盤痛を患っている女性 24人に PEA とポリダチン(PEA と一緒に投与されることが多いフラボノイド)の組み合わせを投与したところ、生理痛、性交時の痛みが軽減し、全体的な生活の質が向上しました。その後、さらに 30人の患者で同様の結果が報告されています。また 30人の糖尿病患者では、PEA は神経性疼痛の軽減に効果があり、血液と尿の検査結果に何らネガティブな変化は認められませんでした。自閉症患者 2人においては、PEA によって「認識能力、行動、社会性が急激に改善」しました。うつ病患者 58人については、シタロプラムに加えて 600 mg の PEA を一日2回摂取したところ、症状が大幅かつ速やかに改善しました。さらに、PEA は局所薬としても有効で、湿疹のある皮膚に塗布すると痒みが軽減してよく眠れるようになり、患者の多くは副腎皮質ステロイドの使用を止めることができました。

PEA に関しては、これらの研究結果のすべてに共通して繰り返し登場する評価があります。「副作用がまったく見られないことから、その安全性が確認された」というものです。

健康補助食品としての PEA

数十年にわたって一連の科学的な謎を解明し、その結果得られた貴重な発見の数々によって、PEA は単なる卵黄の成分から、次なる素晴らしい健康補助食品に変貌しました。

私たちの脳という海の中で姿を見せる PEA というクジラは、行く先々で、炎症と痛みの軽減を指揮し、その魔法の力を発揮します。ClinicalTrials.gov には、現在参加者を募集中、進行中、あるいはすでに完了した PEA の臨床試験が 144件登録されています。FSD Pharma は、炎症性疾患またはマスト細胞の活性化のための PEA 製剤の第2相試験を行っています。

PEA はすでに、世界中で広く使用されています。イタリアとスペインでは健康補助食品として承認されていますし、ヨーロッパの製薬会社 Lesvi は、PEA といくつかの植物を組み合わせた、脳のための健康補助食品を販売しています。オランダには、PeaPure という製剤を作っている会社がありますし、Gencor Pacific 社の Levagen+ という製品は、関節の健康、気分、睡眠、免疫系の健康、運動後の疲労回復に効果があり、生活の質を高めるともてはやされています。

幸いアメリカでも、食物由来の PEA を合法的な健康補助食品として入手するのは比較的容易です。いくつもの信頼の置けるメーカーが PEA 製品を販売していますし、オンラインでの購入も可能です。使用者の体験談は、CBD と PEA が互いの抗炎症作用を強めあうことを示唆しており、この2つの組み合わせは強力な治療の選択肢となるかもしれません。


Lex Pelger は、向精神物質に関する記事やエンドカンナビノイド・システムに関するコミックの著者。初めての著作『SUNset』がアマゾンで販売中。カンナビノイドの科学に関する週刊ニュースレター Cannabinoids & the People を発行する他、重篤な疾患に対して CBDPEATHCCBDA を使う方法をマンツーマンで指導している。

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PEAと疾患

2013: A Kuhnian take on evolution of PEA knowledge
Evolution in pharmacologic thinking around the natural analgesic palmitoylethanolamide: from nonspecific resistance to PPAR-α agonist and effective nutraceutical

PEA研究に関する優れたレビュー論文

PEA研究年表:

[micronized and ultra-micronized PEA means that the PEA has been put into a small particle size for better absorption]

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