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セロトニンはよく「幸せホルモン」と呼ばれ、研究者を苛立たせます。でも、「うつ病はセロトニンの不足が原因であり、薬(セロトニン再取り込み阻害薬)で矯正できる」とする仮説 [1] の欠点が次々に明らかになりつつある今、この呼び名には問題があります。セロトニンは、脳にも抹消器官にも存在する複雑な分子で、広大かつ複雑な受容体系があり、それらは7種類の主要なサブタイプに分かれて多種多様な生理的機能を司っています。セロトニンを幸せホルモンと呼ぶのは短絡的すぎるのです。

セロトニンの重要性は、ハッピーな気分にしてくれることに留まりません。ミミズや昆虫を含むあらゆる左右相称動物の進化の過程に見られるセロトニンは、その他のさまざまな神経伝達物質の放出を調節する働きがあります [2]。正式には5-ヒドロキシトリプタミン(5-hydroxytryptamine)という名称であるため 5-HT と略されることも多いセロトニンは、攻撃、学習、食欲、睡眠、認識、報酬など、多様な行動に関連しています。セロトニンの受容体は、さまざまな精神神経疾患や消化器官疾患の薬の作用標的となっています。5-HT 受容体の 90% は消化管にあり、腸の運動を司っています。

生化学者モーリス・ラポート(Maurice Rapport)がセロトニンを単離し、その分子構造を解明したのは 1940年代後半のことです。1979年には、5-HT1 と 5-HT2(後に 5-HT1Aと 5-HT2A に改名)という二つの受容体結合部位が特定されました。実は、陶酔作用がなくさまざまな経路に作用するカンナビジオール(CBD)は、この二つの受容体に直接結合します。

CBD は、CB1CB2 というおなじみのカンナビノイド受容体との親和性はほとんどなくCBD が直接結合するのは主に、いくつかのセロトニン受容体サブタイプです。5-HT2A 受容体はまた、LSD、メスカリンその他の幻覚剤の作用を引き起こします。ただし CBDLSD は、5-HT2A に対して異なった形で作用し、引き起こされる効果も大きく異なります。

受容体複合体

CBD がこれらの(そしてこれ以外の)5-HT 受容体に直接作用するという発見は 2005年に初めて報告されましたが、このことは、内因性カンナビノイド系(エンドカンナビノイド・システム)とセロトニン系の間に、まだ解明されていない、広範にわたる関係があることを示唆しています。内因性カンナビノイドとセロトニンはどちらもさまざまな動物分類でよく保存されており、どちらも、脳や末梢器官の Gタンパク質共役受容体「スーパーファミリー」と結合します。さらに、不安の軽減疼痛の低減悪心頭痛の緩和、体内温度の調節など、体中で類似した生理機能に関与するこの二つの神経伝達物質系の間には、かなりの情報のやり取りがあります。

細胞の表面に埋め込まれている Gタンパク質共役受容体は非常に複雑で、その信号伝達経路の研究からは、ノーベル賞を受賞する発見がすでにいくつも生まれています。細胞の外側からの信号によって Gタンパク質共役受容体が活性化されると第2信号伝達分子が細胞内部に放出されます。この細胞内分子は伝言係の役割を果たし、シグナルを細胞の隅々にまで伝えます。人間の健康にとってのその重要性は、現代の医薬品の約半数が Gタンパク質共役受容体のいずれかを作用標的としているという事実からもわかります。

二量体とは、脂質膜上に浮かんでいる二つの受容体が結合して一つの機能を持つようになった化学構造のことです。

かつては、Gタンパク質共役受容体はそれ単体で働くものと考えられていましたが、やがてこの膜貫通型タンパク質は結合して「二量化」し、新しいシグナルを発する受容体複合体を作るということがわかりました。(「二量体」とは、脂質膜上に浮かんでいる二つの受容体が結合して一つの機能を持つようになった化学構造のことです。)これについての最初の重要な発見は、2002年にシアトルのワシントン大学の研究者らが、CB1 カンナビノイド受容体は結合して同価同義の「ホモメリックな」複合体を作ることがある、と報告したことでした。

受容体の二量化がどのような生理学的影響を及ぼすのか完全にはわかっていませんが、種類の異なる受容体が結びついて二量化することがある、ということだけは明らかです。生まれたばかりの子豚における虚血(臓器や組織に必要量の血液が流入しない状態)を研究しているスペインの科学者が 2013年に発表した論文によれば、CB2 カンナビノイド受容体と 5-HT1A セロトニン受容体の「異種複合体」が神経保護作用を発揮しました。種類の異なる受容体が一つになる「異種複合体」はしばしば、それぞれの受容体が単独では持たない作用を発揮するのです。

クロストーク

エンドカンナビノイド・システムとセロトニン系の間には、緊密な情報のやり取りがあります。内因性カンナビノイドの一つであるアナンダミドは 5-HT1A に作用します。同様に CBD は「人間の 5-HT1A 受容体に対して弱い親和性を持つ作動薬」です。

作動薬は受容体を活性化させ、拮抗薬は受容体の働きを阻害します。生の大麻草に含まれる、未加熱の、「酸性」状態のカンナビジオール、CBDA は、CBD よりも強力な 5-HT1A 作動薬であり、制吐薬として、また予期性悪心の治療薬として有望です。

作動薬は受容体を活性化させ、拮抗薬は受容体の働きを阻害します。

脳の数か所に CBD を注入すると、CBD は 5-HT1A を介する信号伝達を促進させます。CBD による 5-HT1A 受容体の活性化は、血圧を降下させ、体温を下げ、心拍数を低減させ、痛みを緩和させることがわかっています。2013年には『British Journal of Pharmacology』誌に、肝臓障害、不安、うつ、疼痛、悪心の動物モデルにおいて、CBD の有益な作用が 5-HT1A を介して発揮されたとの論文が掲載されています。

CB1 カンナビノイド受容体——これは CBD ではなく THC によって活性化されます——は、中枢神経系において最も多い Gタンパク質共役受容体です。CB1 受容体は、前脳においてセロトニン神経細胞が最も多く存在する背側縫線核を含む、脳のさまざまな領域に分布しています。動物モデルでは、。セロトニン神経細胞を刺激すると不安感が軽減し、うつにも奏効します。逆にこの働きを阻害すればうつ状態が引き起こされます。

セロトニンを生成する背側縫線核に CB1 受容体が発現しないよう遺伝子操作されたマウスは、野生型のマウスと比べて不安感が強いことがわかっています。

2006年に『International Journal of Neuropsychopharmacology』に掲載された Matthew Hill らの論文によれば、カンナビノイドを長期間にわたって投与すると 5-HT1A の働きが下方制御されました。また別の論文は、マウスモデルにおいて、セロトニン受容体を阻害することによって「恐怖記憶の調節、情動記憶の形成、痛覚抑制(鎮痛)、強硬症、低体温、そして視床下部・下垂体・副腎系軸の活性化といったさまざまなカンナビノイドの作用が弱まった疾患を列挙しています [3]。

5-HT2A: 精神変容作用と忘れること

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CBD はまた 5-HT2A 受容体にも作用しますが、5-HT1A に比べてその親和性は低いようです。

5-HT2A の活性は、頭痛、気分障害、幻覚といったさまざまな現象と関連付けられ、サイケデリック体験において重要であることで知られています。LSD、メスカリン、マジックマッシュルームの成分であるシロシビンは、5-HT2A に結合する強力な作動薬であり、マジカル・ミステリー・ツアーを引き起こします。

高用量の大麻草樹脂(ハシシ)を経口摂取すると、鮮やかな、万華鏡のような幻覚を含む、LSD に似た作用を引き起こすことがあるというのは注目に値します。事実、イーサン・ルッソ博士によれば、「THC には幻覚作用がある一方、THC と近い関係にあるカンナビノイド、カンナビジオール(CBD)にはそのような作用を妨害する働きがあるという極めて優れた実験的証拠が存在」します。

では、THC の幻覚作用を媒介するのは 5-HT2A 受容体なのでしょうか? CBD と違って、THC は 5-HT2A 受容体には直接結合しません。ただし前述したように、THCCB1 カンナビノイド受容体を直接活性化させます。そして、2015年に PLoS Biology が発表した特筆すべき論文によれば、CB1 受容体は 5-HT2A 受容体と結合して異種複合体を作ります。つまり、CB1 と 5-HT2A 受容体は融合し、一つのものとして機能することがあるのです。

興味深いことに、こうして一つになって機能する受容体は、そのいずれも単独では活性化させないシグナル伝達経路を活性化させます。このことが、高用量の大麻抽出物が持つ幻覚作用の原因であるかどうかは、今のところ推測の域を出ません。ただし、マウスの行動学的研究によれば、CB1/5-HT2A 複合受容体が、THC の鎮痛作用と制吐作用を媒介することはわかっています [4]。

具体的に言うと、PLoS Biology による研究からは、このような「カンナビノイド受容体とセロトニン受容体の複合受容体は、記憶障害に関与する脳領域に発現し、機能を発揮する」ことがわかっています。その後『Molecular Neurobiology』誌に掲載された論文は、人間の嗅覚細胞の CB1/5-HT2A 複合受容体が、大麻の常習によって上方調節されることを明らかにしています。

大麻支持者の中には、大好きなハーブを常用することで短期記憶障害が起きるという主張に腹が立つ人もいるかもしれませんが、科学的エビデンスには勝てません。一般的に大麻を使用すると、たとえば人間なら観た映画を詳細に記憶するのが困難になりますし、マウスの場合は迷路を通過するのに時間がかかります。

ただし、THC による記憶への影響は悪いことばかりではありません。事実それは障害ではないばかりか、忘れる、というのは大麻が持つ治癒効果の中でも最も重要な作用の一つです。大麻は、兵士だった人が苦しい経験を思い出させる出来事を忘れる、あるいは少なくともそうした記憶にがんじがらめにされずに済むようになるために最適である可能性があるのです。

このような複合受容体は、THC の持つ有益な作用のみならず、THC が原因とされる認知障害の一部も引き起こすように見えます。

CBDとTHCと5-HT3A

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セロトニン受容体の中でも特殊な 5-HT3A 受容体にも簡単に触れておく必要があります。他のセロトニン受容体サブタイプと違って、5-HT3A は Gタンパク質共役受容体ではなくイオンチャンネルとして機能します。

イオンチャンネルは、細胞膜の上を流れるイオンを維持・変化させ、それによって脳が使用する迅速な電気信号の調節に役立ちます。

5-HT3A 受容体は中枢神経系および末梢神経系にあり、気分障害や疼痛信号の送信に関与します。5-HT3A 受容体の阻害薬は、抗がん剤治療に伴う悪心・嘔吐の治療に使われます。

THCCBD はともに、5-HT3A 受容体の強力なネガティブ・アロステリック・モジュレーターです。つまり、THCCBD は 5-HT3A 受容体に作用してその構造を変化させ、本来のリガンドであるセロトニンが 5-HT3A 受容体と結合しにくく、またそれによって活性化されにくくするのです。

THCCBD の制吐作用は、このことが一因である可能性があります。興味深いことに、内因性カンナビノイドであるアナンダミドにもまた同様の阻害作用があります。これもまた、植物性カンナビノイドと内因性カンナビノイドがセロトニン系と連携して人間の苦しみを和らげる例の一つと言えます。


Lex Pelger は、向精神物質に関する記事やエンドカンナビノイド・システムに関するコミックの著者であり、ポッドキャスト Psychedelic Salon 2.0 と Greener Grass を運営するほか、向精神薬についてのオープンマイクイベントを主催している。


脚注

  1. SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、セロトニンの再取り込みを阻害することにより、神経細胞と神経細胞の間の空隙に存在する 5HT の濃度を高め、結果としてニューロン活動を高めるが、SSRI の慢性的な使用は内因性セロトニンのベースライン値を低くすることがわかっている。
  2. 原始線虫の行動の老化と寿命を調節することが知られているセロトニンは、ほとんどの動物の神経系における神経伝達物質として機能する。セロトニンは昆虫毒素やさまざまな菌類、また梅、キウィ、バナナ、パイナップル、プランテイン、トマトなどの果実にも含まれる。
  3. カンナビノイドがいつ、どのようにしてセロトニンの放出を調節するのかについては、まだわかっていないことが多い。そこにはさまざまな要素が関連している。5-HT 受容体のサブタイプの中には抑制信号を発するものもあれば興奮性シグナルを発するものもある。カンナビノイド受容体はまた双方向性に機能し、グルタミン酸と GABA に作用して、それぞれニューロンの興奮と抑制を引き起こす。また、低用量と高用量が逆の効果をもたらすカンナビノイドの二相性作用も交絡因子の一つである。THCCB1 受容体を介してセロトニンの産生を抑制することを示唆する研究もあるが、背側縫線核内で CB1 受容体とセロトニンに何が起きるのかについては、複数の研究で矛盾する結論が導き出されている。二つの相関関係は単純ではない——周辺部位のエンドカンナビノイド・トーン、シナプスの強度、CB1 受容体の密度などがすべて、CB1 受容体の活性化によってセロトニン性神経細胞が興奮するか抑制されるかに影響する。こうした微妙なシステムがおうおうにしてそうであるように、単純なオン・オフスイッチがあるわけではなく、そこには変化しやすく複雑なフィードバック機構が存在する。
  4. エイドリアン・デヴィット=リーはこう付け加える——「5-HT2A を活性化させる化学物質の中に、(セロトニンそのもののように)精神作用を持たないものがあるのはなぜなのかを理解する鍵が二量化なのかもしれない。LSD のような幻覚剤が、5-HT2A とグルタミン酸に反応する Gタンパク質共役受容体 mGlu2 の二量化を引き起こすことを示唆する研究もある。その一方、セロトニンとその他の非幻覚性分子は、二量化なしに 5-HT2A を活性化させる。ただしこの仮説はコンピューター・シミュレーションによるものであって、さらなるエビデンスが必要である。

参照文献

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