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日常的に5種類以上の薬を使用するポリファーマシー(多剤併用)は、現代社会に蔓延する健康危機の一つです。薬物間相互作用についての知識の不足によって、副作用や有害反応の危険性が高まり、その結果多くの患者の生活の質が低下しています。

対照的に、医療大麻を使っている患者の多くは、病気の症状をより良く抑えながら処方薬の数を減らすことができます。医療大麻は、医師や患者が求めている、処方薬よりも安全な治療法になり得るのでしょうか?

ポリファーマシーとは何か

現代社会に生きる平均的な人の場合、年齢を重ねるにつれて摂取する薬の数は増えがちです。アメリカでは、高齢者の 35.8% が5種類以上の処方薬を摂っています。処方箋なしに買える薬やサプリを加えると、その数字は 67.1% に及びます。[1]

もちろん、人間の寿命は延びていますし、歳を取れば往々にして色々な慢性病に罹りやすく、そのそれぞれについて薬が処方されます。統計的に見ると、処方される薬の数が多ければ多いほど、有害な副作用が起きる危険が高まります[2]。イギリスでは、入院件数の 6.5% は薬の副作用によるもので [3]、 副作用のために入院した高齢成人患者の 90% が複数の処方薬を摂っています [4]。

残念ながら、より多くの薬を摂ったからと言って必ずしも患者の症状が良くなったり生活の質が向上するわけではありません。ピッツバーグ大学が 2019年に行った調査では、緩和ケアにおけるポリファーマシーについて調べ、多剤併用する患者はむしろ生活の質が低く、症状は重いということがわかりました [5]。論文の著者らは、これは疾患そのもののせいと言うよりも処方薬に原因がある可能性を示唆しています。これは「処方のカスケード」と呼ばれます。

イギリスの大学で分子薬理学と臨床薬理学を教えるムニール・ピルモハメッド(Munir Pirmohamed)教授は、高齢者にとって処方薬は「毒である」とさえ言っています [6]。

ピルモハメッド教授がイギリス議会の上院委員会公聴会で高齢者のより健康的な生活について説明したように、「これら処方薬は規定された通常の用量で摂取され、その用量は、治験の排除基準を満たしたより若い被験者を基準にして決められています — つまり、複数の疾患を持たない人で試験が行われるのです。したがって、許可された用量どおりに薬を使用すれば、その用量は高齢者にとっては毒であることが多いのです」

医療従事者の多くは、患者が摂っている薬のすべてを把握するのに苦労します。特に、薬を処方している医師が一人でない場合はなおさらです。

上級看護師であり、現在アメリカン・カンナビス・ナース・アソシエーションの代表を務めるエロイーズ・ティーセンの場合もそうでした。ティーセン自身、慢性の疼痛があり、新しく処方薬が一つ増えたおかげで悪くすれば死んでしまう副作用が起こり、緊急治療室に担ぎ込まれたことがあります。

「私は複数の薬を処方されていました」とティーセンは言います。「8種類目の薬を追加したのに医師間の情報共有ができていなかったおかげで、私はセロトニン症候群に罹ってしまいました。下手をすれば昏睡状態になったり死んでしまうこともある病気です。情報が伝わっていないのよ。カルテには書かれているかもしれないけれど、一人の専門医から別の専門医へ、必要な情報がきちんと伝わっているかどうか確認がとれないんです。アメリカの医療システムの大きな落とし穴ですね」

大麻:天然のポリファーマシー解毒剤

ティーセンは、医療大麻が効果的に疼痛を抑え、それまで摂っていた処方薬をやめることができたという自らの実体験に触発されて、医療大麻専門の Radicle Health Clinic を開業しました。

「私のクリニックに来る高齢者は、病気の症状を抑えるために平均して7種類ほどの処方薬を摂っています。だからポリファーマシーに伴う副作用をしょっちゅう目にしているんです」とティーセンは言います。

「疼痛の診察で私のところに来る典型的な患者に対して、標準医療ではタイレノール(訳注:アセトアミノフェン系解熱・鎮痛剤)か、短期的に抗炎症薬を処方します。それで効果がなければトラマドール(訳注:オピオイド系鎮痛薬)、そしてもちろん、それでも効かなければ他のオピオイド系の薬を処方します。それから、神経痛をやわらげるためのガバペンチン。痛みが抑えられないので抗うつ薬も必要だし、痛みが治まらずよく眠れないから不安感もあります」

医療大麻が合法なアメリカの州では、オピオイド系の薬の処方が大幅に減ったことを示す調査はいくつもあります[7] 。でも、オピオイド系の薬が減るだけではありません。

ティーセンは言います。「私はみんなに処方薬の服用をやめて、医療大麻だけで生活するとどうなるかを知って欲しくてたまらないんです。そうすれば、生活の質は劇的に向上すると思いますから」

「『生まれ変わったみたい』としょっちゅう言われます。思考も明晰になり、家族や友人との会話も戻ってくるんです。今という瞬間をしっかり生きているのを目にするのは、まるで奇跡です」

子どものポリファーマシー

ポリファーマシーの悪い影響を受けているのは高齢者だけではありません。てんかんなどの難治性疾患の患者は多くが子どもですが、さまざまな薬の組み合わせを処方されることが多く、それらは症状を抑えることができないばかりかたくさんの副作用があります。

稀なてんかんの一種であるドラベ症候群を患う 10歳のアヴァ・バリーは、激しい発作を抑えるために一連の医薬品を処方されていました。

アヴァの母親で、アイルランドで医療大麻合法化活動に携わるヴェラ・トゥーミーはその頃のことを思い出してこう言っています。「病気が進行して薬が効かず、娘は次から次へと違う薬を処方されました。最初に摂っていた薬が発作に効かないから次の薬を処方されたのに、最初の薬はそのまま処方され続けました。新しい薬が足されただけだったんです」

「効かないのになぜこの薬を摂り続けるのか、と実際に訊いてみたんですが、医師は『いや、組み合わせを試しているんですよ、だから一緒に使うんです』と言うだけだったわ」

「問題は、副作用について考慮する必要があるということ。とても辛い副作用があるんです。処方された薬の一つでアヴァはよだれを垂らすようになったの。発作が治まるかよだれを垂らすか、どちらかを選べと言われたら、よだれの方を選ぶわ。でも問題は、その薬は発作も抑えられなかったということ。効かなかったのよ。そんな状況が長い間続いて、とうとう娘は一日に薬を 15錠摂るようになりました」

それでもアヴァの発作は止まりませんでした。そしてついにアヴァの両親は、思い切って医療大麻を試すことにしたのです。医師の推薦なしに買えるヘンプ由来の CBD オイルを使い始めると、たちまち発作の回数が減り始めました。それから一家はオランダに移住し、小児神経専門医の指導のもと、CBDTHC を組み合わせることでアヴァの発作はさらに減少しています。

「医療大麻を使うようになって発作が止まり、処方薬の一つを止めることを考えてもそんなに危険ではないかもしれない、と気がついたの。それで私たちはとても慎重に、最初に処方された薬を摂るのをやめたのだけれど、悪いことは何も起こらなかった。そして次の薬も止め、最後の薬も止めたのよ。

「オランダから帰国してしばらくすると、アヴァは処方薬は何も摂らなくなったし、今も使っていないの。CBDTHC を一日2回摂るだけ、それだけよ」

重篤な自閉症のある子どももまた、複雑な症状に対処しようとして複数の薬を処方されることがしばしばあります。抗精神病薬、抗けいれん薬、ベンゾジアゼピン系の薬、それに抗うつ薬を一度に処方されることも珍しくありません。

イスラエルで、高CBDのカンナビス・オイルが自閉症の子どもに与える効果をまとめるために行われた前向き研究によれば、医療大麻は、子どもの言動を大きく改善するだけでなく、34.3% の患者で同時に摂る処方薬が減るという利点がありました [8]。

なぜ大麻なのか?

医薬品の開発において主流である単一分子の医薬品モデルに慣れている医師にとって、何百種類もの活性成分を含む植物の抽出物を使うのことには抵抗があります。なぜなら、どの成分にどういう作用があるのかがわからないからです。けれども、複雑で変化しやすいという性質こそ、大麻がポリファーマシーがもたらす危機の解決策となり得る理由なのです。

比較的副作用がなく、鎮痛作用抗炎症作用制吐作用抗不安作用抗うつ作用があって睡眠も助けてくれる薬が他にあるでしょうか? 医療大麻とは、依存性がなく、かつ薬物間相互作用の危険性もない薬草であり、相乗作用を持つ一つの植物の中にすべての医療効果が包含されているのです。

そう考えると、医師が医療大麻を処方することはいかにも簡単なことに思えます。ところが、今も引きずっているネガティブなイメージと時代錯誤な政策が医療大麻の研究を妨げているがゆえに、医師は、患者の健康にどんな影響があるかわからない、あるいは危険な影響を与えかねない医薬品を何種類も処方する方が気が楽なのです。

「医療従事者、特に医者は、臨床試験、つまり人間を対象にした研究の結果を欲しがるの」とエロイーズ・ティーセンは言います。「医者の興味を喚起するのに十分な観察データはあるけれど、どれだけの用量をどれくらいの頻度で使うのか、どのカンナビノイドが一番効果があるのかを示してくれる臨床試験結果がもっと集まらないうちは、医者は医療大麻を治療に取り入れようとはしないと思うわ」

ティーセンはこうも言います —「今、変化を起こす先頭に立っているのは患者なの。これは革命なのよ」


Project CBD の寄稿者メアリー・バイルズ(Mary Biles)は、ホリスティックヘルスに造詣の深いジャーナリスト、ブロガー、エデュケーター。イギリスとスペインを拠点とし、医療大麻研究の進歩を正確に報告することに注力している。


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参照文献

  1. 1.Dima M. Qato, Jocelyn Wilder, L. Philip Schumm, Victoria Gillet, and G. Caleb Alexander. Changes in Prescription and Over-the-Counter Medication and Dietary Supplement Use Among Older Adults in the United States, 2005 vs 2011. JAMA Intern Med. 2016 Apr; 176(4): 473–482
  2. Johnell K, Klarin I. The relationship between number of drugs and potential drug-drug interactions in the elderly: a study of over 600,000 elderly patients from the Swedish Prescribed Drug Register. Drug Saf. 2007;30(10):911-8.
  3. Munir Pirmohamed Sally James, Shaun Meakin, Chris Green, Andrew K Scott, Thomas J Walley, Keith Farrar, B Kevin Park, Alasdair M Breckenridge. Adverse drug reactions as cause of admission to hospital: prospective analysis of 18 820 patients. BMJ 2004;329:15
  4. Pedrós C, Formiga F, Corbella X, Arnau JM. Adverse drug reactions leading to urgent hospital admission in an elderly population: prevalence and main features. Eur J Clin Pharmacol. 2016 Feb;72(2):219-26
  5. Yael Schenker, Seo Young Park, Kwonho Jeong, Jennifer Pruskowski, Dio Kavalieratos, Judith Resick, Amy Abernethy, Jean S. Kutner. Associations Between Polypharmacy, Symptom Burden, and Quality of Life in Patients with Advanced, Life-Limiting Illness. J GEN INTERN MED (2019) 34: 559.
  6. Nicola Davis. Elderly people being ‘poisoned’ by medication, say drug experts. The Guardian 29 October 2019
  7. Ashley C. Bradford, W. David Bradford, Amanda Abraham. Association Between US State Medical Cannabis Laws and Opioid Prescribing in the Medicare Part D Population. JAMA Intern Med. 2018;178(5):667-672.
  8. Bar-Lev Schleider, L., Mechoulam, R., Saban, N. et al. Real life Experience of Medical Cannabis Treatment in Autism: Analysis of Safety and Efficacy. Sci Rep 9, 200 (2019)

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