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10歳の少年デヴィッドに最初のてんかん発作が起きたのは生後2か月のときでした。感光性の全身性強直間代発作が、一日に1回から4回ほどありました。2種類の抗けいれん薬、ラモトリギン(日本では商品名ラミクタール)とバルプロ酸を摂取していたにもかかわらず、発作は毎日起こりました。それまでに、カルバマゼピン(商品名テグレトール)、フェノバルビタール(商品名フェノバール)、ゾニサミド(商品名エクセグラン)、レベチラセタム(商品名イーケプラ)を試していましたが効果はありませんでした。

主治医の勧めで、一日に体重1キロあたり 0.05ミリグラム(0.05mg/kg/day)の THCA を抗けいれん薬と併用したところ、両親はすぐに発作の頻度が減ったことに気が付きました。次に THCA の用量を 2.2mg/kg/day に増やし、その結果発作の頻度に変化は見られませんでしたが、両親はその用量を投与し続けました。THCA の投与を初めて3か月後、両親から主治医への報告によれば、発作の回数は40% 減少し、発作の継続時間が短くなり、レスキュー薬として使っていたジアゼパムの使用を止めることができました。さらに発作を抑えられることを期待して、両親は、THCATHC の含有比が4:1の製剤の投与を始めました。副作用として一過性の眠気が見られただけで、これは発作回数の減少には効果がありませんでした。

てんかん発作が完全に止まったわけではありませんでしたが、デヴィッドの QOL(クオリティ・オブ・ライフ)は大きく改善されました。こういう変化が起きたのは彼だけではありません。医療大麻は、デヴィッドのようにてんかん発作に苦しむ多くの人に希望を与えています。

てんかんは、2013年の国勢調査によれば、アメリカ国内で少なくとも 510万人を苦しめている、医療面、経済面、社会面が絡み合った複雑な問題です。ハワイ州のてんかん患者は 15,000人と推定されています。てんかんに直接的・間接的に関係する費用は、年間155億ドルと見積もられています。[1,2] てんかんの患者やその家族にとって、発作の頻度、抗てんかん薬による治療効果や副作用はさまざまであり、それによって日常生活が制約されたり、非常に複雑なものにならざるを得ません。

てんかん発作は、脳の一部の過剰な興奮、あるいは脳内での異常な神経活動によって起こります。興奮性シナプス伝達と抑制性シナプス伝達を引き起こす誘引のバランスが突如崩れ、興奮性が優位になってしまうのです。この興奮した状態が周囲の細胞にも伝播し、それらの細胞でも異常な神経活動が始まります。神経細胞の興奮が高まったり、さまざまな原因によって神経細胞の抑制が効かなくなると発作が起こります。恒常性(ホメオスタシス)が崩れるのです。

ほとんどの場合、てんかん発作にはこれとわかる原因がありませんが、少数においてはさまざまな原因が特定されています。その中には、外傷、感染、先天性の代謝異常、薬物(または薬物からの離脱)、遺伝などがあります。

てんかんの標準治療

てんかん発作の根本原因の治療法、また頭部に外傷を受けた後でてんかん発作が起きるようになるのを確実に防ぐ治療法は存在しません。抗てんかん薬にできるのはてんかん発作の強さと頻度を抑制することだけで、しかも必ず効果があるとは限りません。事実、てんかん患者の3人に1人は、適切に処方された2種類以上の抗てんかん薬(AED)を使っても発作がなくなりません。[3]

過去数十年の間に新しく開発された抗てんかん薬は20種類を超えていますが、発作が抑えられないでいる患者の数は期待したほど減っていません。抗てんかん薬が効かない患者は、合併症や突然死(SUDEP)のリスクが高まります。複数の抗てんかん薬を必要とする人はまた、重大な副作用の発生率も高くなります。より安全で効果的な、より良い治療法が必要であることは明らかです。

安全性

医療大麻は、カンナビノイド受容体が脳幹に発現していないため死亡例が存在せず、安全な薬であると言うことができます。てんかん発作を抑えるために医療大麻を使っている患者に最も多く見られる副作用は、疲労感、食欲減退、眠気などですが、医療大麻の使用を中止すればいずれも解消されます。一方、抗てんかん薬には重大な副作用があり、また医療大麻と違って使用法を誤れば死に至るものもあります。

カンナビノイドは主として肝臓の代謝酵素であるシトクロム P-450ファミリーによって代謝されますので、抗てんかん薬と併用する場合は、若干の薬物相互作用に留意することが重要です。代謝酵素を取り合うことで抗てんかん薬の血中濃度に影響を与える可能性がありますので、処方された抗てんかん薬と医療大麻を併用する場合は、医師が経過を観察すべきであり、必要に応じて用量を調節する必要があります。

エンドカンナビノイド・システムとてんかん

エンドカンナビノイド・システムの仕事はホメオスタシスを維持することですから、何百年も前から大麻がてんかん発作の抑制に使われてきたのは驚くことではありません。マウスを使ったきちんとした実験の結果からは、エンドカンナビノイド・システムが、発作性疾患に対する脳の反応に重要な意味を持っていることがわかります。

カンナビノイド受容体は、中枢神経系に特に集中していることがわかっています。カンナビノイドが抗けいれん作用を発揮する機序は完全には解明されていませんが、仮説はあります。

感情や記憶を司る脳の一部、海馬には、カンナビノイド受容体があります。海馬の細胞に異常な変化が起きると、最も多いてんかんの種類の一つである「内側側頭葉てんかん」の原因になります。内側側頭葉てんかんでは、海馬の細胞が興奮性のフィードバックループを作り、それが発作を引き起こすのです。ヒトや動物を対象にした研究ではいずれも、カンナビノイドが正常な海馬細胞を保護し、異常細胞の活性を弱めることが示唆されています。[4]

激しいてんかん発作を起こしているマウスでは、内因性カンナビノイドである 2-AG が、対照群と比較して大幅に多くなっていました。アナンダミドと 2-AG の血中濃度を測った結果、発作が起きると、どちらもオンデマンドで産生され、CB1受容体が活性化することがわかります。また、てんかんのあるマウスでは CB1受容体の数がかなり増加しており、長期的、おそらくは永続的にその状態が続くように見えます。

難治性てんかんを発症させたマウスを使って行われた研究では、THC の投与で発作が完全に消失し、鎮静作用もありませんでしたが、フェノバルビタールまたはフェ二トンを最大限に投与しても発作は止めることができませんでした。このことは、植物性カンナビノイドが、現在処方されている抗けいれん薬と比較して難治性てんかん治療により有効である可能性を示しています。[5]

近年になって、動物モデルを使った実験や人間を対象とした臨床観察によって、てんかんを抑えるために大麻を使うことへの関心が再び高まっています。カンナビノイドは中枢神経系全体でのグルタミン酸の合成を減少させ、その結果、炎症とてんかん発作が軽減します。[6] 作用機序がどうあれ、臨床観察の結果は、医療大麻を抗てんかん薬として、単独あるいは補完治療として使うことの有望性を示しています。

個々のカンナビノイドの治療効果

全草をまるごと使った方が、ある一種類の成分のみを使うよりも効果的であることを示すエビデンスは増えるばかりです。そしてそれはおそらくアントラージュ効果によるものです。大麻草には多くのカンナビノイドが含まれており、THCCBD は 80種類以上あるカンナビノイドのうちの2つにすぎません。さらに大麻草には、植物の香り成分であり医学的に有効な成分であるテルペンが含まれています。これらの成分を組み合わせることによって、どれか一つのカンナビノイドを単独で使う場合の副作用が軽減され、てんかん発作を抑えるのにより効果的である可能性があるのです。[7] どんな種類のてんかんにどんな組み合わせが最も適しているのかはまだわかっていませんが、その答えを探すためにさらなく研究をすべきであることは、これまでのエビデンスがはっきりと示してます。

CBDCBD は、てんかんの治療に有効なカンナビノイドの中で最も重要なものなのでしょうか? 重度のてんかんを持つ子どもたちにCBDが使われた結果を報告した近年の事例を考えるとそのようです。CBD が重要であるのは間違いありませんが、その他にも有効なカンナビノイドはあります。CBDは多くの患者に抗けいれん作用を発揮することが証明されていますし、少数のてんかん患者には効果が認められませんでしたが害もありませんでした。CBDの抗けいれん作用はおそらく、いくつかの有益な作用の組み合わせによるものです。CBD はNMDA受容体を(抗てんかん薬フェルバメートと同様に)ブロックし、(フェノバルビタールやバルプロ酸と同様に)GABA受容体の働きを亢進させます。(フェニトインやレベチラセタムと同様に)イオンチャンネルを安定させて抗炎症薬の役割を果たす他、神経保護作用もあります。[8]

THCスタディモデルによっては、THC は発作の頻度と強度を軽減させましたが、効果が見られなかった研究もあります。中にはTHCを投与されて発作が増えた患者もいました。[6]

THCATHCの酸性の形である生の THCA は、精神作用がなく、抗けいれん作用があるようです。[9]

CBDVカンナビジバリン(CBDV)には陶酔作用はなく、やはり強力な抗けいれん作用があります。CBDと組み合わせるとその作用はより強力でした。[6, 10]

α-リナロール:α-リナロールというテルペンは、基礎実験で、抗けいれん作用があることが示されています。カンナビノイドと組み合わせると特に強力な作用があります。[7, 9]

用量

カンナビノイドは二相性用量反応曲線を持っています。つまり、多ければ多いほど良い、多ければ多いほど効果が強いとは限らず、この傾向はTHCのほうがCBDよりもはっきりしています。患者も医師も、ある用量で効果がなかったら用量を増やすべきであると決めてかからないようにしましょう——実は逆に用量を減らすべきであることもあるのです。その製剤にTHCが含まれている場合はなおさらです。

記録された成人の用量は、少ない場合は 0.02 mg/kg/day という例がありますが、エピディオレックス(GW製薬が作った、純粋に CBDのみの製剤)の臨床試験では、体重1キロあたり一日2ミリグラムから50ミリグラムまでの用量を試験しました。てんかんを抑えるための医療大麻用量の研究はまだまだ途上にありますが、難治性てんかんの子どもの治療経験が豊富なある医師によるガイドラインは次のとおりです。まず、CBDオイルを使い始める前の脳波図(EEG)を記録し、症状の改善が見られるようなら1か月後、2か月後、3か月後に再び記録します。品質がきちんと管理され、検査ラボでの分析を経た、CBDTHC の割合が少なくとも10:1 である CBDオイルを、最初は 1mg/kg/day の量を3回(8時間ごと)に分けて投与します。用量は、結果に従って1〜2週間ごとに増量します。この医師によれば、多くの場合、治療域は 4mg/kg/day から 9mg/kg/day の間であると述べています。発作の頻度が低くなれば、抗けいれん薬は徐々に使用を止めることができます。[10]

てんかんの治療薬としての医療大麻利用に関する最新の論文は、メーン州、ワシントン州、カリフォルニア州の経験豊富な医師3名によるものです。合計すると 272名の患者のうち、てんかん発作を減少させる効果がなかった人が 14%、1〜25%減少した人が15%、76〜99%減少した人が28%、そして10%の人では発作が完全に消失しました。

CBDの著効事例

サムは、4歳のときに最初のミオクロニー発作を発症し、それがやがてミオクロニー欠神発作に進行しました。サムの場合、発作が起きても床に倒れて体をけいれんさせるのではなく、ときには一日100回も、20〜30秒間意識を失うのです。体の動作が止まり、頭をリズミカルに上下に動かしながら宙を見つめたかと思うと発作は終わります。本人は発作が起きたことにさえ気づきませんが、ただ気がつくと、周囲のあらゆるものがわずかに変化しているのです。しかし発作は彼の正常な日常を奪いました—人との会話が途切れたり、学校の勉強に支障が出たり、スポーツに参加できなかったりしたのです。

サムはそれまで、免疫グロブリンの静脈注入やケトン食療法も含め、20種類以上の治療法を試しましたが、効果があったのはごく一部で、それも不愉快な副作用(手の震え、じんましん、無気力 etc.)があったり、しばらくすると効果がなくなったりしました。11歳になった頃には非常に高用量のコルチコステロイド剤を摂っていました。それが唯一、多少は効いたからですが、その副作用は惨憺たるものでした。彼は3つの州の病院に入院したことがあり、6人の神経科医の診察を受けていました。

最後の手段として、サムの両親は CBD を試すことにしました。素晴らしい効果が現れましたが、「簡単なことではなかった」と父親は言います。CBD はすぐに効き、木曜日に68回あった発作が、翌月曜日には6回になりました。CBD を摂り始めて数年後、サムは一日1,000ミリグラムの CBD を摂り、それ以外には抗てんかん薬は一切摂っていませんでしたが、発作は一日0〜5回に減っていました。ところがそこで、サムは初めての強直間代発作を起こしたのです。3週間後にも再び強直間代発作があったので、治療にバルプロ酸を加えたところ効果がありました。

サムは現在15歳で、過去15か月間、発作は起きていません。両親は胸をなでおろし、これは奇跡だと思っています。今、サムは一日 875ミリグラムのバルプロ酸と、CBDオイルを一日2回、250ミリグラムずつ摂っています。スポーツ、フライフィッシング、ロッククライミングを楽しみながら、普通の男の子として生活しています。

医療大麻がてんかんの治療に役立つことは明白ですが、まだ学ぶことはたくさんあるのです。


医師である Stacey Kerr(ステイシー・カー)は、北カリフォルニア在住の教師、医師、著述家。著述と教育に専念するため開業医を辞め、数年間にわたって Society of Cannabis Clinicians と協働し、初めての、医療大麻に関する包括的なオンライン・コースを開発した。現在は、ハワイ島で科学エビデンスに基づいた大麻製品メーカー、Hawaiian Ethos社のメディカルディレクターを務めている


この記事は Project CBD が許可を得て転載しています。著作者の許可なく転載を禁じます。


脚注

1.     (cdc.gov/epilepsy)

2.     (http://www.epilepsy.com/hawaii)

3.     Kwan P. Brodie MJ. Early identification of refractory epilepsy. N Engl J Med 2000;342(5):314-9

4.     Gloss, Vickrey. Cannabinoids for Epilepsy. The Cochrane Library, 2012

5.     Wallace M.J. et al. The Endogenous Cannabinoid System Regulates Seizure Frequency and Duration in a Model of Temporal Lobe Epilepsy, Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics, Vol. 307:129–137, 2003

6.     Devinsky et al. Cannabidiol: Pharmacology and potential therapeutic role in epilepsy and other neuropsychiatric disorders. Epilepsia, 55(6):791–802, 2014

7.     Rosenberg EC, Tsien RW, Whalley BJ, Devinsky O. Cannabinoids and epilepsy. Neurotherapeutics. 2015;12:747–768

8.     Jones NA, et al. 2010. Cannabidiol displays anti-epileptiform and anti-seizure properties in vitro and in vivo. Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics 332(2):569-577

9.     Sulak D, et al. The current status of artisanal cannabis for the treatment of epilepsy in the United States, Epilepsy Behav (2017), http://dx.doi.org/10.1016/j.yebeh.2016.12.032

10.  Hill et al, Cannabidivarin is Anticonvulsant in Mouse and Rat, Br J Pharmacol. 2012 Dec;167(8):1629-42. doi: 10.1111/j.1476-5381.2012.02207.x.

11.  Elisabetsky E, Brum LS, Souza DO. Anticonvulsant properties of linalool in glutamate related seizure models. Phytomedicine 1999;6(2):107-13

12.  Bonnie Goldstein MD. https://www.theroc.us/goldstein.pdf


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