先ごろ『JAMA Network Open』誌に掲載されたある論文には、ボングから流れ出る大麻の副流煙に含まれる微細な粒子状物質の濃度がタバコの副流煙に比べて高く、危険である、と書かれていました。批判する能力のないマスコミによって大々的に報じられたこの結論は、カリフォルニア大学バークレー校公衆衛生学部によって行われた研究に基づいています。Project CBD は、カンナビノイド学者であるマット・エルメス博士にお願いして、この論文を査読し、その内容を評価してもらいました。
Project CBD: 大麻の副流煙の危険性に関する科学的なデータはたくさんあるのでしょうか?
エルメス博士: タバコの副流煙に長期間暴露すると健康を害するということは、多数の臨床試験で示されています。でも現在のところ、大麻の副流煙が有害かどうかを評価した臨床試験はほとんどありません。大麻の副流煙に暴露することがいったい危険なのか、危険だとしたらどの程度かについてはわかっていないのです。
煙というのは、気体と、微細な固形物の粒子の混ざったものです。ほとんどの気体は目に見えませんから、私たちが煙を目にするときに実際に「見えている」のは、何十億個という小さな固形物の粒子です。この粒子状物質の種類や大きさはさまざまで、主に、燃焼している物質の化学組成や燃焼の状態によって決まります。
『JAMA Network Open』に掲載された実験は、大気中の固体粒子のうち、具体的に大きさが 2.5 μm(マイクロメートル——1ミリメートルの 1000分の 1)未満のものを測定しています。これは、大気汚染あるいは空気の品質を評価する際によく使われる尺度です。この、大きさが 2.5 μm 未満の浮遊微小粒子は、私たちの気道の奥深くまで入り込み、それが多すぎると、目、喉、肺の炎症といった一時的な健康被害を起こす可能性があります。また長期的に暴露すると、慢性気管支炎、がんなどに罹患する危険性が高まったり、肺機能が低下したりします。
Project CBD: この実験の結果を歪める交絡因子はありますか?
エルメス博士: まず第一に、この論文は単なる観察研究です。おそらくヒトを対象とした実験に求められる要件を回避するために、非常に「非干渉主義」なやり方をしています。研究者は被験者とは一切コンタクトが取れず、実験に関する指示や指導さえできませんでした。被験者は全員、自分で自分の大麻、ボングを用意し、自宅というそれぞれの実験環境を提供したのです。こういう研究デザインは理想からは程遠いですし、明確な結論を導き出すことは非常に困難です。
さらに言えば、こういう研究デザインはおそらく、大麻がスケジュール I の規制物質であるがゆえに研究者たちは適切な対照研究を合法的に行うことができず、そのため次善の策として選ばれたのでしょう。連邦補助金を少しでも受け取っている研究グループ(学術研究グループの大半がそうです)がスケジュール I の薬物そのものを研究しようと思えば、規制当局による実にさまざまな制約をかいくぐらなければならないのです。また、これは厳密な意味ではヒトを対象とした研究ではないということも指摘しておく価値があるでしょう。IRB(施設内倫理委員会)による承認が免除されているからです。つまり、研究の対象、被験者募集の手続き、被験者との接触の仕方が非常に厳しく制限されているのです。
Project CBD: 論文には、「複数の被験者が、自分の意志で、気の向くままに、好きな人と一緒に、実験的な設定ではなく、治験責任者からは吸い方の指示も制約も与えられずに吸った」と書かれています。これはどういうことなのでしょう?
エルメス博士: これがすべてを物語っていると思います! 完全な野放しで、どういう条件のもとに計測が行われたかについてはほとんど何もわからない。被験者は「好きな人と一緒に」吸っていて、他には何も指示されなかったわけですから、一人の人が吸っているボングの煙以外の煙も検知された可能性が高いと思います。同じ部屋の中に友だちが何人もいて、その人たちもボングを使っていたかもしれない。珍しいことではありません。これは、タバコを吸う人が一人いる家での空気の品質を測った研究と食い違うように思えます。
Project CBD: この実験からのデータと、タバコの副流煙に含まれる粒子状物質についてわかっていることとを直接比較する意味はあるのでしょうか?
エルメス博士: 研究のやり方に大きく異なる点がいくつもあること、対照研究ではないことを考えると、公平な比較とは言えませんね。タバコの研究は行われた環境がさまざまだし、ときには空気中の粒子を測るのに使われた器具も異なっています。引用されているタバコに関する論文には、標準偏差値が大きいことからも明らかなように、空気の品質に関するデータの分散が大きいです。
それから、ボングとタバコの通常の吸い方には重要な違いがあります。タバコは普通、一日中、少しずつ、たくさんの回数を吸いますが、ボングで大麻を吸うときは、短時間の間に、長く大きく吸い込むということが知られています。タバコと比べるならジョイントの方がもう少し適切に思えます。
タバコの煙の匂いは大麻の煙の匂いよりも室内に長く残りがちである、というのは誰もが同意するところです。家でタバコを吸う人は、室外か、あるいは開けた窓の近くで吸わされることが多いですよね。煙がどれくらい早く室内からなくなるかを決めるのは空気の流れですが、被験者が大麻を吸った部屋にどれだけ風が通っていたか、あるいは換気が行われていなかったか、私たちにはまったくわかりません。ただし、この論文の手法の項には、「ボングで大麻を吸った部屋はいずれも、すべての窓と扉は閉まっていた」と書かれています。比較されているタバコの副流煙の実験に参加した人が、同じように自分のリビングルームにタバコの煙を立ち籠めさせていたとは考えにくい。タバコとボングが類似した換気状況で喫煙されたかどうかがわからなければ、空中の微粒子のデータを比較することなどできません。この研究では多くの条件が制御されていませんが、これもその一つです。ボングを吸っていた部屋の中でタバコも吸っていたかどうか、それさえわからないんですよ!
Project CBD: 被験者の集め方に偏りはなかったでしょうか? ボングの実験の被験者はどのようにして選ばれたのでしょう?
エルメス博士: 「ヒトを対象としない」実験のためにヒトを集めることがどうやって許可されたのか、論文には詳しいことは何も書かれていません。ボングが好きな若い人というのは、一般的に言って大麻のヘビーユーザーであり、典型的な大麻常用者だと僕は思います。この実験がどのように行われたのか僕たちにはまったくわかりませんし、実験をしている人にもわからないようですね——被験者を直接観察しているのではないし、被験者には何の指示も与えられていないわけですからね。
Project CBD: ボングは汚れていなかったんでしょうか。そしてどれくらいの量を吸ったんでしょうか?
エルメス博士: 被験者が自分のボングを使っていますから、おそらく汚れがついていたように思いますね。経験豊富な大麻ユーザーなら誰だって、ガラスのボングにすぐ樹脂が溜まるということを知っています。検出された粒子状物質の一部は、実は以前大麻を吸ったときのものではないのか? 汚れたボングで大麻を吸うと喉が痛いですから、大麻だけを喫煙するのとタール状になった大麻を再燃させるのとではおそらく化学的な違いがあるでしょう。
論文の補足手法の項には、「一度のセッションでボウル部分に5杯から8杯分の大麻が喫煙された」とあります。でも実験者は実際にはどれくらいの大麻が喫煙されたかを知らないんです。小さめのボウルなら多分 0.1グラムくらいの大麻が入るし、大きいボウルなら 0.8 グラムくらい。そうすると、一度のセッションで吸った大麻の量は、可能性としては 0.5 グラムから 6.5 グラムというものすごく大きな幅があります。ただし、平均的なタバコの喫煙者は、大麻を吸う人よりも燃やす葉の量がずっと多いということは注目に値します。巻きタバコ1本に含まれるタバコの葉の量は1グラムですからね。つまり一日に一箱タバコを吸う人は、一日 20 グラムのタバコの葉を吸っているわけです。大麻の場合、どんなヘビーユーザーだってそんなには吸いませんよ。
Project CBD: 結局、どういう結論が得られるのでしょう?
エルメス博士: 大麻は安全性が高いですが、その喫煙はリスクを伴います。燃焼させた植物をたくさん吸い込むのは、その植物が何であれ、身体に良いことではありません。ただし、僕が思うに、タバコの副流煙に暴露することに伴う一番大きな公衆衛生上の問題は、首、喉、肺にがんを発病するリスクで、これはすでにきちんと立証されています。大麻の煙とタバコの煙は発がん性が異なることを考えれば、大麻の場合その心配はあまりありません。大麻がある種のがんの治療に役立つかどうか、答えはまだ出ていませんが、少なくとも大麻はそうしたがんを発生させない、と合理的に判断するに十分なエビデンスはすでにあります。もしも一生大麻を吸っていても頭部、喉、首あるいは肺のがんの発生と相関性がないのなら、大麻の副流煙を吸うとがんになる可能性があると信じる理由はほとんどない、と僕は思います。
もしかしたら大麻は、2.5 μm 未満の粒子状物質をタバコよりも多く産生するのかもしれない。この論文を読む限り、僕は必ずしもそういう結論には納得しませんが、彼らのデータはそういう可能性を示しているしもちろんその可能性もあります。一見するとそれは非健康的に聞こえますが、必ずしもそうではないんです。空中に浮遊する粒子は、その大きさだけが健康転帰を決めるわけではなく、その化学組成も関係します。「ヒトを対象としない」このような観察研究から得られたデータをあまりにも深読みし、それを健康への害に結びつけないよう注意しなければなりません。何人いるかもわからない、ボングで大麻を吸っている人たちの近くでただ空中の粒子だけを測っても、それが医学的に何を意味するかを結論することなどできはしませんよ!
マット・エルメス博士はカンナビノイドの研究者であり大の大麻愛好家。博士課程およびポスドクの研究はカンナビノイドの生化学にフォーカスしたもので、重要な研究結果によってこの分野に多大な貢献をした後、現在は研究者としてのキャリアを離れ、カリフォルニア州の大麻業界での実業に携わっている。
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