『CBDエッセンシャルガイド』からの抜粋です。
イタリア人科学者ヴィンチェンツォ・ディ・マルツォ博士は、エンドカンナビノイド・システムは私たちが「食べ、眠り、リラックスし、護り、忘れる」のを助けてくれる、と言っています。1 ではこの重要な5つの機能について詳しく見ていきましょう。
- 食べる:ECS は食欲と満腹感の調整を助けます。
- 眠る:ECS は気持ちを落ち着かせ、安眠を助けます。
- リラックスする: ECS はストレスを軽減させることで、肉体的・精神的な健康を促進します。
- 護る: ECSは脳細胞を生成して脳の健康を護り、健全な代謝を促進し、免疫系を調整して有害な侵入者から身体を護ります。
- 忘れる: 奇妙な項目だと思うかもしれませんが、健康な生活には忘れることが欠かせません。毎日、毎秒、自分に起きることを何から何まで詳細にわたって覚えていたら、まともな人間として機能することはできません。ECS は、必要な記憶と同時に、覚えておく必要のないことを忘れる「記憶の消去」も司っています。
ECS はどのようにしてこれほどさまざまな作用を発揮するのでしょうか? ECS は、マスターレギュレーター(最上位調整器)として機能するのです。
マスターレギュレーター
仮に、あなたがいる部屋の四方の壁に、100 個のサーモスタットが付いていると想像してください。そして、その一つ一つのサーモスタットが、私たちを安全で快適な状態に保ってくれる重要な生理的機能を調節しているとします。ECS というのは、これらすべてのサーモスタットが、人間のほとんどすべての生物活動の調整に関与する一つの動的なシステムにまとまったようなもの、と考えることができます。
マスターレギュレーターである ECS は、創傷治癒、血圧、疼痛知覚、脳細胞の生成、グルコース代謝、炎症を抑制するための免疫機能など、多岐にわたる生理的過程をコントロールしています。
あなたが緊急事態に直面すると、それに対応した行動がとれるように、コルチゾールやアドレナリンなどのストレスホルモンが大量に分泌されます。一般に「闘争・逃走反応」と呼ばれる状態です。危機が去って周囲の状況が普通の状態に戻ると、ECS がストレス反応を弱め、ホルモンの分泌量を元に戻します。
同様に、あなたが病気で、その原因である細菌を殺すために発熱する必要がある場合、ECS が体温を上昇させます2。侵入した菌が排除されて熱が必要でなくなると、ECS は免疫システムの調節器のダイヤルを回して平熱に戻すのです。ところが、ECS の調節器が壊れていると、あなたの身体は炎症反応を弱めることができず、健康な組織が損傷を受けます。自己免疫疾患は、ECS が機能不全に陥っているしるしです。
がん、糖尿病、アルツハイマー病、慢性疼痛、睡眠障害、依存症をはじめ、ほとんどありとあらゆる人間の疾患は、ECS の失調─つまり、ECS の機能が低下したり正常に機能していなかったりする状態─が関わっていることがわかっています。ECS の状態を整えることによる健康効果は非常に大きく、2013 年には米国国立衛生研究所(NIH)の科学者パル・ペイチャーとジョージ・クノスが、「エンドカンナビノイド・システムの働きを調整することにより、人間に起きる疾患のほとんどすべてに治療効果を発揮する可能性がある」3と宣言しています。
THCと CBD がともにエンドカンナビノイド・システムを調節する働きがあることを考えると、医療大麻がさまざまな疾患の治療に役立つ可能性があるというのもよくわかります。
ECSの構成要素
1990 年代後半までには、現在わかっているエンドカンナビノイド・システムの基本的な仕組みがほぼ解明されました。基本的な ECS の、3つの主要な構成要素は次のとおりです。
カンナビノイド受容体:脳全体、中枢神経系、その他さまざまな臓器の細胞の表面にある、小さな扉のようなものです。体内で起きていることに関する重要な信号を受け取って、細胞がそれに対して必要な行動をとれるようにします。カンナビノイド受容体には、CB1 受容体と CB2 受容体という2つの主要なものがあります。どちらも全身に存在していますが、CB1 受容体は脳と中枢神経系に多く、CB2 受容体は免疫系に集中しています。皮膚、肝臓、腎臓、心臓、その他の内臓にはどちらも発現しています。
内因性カンナビノイド:カンナビノイド受容体に結合して、鍵が錠を開くようにカンナビノイド受容体を活性化させる分子のことで、いわば人間の体内にある大麻と言ってもいいでしょう。これまで数種類が発見されていますが、最も目立つのは、2- アラキドニルグリセロール(2-AG)とアナンダミドです。アナンダミドという名前は、気分を高揚させるという評判から、サンスクリット語で至福を意味するアナンダという言葉から来ています。この2つの内因性カンナビノイドは、THC をはじめとする大麻成分と同じ受容体に作用します。
代謝酵素:化学反応を加速させ、体内の内因性カンナビノイドの量を調節するタンパク質です。必要に応じて内因性カンナビノイドを生成し、また役目を終えた内因性カンナビノイドを分解・破壊します。
CBD─最優秀分子
比較的最近のことですが、ECS の4つめの構成要素が発見されました。内因性カンナビノイドを必要な場所に運ぶ輸送分子です。脂肪酸結合タンパク質と呼ばれるこれらの輸送分子もまた、CBD がその役目を果たすために欠かせません。
人体に生来備わる内因性カンナビノイド(人体が自ら生成する2-AG とアナンダミド)が最初に発見されたとき、それがどうやって水分に満たされた体内を移動するのかわかりませんでした。なぜなら、血液は主に水分ですし、カンナビノイドは脂溶性で、ご存知の通り、水と油はうまく混ざらないからです。その謎が解明されたのは、2009 年に、内因性カンナビノイドを運ぶ具体的な輸送分子が特定されたときでした。
名前が示す通り、これらの脂肪酸結合タンパク質は、カンナビノイドのような脂肪酸と結合します。そして血液の中で、カンナビノイドを拾い、必要なところへと運ぶ水上シャトルのように機能するのです。細胞膜を通って細胞の内側へとカンナビノイドを運ぶこともあり、カンナビノイドはそこで、細胞核の表面にある受容体に結合します5。PPAR(ペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体)と呼ばれるこれらの核内受容体は、遺伝子発現、エネルギー代謝をはじめとする重要な生理的過程を司っています。実はCBD はこの水上シャトルにとってはVIP 待遇の乗客で、CBD が広範囲にわたる健康効果を持つのには、そのことが大きく関係しているのかもしれません。
あなたがCBD を摂取すると、CBD は並んで待っているカンナビノイドの列の先頭に割り込み、2-AG やアナンダミドを押しのけて優先的に水上シャトルの座席を確保します。その結果、あなたの内因性カンナビノイドは細胞の表面により長く留まり、次のシャトルがやってきて細胞の中に運ばれ最終的に代謝酵素によって分解される前に、CB1 受容体とCB2 受容体を活性化させる時間が長くなるのです。
実質的にCBD は「再取り込み阻害薬」として機能し、私たち自身が作る天然の内因性カンナビノイドのライフサイクルを引き延ばして、より多くの治療効果を発揮できるようにするわけです。上腕筋を鍛えるためにあなたがダンベルを持ち上げ、筋肉増強を促す刺激を与えて調子を整えるのと同じように、CBD は、あなたのエンドカンナビノイド・システムを通常よりも多くのカンナビノイドの作用に暴露させることでその「トーン(調子)」を強化させるのです。これが、CBD が脳を保護し、ストレスを軽減させ、疾患の治療に役立つ中心的な仕組みであると考えられています。
CBDは調整つまみ
水上シャトルの座席を独り占めして 2-AG とアナンダミドの寿命を延ばす、というのは、CBD がエンドカンナビノイド・トーンを改善する方法の一つですが、CBD はその他の方法でもエンドカンナビノイド・システムに作用します。内因性カンナビノイドの再取り込みを遅らせて体内の内因性カンナビノイド量を増やす他に、CBD はまた、カンナビノイド受容体の機能を調整したり変化させたりもできるのです。
THC は、鍵穴に鍵が嵌るように、CB1 受容体とCB2 受容体のどちらにも直接結合して受容体を活性化させます。すると受容体は信号を発し、それがある生体反応(痛みが軽減する、炎症がやわらぐ、血圧が下がる、気持ちが落ち着く、等々)を引き起こします。でもCBD の働く仕組みはこれとは違います。それ自体がカンナビノイド受容体と結合して信号伝達の引き金を引くのではなく、CBD は、THC または内因性カンナビノイドが引き起こした信号伝達を微調整するのです。
CBD のこのような働きの正確な仕組みは未だわかっておらず、まだまだ研究の途上ですが、現時点でわかっていることを少しお話ししましょう。基礎実験(イン・ビトロ実験)によれば、CBD はCB1 受容体のアロステリック・モジュレーターとして機能することが示唆されています。つまり、受容体が実際に信号伝達を起こす原因となるのではなく、受容体の信号伝達の仕方に影響を与えるのです。CB1 受容体はダイヤル式の調光器、あるいは音量調節つまみのようなものだと思ってください。CBD はつまみを少し絞りますが、完全には絞りきらないのです。どうやらこれが、THC がCB1 受容体に直接結合して活性化させることで引き起こされる厄介な精神作用の上限を引き下げ、ハイの程度を弱める仕組みの一つであるようです。
またCBD は、炎症や免疫細胞の活性を司る、CB2 受容体による信号伝達を増強させます。CB2 受容体に直接結合しないCBD がなぜ、どうやって、抗炎症作用その他CB2 受容体を媒介とする作用を発揮するのかは、未だ科学的には謎です。でも明らかになっていることが一つあります─ CBD は、CB1 受容体とCB2 受容体の活性を逆の方向に変化させ、CB1 受容体の作用を弱めながら同時にCB2 受容体の作用を強めることができるのです。そしてこの組み合わせには非常に素晴らしい健康効果があり、中でも代謝障害、肥満、肝疾患、その他欧米の食生活に関連する疾患には特に効果的です。
まとめます。CBD は、あなたの体内にあり、カンナビノイド受容体を活性化して信号伝達を引き起こす内因性カンナビノイド、2-AG とアナンダミドの体内量を高めることができます。また、CB1 受容体の作用を弱めると同時にCB2 受容体の働きを増強させ、カンナビノイド受容体の働きを微調整して、体内に均衡をもたらし健康を促進させるのです。
リーダーズ・ダイジェストと Project CBD による『CBDエッセンシャルガイド』より抜粋
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参照文献
- V. DiMarzo, D. Melck, T. Bisogno, and L. DePetrocellis, “Endocannabinoids: Endogenous Cannabinoid Receptor Ligands with Neuromodulatory Action,” Trends in Neuroscience 22, no. 2 (February 1999): 80.
- D. Fraga, C.I.S. Zinoni, G.A. Rae, C.A. Parada, and G.E.P. Souza, “Endogenous Cannabinoids Induce Fever Through the Activation of CB1 Receptors,” British Journal of Pharmacology 157, no. 8 (August 2009): 1494–1501.
- ál Pacher and George Kunos, “Modulating the Endocannabinoid System in Human Health and Disease: Successes and Failures,” FEBS Journal 280, no. 9 (May 2013): 1918–43.
- Hui-Chen Lu and Ken Mackie, “An Introduction to the Endogenous Cannabinoid System,” Biological Psychiatry 79, no. 7 (April 1, 2016): 516–25.
- Fan Hong, Shijia Pan, Yuan Guo, Pengfei Xu, and Yonggong Zhai, “PPARs as Nuclear Receptors for Nutrient and Energy Metabolism,” Molecules 24, no. 14 (July 2019): 2545.