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「賢明に、そして、ゆっくりと。速く走る者たちは、つまずきますからな」—シェークスピア『ロミオとジュリエット』より

私の娘のお気に入りのイソップ童話『ウサギとカメ』を読めばおわかりの通り、競走に勝つのはゆっくり着実に進む人です。この言葉は GABA にも当てはまります。GABA はマスコミが好んで取り上げる最先端の神経伝達物質ではありませんが、本当はもっと注目されるべきです。

有名なセロトニンやオキシトシン、あるいはドーパミンのような特化した作用はありませんが、GABA は脳の主要な抑制性神経伝達物質なのです。

GABA はあなたのニューロンで言えばカメであり、シナプスから見れば点滅する赤信号であり、脳細胞にとってはその発火を鎮めろというシグナルです。以前は「γ-アミノ酪酸」と呼ばれていた GABA は、中枢神経系の神経細胞の興奮性を低下させるのが主な仕事です。

脳にはバランスが必要です——興奮しすぎると損傷につながるからです。それはニューロンの健康において最も大切なことの一つです。シナプスは、あまりにも激しくかつ頻繁に発火し続けると、オイルの切れたエンジンのように熱くなります。これを興奮毒性と呼び、主要な神経変性疾患や脳卒中、てんかん、外傷性脳損傷、アルコール使用障害、ベンゾジアゼピンからの急激な離脱などの際に一般的に見られます。興奮毒性は、おうおうにして、グルタミン酸——GABA と対をなす、脳内の主要な興奮性神経伝達物質(このシリーズの前回の記事を参照のこと)——の量が不健全であることが原因で起こります。

運命のいたずらか、GABA はグルタミン酸から生成されます。偉大な興奮性神経伝達物質から、偉大な抑制性神経伝達物質が生まれるのです。そしてこの二つは協力しあい、エンドカンナビノイド・システム(ECS)の働きを促進します。

GABAECS

CB1 カンナビノイド受容体が最も多く存在するのがどこだか知っていますか? そう、THC が人をハイにするために使う CB1 受容体のことです。この有名な CB1 受容体の大部分は、脳内の、GABA を産生する介在ニューロンに組み込まれています。

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介在ニューロンは、脳の狭い範囲内でのみ情報を伝達し、また異なる脳の部位と部位を結びます。身体に入ってくる感覚入力と、それに対して送り返される運動シグナルをつなぐ重要な中継ぎの役割を果たしています。

この図にあるように、介在ニューロンの古典的な機能は、信号伝達回路の中に入り込み、活性化されるとシグナル伝達を抑制するというものです。専門的に言えばGABA 作動性介在ニューロンは「信号伝達の流れをコントロールし、ネットワーク動態を決め、ネットワークの応答を形成するのに不可欠」なものです。介在ニューロンは、その抑制作用によって脳の不安定性を抑えます。CB1 受容体の活性化によって起きる可能性が最も高い反応は、介在ニューロンによる GABA の放出です。GABAECS の作用の多くを担っています。

この記事では、GABA による高度な神経処理にフォーカスを当てますが、次に挙げるような、それ以外の分野で GABA が果たす役割の重要性も見逃すことはできません。

  • 脳の発達;幹細胞の移動と分化、シナプスの形成を調整
  • 膵臓の β細胞内でインスリンを生成
  • 免疫反応における炎症の抑制
  • 鍼治療の効果——エンドカンナビノイド・システムによる GABA 放出の調節が一部媒介している

不安神経症とベンゾジアゼピンとCBD

不安神経症の原因は、脳内の抑制制御が不十分であることだという考え方があります。そう考えると、バリュームやザナックスといったベンゾジアゼピン製剤を使って脳の興奮を鎮めるというのは理に適っています。ベンゾジアゼピンの作用機序は、鍵が錠を開くように受容体を直接的に活性化するのではなく、GABAa 受容体の「ポジティブ・アロステリック・モジュレーター」として働いて信号伝達を増強するというものです。

カナダで行われた調査では、医療大麻を処方された患者の半数がベンゾジアゼピン系の処方薬を摂るのをやめました。

ベンゾジアゼピンは GABA の「正のモジュレーター」ですし、バルビツレート酸系薬剤(第1世代の鎮静剤)、一部の世代の人が絶賛するクアールード、そして、昔から人類がお気に入りのアルコールもそうです。こうした薬物を使って GABA を強化すると、乖離作用と鎮静作用が発生し、快感が生じると同時に、強い依存性があります。

ベンゾジアゼピン系の薬の市場が大きいのは、大々的な広告のせいばかりではありません。ベンゾジアゼピンは強力な抗不安(不安解消)薬であり、非常に効果があるのです。そして、危険性も伴っています——それ単独で、あるいはアルコールとの組み合わせでの過剰摂取は死につながりかねません。また、徐々に用量を減らさず、急に使用を止めると、離脱症状が死を招くこともあります。

2019年にカナダで行われた調査では、医療大麻を処方された患者の半数がベンゾジアゼピン系の処方薬を摂るのをやめました。2020年に発表された神経性疾患に関するレビュー論文は、植物性カンナビノイドが GABA による信号伝達の途切れを修復するのに役立つ可能性を報告しています。植物性カンナビノイド、中でも CBD は、鎮静作用があることで有名です。それは主に、エンドカンナビノイド・システムが GABA と脳の鎮静化を管理していることが理由かもしれません。

拘束されてストレスを感じているラット(ラットは拘束されるのが大嫌いです)では、エンドカンナビノイド・システムが GABA を介して心臓の鼓動を静めました。逆に、CB1 受容体の働きを阻害すると、心臓の鼓動はますます速くなりました。動物を使った別の実験では、スペインの科学者らが、CBD はどのようにして抗不安作用を発揮するのかを調べようとしました。その結果、CB1 受容体がないマウスでは、CBD は不安感を解消しなくなることがわかりました。また、CBD が体内に存在すると、扁桃体(恐怖を司る脳の部位)内の CB1 受容体と GABAa 受容体の数が減少する一方、CB2 受容体は増加することもわかりました。

CBD は直接的または間接的に GABAa による信号伝達を調節しているのではないだろうか」と研究者らは推測しています。この結果は、オーストラリアの研究者らが以前行った研究で、CBD と内因性カンナビノイド 2-AG はどちらも GABAa 受容体に作用し、GABA が持つ自然な鎮静作用を高める、という結果が出たこととも一致しています。

美しくて鋭敏な頭脳

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GABA の持つ抑制作用はあなたの脳をより鋭敏にし、かつ適度に健康的な活性化に整えるのを助けます。神経のバランスを保つためには、「注意を払う」という機能と「そんなことは気にしない」という機能が同じように重要です。過剰な刺激によってコントロールが効かなくなってしまうのを防ぐには、もはや危険や関連性のなくなった情報を、脳が無視することが不可欠です。

ラットの前頭前野皮質(脳の最も高等な部分)では、ドーパミンと内因性カンナビノイドの組み合わせGABA 放出シナプスを制御し、科学者が「長期抑圧」(LTD)と呼ぶ状態を生み出すということがわかっています。これはつまり、ある信号伝達回路の活性化があまりにも頻繁になりすぎたときにそれを減少させる脳の能力のことです。この作用は数時間、あるいはもっと長く継続します。これはシナプス可塑性の逆の側面で、信号伝達を減少させて必要ならば再び増加させることができるようにする能力です。これがなければあなたの脳は、すべての回路が常に発火している最大限の状態に達してしまいます。

興奮毒性から脳を護るだけでなく、GABA の抑制作用は学習と記憶にも影響します。記憶のマウスモデルでは、ある種のセロトニン受容体に備わっている、空間記憶を調節する能力は、CB1 受容体と GABA が関与する経路に依存しています。これとは別の興味深い研究によれば、GABA による信号伝達は内因性カンナビノイドの分解を加速させ、「学習によるメタ可塑性」を引き起こします。これはつまり、あなたの脳が適応し変化する能力は、少なくとも部分的にはあなたの内因性カンナビノイドと GABA に依るものだということです。

嗅球(匂いを感じる場所)においては、内因性カンナビノイドが GABA 作動性シナプスを調整します。島皮質の味覚中枢では、CB1 受容体を介して味覚学習システムにおける GABA の可塑性が発揮されます。習慣形成と運動調節に関与する線条体においては、GABA とグルタミン酸の両方を内因性カンナビノイドが制御します。マウスが社交的で探索好きになるのを助ける CB1 受容体の能力は、グルタミン酸と GABA の繊細なバランスの上に成り立っています。

GABAと疾患

GABA の機能不全に関係する具体的な疾患について見ていきましょう。もちろん、臨床研究がもっともっと必要ですが、次に挙げるような疾患や懸念がある人は、GABAECS の力を借りて、比較的簡単に健康を改善することができます。

  • ALS: 筋萎縮性側索硬化症のマウスモデルでは、GABA と グルタミン酸の両方の信号伝達に関して、CB1 受容体が非常に繊細な調節能力を示した。
  • 自閉症:人間を対象とした脳の画像検査によると、CBDCBDV のいずれも GABA およびグルタミン酸経路を介して自閉症の症状を改善した。
  • 概日リズム:概日リズムを司る脳の部位では、アデノシンと GABA の信号伝達を介して星状膠細胞(脳の免疫細胞)を「補充」することによってカンナビノイドシグナル伝達がその効果を発揮する。
  • ダウン症:ダウン症のマウスモデルでは、GABA 作動性ニューロンにおいては CB1 受容体の数が増加し、グルタミン酸作動性ニューロンにおいては減少している。
  • ラットの目では、CB1 受容体の活性化が GABA を調節することによって視覚的シグナル伝達を微調整した。
  • 運動と食事:マウスにおいて、CB1 受容体は GABA 作動性ニューロンを介して運動意欲を助長し、食欲を低下させる。
  • ハンチントン病:人間において、ハンチントン病はカンナビノイド受容体GABA 受容体を変化させる。マウスモデルでは、GABA 作動性ニューロンの CB1 受容体の数が大きく減少する。
  • 疼痛:疼痛のラットモデルでは、ある合成カンナビノイドが GABAa 受容体を介して鎮痛作用を示した。マウスでは、中脳水道周囲灰白質(中脳の一部で、疼痛などの内的ストレス要因や危険などの外的ストレス要因に対する行動反応を統合する部位)における GABA の活動電位を抑制することによって CBD が疼痛を緩和させた。神経損傷のあるマウスにおいては、大脳皮質の CB1 受容体が増加し、これらの CB1 受容体を活性化させると GABA 介在ニューロンを介して鎮痛作用が発揮された。マウスの場合、CB1 受容体の活性化による鎮痛作用はオスよりもメスで大きかった。これは、メスの方が、関連する脳の部位に、CB1 受容体を持つ GABA 産生ニューロンが多いためである。膝に関節炎を起こしたラットでは、幹細胞注入、耐久訓練(ランニングマシン)、オゾンセラピーの組み合わせが、CB1 受容体と GABA 受容体を介して疼痛を緩和させた。
  • 思春期:マウスでは、思春期に関連するホルモンを分泌するニューロン内の GABA 信号伝達を、エンドカンナビノイド・システムを介してインスリンが増加させる。
  • 統合失調症:ラットの統合失調症モデルでは、CBD がカンナビノイドおよび GABA の信号伝達不足を回復させた。
  • 睡眠CB1 受容体は、一部 GABA を介して睡眠の制御を助ける。

Lex Pelger は、向精神物質に関する記事やエンドカンナビノイド・システムに関するコミックの著者。カンナビノイドの科学に関する週刊ニュースレター Cannabinoids & the People を発行する他、重篤な疾患に対して CBDPEATHCCBDA を使う方法をマンツーマンで指導している。


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