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「マリファナの 85倍強力なドラッグによって、ブルックリンで『ゾンビのような』症状が発生」

このニューヨーク・タイムズ紙の記事に、ほんのわずかでもいいから、人々はなぜハイになろうとして闇市場に群がるのか、というジャーナリスト的な視点での考察があったら良かったのに、と思います。仮に大麻が合法だったら、こんなことは起こるでしょうか?

起こらないだろうと私は思います。誰も聞いたことのないドラッグがマリファナと比較されて売り買いされるのは、マリファナが非合法だからなのです。

マスコミはこうしたドラッグのことを単に「偽のマリファナ」と呼びますが、合成カンナビノイドの話をするときに忘れられがちな、大切な科学的事実があります。それは、私が「有効性の問題」と呼ぶものの核心です。

効力(potency)と有効性(efficacy)の違い

最近の大麻がかつてなく「よく効く」のはご存知のとおりだと思います — そのことはよく話題に上りますから。そしてときどき、人をゾンビにする合成「スパイス」が、大麻よりもどれほど「効く」かも耳に入ってきます。どちらも「効く(potent)」という言葉が使われますが、片や大麻とその抽出物、片や秘密のドラッグ工場で製造されて乾燥ポプリに吹きかけられたカンナビノイドの模倣分子との間にある違いは、本当はもっとずっと複雑です。

薬理学的な観点から言うと、こうした合成化合物に関するより大きな問題は、その効力(potency)よりも、「有効性(efficacy)」がより高い、という点なのです。これは薬理学の専門用語ですが、2つの違いは非常に大きく、この2つの概念を誤って理解したり一緒くたにしたりすると、混乱が生じ、大麻にあらぬ濡れ衣が着せられることになります。

A graph titled "Receptor signaling: potentct versus efficancy". The x-axis is "cellular effect", and the y-axis is "concentration of agonist". Two s-curves, labeled A and B, follow basically the same shape, with B further along the y-axis than A. A third S curve is much lower allong the x-axis and labelled C and "partial agonist". There is a caption: "Potentcy of a ligand refers to the concentration required to acheive an effect. Potentcy of A>C>B. Efficacy, or intrinsic activity, or a ligand refers to its maximal ability to cause effect. Efficacy: A=B>C.

効力とは、その薬物が特定の受容体を活性化させるために必要な濃度のことです。一方、有効性とは、その薬物によって受容体が起こす反応の最大値です。効力と同様に、有効性とは、個々の化合物と受容体によって異なり、ある薬物がある受容体に、どの程度までの信号伝達活動をさせることができるか、ということです。効力と有効性という薬物の2つの側面が互いに独立している、というのはちょっとわかりにくいかもしれませんが、そうなのです。そこが、薬剤と受容体にまつわる細胞生物学の複雑なところです。

例を挙げて説明しましょう。たとえばこの合成ドラッグが、ニューヨーク・タイムズ紙の報道の通り、THC の 85倍の効力を持っているとします。このドラッグを 10 mg 摂った場合、吸収率と生体利用効率が同じならば、THC を 850 mg 摂取したのと同じことになります。効力だけに着目すれば、効力が低ければその分用量を増やせばよいだけのことです。

それだけで、人をゾンビに変えるのに十分であることは明らかです。『New England Journal of Medicine』によれば、この製品は1グラム中に合成カンナビノイドが 16 mg 入っています。「AK047 24 Karat Gold」というこの製品の写真を少なくとも1枚見たことがありますが、製品1個あたりは 15グラム入りで、乾燥した植物が何であるかはわかりません。1グラム中に 16 mg ということは、製品1個に入っている合成カンナビノイドの量は合計 240 mg ほどになり、純粋な THC 20グラム分と同等の効力ということです。それだけでも狂気の沙汰ですが、合成カンナビノイド「スパイス」がユーザーに与える非常に有害な作用を説明するには十分ではありません(文末に参照文献へのリンクがあります)。

有効性に潜む危険

大麻の樹脂を一日中吸うよりも、こうした合成ドラッグの方がもっと危険なのは、有効性がより高いからです。薬理学者は、薬物のこの特性を「活性」と呼ぶこともあります。薬物は、持っている活性の度合いによって、標的とする受容体に「完全に作用する」か、あるいは「部分的に作用する」かに分かれます。

受容体は単なるオンかオフかの電源スイッチではありません。それよりも、ダイヤル式の調光スイッチにつながっている電球に喩えるほうが正確です。

科学者たちは、受容体が単なるオンかオフかの電源スイッチではないことを知っています。それよりも、ダイヤル式の調光スイッチにつながっている電球に喩えるほうが正確です。完全作動薬は、細胞に信号を送って活性を変化させ、受容体を最高の「明るさ」まで持ち上げますが、部分作動薬にはある程度の明るさにすることしかできません(図を参照のこと)。

THC をどれほど吸っても — 仮に、先ほどの例のように 850 mg 吸ったとしても — 現在医学界で認められている薬理学の考え方が正しいとすれば、THC が部分作動薬であるという事実には変わりありません(脳が産生する大麻様の分子、アナンダミドもまた部分作動薬です)。一方、闇市場で販売されている合成カンナビノイドは完全作動薬です。完全作動薬は、受容体の細胞内信号伝達を、THC には不可能なレベルまで押しあげます [1]。このことが、心血管系イベントや脳卒中の増加を含む医療的な緊急事態を引き起こしているというエビデンスがあります(これは、近年私の周囲の神経科医と交わした会話の数々や、文末に挙げた文献をもとに書いています)。新しくてまったく何のテストも行われていない合成化合物が登場すると、それにどんなリスクが伴っているかは不明で、深刻なものである可能性もあります。

大麻に含まれる THC の有効性と効力

大麻を使った医療の再興について正しく判断するためには、効力が非常に高い完全作動薬である合成カンナビノイドに対する報道や政府からの警告をそのまま安直に大麻に当てはめないように気をつけなければなりません。マスコミは、大麻からの抽出物は乾燥大麻よりも効く、あるいは最近の大麻は昔の大麻よりも効きがいい、と言ったりします。それはつまり、スパイスというまるで品質が予測できない製品に含まれる、より効力が高いカンナビノイドと同じだということでしょうか? 正しいように聞こえるかもしれませんが、これは完全な間違いです。

カンナビノイド受容体に対する THC の活性は、品種改良で THC 含有量が増えたからと言って変わったわけではありませんし、最新の精製技術を使って大麻草から成分を抽出し、濃縮してもそれは変わりません。

大麻草そのものについて言えば、「よく効く」というのは単に、製品に含有される総 THC 量が増えた結果、以前より高い用量を摂取するようになったということにすぎません。大麻草の効力が高まったということと、薬としての治療効果が高まったということは違います。部分作動薬であったものが完全作動薬になるわけではありませんし、人間の体内のカンナビノイド受容体に対する THC の活性は、品種改良で THC 含有量が増えたからと言って変わったわけではありません。最新の精製技術を使って大麻草から成分を抽出し、濃縮してもそれは変わりません。これは一つ一つ気をつけて話さないと混乱する点です — 分子薬理学が関係している話ですし、重大な補足事項も色々あるからです(脚注とあとがきを参照のこと)。

大麻と合成カンナビノイドの違い

天然の大麻草と巷で売られている合成カンナビノイドの比較は慎重にすべきである理由は他にもあります。完全作動薬である合成カンナビノイドは、受容体という従来の作用経路を THC やアナンダミドよりも強く刺激するだけでなく、それとは完全に異なる細胞間情報伝達経路も刺激する可能性が高いのです。

ダイヤル式の調光スイッチの喩えを思い出してください。ただし今度は、信号伝達という活動の強度をより高めていく(THC やアナンダミドのような部分作動薬から合成カンナビノイドのような完全作動薬に移行する)につれて、電灯の明るさが増すだけでなく、電球の色が変化したり、室内の温度調節システムのスイッチもオンになったりするところを想像してください。CB1 受容体の結晶構造に関する最近の研究は、さまざまなリガンド [受容体を活性化または阻害するもの] が、それぞれ独自のやり方で受容体と結合してその形を変化させるということを示して見せました。そしてそのことが、リガンドによって活性化した受容体がどのように機能するかに直接関係しているのです。(参照: High-resolution crystal structure of the human CB1 cannabinoid receptor

大麻草に含まれるカンナビノイドには、カンナビノイド受容体の完全作動薬は一つもありません。

大麻草には数十種の植物性カンナビノイドが含まれていますが、カンナビノイド受容体の完全作動薬は一つもありません。THC は明らかに、私たちが知る植物性カンナビノイドの中で最も効果の高いものであり、その作用はアナンダミドに非常に似ています。つまりそれでも THC は、私たちの身体が産生する天然の内因性カンナビノイドと同様に部分作動薬であり、人体に優しく働くのです [2]。濃度や用量がどうであれ、THC が与える受容体への刺激には上限があります。

合成スパイスは危険です。ここでは言及しませんでしたが、これらの化合物は代謝されると発がん性物質になる可能性さえあります。まだわかっていないことが多いのです。そして、次々と新しい合成カンナビノイドが発明され、研究室ではなく市中で、公衆衛生への影響に関する監視も配慮もないままにその品質が試されています。こうした製品は徹底的に避けるべきです。そして強調されるべきは、大麻草は合成のスパイス製品と比べて危険度がずっと低いという点です…  それどころか大麻は、まったく「安全」なのです。


神経学者グレッグ・ガードマン(Greg Gerdeman)は、United Cannabis のチーフ・サイエンスオフィサーであり、元エッカード大学生物学科の終身教授。


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追記

薬物の作用やその長期的な影響について議論する際は注意が必要です。この重要な問題について、私なりに専門家としての立場で意見を述べることをやめようとは思いませんが、そのことは認めます。具体的には、高用量の THC を習慣的に吸入した際の長期的な安全性については保証する気はありませんし、それが若いうちからの習慣であればなおさらです。慢性的な刺激の有無にかかわらず、脳内の受容体が時間とともにどのように変化するか、そしてその変化が正常な老化と、あるいは精神的な苦痛や精神疾患とどのように関係しているかについては、まだわかっていないことがたくさんあるのです。

慢性的な大麻の使用について真剣に警告を発している研究はどれも、若いとき(16歳未満)から高 THC の大麻を日常的に高用量で使用することへの懸念を示しています。大麻草自体は、大昔から人間が使ってきた、よく知られた農作物ですが、高 THC の樹脂を最新式の器具で一気に高用量を吸収するというのは、私の知る限り歴史上あまりなかったことです。かなり THC 慣れしているユーザーでさえ、高 THC のコンセントレートをダビングすると、THC が急速かつ強力に作用して効きめがありすぎる、と言います。それほどパワフルな薬には、敬意を持ち、慎重に接しなければなりません。


参照文献

Jose Orsini, Christa Blaak, Eric Tam, et al., “The Wide and Unpredictable Scope of Synthetic Cannabinoids Toxicity,” Case Reports in Critical Care, vol. 2015, Article ID 542490, 5 pages, 2015. https://doi.org/10.1155/2015/542490.

Bernson-Leung ME, Leung LY, Kumar S. “Synthetic cannabis and acute ischemic stroke,” J Stroke Cerebrovasc Dis. 2014 May-Jun;23(5):1239-41. doi: 10.1016/j.jstrokecerebrovasdis.2013.07.030. Epub 2013 Oct 8.

Raheemullah A, Laurence TN. “Repeated Thrombosis After Synthetic Cannabinoid Use.” J Emerg Med. 2016 Nov;51(5):540-543. doi: 10.1016/j.jemermed.2016.06.015. Epub 2016 Aug 29.


脚注

  1. 薬理学者が余剰受容体と呼ぶものがあるため、部分作動薬であってもそれが高用量の場合には完全作動薬と同じ有効性を持つ可能性があるという仮説があります。脳の特定の部位には CB1 受容体が非常に密集しているため、この仮説が本当なら私の考え方は間違っていることになります。つまり、ある神経学的な影響について言えば、極めて高用量の THC を摂ると、それがある意味完全作動薬のように働く可能性があるということです。ただし、余剰受容体が存在するという仮説は主に、脳のシナプスが自然な状態で機能するのとはまったく異なった形で操作された細胞において示されているものであり、それがどこまで人間に当てはまるかは不明です。
  2. 研究の中には、内因性カンナビノイド 2-AG を完全作動薬とみなしているものもありますが、そうでないものもあります。おそらくは、研究に使用された細胞の種類と実験の手法による違いであると思われます。

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