2018年の農業法によるヘンプ由来カンナビノイドの合法化が生んだ法の抜け穴が、怪しげなベープ製品や超高濃度のエディブル製品の業者によって巧みに悪用されている——
それが、大麻産業を牽引するカリフォルニア州大麻産業協会(CCIA)が先ごろ発行した報告書の論点です。報告書は、出来の悪い法律がうかつにも「パンドラの匣」を開き、陶酔作用のある化合物が野放しとなって公衆衛生を脅かしている、と警告しています。ここで問題になっているのは、大麻草に含まれる Δ9–THC 以外の向精神性カンナビノイドです。
農業法の改変が意図したのは、陶酔作用がなく、さまざまな健康効果を持つ化合物、カンナビジオール(CBD)の合法化でした。ところが、表向きはヘンプから採れたとされる、陶酔作用のあるカンナビノイド—— Δ8–THC をはじめ、自然界には存在しない複数の強力な合成 THC 類似体が含まれます——が、アメリカ全土で、何の取締も受けずに堂々と販売されている、と、CCIA の副会長ティファニー・デヴィッドによって書かれたこの報告書には書かれています。
「パンドラの匣:陶酔作用を持つヘンプ由来のカンナビノイド——全国に広がる規制不在の市場が孕む危険性について」と題された報告書は、「いわゆるヘンプ由来 THC および THC様製品の多くは汚染物質や化学副産物まみれであるが、オンライン、コンビニ、ガソリンスタンド、煙草店などで、年齢制限も検査基準も、パッケージやラベル表記に関する必須要件も、マーケティングに関する制限もなく、さらにはそれらが消費者に与え得る影響についての適切な理解もないままに販売されている」と書かれています。
間違っているのは第9巡回区控訴裁判所か、それとも議会か?
2018年の農業法に開いた法の抜け穴は、サンフランシスコでアメリカ合衆国第9巡回区控訴裁判所が先ごろ下した裁定によって正当化され、「陶酔作用を持つドラッグの無法地帯を生み出した」とデヴィットは警告しています。
2022年 5月19日、3人の裁判官からなる第9巡回区控訴裁判所の審査員団は、ヘンプ由来の CBD から化学的に合成された Δ8–THC 製品は農業法の適用対象にはならない、という主張を却下しました。「AK Futures LLC 対 Boyd St. Distro, LLC」という訴訟において審査員団は、べーピング製品を製造する AK Futures が競合企業である Boyd Street Distro に対して起こした商標権侵害の訴えに対し、南カリフォルニア地方裁判所が下した仮差し止めの裁定を支持。連邦法は Δ8–THC 製品の所持および販売を禁じているのだから AK Future はその製品についての商標権を登録できない、という Boyd St. Distro の主張を第9巡回区控訴裁判所は却下したのです。
その裁定にはこう書かれています——「Δ8–THC 製品を合法とするのが賢明かどうかは別として、当裁判所は政策に対する意見を議会のそれに置き換えることはしない。仮に Boyd Street の主張が正しく、Δ8–THC を含有するベープ製品を合法化する法の抜け穴を議会が意図せずに作ってしまったのだとすれば、その誤りは議会が正すべきである」
裁定にはさらに、「ある製品が合成品であるかどうかを確定する手がかりとして重要なのは、製造の方法ではなく、製品の原材料である」とも書かれています。
第9巡回区控訴裁判所はまた、「規制物質である大麻と合法であるヘンプを区別する唯一の法的基準は Δ9–THC の含有量である」とも述べています。これは農業法に定められた、合法ヘンプに許される Δ9–THC 含有量の最大値である 0.3% という数字を指しています。
報告書の中でデヴィットは、第9巡回区控訴裁判所の裁定は「THC の類似体を明確に禁じる連邦法、Federal Analogue Act と食い違っている。新しいカンナビノイドを承認する権限は、当然ながら、米食品医薬品局にある」と述べ、裁判所の判断は誤りであると指摘しています。
デヴィットは、議会による対応が必要であるという点では第9巡回区控訴裁判所の審査員団に同意しています。報告書には「カンナビノイド抽出を目的に栽培されるすべての大麻草は、恣意的で非現実的な THC の閾値を設定するのではなく、類似した一連の規制の対象とするべきである。ヘンプ由来および大麻由来製品の両方を連邦政府が監督する単一のカンナビノイド市場が存在しない現状では、農業法を緊急に改正し、陶酔作用を持つ濃縮カンナビノイドおよび合成カンナビノイドの自由な販売を可能にしている法の抜け穴を塞ぐ必要がある」と書かれています。
さらにデヴィットは、「最終的な解決策は、人間が摂取するヘンプ由来および大麻由来のカンナビノイド製品の両方を、連邦政府が一括して管轄する規制の枠組みを作ることである」とも述べています。
安全性についての懸念
査読を経た複数の論文や、大麻業界で活動する科学者の意見も、CCIA の報告書にある安全性についての懸念に信憑性を与えています。例を挙げましょう。
- ミズーリ大学による 2022年 10月の論文によれば、Δ8–THC を含有する人気の製品 10種で「分析証明書に記載された数字をはるかに超える濃度の不純物が複数見つかった」
- 同じく 2022年 10月、『Cannabis & Cannabinoid Research』誌に掲載された「The Dark Side of Cannabidiol(カンナビジオールの闇)」と題された論文は、この混乱した状況と、「電子タバコあるいはベープ製品の使用と関連した肺損傷(EVALI)」との関連を指摘しています。その結論には、「新たに誕生しつつある Δ8–THC 市場においては、品質管理が絶対的に不十分である。アメリカの消費者は、一度も毒性試験が行われていないさまざまな化合物を含む、ラベル表記が不正確な製品を摂取している。EVALI の症例は現在も引き続き報告されており、致死率は(カリフォルニア州では)2% に近い」と書かれています。
- 『PLoS One』に最近掲載された、「各州における大麻ベープ製品の普及率と EVALI の間に存在する逆相関」と題された論文には、大麻が合法化されておらず、陶酔作用のあるヘンプ製品が普及している州の方がベーピング危機が深刻であると書かれています。
- また、2022年1月号の『Chemical Research in Toxicology』誌には、American Chemical Society による、「新しい Δ8-テトラヒドロカンナビノールのベポライザーには、ラベルに表記されていない混和物、化学合成によって意図せず生成された副産物、さらに重金属が含まれている」と題された論文が掲載されました。そのタイトルがすべてを物語っています。
「汚染物質を含む合成の大麻派生物が市場に流通していることを問題視する声が上がらないことに、ずっと失望し、愕然としています」——検査ラボ Proverde Labs の創業者であるクリストファー・フダラは『The Cannabis Scientist』誌にそう語っています。「化学合成によって作られる何千種類もの製品をテストしてきましたが、100% の検体に、少なくない量の合成試薬や合成による副産物が含まれていました。その多くは自然界には存在せず、したがって、その安全性は示されていません」
フダラによれば、問題はそれだけではありません。「こうした製品の検査を行う検査ラボのほとんどは、正体不明の化合物の存在を無視し、分析証明書にそれを記載しません。汚染された製品は、誰からの監督もないまま流通され続け、消費者の健康と安全を危険にさらしています。すべては利益を優先した結果です。私には、これほど無責任な行為がまかり通る合法産業がこれ以外にあるとは思えません」
なぜこんなことになったのか?
大麻の規制は、1970年に制定された規制物質法(CSA)によって成文化されました。このお粗末な法律は、「大麻(マリファナ)」を「植物 Cannabis Sativa L. のすべての部位」、また「当該植物のすべての部位から抽出された樹脂、および、当該植物、その種子または樹脂のあらゆる化合物、製造物、塩、派生物、混合物または調製物」と定義しました。
THC と CBD はともに大麻草の樹脂が原料であるため、規制物質法によればどちらも非合法です。農業法は「マリファナ」という言葉を、いかなる部位においても THC が 0.3% を超えない大麻草、と再定義することによって、0.3% という THC の閾値を超えない限りにおいて、ヘンプを産業利用及び CBD の抽出を目的として栽培することを合法化しました。
ところがそれには問題があります。2018年の農業法の書き方は、0.3% という基準を「生育中か否かにかかわらず、すべての派生物、抽出物、カンナビノイド、異性体、酸、塩、異性体の塩」[強調は筆者による]に当てはめているのです。
この基準が最終製品にまで適用されたことで、法的な抜け穴ができ、摂取可能な「ヘンプ」製品に途方もない量の Δ9–THC を含ませることが可能になりました。「THC 量をパーセンテージで測るならば、陶酔作用のある THC 用量を含む製品を作るためには、製品を大きく、重くしさえすればよい」と CCIA の報告書は指摘しています。
問題は Δ9–THC だけではありません。「ヘンプ」製品の製造者は、「大麻草には生来まったく含まれていないか、あるいは意味をなさない程度の量しか含まれていない化合物を、抽出した CBD を濃縮し、変性させて、新たな合成カンナビノイドおよび半合成カンナビノイドを製造している」のです。「この製造工程には通常、有毒で腐食性のある溶剤や重金属触媒が使われ、その残留物が最終製品に見られることがある。そうして作られる新しい化合物は往々にして、従来の THC の何倍も の効力を持っている」と報告書は述べています。
報告書には、取締の行われていない「ヘンプ製品」市場に蔓延する怪しげな化合物として、Δ8–THCのほか、THC-P、THCjd、THC-H、THC-O、HHC、Δ10–THC を挙げています。そしてこうした化合物の多くが、未成年の消費者をターゲットとした製品に含まれているのです。
未成年者お断り
このような製品は、中途半端な存在です——精神作用のない「ヘンプ製品」でもなく、きちんと管理された「大麻製品」でもないのです。その結果、ラベルの不正表示や、「未成年者に堂々と販売」されるという状況を生み出しています。
一方、カリフォルニア州をはじめとする各州の合法大麻製品企業には、THC 含有量の上限値、厳しい検査基準、厳格な表示義務、チャイルド・レジスタント包装、広告に関する制約が課せられ、販売できる年齢も制限されています。子どもにとって魅力的な形で製品を宣伝することは厳禁です。一方ヘンプ製品については、そうした制約が一切ありません。
この問題が注目を集めたのは、バージニア州の母親、ドロシー・アネット・クレメンツの事件があったからでした。クレメンツは、4歳の子どもが Δ8–THC 入りのグミを大量に食べて死亡したことにより、重罪謀殺と育児怠慢の罪に問われています。AP通信社の報道(2022年10月24日)によれば、スポットシルバニア郡の医療当局は、死因を「Δ8–THC の毒性」によるものとしていますが、これはグミに含まれていた有毒性の強い汚染物質が原因である可能性が高いでしょう。
この暗鬱な事件の真相が何であれ、危険性が存在することは明白です。またこれが唯一の事件であるわけでもありません。ミネソタ州の規制当局は先ごろ、ヘンプ由来 THC 入りのエディブル製品を製造・販売する Northland Vapor Moorhead, LLC、Northland Vapor Bemidji, LLC、Wonky Confections, LLC の三社を、アイオワ州のティーンエージャー5人に健康被害を与えたとして提訴しました。
2022年11月、『Cannabis & Cannabinoid Research』誌に、「Δ8–THC の店頭での入手可能度、価格、購買可能な最低年齢」という論文が掲載されました。論文は、「中毒事故管理センターにかかってきた数千件の電話(うち 40% は 18歳未満からの電話で、70% が医療機関での診察を必要とした)を受け、FDA は、Δ8–THC 製品についての警告を発布し、その中で、Δ8–THC には精神作用があること、また製造者の一部は危険な家庭用化学品を使ってΔ8-THC を合成している可能性があることを指摘しました。
問題解決に向けて
FDAによる監督がない現状の中で、いくつかの州が、化学合成されたカンナビノイドを市場から排除しています。カリフォルニア州、コロラド州、バーモント州などがそれにあたります。カリフォルニア州で 2021年に制定された議会法案 45 は、すべてのヘンプ由来製品には、自然由来か合成かにかかわらず、陶酔作用を持ついかなるカンナビノイドも使用してはならないとしています。ただしデヴィットは、カリフォルニア州ではこうした規制を実施する努力がはなはだ不足している、と述べています。
「向精神性のヘンプ由来製品は、29州とワシントンDC では今も合法であり、またオンラインでの販売は、州による規制を無意味なものにする可能性がある」——『Journal of the American Medical Association(米国医師会雑誌・JAMA)』は、2022年11月4日付の「ヘンプ由来大麻製品に関する法の抜け穴を塞ぐこと:公衆衛生上の優先課題」という報告の中でそう警告しています。これは、CCIA の報告書の正しさを裏付けるものです。
最終的には、連邦政府による対応が必要です。デヴィットは、「農業法を大至急改正して、規制監督のない市場で陶酔作用のある合成カンナビノイドを販売するために悪用されている抜け穴を塞ぐ必要がある。FDAはその権限を用いて、大麻草に商業的量が含まれていない新規あるいは合成カンナビノイドを承認あるいは却下すべきである。これらは新規化合物であって、安全性の試験が必要である」と述べています。
でも、それが実際に行われるまでは、各州が対応の先頭に立たなくてはなりません。デヴィットは結論でこう述べています——「大麻政策に関して連邦政府が指導的立場を取ろうとしない今、カリフォルニア州には、産業利用が目的ではなくカンナビノイドの抽出を目的に栽培されるすべてのヘンプと大麻を包括的に規制する枠組みを構築・施行して、他州の手本となれる可能性がある。今こそ行動が求められている」
ビル・ワインバーグ(Bill Weinberg)は、人権問題、環境、薬物政策の分野で30年の実績と受賞歴を持つジャーナリスト。High Times 誌のニュースエディターを務めたこともあり、現在は CounterVortex.org と Global Ganja Report というウェブサイトを運営している。
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