この記事の Part 1 では、CB2 カンナビノイド受容体ががん細胞の増殖に果たす役割についての最近の研究を紹介しました。Part 2 では、CB2 受容体の機能が持っているもう一つの興味深い特徴について見ていきましょう —— 中枢神経系では発現の密度が低いにもかかわらず、CB2 が精神疾患や気分障害に与える影響です。
中枢神経系は、CB2 受容体の兄弟とも言える CB1 カンナビノイド受容体(THC の主な作用標的であり、大麻の陶酔作用を媒介する受容体)が存在する領域です。それに対して CB2 は、中枢神経系よりも末梢神経系により多く発現し、炎症、疼痛、神経保護作用を発揮します。脳では CB2 の発現数はずっと少なく、ドーパミンの信号伝達、神経炎症、神経新生を調節します。
先見の明のあるカンナビノイド研究者であったラファエル・ミシューラム博士は、CB2 受容体に特に関心を持っており、先ごろ 92歳で亡くなる直前も、さまざまな病態のモデルを使って CB2 受容体を研究していました。ここでは、CB2 受容体と心の健康についてのミシューラム博士の最後の論文と、同じ時期に発表されたレビュー論文2つを見ていきましょう。
CB2と統合失調症
まずは CB2 と統合失調症の関係についての論文です。統合失調症は精神症の一つで、その症状には幻覚、妄想、支離滅裂な思考、社会的離脱、感情表出の減少、無気力などがあります。サンパウロ大学の研究者との共著であるこの論文1 は、『Progress in Neuro-Psychopharmacology & Biological Psychiatry』誌に 2022年 7月に掲載されました。
「CB2 受容体はドーパミンの神経伝達を調整するが、統合失調症患者においてはそれが異常に亢進している」と著者らは説明しています。そのことは明らかなのです。そのため著者らは、CB2 を選択的に活性化する研究用の合成化合物「HU-910」が統合失調症のモデルマウスの行動にどのような影響を与えるかを調べようとしました。
一連のテストを通して、HU-910 を投与すると、CB2 受容体を介して抗精神病作用に似た作用を発揮することがわかりました。これは「この化合物が統合失調症の治療に役立つ可能性をさらに研究する価値があることを裏付けている」と論文は述べています。
ただし、HU-910 が薬として使えるという彼らの結論には注意が必要です。カンナビノイド受容体は、単にオンかオフかのスイッチのように機能するわけではありません。Project CBD が過去に、骨の病気、アルツハイマー病、自己免疫疾患の治療に関連して記事にしたように、これまでに選ばれた CB2 作動薬は、CB2 受容体が体内に広く分布していることによる予想外の結果や望ましくない作用転帰があり、その臨床利用での効果は期待外れでした。
CB2とうつ病
ミシューラム博士の名前が著者として挙がった最後の論文(Pubmed には、ミシューラム博士の名前が入っている論文が全部で 379本あります)は、カンナビジオール酸メチルエステル(CBDA-ME)の抗うつ作用に CB2 受容体が果たす役割に関するものでした。論文は「Cannabinoid Receptor 2 Blockade Prevents Anti-Depressive-like Effect of Cannabidiol Acid MethylEster in Female WKR Rats(カンナビノイド受容体 CB2 の遮断は、雌の WKY ラットにおいて、カンナビジオール酸メチルエステルによる抗うつ様作用を阻害する)」と題され、2023年 2月、『International Journal of Molecular Sciences』の特別号に掲載されたもの2 で、カンナビノイドが心の健康に果たす役割の生物学的な仕組みを探っています。
CBDA-ME は、大麻草の花穂に含まれる、加熱されていない生の CBD であるカンナビジオール酸(CBDA)の類似体で、より安定性が高いものです。(CBDA は太陽光や熱によって CBD に変換されるために研究が難しく、そのため、より安定した CBDA 関連化合物が必要です。)CBDA-MEは、1969年に初めてミシューラム博士と共著者によって紹介され3、近年になって、抗不安作用4、鎮痛作用5、抗うつ作用6があることが、低用量を投与した雄のマウスによって示されています。
イスラエルを拠点とするこの論文の著者らは、マウスにおける CBDA-ME の抗うつ作用を、「強制水泳試験」と呼ばれる実験方法で評価しました。実験の結果の中でも目立ち、論文のタイトルにもなったのは、AM-630 と呼ばれる合成 CB2 拮抗薬が、雌のラットにおいて CBDA-ME の抗うつ作用を阻害し(ただし雄のラットではそれは起きませんでした)、CB2 受容体がその作用に関連していることが示唆された点です。
これは、CB2 受容体を CBD または CBDA、あるいは CBDA-ME によって間接的に活性化すると、少なくとも女性のうつ病の治療に奏効する、ということを示唆しているのでしょうか? 論文は、「その可能性はあるが、これまで蓄積されたデータは、こうした作用経路が依然明らかではなく、CBDA-ME の単回投与によってうつ病の症状が改善される作用機序を完全に理解するためにはさらなる研究が必要である」と結論しています。
中枢神経系の疾患における CB2受容体の役割
2022年には、依存症、不安神経症からハンチントン病やパーキンソン病を含む感情・認識・精神の疾患において、CB2受容体が果たしている役割をより広い視点から見るレビュー論文が2本発表されています。
『International Journal of Molecular Sciences』に掲載された論文は、ニュージャージー州にあるウィリアム・パターソン大学の Emmanuel Onaivi と日本の研究者チームとの共著によるもので、CB2 受容体は「精神神経疾患および神経変性疾患において顕著に発現しており、一部の CB2 リガンドがこうした疾患の症状管理に有望である」と結論しています。
ただし、そうした薬物には強い副作用を引き起こす可能性があるため、著者らは、CB1 受容体および CB2 受容体を標的とし、かつ、より広くエンドカンナビノイド・システムを介して大麻成分を間接的に作用させるために、さらなる研究を行うことを提唱しています。
次に、『Frontiers in Psychiatry』の 2022年4月号に掲載されたレビュー論文7 は、最近になって CB2 受容体が複数の脳の部位、および、ニューロンや神経膠を含むさまざまな種類の脳細胞で発見されたことは、「CB2受容体が、免疫系と、炎症・気分・認知機能を司る脳回路とを緊密に結びつけていることを示している」と述べています。著者らによれば、CB2 受容体は、神経炎症が関連する精神神経疾患と特に深く関わっており、論文は、CB2受容体、炎症、精神疾患の間にある重要な関係性を正確に理解するために今後も研究を継続すべきであると結論しています。
Part 1:がんとCB2受容体 を読む
Project CBD の寄稿者 Nate Seltenrich は、Bridging the Gap というコラムの筆者であり、サンフランシスコのベイエリアに住むフリーランスの科学ジャーナリスト。環境問題、神経科学、薬理学を含む幅広いテーマについて執筆している。
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参照文献
- Cortez, Isadora Lopes et al. “HU-910, a CB2 receptor agonist, reverses behavioral changes in pharmacological rodent models for schizophrenia.” Progress in neuro-psychopharmacology & biological psychiatry vol. 117 (2022): 110553. doi:10.1016/j.pnpbp.2022.110553
- Hen-Shoval, Danielle et al. “Cannabinoid Receptor 2 Blockade Prevents Anti-Depressive-like Effect of Cannabidiol Acid Methyl Ester in Female WKY Rats.” International journal of molecular sciences vol. 24,4 3828. 14 Feb. 2023, doi:10.3390/ijms24043828
- Mechoulam, R et al. “Carboxylation of resorcinols with methylmagnesium carbonate. Synthesis of cannabinoid acids.” Journal of the chemical society D: chemical communications vol. 1,7 (1969): 343-344. doi:10.1039/C29690000343
- Pertwee, Roger G et al. “Cannabidiolic acid methyl ester, a stable synthetic analogue of cannabidiolic acid, can produce 5-HT1A receptor-mediated suppression of nausea and anxiety in rats.” British journal of pharmacology vol. 175,1 (2018): 100-112. doi:10.1111/bph.14073
- Zhu, Yong Fang et al. “An evaluation of the anti-hyperalgesic effects of cannabidiolic acid-methyl ester in a preclinical model of peripheral neuropathic pain.” British journal of pharmacology vol. 177,12 (2020): 2712-2725. doi:10.1111/bph.14997
- Hen-Shoval, D et al. “Acute oral cannabidiolic acid methyl ester reduces depression-like behavior in two genetic animal models of depression.” Behavioural brain research vol. 351 (2018): 1-3. doi:10.1016/j.bbr.2018.05.027
- Kibret, Berhanu Geresu et al. “New Insights and Potential Therapeutic Targeting of CB2 Cannabinoid Receptors in CNS Disorders.” International journal of molecular sciences vol. 23,2 975. 17 Jan. 2022, doi:10.3390/ijms23020975
- Morcuende, Alvaro et al. “Immunomodulatory Role of CB2 Receptors in Emotional and Cognitive Disorders.” Frontiers in psychiatry vol. 13 866052. 15 Apr. 2022, doi:10.3389/fpsyt.2022.866052
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